大型エキスパンション『タルキール覇王譚』、発売。
デッキビルダーにとってこれほど胸の躍る季節はない。
環境の激変。積み重ねられたメタゲームの仕切り直し。
コンセプトが確立する前の混沌としたスタンダードこそ、自分が作ったデッキで世界中を驚かせる最大のチャンスだと言っていいからだ。
だが、それと同時に。
クソデッキが最も輝くのもこの季節なのだ。
どんな無謀なコンセプトも「新しいカードを試したかった」という理由さえあれば正当化される。それが新エキスパンション発売直後の特権だ。
ならば、デッキを作るしかあるまい。
今こそプロツアーレベルの最強のデッキを製作し、私がタルキールの覇王となる!
1.妄想編
クソデッキ、氏族を決めかねる。
そう、『タルキール覇王譚』といえば5つの氏族が束ねる次元。となればデッキを作るにはまず、どの氏族を使いたいか決める必要がある。
野生のエイヴンを模写することももちろん考えた。あそこまで盛大にネタにした以上、責任を取ってデッキを作るべきかとも思ったのだ。
だが
そのカードとは。
《マルドゥの隆盛》。
クリーチャーが1体で殴ると2体になり、2体で殴ると4体に、3体で殴ると6体に。
圧倒的な勢いで相手を蹂躙するその様。実に
だが、このカードでデッキを組もうとしたところ、なかなかうまくいかなかった。
例えば同じ『タルキール覇王譚』に収録されている《戦名を望む者》や《刃の隊長》といったカードと組み合わせようとすると、動きがぎこちなくなったり、ちょっと単体除去を撃たれるだけでトークンが思うように出なくなってしまうのだった。
やがて一人回しを繰り返した結果。
このカードをうまく使うためにはいくつかの条件がある、ということがわかってきた。
◆条件1: 「1マナ→1マナ+1マナ」の動きを含むこと
《マルドゥの隆盛》を使っていて一番気持ちがいい瞬間はいつか。
それは、先手1ターン目にクリーチャーを展開、2ターン目にさらに2体を追加展開し、3ターン目に満を持して《マルドゥの隆盛》を貼って一挙3体のトークンを無防備な相手に突っ込ませるときだ。
この動きを実現するためには、2マナのクリーチャーなどいっそ邪魔だ。
ならば、全て1マナのクリーチャーにしてしまえばいい。
よって《マルドゥの隆盛》デッキを組む場合、3~4スロット(12~16枚)以上の1マナクリーチャーからマナカーブをスタートさせた方が良いという結論に至った。
◆条件2: 回避能力があること
《マルドゥの隆盛》の弱点は何か。
それは、元となるクリーチャーをブロックされてしまうと勢いが落ちてしまうことにある。
いかに「1マナ→1マナ+1マナ」と展開しようと、返しで出てきた《クルフィックスの狩猟者》などに足踏みしているようでは意味がない。
すなわち、相手が出してきた生物を無視してアタックできるクリーチャーが必要なのだ。
それには回避能力を持ったクリーチャーを採用すれば良い。至極単純な話だ。
◆条件3: 「速攻」持ちのクリーチャーがいること
《マルドゥの隆盛》がいかに驚異的な勢いでトークンを量産する最強のカードだとしても、《対立の終結》などの全体除去を一度撃たれてしまえばリカバリーするまでに数ターンを要してしまうという問題は無視できない。
しかしそれを解決する方法もまた、このゲームには用意されていた。
そう、「速攻」を持つクリーチャーさえいれば。
全体除去の返しで走るクリーチャー、したがって一切のタイムラグなしに《マルドゥの隆盛》が再びトークン量産を始め、対戦相手の目論見は水泡に帰す。
完璧だ。
◆条件4: クリーチャーを全体強化する手段があること
いくら最強とは言っても《マルドゥの隆盛》で出てくるトークンは所詮1/1。2体ばかりサイズの大きなブロッカーを用意されてしまうと、すぐに戦線を打開することが難しくなってしまう。
だが、トークンを全体強化する手段があったならば。
2~3回もアタックすれば相手は虫の息。あとは火力なりトークンの群れなりで押しつぶすだけだ。
……これら4つの条件を満たさない限り、《マルドゥの隆盛》の真の力を発揮させることはできない。それが私の結論だった。
しかし、RTRブロックがローテーション落ちした今。スタンダードという限られた環境で、本当にこれらの条件を満たすことは可能なのだろうか?
そう、もちろん可能だ。
この複雑なn次方程式の解を、私は見つけ出すことに成功したのだ。
何万通りのカードの中で、《マルドゥの隆盛》のポテンシャルを最大限に発揮する組み合わせ。
莫大な時間をかけて研究した、最適なクリーチャー選択。
その正体が、今ベールを脱ぐ。
2.爆誕編
クソデッキ、懲りずに爆誕。
完璧な理論に基づいて構築された《マルドゥの隆盛》デッキの究極形。
《ジェスカイの隆盛》どころの騒ぎではない。「隆盛」シリーズの頂点はマルドゥにあった。
今こそ見せよう。最強のデッキを。
これが《マルドゥの隆盛》の真の姿だ!
2 《山》 2 《平地》 2 《沼》 4 《血染めのぬかるみ》 4 《戦場の鍛冶場》 4 《コイロスの洞窟》 4 《マナの合流点》 1 《遊牧民の前哨地》 -土地(23)- 4 《血に染まりし勇者》 4 《鋳造所通りの住人》 4 《無私の聖戦士》 4 《忠実なペガサス》 4 《性急な太陽追い》 1 《殺人王、ティマレット》 4 《ゴブリンの熟練扇動者》 4 《軍族の解体者》 -クリーチャー(29)- |
4 《かき立てる炎》 4 《マルドゥの隆盛》 -呪文(8)- |
4 《炉の小悪魔》 4 《ニクス毛の雄羊》 4 《脳蛆》 3 《反逆の行動》 -サイドボード(15)- |
もしかして粗大ゴミかな?
一見してそう思うのも無理はない。何せリミテッドでも大して強くないコモンがスペースを圧迫している。
だが、これらのカードチョイスは必然だった。
一人回しを重ねていくうちに、とある符合を発見したのだ。
まずはこのカードを見て欲しい。
まずこいつは緋村剣心だ。
「いきなり何を言い出すんだこいつは」と思うかもしれないが、落ち着いてこの前提を受け入れて欲しい。そうすれば新たな世界が開ける。
それに「血に染まりし勇者」って何だか「人斬り抜刀斎」っぽくね?つまりはそういうことだ。
あと見た目はフレディじゃねぇかとか、手に持ってるのがティンベーだかローチンだかに似てるからってこいつもしかして宇水じゃないかとか思ってはいけない。
そうなると《無私の聖戦士》はその名前からして四乃森蒼紫であろう。
ちなみに何とこいつは「1マナクリーチャー」でかつ「全体強化」能力を持っているという唯一無二の生物なのだ。
まさしく《マルドゥの隆盛》のために生まれてきたといっても過言ではない。
ちなみにこの起動型能力をここでは「回天剣舞六連」と呼ぶことは言うまでもない。
こいつは「飛行」を持っている。
ということは当然、十本刀 “飛翔”の蝙也である。
誰だよと思うかもしれない方のために説明しておくと、「飛空発破」という空から爆弾を投げつけるチート戦術で剣心一行を苦しめた十本刀随一の難敵である。
なお一応効果にも触れておくと、1マナパワー2かつ「飛行」という驚異の打点は、《マルドゥの隆盛》を引かないときのクソビートプランに貢献してくれるだろう。
このカード。
このカードが《マルドゥの隆盛》と並んだとき、一体何が起きるかご存知だろうか?
《マルドゥの隆盛》のトークンは赤。
すなわち、フィーバータイムである。
その打点スピード。眼にも止まらぬ速さで相手を瞬殺するその理不尽さ。
まさしく「縮地」と呼ぶにふさわしい。
つまり十本刀 瀬田宗次郎うわっ、やめろ石を投げるんじゃない!
十本刀 “飛翔”の蝙也である(2回目)
そこはせめて「牙突」だろと思われるかもしれないが、「飛行」と何より立派な翼を持っているので仕方がない。
そしてこの「飛行」と「速攻」を両方持っているというのは、《マルドゥの隆盛》デッキを組む上でマスターピースとなることは既に述べた。
《グルマグの速翼》という上位互換みたいなカードもあるが、《鋳造所通りの住人》とのシナジー
誰だよお前は。
もうこんなやつは「るろうに剣心」にはどこを探しても見つからなかったので私は諦めた。
心当たりがあるという方は是非教えて欲しい。
ちなみにその世界観とのマッチしてなさ加減と同様、このカード自体もそれほどデッキにマッチしているわけではなく、タダ強なので採用というしょーもないアレである。
皆さんお待ちかね。「るろうに剣心」の大ボスと言えば。
必殺の「飛空発破」で剣心一行を大いに苦しめた。
十本刀 “飛翔”の蝙也である(3回目)
いや、でもこいつの翼が一番それっぽいからマジで。
あとついでに「飛行」「速攻」を持たせられるので《マルドゥの隆盛》と並ぶと宇宙なのは言うまでもない。
……と、いった具合に。
このデッキのカードは「るろうに剣心」の登場人物と完璧に対応しているのだ。
《マルドゥの隆盛》を使いこなすための4条件をクリアしただけでなく、完成したデッキがここまで美しいとなると、ウィザーズ開発部には熱烈な「るろうに剣心」ファンがいるであろうことはもはや間違いない。
さらにサイドボードも美しさに満ち溢れている。
サイド後も《マルドゥの隆盛》を生かすために、サイドカードは軽量クリーチャーでありながらメタカードとしてのポテンシャルを発揮するカードに絞ってある。
このような条件でもスタンダードにはしっかりとカードが存在した。ということはつまり、このデッキを「作れ」という開発部からの指令なのだ。
さらに「タルキール覇王譚」でおもむろに再録された《反逆の行動》。これは《軍族の解体者》と一緒に使って「アリストクラッツ」を再現しろということだろう。
そう、このデッキはまさしく神の意思。つまり最強だ。
今こそ私の飛天御剣流でタルキール新時代の明日を切り開く!
3.実戦編
クソデッキ、平日大会に出る。
◆第1回戦 VS 黒単
・1戦目 相手が1ターン目に出してきたのは剣心。まさかミラー!?なわけもなく相手は《節くれの傷皮持ち》といった容赦のない生物たちを次々と展開し、さらに《饗宴の主》までも出てきてしまう。あ、あいつの翼もよく見ると十本刀 “飛翔”の蝙也っぽい……などと考える暇もなく撲殺。
・2戦目 聞いてくれ。今このデッキの良いところを発見した。《無私の聖戦士》や《性急な太陽追い》といったゴミがいっぱい入ってるからサイドボードに悩まなくて済むところだ。
あとダメなところも発見した。ダメラン12枚が痛すぎてビートダウンに当たったら絶対負けるわこれ。
××
◆第2回戦 VS 赤黒ビート
・1戦目 《発生器の召使い》から先手3ターン目に飛びかかってくる《死の国のケルベロス》。さすがに「九頭竜閃」には勝てなかったよ……。
・2戦目 捌かれて全然打点が足りない。ていうか「回天剣舞六連」って1回しか使えない上に弱いんだが……それでも、相手が2体並べた《責め苦の伝令》の力でどうにか削りきった。もはやプライドなどない。
・3戦目 今気づいたけど相手が先手1ターン目に剣心出してくると絶望だわこれ。だがサイド後の《ニクス毛の雄羊》がふんわりキャッチ!一瞬で除去られて負け。うん、知ってた。
×〇×
◆第3回戦 VS 白赤緑プレインズウォーカー
・1戦目 先手で1ターン目、2ターン目とクリーチャーを展開しつつの《マルドゥの隆盛》。相手は《森の女人像》スタートであり、全く間に合っていない。頭の中では「The Beginning」(映画「るろうに剣心」主題歌)が流れていた。
・2戦目 ダブマリした上に《払拭の光》連打からの《セテッサ式戦術》で圧殺。
・3戦目 お互いワンマリ、ゴミとか《忠実なペガサス》といったゴミが集まって頑張ってダメージを削るが、このままでは足りない……がそこに駆けつける十本刀 “飛翔”の蝙也(いちばん強いの)!!そのまま対戦相手を「飛空発破」で粉砕して見事初勝利!
〇×〇
結果:
4.後悔編
クソデッキ、不殺(ころさず)の誓い。
12枚入ったダメランが逆刃刀っていうかもう刃の側を握り込んじゃってる感じだった。いてぇ。
ついでにこのデッキを渡した某あずにゃん好きのプロプレイヤーには「俺の1時間半を返せ!www」と罵られる始末。
おかしいな……理論上最強だったはずなんだけどな……
まだ足りないピースがあったということなのか。
だが「1マナ→1マナ+1マナ」よりも速い、「先の先」を取る「天翔龍閃」のような技が存在するというのか……?
はっ!
まさか、アレか!?
1マナを超える1マナ。さらに「飛行」もついており条件を完璧に満たすクリーチャー。
そんなカードがスタンダードにはまだ存在した。
これが、「天翔龍閃」か。
十本刀 “飛翔”の蝙也
こ れ か 。
「マルドゥ剣心~タルキール大火編~」へ続……かない。
それではまた次回。
良いクソデッキライフを!