こんにちは。らっしゅです。
先週末は大規模なトーナメントは行われませんでしたが、少人数の招待制イベントである【2015 Magic Online Championship】 (以下、MOCS) が開催されました。
今週のデッキ予報ではこのトーナメントに登場したデッキタイプをおさらいし、参加者のデッキの内容と変化について話していきます。
現環境のメタゲームの登場人物については【Kenta Hirokiの記事】をご覧ください。
【話題1】「4色《集合した中隊》」の2つの分岐
たった13人で開催されたMOCSには、Gerry Thompson、Magnus Lantto、Mike Sigrist、Sam Black、Oliver Tiuなどプロシーンでも活躍する強豪が登場しました。そんなハイレベルなトーナメントで人気を集めたのは、「4色《集合した中隊》」でした。
3 《森》 1 《島》 1 《平地》 1 《沼》 4 《進化する未開地》 4 《コイロスの洞窟》 4 《ラノワールの荒原》 4 《ヤヴィマヤの沿岸》 2 《ウェストヴェイルの修道院》 -土地 (24)- 4 《壌土のドライアド》 4 《薄暮見の徴募兵》 4 《エルフの幻想家》 1 《ズーラポートの殺し屋》 4 《地下墓地の選別者》 4 《変位エルドラージ》 4 《反射魔道士》 3 《血統の観察者》 -クリーチャー (28)- |
4 《集合した中隊》 4 《謎の石の儀式》 -呪文 (8)- |
4 《現実を砕くもの》 3 《森の代言者》 2 《ドロモカの命令》 2 《否認》 2 《精神背信》 1 《悟った苦行者》 1 《神聖なる月光》 -サイドボード (15)- |
【グランプリ・トロント2016】、【グランプリ・ニューヨーク2016】と続いた激動の2週間のなかで登場し、今では確固たる地位を築いた新星はオンラインの腕自慢にも認められたようです。
「黒緑アリストクラット」と同様に、”力任せに戦場を突破するのではなく、システムクリーチャーによって優位を得ること”、”《謎の石の儀式》が生み出すマナによるテンポアドバンテージを活かすこと”をコンセプトにしています。
《変位エルドラージ》を中心とした、《反射魔道士》による疑似的なロックや《ズーラポートの殺し屋》+《血統の観察者》との無限コンボは、単純な地上戦を挑むデッキにとって恐るべき戦略です。
また、【先週も紹介したように】苦手なボードコントロール系のデッキに対する《現実を砕くもの》を軸にした変形サイドボード戦略を持ち味にしています。
メインボードはコンボ。サイドボード後はグッドスタッフ。このように2つの戦略を織り込んだデッキは万能感があって魅力的に見えますが、実際はいいところどりのメリットばかりというわけではありません。
まず思い当たる代償は、変形サイドボードのために費やしているサイドボードのスロットです。一般的な「4色《集合した中隊》」は変形のために13枚前後の枚数を割いているため、コンボのまま戦う相手には2枚程度の変更しか許されません。そのため、”変形するか否か”という大幅な戦略の変更以外を苦手にしています。どちらの戦略を採るにしても補強する方向性のサイドボーディングが難しく、変形してもしなくても不利になることも珍しくありません。
変形することが想定されている今は、「4色《集合した中隊》」が登場した当時よりは確実に、2つの戦略を内包する構成の価値は下がっています。本当にコンボとグッドスタッフを両立する必要はあるのか。より環境に適した戦略を追求したほうがいいのではないか。そんな疑問を抱えたデッキは2つの分岐を見せました。
3 《森》 1 《島》 1 《平地》 2 《梢の眺望》 3 《進化する未開地》 4 《ヤヴィマヤの沿岸》 3 《コイロスの洞窟》 2 《ラノワールの荒原》 2 《伐採地の滝》 2 《ウェストヴェイルの修道院》 1 《同盟者の宿営地》 -土地 (24)- 4 《壌土のドライアド》 4 《薄暮見の徴募兵》 4 《エルフの幻想家》 1 《森の代言者》 4 《変位エルドラージ》 4 《空中生成エルドラージ》 4 《反射魔道士》 3 《現実を砕くもの》 -クリーチャー (28)- |
4 《集合した中隊》 4 《謎の石の儀式》 -呪文 (8)- |
3 《ドロモカの命令》 3 《否認》 2 《森の代言者》 1 《伐採地の滝》 1 《悟った苦行者》 1 《現実を砕くもの》 1 《龍王シルムガル》 1 《石の宣告》 1 《神聖なる月光》 1 《オジュタイの命令》 -サイドボード (15)- |
1つはグッドスタッフとしての方向性を追求したものです。Simon “TombSimon” Neilsen原案によるもので、MOCSではMagnus LanttoとOliver Tiuが使いました。「緑白トークン」に対しては無限コンボがなくとも、《変位エルドラージ》+《反射魔道士》というコンビネーションだけでも戦えることに注目したリストです。
単体の性能では物足りないコンボパーツがなくなったことに加えて、青緑白の3色で綺麗にまとまったことで安定性が増しています。
これまでの「4色《集合した中隊》」は3ターン目の行動に《反射魔道士》と《地下墓地の選別者》がありましたが、これらのマナコストを見てもわかるように4つのマナシンボルを要求していたのです。《壌土のドライアド》や《謎の石の儀式》によるサポートはあれども、マナトラブルに見舞われる可能性はあり、3色にまとまったことによってリスクが緩和されたことは戦略の一貫性以上に大きな恩恵だといえます。
6 《森》 1 《平地》 1 《沼》 4 《進化する未開地》 4 《コイロスの洞窟》 4 《ラノワールの荒原》 3 《ウェストヴェイルの修道院》 -土地 (23)- 4 《壌土のドライアド》 4 《薄暮見の徴募兵》 4 《エルフの幻想家》 4 《ズーラポートの殺し屋》 4 《地下墓地の選別者》 4 《変位エルドラージ》 3 《ナントゥーコの鞘虫》 3 《血統の観察者》 -クリーチャー (30)- |
4 《集合した中隊》 3 《謎の石の儀式》 -呪文 (7)- |
4 《現実を砕くもの》 4 《ドロモカの命令》 3 《精神背信》 3 《究極の価格》 1 《進化の飛躍》 -サイドボード (15)- |
もう1つの道は、コンボとしての方向性に特化したものです。コンボでありグッドスタッフでもある。そんな「4色《集合した中隊》」の根幹には《反射魔道士》の存在があります。あるときは《変位エルドラージ》とのシナジーカードとして、またあるときは変形サイドボード後の攻撃のバックアップとして。強力なテンポコントロールをする《反射魔道士》は、コンボとグッドスタッフという2つの戦略を繋ぎとめる優秀な接着剤でした。
しかし、コンボデッキとしての側面を優先すると決めたならば、厳密にはコンボパーツではない《反射魔道士》は半端なカードに成り下がります。その代わりに「黒緑アリストクラット」でお馴染みの《ナントゥーコの鞘虫》を加えて、複数枚の《ズーラポートの殺し屋》による瞬殺を狙うほうが合理的な選択なのです。
依然としてサイドボードからは《現実を砕くもの》による変形も用意されていますが、これまでの4色と異なるのは、メインボードのまま戦うマッチアップをより有利に進められることです。コンボとしての振る舞いが強いならば、それを徹底する。単純かもしれませんが、一貫性のある調整は成功につながります。
コンボでありグッドスタッフでもある「4色《集合した中隊》」は、良く言えば柔軟、悪く言うと半端なデッキです。全貌が知られていないときには柔軟性が優りましたが、今となってはどちらの戦略も半端であることが重しになっています。そこで2つの軸のどちらかに偏らせる変化が生まれたのです。
これら2つの分岐の優劣は、これからの環境の変化に応じて決まります。ボードコントロールが増えればグッドスタッフが、ビートダウンが増えればコンボが数を増やしていくことでしょう。メタゲームの変遷とともに、これらの「多色《集合した中隊》」の流行からも目が離せません。
【話題2】「緑白トークン」とデッキ選択の3つの基準
MOCSでは3人のプレイヤーが「緑白トークン」を選択しましたが、興味深いことに、そのうちの2人はMike SigristとGerry Thompsonでした。この2人のトッププロが「緑白トークン」を手にしたことの何が興味深いかというと、今大会において「緑白トークン」は最も警戒されていたデッキタイプだったからです。
9 《森》 7 《平地》 4 《梢の眺望》 4 《要塞化した村》 2 《ウェストヴェイルの修道院》 -土地 (26)- 4 《搭載歩行機械》 4 《森の代言者》 2 《棲み家の防御者》 4 《大天使アヴァシン》 -クリーチャー (14)- |
4 《ドロモカの命令》 2 《石の宣告》 4 《ニッサの誓い》 2 《進化の飛躍》 4 《ゼンディカーの代弁者、ニッサ》 4 《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》 -呪文 (20)- |
3 《悲劇的な傲慢》 2 《ラムホルトの平和主義者》 2 《巨森の予見者、ニッサ》 2 《荒野の確保》 2 《石の宣告》 2 《停滞の罠》 1 《棲み家の防御者》 1 《翼切り》 -サイドボード (15)- |
【先週の記事】の新しいレベル分けのなかでは「緑白トークン」はレベル1、つまりは現環境の前提ともいえるデッキであり、基本的にはそれを対策したデッキばかりが環境に蔓延っていると紹介しました。メタゲーム上のデッキの立ち位置としては最悪なはずですが、はたして2人はデッキ選択を間違えてしまったのでしょうか?
もちろん答えはNoなのですが、「緑白トークン」の立場が悪いことも事実です。それでは何が「緑白トークン」という選択を肯定しているのか。その秘密を明かす鍵は、デッキ選択に必要な3つの評価基準に隠されています。
この3つの評価基準とは「スキル」「完成度」「メタゲーム」です。
◆ 3つの評価基準
スキル: デッキを使用したときのプレイヤーの技術
完成度: デッキリストの練度
メタゲーム: デッキタイプの立場
スキル: デッキを使用したときのプレイヤーの技術
完成度: デッキリストの練度
メタゲーム: デッキタイプの立場
簡単にまとめるとこんな感じでしょうか。どれも相対的な基準なので、フォーマット、トーナメントによって、それぞれの重要性は変化します。
たとえばスタンダードのプロツアーに向けてのデッキ選択ならば、プロばかりなので「スキル」の差は生まれにくく、準備期間が短く「完成度」でも差がつきにくいため、「メタゲーム」の評価が重視されやすい、といった感じです。プロツアーでトップチームが、前提となるメタゲームに存在しない真新しいデッキを持ち込むことが多いのは、こういった背景もあります。
それでは今回のMOCSはどうかというと、
スキル: 招待制のハイレベルなトーナメントだが2人は上から数えたほうが早い実力者。
完成度: 「緑白トークン」は現環境で最も研究が進んでいて、2人のデッキの完成度は著しく高い。
メタゲーム: 対策されはじめている。有利であることはありえない。
完成度: 「緑白トークン」は現環境で最も研究が進んでいて、2人のデッキの完成度は著しく高い。
メタゲーム: 対策されはじめている。有利であることはありえない。
このような想定ができます。実際に彼らがどのように考えたかはわかりませんが、仮にこの想定が正しかったとして、「緑白トークン」が最高の選択肢であったかはともかく間違いではないと言い切れるのは、似たモデルでの成功例をいくつも見てきているからです。
最近の例でいうと、【Vol.9の話題3】で紹介したTeam Mint Cardsの「バントカンパニー」がわかりやすいかもしれません。
【プロツアー『イニストラードを覆う影』】において大敗した「バントカンパニー」でしたが、Team Mint Cardsのものは9勝1敗のLee Shi Tianと準優勝のAndrea Mengucciを輩出するという大成功を収めたのです。この成功の原動力は、使用者のスキルの高さと、サイドボードも含めた75枚の完成度の高さにありました。メタゲームだけで判断すると失敗にも思えるデッキ選択でしたが、それ以外の基準を高い水準で満たしていれば問題ないという好例です。
今回のように他人のデッキ選択を分析することは、その人が持っている情報が不確かなうちは全く意味がありません。ただ、自分が選択すると想定して、その人とは何が違うのか、あるいは何が同じなのかには気をつけてもいいのかもしれません。もしあるトーナメントに参加したときに、優勝したトッププロと同じデッキタイプを選択していたとしても、それは自分にとって正しい選択ではなかった可能性は十分残されているからです。同じスキルを持たず、同じ完成度のデッキを持っていなければ、それは決定的でしょう。
参加者の平均と比較してスキルが足りなければ、デッキの練度かメタゲームにおいて優れたデッキを。どのデッキの練度にも自信がなければ、使い慣れているかメタゲーム上で優位なデッキを。
ちょっとした前提を加えるだけでも選択すべきデッキは変化します。ちょっと小難しいトーナメント戦略ですが、参加するデッキに迷ったときは、この3つの基準に簡単な数値を割り振って、候補のデッキ同士で比較してみることをおすすめします。
【まとめ】「4色《集合した中隊》」の動向に注目!
いよいよ本格的にメジャーなデッキタイプの仲間入りを果たした「4色《集合した中隊》」は、さっそく変化の時期を迎えています。
個人的には《現実を砕くもの》をメインから採用した「多色《集合した中隊》」のこれからが気になりますが、きっと様々なバリエーションが新しく登場してくるはずなので、未だ見ぬそれらの活躍も楽しみです。
まだまだ続く環境の変容に期待して!それではまた来週お会いしましょう!
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