By Atsushi Ito
やはり、奇跡なのか。
レガシー神決定戦の決勝戦を彷彿とさせるかのように。
今回の「第2期レガシー神挑戦者決定戦」、その決勝まで勝ち上がってきたのは、青白奇跡を駆る青柳 元彦だった。
しかも因果なことに、青柳の奇跡はレガシー神決定戦の準優勝者である「のぶおの部屋」斉藤 伸夫と練り上げた75枚なのだ。
無論青柳自身も斉藤に引けをとらない奇跡使いであることは疑いようもない。
達人が使う奇跡には、誰も勝てないということなのか。
そんな青柳にしかし、立ちはだかる最後の難敵。
ひたすらジャンドを使い続け、そのプレイングは達人の領域に達している高鳥 航平。
高鳥はレガシー神川北 史朗とも知り合いとのことで、ますます運命めいたものを感じさせる。
何しろ「青白奇跡対ジャンド」というのは、それは奇しくも川北がレガシー神インタビューで「土地と《師範の占い独楽》だけ並べてゆっくりしてれば、どこかでエンド前に《天使への願い》X=3を『奇跡』するだけで勝てちゃいますから、ミラクルが有利だと思います」と語ったマッチアップだからだ。
しかしそのとき川北が挙げていた一番の理由である《天使への願い》の枚数を、青柳は2枚に減らしている。単純に青柳が有利だとは思えない。
何より高鳥もジャンドを使う以上は青白奇跡のことを意識してデッキを構築しているはずなのだ。
下馬評は完全に五分と言えるだろう。ここまで来たらあとは積み重ねてきた互いのプレイングの力量と、わずかばかりの運が勝敗を左右する。
《精神を刻む者、ジェイス》に見守られたフィーチャーテーブルで、《精神を刻む者、ジェイス》に愛されたレガシー神に挑む挑戦者を決めるべく。
最後の戦いの火蓋が、切って落とされた。
Game 1
先手の高鳥が2ターン目にキャストした《森の知恵》にはたまらず《Force of Will》を切り、続く《闇の腹心》には《対抗呪文》を合わせた青柳だったが、4ターン目に《ヴェールのリリアナ》が通ってしまう。
一方、早速「+」1能力を起動した高鳥。《稲妻》《罰する火》の2択で前者を捨てるが、ここで青柳はエンド前に《ヴェンディリオン三人衆》。《罰する火》も抜かれてしまい、裏目に出た格好だ。
しかし返すターンに何とか《稲妻》を引き込み、《ヴェールのリリアナ》を維持したまま《ヴェンディリオン三人衆》を屠ることに成功する。
対する青柳はこの虎の子のクリーチャーを失ったことで、メインでこのプレインズウォーカーに触る術に乏しく、窮地に立たされてしまう。
そんな青柳をさらに攻め立てるべく、高鳥は2体目の《ヴェールのリリアナ》で青柳の手札を空にし、お互いトップデッキ待ちの状況に持ち込むことに成功する。
そして先に身を引いたのは高鳥。《タルモゴイフ》を送り出し、さらに「+1」能力で攻め立てるが、これには青柳のスタック《渦まく知識》からの《終末》が飛ぶ。
青柳 元彦 |
だが、続く《闇の腹心》にはさすがに青柳の対応策がない。
盤面の脅威と忠誠値が「6」の《ヴェールのリリアナ》。2つの脅威が青柳を追い詰めていく。
片方の脅威は何とか《剣を鍬に》で処理するが、《ヴェールのリリアナ》という根本的な問題は解決していない。
やがてついに奥義が発動するときが来た。
5枚あった土地が3枚に。さらに《不毛の大地》で《Tundra》を破壊すると、青柳の手札は0枚、土地は2枚。盤面にはなお忠誠値を1残した《ヴェールのリリアナ》。
ひたすらリソースを締め上げ、わずかなアドバンテージと最小限のクロックで微差を守りきる……これがジャンド。これが奇跡の倒し方だと言わんばかりの、お手本のようなプレイング。
もはや青柳はただ毎ターン引いたカードを捨て続けることしかできない。
それに対して高鳥は《死儀礼のシャーマン》《闇の腹心》と並べ。
いつしか再び忠誠値は「6」になった。
青柳にこの完璧なロックから抜け出す方法は……なかった。
高鳥 1-0 青柳
Game 2
マリガンした高鳥に対し、《大祖始の遺産》から《師範の占い独楽》、さらに《ヴェールのリリアナ》指定の《真髄の針》と、立て続けに3枚ものアーティファクトを並べる青柳。高鳥の《闇の腹心》も《議会の採決》する盤石な立ち上がりだ。
しかし《精神を刻む者、ジェイス》が《赤霊破》でカウンターされてしまうと、高速展開の代償か、《不毛の大地》と《Hymn to Tourach》を合わせて完璧にリソースを絞りきられてしまう。
とはいえ高鳥も《Chains of Mephistopheles》があるのみでクロックはなく、対して青柳には《師範の占い独楽》がある。《Chains of Mephistopheles》の効果を勘違いして《思案》を空打ちする一幕があったものの、なおもどちらが有利かは明白だ。
青柳は《ヴェンディリオン三人衆》で高鳥の《死儀礼のシャーマン》を下に送り、《漁る軟泥》を《Chains of Mephistopheles》ごと《仕組まれた爆薬》で押し流す。《闇の腹心》も《議会の採決》で処理し、ひたすらそのカードを探し続ける。
そのカード。
この最高の舞台、フィーチャーテーブルに最もふさわしいプレインズウォーカー。
《精神を刻む者、ジェイス》!
ただでさえ引きが芳しくない高鳥のライブラリーを検閲しながら忠誠値を溜め始めると、黒の最強プレインズウォーカーによる華麗なロックが決まった1ゲーム目とは対照的な、青の最強プレインズウォーカーによるハーフロックが決まってしまう。
ほどなくして、高鳥は3ゲーム目へ行くことを選択した。
高鳥 1-1 青柳
Game 3
ここで青柳が痛恨のダブルマリガン。どちらかといえば初手の特定のキーカードというよりはリソース勝負になりがちなこのマッチにおいてはなおさら厳しいところだ。だが、これもまたマジック。たとえ7枚対5枚という圧倒的に不利なハンデを負ったとしても、与えられた手札で最善を尽くして勝負するしかない。
そしてそれは高鳥も同じこと。3ターン目に《ヴェールのリリアナ》をキャスト、これが着地すると、「+1」能力でリソースを絞り、手札差を盤石なものとしていく。
それでも、青柳はまだ諦めていない。《議会の採決》を合わせ、リソースを回復するための暇を得ようとする。その目論見通り、《突然の衰微》《罰する火》といった攻め手にかける手札をキープしていた高鳥は追撃をかけることができない。
だが、高鳥のプランは別にあった。
《ヴェールのリリアナ》でディスカードされた《天使への願い》を狙い撃ちで《根絶》。青柳の勝ち手段を潰しにかかったのだ。
ライブラリーを確認すると、青柳に残された勝ち手段は《石鍛冶の神秘家》パッケージと《精神を刻む者、ジェイス》。しかも公開された手札は土地が3枚と《剣を鍬に》という頼りないもの。
青柳が勝ち手段に辿りつくのが先か、高鳥が次の一手を打つのが先か。
ここで高鳥は《燃え柳の木立ち》を引き当てるが、返しの《大祖始の遺産》起動で青柳はコンボ完成を許さない。
だが、高鳥はもう1枚《罰する火》を持っていた。
1点ずつ。わずかずつではあるが確かに、青柳のライフが削れていく。
それからはお互いトップデッキをぶつけ合う時間帯が続く。《死儀礼のシャーマン》と《剣を鍬に》、《ミリーの悪知恵》と《議会の採決》、《闇の腹心》と《剣を鍬に》が交換になる。
その間にも青柳のライフは減っていく。
早く。早く、辿りついてくれ。そんな思いはしかし、無情にも裏切られた。
先に決定打を放ったのは、高鳥。
プレイされたのは、事もあろうに《殺戮遊戯》!
「指定は《精神を刻む者、ジェイス》か」……一瞬、誰もがそう思った。
高鳥 航平 |
だが高鳥はあくまで冷静に《殴打頭蓋》を宣言する。
それは高鳥だけに見えていた、正しい道だった。ジャンドというデッキを理解し、奇跡というデッキを理解しているからこその。
レガシーを誰よりも深く理解しているからこそ、成し得た宣言だった。
現に青柳がようやく辿りついた《精神を刻む者、ジェイス》も、《対抗呪文》と《狼狽の嵐》を切ってすら、3ターンと生きては残らない。
そうなることを高鳥は予見していたのだ。《殺戮遊戯》を撃ったその瞬間に?いや、もっと前から。
すべては高鳥のゲームプラン通り。
《罰する火》コンボが完成した今、青柳はまさしく「奇跡」でもなければ勝てそうもない状況だった。
だがその「奇跡」の可能性すら、既に高鳥は完璧に《根絶》し尽くしているのだ。
2枚目の《精神を刻む者、ジェイス》を落とすことすらも、2枚の《罰する火》をまわす高鳥には児戯にも等しかった。
フィーチャーテーブルを支配してきた《精神を刻む者、ジェイス》。その支配が、君臨が、今終わろうとしていた。
もし青柳に出来ることがあったとすれば、《罰する火》が唯一墓地に残ったタイミングで2枚目の《大祖始の遺産》を全力で探しにいくことくらいだっただろう。しかしその唯一のチャンスを青柳は見逃した。
それは奇跡に驕ったプレイヤーへの罰だったのかもしれない。
少なくとも、高鳥は奇跡には頼らなかった。たった1枚の《殺戮遊戯》を信じて、己のゲームプランを信じて、最善の一手を淡々と選び続けた。
だからこそ、このエンディングに辿りついた。
青柳が最後に《渦まく知識》をプレイして。
どれだけ足掻いてもこの罰からは逃れられないという、自分の未来を悟った。
高鳥 2-1 青柳
第2期レガシー神挑戦者決定戦、優勝は高鳥 航平!おめでとう!!