統率者戦には、他の構築フォーマットとは違い、統率者、枚数制限、統率者による色マナ制限など、デッキを構築する際の制限が多くあります。
しかし、既にそのような制限だけでは飽き足らず、さらなる”縛り”を加えてデッキを構築するプレイヤーたちがいます。彼らは敢えて選択肢を”縛る”ことによって、凝り固まった環境にひと匙のスパイスを加えようとしているように捉えられがちです。一見すると”縛り”は正常なプレイを妨げる足枷のようにさえ見えるものですが、実はなかにはプラスに働く”縛り”もあるんです。
それが”種族縛り”なのです!
デッキのクリーチャーの種族を敢えて統一することによって、様々なシナジーを強化します。つまり、縛れば縛るほど強くなる手段なのです。今回は”縛る”ことで強くなる、そんな種族にスポットライトを当てたデッキを組んでいきます。
■ 飛び出せ!種族たち!
今回はこの連載を通じて提唱している、「別の構築フォーマットで活躍しているデッキやコンボは、統率者戦でも強い」という理論に基づいて種族を探してみました。『ゴブリン』や『マーフォーク』、『人間』など様々な種族が思い当たりますが、やはり種族デッキの代表格というと『エルフ』ではないでしょうか?
各フォーマットで活躍してきた『エルフ』たちは、粘り強い戦線でチクチクと攻撃したり、コンボを決めたりと、多角的な戦略をとる優秀な種族です。そのぶん臨機応変なプレイを要求されるため、難しいゆえの敷居の高さが窺えますが、その難しさが逆に癖になるなんて中毒性をもたらし、数多くのファンを獲得しています。
ただ、この種族を極めると、身内から「よう、エルフマスターw」と煽られてしまう恐れがあるので、今回は見送ることにします。
組織的な面では『兵士』に勝る種族はいません。非常に攻撃的な種族で、横並びした小さなクリーチャーたちを司令官的なクリーチャーや《栄光の頌歌》で強化して圧倒的な戦線を築きあげます。やりこめば頂点を狙えるポテンシャルを持っていますが、僕は自分の戦場に屈強なおっさんたちが横並びする絵面に耐えられないので、今回は見送ることにします。
単色統率者の最高峰である《巻物の君、あざみ》は『ウィザード』の種族で固められた、とてもテクニカルなデッキのキーカードです。群れをなしたウィザードが相手を翻弄し、それらを《巻物の君、あざみ》が使役することで無尽蔵の手札を手に入れることができます。そこから驚異的な枚数のスペルを連打し、溜まった墓地をコストに《時間への侵入》を唱えれば、あなたは時間を超越し、対戦相手を置き去りにすることができるでしょう!
とても面白いデッキなのですが、まだまだ他の候補があるのでとりあえず保留しておきます。
マジックで一番シンボリックな種族といえば?!それは『ドラゴン』です!あくまでも主観ですが、一番でなくとも好きな人は多いはずです。そんな人気者の『ドラゴン』は、個々の力が強すぎるがゆえにあまりシナジーカードがないのですが、それも彼らの良さだと考えています。マナを揃えたが最後、突如覚醒したかのように巨大なドラゴンを叩き付けはじめる様は、さながら王者のマジック!
やっぱり好きだし、この種族に決定!と言いたいところですが、まだまだ可能性を探してみましょう。
墓地から何度でも蘇る『ゾンビ』を従えることでネクロマンサーの気分を味わえるのもマジックの醍醐味の一つです。発売を直前に控えた『異界月』でも大注目の今もっともアツい種族!でも、墓地の枚数とか内容を気にしなければならないので、めんどくさいし、なし!次、次!
ゾンビときたら次は『吸血鬼』!こちらもイニストラード次元で元気な種族なので『異界月』では再び脚光を浴びそうな種族ですね。《血統の守り手》や《オリヴィア・ヴォルダーレン》のように単体でも強いクリーチャー、《吸血鬼の夜侯》のように吸血鬼全員を強化してくれるカードも揃っているので、デッキ構築の自由度が高く、とても魅力的です。
とは思ったものの、吸血鬼の一族は相手のライフが10以下にならないとやる気を出さないものも多いため、ムラッ気がありそうなので保留にしましょう。せめて自分のライフが少なくなるとやる気を出すようなフレイバーだったら、こっちもやる気が出たのに残念です!
マニアックなところからも紹介しようということで『クレリック』にもスポットを当ててみましょう。ライフを得たり、ダメージを軽減したりと、今までの種族と違ってディフェンシブな能力が特徴のまさに僧侶!といった感じの種族です。
リストアップしてみても「タフネスの方が大きいクリーチャーの方が多いな」くらいの感想しか抱けず、テキストが長ければ長いほど読むのが苦痛になってきます。微かに感じ取れたこととしては、エンチャントに関してもちょっと得意そう!という点だけ。これを逆手にとって、相手の思考を鈍化させることができるのが最大の武器のような気がしてきましたね。
他にも『ゴブリン』や『エンジェル』等、有名な種族もありますがキリがなさそうなので、この7つから選ぶことにします!この7つから選ぶならば、これしかないでしょう!
それはドラ……いえ、『クレリック』です!
何故かと言われますと、やはりマイナーな種族は一見しただけでは縛っていない様に見えるからです。「めんどくさいシステムクリーチャーばっかり並んでいるな」と相手に思わせて、油断した隙に《旗印》を出して、
はい全部『クレリック』でしたー!どーん!
なんて面白そうなこともできそうなので、今回は『クレリック』をフィーチャーした種族デッキを組むことにしました!
■ 集まれ!『クレリック』たち!
では実際に『クレリック』とは、どんなクリーチャーが多いのか?代表格を挙げるならば《ルーンの母》でしょうか?他にも《オーリオックのチャンピオン》や直近で登場した《永代巡礼者、アイリ》等を見るとやはり防御的なシステムクリーチャーが多いようですね。
これなら防御を固めつつ《旗印》でドーン!が実現しそうと胸を躍らせます……が、やはり統率者戦といえばネックになるのは無限コンボの有無です。果たして防御的な『クレリック』に無限コンボの一端を担ってくれるような変わり者はいるのでしょうか?
と、ここで最も悪用できそうな《アカデミーの学長》の存在を思い出しました。《アカデミーの学長》だけでも無限コンボできそう!と思われますが、今回は折角の”種族縛り”なので『クレリック』と相性の良いエンチャントを探しましょう。
とにかくライフゲインをするカードが多いようなので《血なまぐさい結合》で対戦相手からライフを吸いつくそうと考えました。ついでに《極上の血》も追加すれば無限にドレインできるようになります。
いつの間にか『クレリック』のコンボでなくエンチャント2枚のコンボになってしまいましたが、《アカデミーの学長》の能力で《血なまぐさい結合》を戦場に出し、『クレリック』で時間稼ぎをしながら《極上の血》を待つ。こんなスタンスで戦うことができるので、守備的な『クレリック』らしくてアリなのではないでしょうか?
ライフを得る機会が多いので《アカデミーの学長》から《忍耐の試練》を呼び出す動きも勝てそうなので採用しましょう。似たような勝利条件をもつ《フェリダーの君主》ももちろん採用です!
《ネクロポーテンス》がライフを得るカードとの相性が良いことはもちろん、統率者戦ならば《暗黒の儀式》からの1ターン目に高速設置すら夢ではありません。統率者戦では初期ライフが40点と高いため、他のフォーマットよりも気兼ねなくたくさんのカードを引くことができます。フォイルでない新イラストが『エターナル・マスターズ』に収録されて、僕の最もアツいカードランキング1位なので、単に使いたいカードとして入れちゃいます。
そして気になる統率者は《Lady Evangela》です。カードリストから統率者にする『クレリック』を探していると、青白黒の強力な3色を使える《Lady Evangela》を見つけました。当初は《永代巡礼者、アイリ》を使った白黒2色で構築しようとしていたのですが、もう1色多く使えるに越したことはないでしょう。
こうして統率者とデッキコンセプトが決まりました。基本的にはライフゲインを軸に防御的に動きつつ、《忍耐の試練》や《血なまぐさい結合》で勝利を狙います!たまに《旗印》も出す!そんな大雑把な方針が決まったところで、早速デッキ構築に移ります!
■ 掘れば出てくる無限コンボ!
青を足した最大の恩恵は《全知》かもしれません。《アカデミーの学長》から飛び出す《全知》という最強のムーブができるようになりました!やったね!
しかし、デッキを構築している途中に《全知》よりも恐ろしいエンチャントを発見してしまったのです。それは《Lich》と《極悪な死》です!
こんなにライフゲインをリスキーに使うカードがあったなんて!こんなに『クレリック』と相性の良いカードがあったなんて!驚きです!《聴罪司祭》《スカージの使い魔》《朽ちゆくインプ》など手札を捨てる能力を持ったクリーチャーがいると、手札を好きなだけ循環できるのです。
墓地に大量のクリーチャーが溜まればこちらのもの!《Songs of the Damned》による大量のマナを《死せざる者への債務》に注ぎこんでもよし、《総帥の召集》で大量のクレリックを釣り上げるという素晴らしいコンボもあります。
極悪なエンチャントはそれだけではありません。《永劫の輪廻》も、《大霊堂の信奉者》と《搭載歩行機械》による無限ライフルーズコンボのキーカードです。《境を歩む者》と《コーリスの子》で無限ライフコンボ、それに《Lich》が合わされば無限ドローコンボのできあがりです!
無限コンボの有無が気がかりでしたが、デッキを構築しているうちに続々と見つかりました。《魂のカーニバル》なども合わせた夢いっぱいの構築にしてみます。
無限コンボをする際の注意点がいくつかあります。《ネクロポーテンス》を経由している場合は、手札を捨てても墓地にカードが置かれないので《現実主義の修道士》などのエンチャント破壊を用意しなければなりません。また、《Lich》や《極悪な死》などは条件によってはコンボが決まっても負けてしまうので、《天使の嗜み》のような保険もあれば怖いものなしです!
さて、今回は1つの種族にスポットを当ててデッキを組んでみました。『クレリック』というマイナーな種族に焦点を当てましたが、種族の特色を活かしたコンボをたくさん発見できたことは大収穫でした!皆さんもお気に入りの種族を主役にデッキを組んでみてはいかがでしょうか?意外なコンボが潜んでいるかもしれませんよ!それではまた次回!
■ おまけ
塚本 「折角クレリックデッキを作ったから誰かと対戦したいなー」
rizer 「塚本さん、奇遇ですね。僕もエルフでデッキを組んだので2人しかいませんが対戦しませんか?」
塚本 「お、やろうやろう!」
~ 数ターン後 ~
塚本 「クレリックもいい感じに揃ってきたし、そろそろコンボが決まりそうだぞー!エンド!」
rizer 「ではターン終了時に《脱出》です。クリーチャーを全て手札に戻してください。僕も手札にエルフを5体戻します。」
塚本 「なんだってー!?」
rizer 「それでは《トレイリアの風》でお互い手札を全て捨てましょう。捨てた枚数だけ引いてください」
塚本 「捨てました!」
rizer 「では僕のターンに《意外な授かり物》を使います」
塚本 「手札をそんなに入れ替えて何をする気なんだ!」
rizer 「やっと引いたので《死闘》を張ります。《トレイリアの風》と《意外な授かり物》でエルフが墓地にたくさん落ちたので勝利条件達成です!何もなければ勝っちゃいますね」
塚本 「すごい!何そのデッキ!」
rizer 「冥府 にエルフをたくさん送り込んで勝つデッキですね。塚本さんもクレリックをたくさん墓地に落とせるなら入れた方がいいですよ」
塚本 「ぼ……僕もそのパッケージ丸ごと入れます!あ、あと、投了します!」
こうして塚本のデッキは冥府クレリックへと変貌を遂げたのであった。
この記事内で掲載されたカード
Twitterでつぶやく
Facebookでシェアする
このシリーズの過去記事
- コマンダー塚本の統率者最前線! vol.8 -テーマパークにいこう!-
- コマンダー塚本の統率者最前線! vol.7 -グランド・ゼロ2 もう一つの未来-
- コマンダー塚本の統率者最前線! vol.6 -グランド・ゼロ-
- コマンダー塚本の統率者最前線! vol.5 -《活力》でマッスルがバーニング-
- コマンダー塚本の統率者最前線! vol.4 -ガンジー・システム-
- コマンダー塚本の統率者最前線! vol.3 -『イニストラードを覆う影』の注目カード&統率者戦定番カード特集-
- コマンダー塚本の統率者最前線! vol.2 -統率者戦のデッキの作り方-
- コマンダー塚本の統率者最前線! vol.1 -統率者戦とは何だ!-