「……ダイスロール。勝ちですね。では先手で」
マッチの前に繰り返されるやり取り。その出目に一喜一憂し、ダイスロールに勝利したプレイヤーは往々にして先手を宣言する。
それはマジック:ザ・ギャザリングというゲームにおける先手の利、対戦相手より一手先にアクションを行える権利が後手のドロー1枚分よりも重視されてきた証左である。
スタンダードでこそコントロール同型などのマッチアップでは後手を選ぶことも珍しくないが、しかし全体から見れば極稀なケースだろう。そう、構築フォーマットでは。
この先手後手の判断が各人によって大きく振れるフォーマットがある。リミテッドだ。
与えられたプールの中でしか構築が行えないリミテッドにおいて、カード1枚分の差は先手の利を上回ることがある。それは、勝負を決めうるカードを引き込む確率をわずかでも高めるためであり、また、土地の配分に不安を抱えるゆえの選択でもある。
このリミテッドにおける先手後手の選択を、強豪プレイヤーたちはどのように判断しているのか。ここでは、プロツアー『異界月』地域予選in東京に集ったプレイヤーから3名に、シールドにおける先手後手の判断基準を伺った。
行弘 賢 シルバー・レベル・プロプレイヤー/【Dig.cards】所属プレイヤー/【プロツアー『アヴァシンの帰還』】トップ4
行弘 「後手をとるのは弱いデッキになってしまったときですね。弱いデッキは相手より全体のカードパワーが低いということなので、先手の相手を事故らせるか、後手のドロー1枚分の差で勝つしかなくなります」
行弘 「カードプールが弱いセットは誰もが後手をとりますね。特に『ミラディンの傷跡』ブロックのように、生物の質は全体的に低いが除去が多いといった環境ではその傾向が顕著です。以前に比べて近年は生物の質が向上しているため、シールドでも先手を選ぶプレイヤーが増えていますね」
『イニストラードを覆う影』環境の先手後手
行弘 「『イニストラードを覆う影』のシールドは先手をとります。先手をとれば対戦相手の狼男が「変身」するリスクを減らすこともできますし、プール全体がビートダウンに寄っていてコンバットトリックが豊富であることも先手になりやすい要因です」
永井 守 【BIGs】所属プレイヤー/【プロツアー『闇の隆盛』】トップ4
永井 「先手後手は自身のデッキが攻めるデッキか守るデッキか判断して決めます。攻めるデッキとはマナカーブに沿った展開が可能でコンバットトリックも豊富な速いデッキ、守るデッキとは地上を固めて飛行で殴るプランや除去が多い遅いデッキとなります。また、Game1が終わった時点での相手のデッキを判断して決めることもあります」
永井 「最近はシールドでも先手を選ぶことが増えましたが、これは『タルキール覇王譚』ブロックの「変異」、『マジック・オリジン』の「高名」、『戦乱のゼンディカー』ブロックの「上陸」「覚醒」「支援」といった先手に有利に働くキーワード能力が増えたことが要因だと思います」
『イニストラードを覆う影』環境の先手後手
永井 「先手を選びます。狼男の存在もそうですが、「青が弱い」という共通認識のために青を使うプレイヤーが少ない=遅いデッキが少ないので、後手を選ぶリスクが高くなります」
井川 良彦 シルバー・レベル・プロプレイヤー/【Hareruya Pros】所属プレイヤー/【プロツアー『タルキール覇王譚』】10位
井川 「デッキが強いと判断したら先手ですね。また、ビートダウンを組んだ場合は絶対に先手をとります。一方で、序盤を捌ける高タフネスのクリーチャーや除去が豊富、かつ1枚でゲームを決定付ける強力なカードが入っているコントロール寄りのデッキを組んだ際は後手をとりますね」
井川 「以前はシールドでもコントロール同型のマッチアップはありましたが、近年ではカードの質が生物>除去になっているため、それも先手を選ぶことが増えた理由です。また、コントロール側からしても対戦相手のビートダウンに先手を与えたくないので先手をとる、といった判断も発生します」
『イニストラードを覆う影』環境の先手後手
井川 「圧倒的に先手です。例えば、初動が3ターン目の初手はシールドであれば別段おかしいものではありませんが、この環境に限っては先手の対戦相手が2ターン目に出した狼男の「変身」を許してしまうことになります。早期に「変身」した狼男はそれだけでゲームの流れを決定付けてしまうことも多く、それを避けるためにも先手を取ることは重要です」
共通した意見として、デッキの強弱やビートダウン、コントロールといった性質によって先手後手の判断が行われるようだ。また、『イニストラードを覆う影』における狼男の存在のように、そのブロックの特性によって先手の環境、後手の環境といった判断も生まれてくる。
先手か、後手か。
この二択を正しく判断することが、リミテッドを勝ち抜く力となるだろう。
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