高橋純也のデッキ予報 vol.11 -《龍王アタルカ》テーパリングクラウド-

高橋 純也





 こんにちは。らっしゅです。

 先週末は【グランプリ・東京2016】【グランプリ・ニューヨーク2016】と2つのグランプリが開催されました。東京は【熊谷 陸の「ナヤミッドレンジ」】、ニューヨークは【Seth Manfieldの「黒白コントロール」】がそれぞれ優勝しています。

 プロツアー『イニストラードを覆う影』を「緑白トークン」が制してから3週間。スタンダード環境は、未だにプロツアーの面影を残しつつも、緩やかな変化を見せ始めました。メタゲーム上の主なる登場人物については【Kenta Hirokiの記事】をご覧ください。

 それでは、まずは小さな変化から見ていきましょう。



【話題1】「グリクシスコントロール」と「4色《集合した中隊》」の台頭

 先週末のトーナメントシーンを騒がせた話題といえば、「緑白トークン」に次ぐ2つの勢力が登場したことでした。



Joel Sadowsky「グリクシスコントロール」
グランプリ・ニューヨーク2016(9位)

5 《沼》
1 《山》
1 《島》
4 《燻る湿地》
2 《窪み渓谷》
3 《進化する未開地》
4 《凶兆の廃墟》
3 《さまよう噴気孔》
3 《シヴの浅瀬》

-土地 (26)-

4 《ヴリンの神童、ジェイス》
3 《ゲトの裏切り者、カリタス》
4 《ゴブリンの闇住まい》
2 《龍王シルムガル》

-クリーチャー (13)-
3 《焦熱の衝動》
2 《精神背信》
2 《闇の掌握》
2 《究極の価格》
3 《骨読み》
3 《破滅の道》
3 《コラガンの命令》
2 《光輝の炎》
1 《炎呼び、チャンドラ》

-呪文 (21)-
3 《強迫》
2 《竜使いののけ者》
2 《否認》
2 《光輝の炎》
2 《灯の再覚醒、オブ・ニクシリス》
1 《引き裂く流弾》
1 《精神背信》
1 《シルムガルの命令》
1 《炎呼び、チャンドラ》

-サイドボード (15)-
hareruya



 【グランプリ・トロント2016】でOliver Tiuが可能性を示した「グリクシスコントロール」は、先週末のグランプリにおいて確かな存在感を見せつけることとなりました。ニューヨークではトップ32に7人、東京ではトップ8に2人を送り込んだのです。

 プロツアー以後はプレインズウォーカーの流行から、コントロール系のデッキタイプにとって厳しい時間が続きましたが、やっと一矢を報いるアイデアが見つかったのかもしれません。

 従来のコントロールにはなく、「グリクシスコントロール」ならではの持ち味は、攻守の切り替えがスムースな点にあります。これまでのコントロール、特に《衰滅》を軸にしたものは、相手を妨害するターンと攻撃に移るターンがきっちりと区別されていたため、相手のリソースが尽きないかぎりは攻勢にでられない、という問題を抱えていました。そのため、対戦相手に少しでも耐久力があると、コントロール側のリソースが先に尽きてしまうことも珍しくありませんでした。


衰滅


 しかし、「グリクシスコントロール」に採用されている《ゲトの裏切り者、カリタス》《ゴブリンの闇住まい》《龍王シルムガル》の3種類のフィニッシャーはどれも攻防一体となっています。《ゴブリンの闇住まい》《龍王シルムガル》は対戦相手に干渉しつつ攻勢に転じ、《ゲトの裏切り者、カリタス》は強烈に戦場のテンポを左右するのです。そのため、対戦相手のリソースが尽きることを待たずとも、除去で生まれた戦場のわずかな優位を活かして攻め合いに持ち込むことができます。


ゲトの裏切り者、カリタスゴブリンの闇住まい龍王シルムガル


 このように対戦相手の攻撃を捌き切らずに攻め合うことは、ドロー呪文が弱く、タフなクリーチャーデッキが多い現環境ならではの立派な処世術です。ニューヨークを制した「黒白コントロール」も《衰滅》を軸としながら、《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》で素早く攻撃に転じる工夫が凝らしてありました。受けきらずに攻め合うこと。これが現環境のコントロールが目指す道なのかもしれません。

 環境を支配する「緑白トークン」にはやや不利ながらも、その他のクリーチャーデッキには有利な「グリクシスコントロール」は、これからの数週間の活躍に期待したいデッキの1つです。



Louis Deltour「4色《集合した中隊》
グランプリ・ニューヨーク2016(準優勝)

3 《森》
1 《沼》
1 《平地》
1 《島》
4 《進化する未開地》
4 《ラノワールの荒原》
4 《ヤヴィマヤの沿岸》
3 《コイロスの洞窟》
3 《ウェストヴェイルの修道院》

-土地 (24)-

4 《壌土のドライアド》
4 《エルフの幻想家》
4 《薄暮見の徴募兵》
2 《ズーラポートの殺し屋》
4 《地下墓地の選別者》
4 《反射魔道士》
4 《変位エルドラージ》
3 《血統の観察者》

-クリーチャー (29)-
4 《集合した中隊》
3 《謎の石の儀式》

-呪文 (7)-
4 《森の代言者》
4 《現実を砕くもの》
2 《難題の予見者》
2 《否認》
2 《精神背信》
1 《悟った苦行者》

-サイドボード (15)-
hareruya



 最近のプロシーンでの活躍が目覚ましいEast West Bowl謹製の「4色《集合した中隊》」は、【グランプリ・トロント2016】でのお披露目を果たした後、先週末のニューヨークでは一大勢力を築き上げることとなりました。

 メインボードに搭載された《ズーラポートの殺し屋》《変位エルドラージ》《血統の観察者》による無限コンボが印象的ですが、このデッキの最大の魅力は、サイドボード後のアグロプランにあります。《森の代言者》《現実を砕くもの》を含む12~14枚を交換することで、メインボードでは苦労するコントロールとのゲームをシンプルなものへと変えてくれるのです。


森の代言者現実を砕くもの


 メインボードの《変位エルドラージ》及び無限コンボは妨害手段の少ない「緑白トークン」に強く、苦手な「除去コントロール」には《現実を砕くもの》が無茶苦茶な活躍をみせてくれます。《闇の掌握》《究極の価格》など、現環境のインスタント除去の多くは《現実を砕くもの》に触れないため、5点ダメージ+1ディスカードはおろか、そもそも対処できないことすら珍しくありません。

 11枚のダメージランドを採用していることから、攻撃的なデッキ全般を苦手としているものの、都合がいいことに、現在の環境の速度はより遅い展開へとシフトしています。「緑白トークン」が流行していることも合わせて、より頻繁に見かけることになりそうです。

 ちょっとした懸念としては、サイドボード後の戦略が周知されてきたことですが、わかっていたとしても刺さる《現実を砕くもの》がいる以上は特に問題にはならないでしょう。



【話題2】新たなる挑戦者《龍王アタルカ》

 プレインズウォーカーを取り巻く環境へと移行してからは、龍王といえば《龍王シルムガル》という印象が強かったものですが、これからの数週間を牽引する龍王は、きっと《龍王アタルカ》です。


龍王アタルカ


 会場の80%近くがクリーチャーデッキである現環境において、《龍王アタルカ》の圧倒的なボードコントロール能力は唯一無二です。プレインズウォーカーもクリーチャーも焼きつくし、流行の除去は効かず、2回も殴ればゲームが終わる。これまでは7マナというコストがネックでしたが、環境が低速化したことでやっと出番が回ってきました。



熊谷 陸「ナヤミッドレンジ」
グランプリ・東京2016(優勝)

5 《森》
5 《平地》
1 《山》
4 《梢の眺望》
3 《燃えがらの林間地》
4 《進化する未開地》
1 《要塞化した村》
1 《戦場の鍛冶場》
2 《鋭い突端》

-土地 (26)-

4 《森の代言者》
1 《エルフの幻想家》
4 《不屈の追跡者》
3 《巨森の予見者、ニッサ》
4 《大天使アヴァシン》
1 《保護者、リンヴァーラ》
2 《龍王アタルカ》

-クリーチャー (19)-
1 《光輝の炎》
4 《ニッサの誓い》
2 《絹包み》
4 《停滞の罠》
3 《先駆ける者、ナヒリ》
1 《炎呼び、チャンドラ》

-呪文 (15)-
3 《光輝の炎》
3 《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》
2 《死天狗茸の栽培者》
2 《悲劇的な傲慢》
1 《ラムホルトの平和主義者》
1 《翼切り》
1 《絹包み》
1 《邪悪な囁き》
1 《山》

-サイドボード (15)-
hareruya



 東京を制した「ナヤミッドレンジ」は《龍王アタルカ》をうまく組み込んでいます。似通ったカードをぶつけあう「緑白系」の対決は、中盤以降のカードがもつスケールの大きさが勝敗を分かつため、あえて3色目を採用する意味として《龍王アタルカ》はとても理にかなった選択です。《先駆ける者、ナヒリ》の奥義との相性の良さも加点要素の1つかもしれません。



石村 信太朗「赤緑ランプ」
グランプリ・東京2016(12位)

11 《森》
2 《山》
1 《荒地》
4 《進化する未開地》
4 《見捨てられた神々の神殿》

-土地 (22)-

2 《面晶体の這行器》
2 《死天狗茸の栽培者》
4 《不屈の追跡者》
4 《龍王アタルカ》
2 《絶え間ない飢餓、ウラモグ》

-クリーチャー (14)-
4 《ウルヴェンワルド横断》
4 《残された廃墟》
4 《爆発的植生》
4 《面晶体の記録庫》
4 《ニッサの誓い》
4 《炎呼び、チャンドラ》

-呪文 (24)-
3 《現実を砕くもの》
3 《歪める嘆き》
3 《焙り焼き》
3 《コジレックの帰還》
2 《世界を壊すもの》
1 《虚空の選別者》

-サイドボード (15)-
hareruya



 7マナを捻出することが目的である「赤緑ランプ」でも《龍王アタルカ》は活躍しています。これまでは《世界を壊すもの》が主流でしたが、【石村 ”rizer” 信太朗】は思い切って4枚の《龍王アタルカ》にその座を譲っています。一般的な「赤緑ランプ」のリストとは異なり、《残された廃墟》など2マナのマナ加速から、《爆発的植生》《面晶体の記録庫》へと繋ぐ、「2→4→7」を重視した造りが特徴的です。


面晶体の這行器残された廃墟爆発的植生


 中速のデッキ全般を得意とする「赤緑ランプ」は、石村のリストに限らず、現在のスタンダード環境に合ったデッキタイプです。ただ、7マナへの加速をどれだけ安全に行うかが成功の鍵となるため、石村のように《残された廃墟》など2マナのマナ加速を採用したり、【Huang Hao Shanのよう】《失われた業の巫師》という特殊な2マナ加速を採用するなど、細かい工夫は欠かさないようにしましょう。



Josh Utter-Leyton「4色《集合した中隊》
グランプリ・ニューヨーク2016(35位)

4 《森》
1 《平地》
1 《島》
2 《大草原の川》
4 《進化する未開地》
4 《ヤヴィマヤの沿岸》
4 《ラノワールの荒原》
4 《戦場の鍛冶場》

-土地 (24)-

4 《壌土のドライアド》
4 《エルフの幻想家》
4 《薄暮見の徴募兵》
4 《空中生成エルドラージ》
4 《反射魔道士》
4 《変位エルドラージ》
2 《巨森の予見者、ニッサ》
2 《龍王アタルカ》

-クリーチャー (28)-
4 《集合した中隊》
4 《謎の石の儀式》

-呪文 (8)-
4 《森の代言者》
4 《現実を砕くもの》
3 《ドロモカの命令》
2 《不屈の追跡者》
2 《否認》

-サイドボード (15)-
hareruya



 そして、最後に紹介する《龍王アタルカ》デッキは、Channel Fireballの最新作こと「4色《集合した中隊》」です。East West Bowlsのものとは異なり、《血統の観察者》の無限コンボがなく、その代わりに《龍王アタルカ》が採用されています。


ズーラポートの殺し屋血統の観察者


 この無限コンボの是非は難しい問題ですが、コンボを捨てることでサイドボード後の戦略とのギャップが小さくなっている点は気になりました。無限コンボ型では除去に弱いコンボパーツの一切を入れ替えることができましたが、この《龍王アタルカ》の形ではそれなりに優秀かつ攻撃的なパーツがメインボードから採用されているため、サイドボード後の変更による恩恵が小さく感じたのです。

 つまり、良くも悪くも半端な構成になっているため、もっとメインボードの構成にメリハリを与えたほうがいいのかもしれません。4ターン目の《龍王アタルカ》を重視するか、攻撃的なグッドスタッフとしてまとめるのか。おそらくこの2択に落ち着きそうですが、現在の「緑白トークン」の隆盛を見る限りは、前者が良いように思えます。まだ登場して間もないデッキタイプなので、成長の余地も残されているに違いありません。来週以降の変貌が楽しみなデッキの1つです。


 最近の「黒系コントロール」の研究が《龍王シルムガル》を中心に進行したように、これからは「緑系ミッドレンジ」の研究が《龍王アタルカ》を中心に行われるのかもしれません。はたして2匹目の龍王は「緑白トークン」の牙城を崩すことができるのでしょうか?



【話題3】「緑白トークン」と3つのレベル

 さて、遡ること2週間。【高橋純也のデッキ予報 vol.9 -プレインズウォーカー西風バースト-】のなかで3つのレベル分けについて話しました。プロツアー当時は《反射魔道士》を取り巻く環境だったため、《反射魔道士》関係がレベル1、それらに強いコントロールがレベル2、そしてレベル2を喰い物にする「緑白トークン」らがレベル3だと。Brad Nelsonの言葉を引用して、このような紹介をしたかと思います。


反射魔道士


 そして時は流れて現在へ。あれから2週間がたった今では、3つのレベル分けは新しいステージへと進みました。


レベル1:「緑白トークン」
レベル2:「4色《集合した中隊》」・「黒緑アリストクラット」
レベル3:「黒系コントロール」


 かつてはレベル3にいた「緑白トークン」がレベル1に、それらに強いとされるコンボデッキたちがレベル2。そして、《ゲトの裏切り者、カリタス》や豊富な除去をもつ「黒系コントロール」がレベル3にいます。プロツアー開幕時点では不動のデッキとも思われた「バントカンパニー」は姿を消し、「緑白トークン」を土台にして新しいピラミッドが積み上げられたのです。

 メタゲームの新陳代謝ではないですが、このような食物連鎖の頂点と土台は日々変化していきます。追いかける立場だったものが追われる側に立ち、新たな登場人物がそれを追い始める。この延々と続くいたちごっこの仕組みを予測することは、トーナメントプレイヤーにとって欠かせないテクニックとなりました。


大天使アヴァシン龍王シルムガル龍王アタルカ


 これから、「バントカンパニー」のように、「緑白トークン」が環境から姿を消すかどうかはわかりませんが、段々と数を減らしつつある現状を見るに、そうなってしまう可能性は高そうです。「4色《集合した中隊》」の練度は増していますし、「黒系コントロール」も数を増やしはじめています。そう。次なるステージへと進む準備が整いつつあるのです。

 そのステージに「緑白トークン」が立ち続けられるかは、今週末を含めた2~3週間の進歩にかかっています。「黒系コントロール」が数を増やし、それに強い「緑赤ランプ」などのリストが整備されるのが先か。「緑白トークン」が苦手なデッキを克服するのが先か。いつしか追われる立場になった「緑白トークン」は生存をかけた正念場を迎えています。



【まとめ】季節の変わり目を迎えて

 「4色《集合した中隊》」や「グリクシスコントロール」の流行など、スタンダード環境はまた新しい形へと変化を始めました。《反射魔道士》から《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》へ。手渡されたバトンは、また新しい走者に手渡されることでしょう。

 その走者は一体誰なのか?そしてなぜなのか?

 環境の変わり目となるであろう今週末の結果からは目が離せません。

 期待と予想をそこそこに。それでは、また来週お会いしましょう!



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