『ゲートウォッチの誓い』はレガシー環境に黒船をもたらした。
エルドラージ。《古えの墳墓》《裏切り者の都》といった大量の2マナ土地の爆発力でもって、《アメジストのとげ》などでアクションを拘束する間に速やかに相手を撲殺できるそのタフなクリーチャーの数々は、瞬く間にレガシーのメタゲームを一変させた。
環境の動乱期。そしてその流れに乗じてエルドラージを率い、『神』への挑戦権を勝ち取ったのは、プロツアーを目指し、普段はあまりレガシーを嗜まないような競技プレイヤーだったのだ。
加茂 里樹(東京)。
【プロツアー『ニクスへの旅』】への出場経験もあり、【BIGs】の一員として競技シーンでの活躍も嘱望されている加茂が、「最古の神」川北に挑む。
ここではそんな加茂にインタビューを試みた。
加茂とマジックとの出会い
--「加茂さんはいつごろマジックを始められたんでしょうか?」
加茂「中学生くらいのときに兄が買ってきたので存在は知っていて、その後も興味はあってブースターパックだけ買ったりしていたんですが、ちゃんとやり始めたのは大学に入ってからですね。【The Limits2010】チャンピオンの井上 徹くんと知り合って、彼に教えてもらって始めたのが『ローウィン』の頃です。最初に参加したグランプリが【グランプリ・北九州2007】でした」
--「そういえば加茂さんは九州勢でしたね。当時の九州のマジック事情はどんな感じだったんでしょうか?」
加茂「僕は福岡にいたんですが、当時マジックをやる場所はイエローサブマリンとファイヤーボールしかなかったですね(笑) 今は福岡にばぶるす、佐賀にラノワールもあるので、九州のマジック事情は僕がいた頃とは比較にならないくらい良い環境になったと思います」
--「マジックを始めたのは大学からという話ですが、その前に他のゲームなどをプレイされたりはしていなかったんでしょうか?」
加茂「いや、高校のときにゲームセンターに通って格闘ゲームをやっていたくらいですね」
--「格ゲーですか、マジックとは全然別の方向ですね」
加茂「そうでもないですよ。特に練習しないと勝てない点はよく似ていると思います。どちらも知識ゲーなので、地道な研究と反復練習がとにかく大事ですね」
ダメージレースを挑むようなデッキには自信があります
--「加茂さんはレガシープレイヤーというよりはプロツアーでの活躍を目指すガチの競技プレイヤーという印象ですが、いつごろからプロツアーを目指すようになったのでしょうか?」
加茂「『ゼンディカー』くらいからですね。九州のコミュニティでは周りに井上くんの他にも、行弘 賢、加藤 一貴、平林 和哉、平島 佑太郎といった競技志向の面々が多くて影響を受けました。特に加藤さんには『ミラディンの傷跡』のときにガチでリミテッドを教えてもらったので、リミテッドの師匠的存在です。あとはこの間【グランプリ・ミネアポリス2016】で準優勝した高尾 翔太くんも、彼は長崎のプレイヤーだったんですが、この頃福岡のPTQによく遠征しにきていて、それで仲良くなりました」
--「その頃レガシーはプレイされていたんでしょうか?」
加茂「いえ、専らスタンダードとリミテッドばかりやっていました。最近でもレガシーは一年に一回くらいの頻度でしかプレイしていないですね。【グランプリ・京都2015】のときだけ、Magic Onlineでずっと『感染』を回していましたが……なので【第6期レガシー神挑戦者決定戦】のときも、まさか勝てるとは思っていませんでした。『プレイが簡単そう』と思って『エルドラージ』を選んだら、結構ツイてましたね」
--「さっき『練習しないと勝てない』って言ってたじゃないですかw」
加茂「(笑) でもまあエルドラージはちょっとデカいクリーチャーを早めに出して殴り合う、言ってしまえばリミテッドみたいなものですよ。リミテッドは大好きなので、そういうダメージレースを挑むようなデッキには自信があります」
--「確かに加茂さんといえば晴れる屋的には『第1回マナバーン杯』の優勝者でもありますからね。【スタンダード挑戦者の後藤さん】も『第2回マナバーン杯』の優勝者ですし、【リミテッドにはマジックの基礎が全て詰まっている】という八十岡さんの言葉はやはり正しいんでしょうね」
加茂「レガシーでも《秘密を掘り下げる者》デッキなんかはダメージレースしますし、『デス&タックス』とかも装備品絡みで細かいやりとりを行うデッキなので、そういったデッキを使うプレイヤーはリミテッドもやっておいて損はないと思います」
--「加茂さんのような競技プレイヤーにとって、レガシーのどのような面が魅力的だと思いますか?」
加茂「昔の好きなカードが使えるのが良いですね。僕は《渋面の溶岩使い》が大好きなので、『バーン』をよく使っています。あとは《発展の代価》も好きですね」
--「競技プレイヤーとしての加茂さんの現在の目標をお聞かせください」
加茂「井上、行弘、高尾といった九州出身で仲の良いプレイヤーたちが今年みんな揃ってシルバーレベルに乗りそうなので、来シーズンは僕もシルバーレベルを目指したいと思います」
明らかにレガシーの知識の差で負けているので、とりあえず真正面からは行かないつもり
--「加茂さんはこれからレガシー神決定戦で最古の神・川北 史朗さんと対戦されるわけですが、これまでの神決定戦の模様などを見て、川北という『神』の印象はいかがでしょうか?」
加茂「とにかく強いという印象です。ミスをしないわけではないですが、なんだかんだ言って勝つのがやっぱり『神』だなぁと」
--「そんな『神』に対し、加茂さんはどういった部分に勝機を見出そうと考えているんでしょうか?」
加茂「明らかにレガシーの知識の差で負けているので、とりあえず真正面からは行かないつもりです。ひねりなくバンバン行くか、ひねったデッキを使うか。どちらでもいいので、相手に合わせて動くみたいなデッキは使いたくないですね。『川北ワールド』に呑まれないようなデッキ選択で裏をかいていけたらいいなと思います」
--「最後に意気込みなどお聞かせいただければ」
加茂「レガシーはあまり得意ではないので自信はないですが、『神』になって前人未到の3神や4神を目指していきたいので、頑張って同じ土俵に引きずり込んで勝ちます!」
--「ありがとうございました」
挑戦者の風格、十二分。
九州の強豪たちの薫陶を受けてあらゆる技術の基礎たるリミテッドに精通し、マジックでも難しい部類とされるダメージレースについて自信があると語るその姿は、生い茂る枝葉を飄々と揺らしながらも陰で地面にしっかりと根を張る大樹を想起させる。
プロを目指しているだけに技術面・精神面ともに申し分ない。
はたして、ついに『最古の神』が陥落する瞬間が訪れるのか?
加茂の戦いぶりに注目だ。