やぁ!俺はPierre Dagen。フランスのプロプレイヤーで、マジックの熱狂的なファンだ。
これから晴れる屋で、皆のために記事を書いていくつもりだ。よろしく。
知ってると思うが、今週は【世界選手権2016】が開催される。
世界の実力者たちが集う大会だ。出場してみたいな。考えるだけでワクワクするよ。
俺も出場してみたいんだが、今回はいっそのこと「もしも俺が出場したら」という想定でいろいろ考えてようかと思う。もちろん、「もっと腕が良かったら」という話だが、みんな付いてきてくれ。
■ 世界選手権のメタゲーム
世界選手権は、ある種の特殊な大会だ。プロツアーは、最高の選手たちがベストを尽くして勝負する舞台だ。
だが世界選手権はまったく違う。
24人の世界最高峰の選手たちがドラフト、スタンダード、モダンで最高のパフォーマンスをぶつけ合う舞台。メタゲームも、もちろん次元が違う。
考えてみて欲しい。メタゲームを攻略するには「X%がトップメタデッキAを使って Y%がまた別のデッキBを使う」という計算をすることになる。ここで、実際には5,6人が違うデッキを使って、自分の予想とメタの分布が間違っていたとしよう。参加人数が多い大会なら、せいぜい0.1%計算がずれただけだろう。グランプリなら、そんな誤差でデッキの良し悪しなんて変わりはしない。
だが世界選手権は違う。
24人中4人が「ストーム」みたいな、ちょっと変わったデッキを使ってきたとしよう。「ストーム」のメタ予想は1%だったのに、気づけば17%にもなってしまう!「17%のメタを無視する」というのは、負けに行くことと同義だ。
それから、もう1つ考慮すべきことがある。それは、出場する全24選手は、この世界ではとても有名だ。インターネットを開けば、彼らの記事は数十秒もあれば見つけられる。動画を配信している人もいるだろう。
彼らが何をしてきたか、どんなデッキを好むか、すぐ調べられる。こんな情報を元に他の選手たちが世界選手権に向けて何を考えてるか、というプロファイリングも必要だ。
例えば、そうだな……今年の出場者を例に出して問題が起きたら困るから、みんな知ってるCraig Wescoeを例にしてみよう。もし、そんな選手が出てるなら、現実のメタでは結果を残していなかったとしても、アグレッシブなウィニーデッキがメタゲームに存在する、と考えることも、練習では必要だ。
いろいろと密接な関連性があって、この世界選手権はとてもレベルの高い競技となる。だからこそ、皆がお互いのことを考え、中には誰も予想しない「ストーム」のようなデッキで出場する者もいる。
例えば、2年前、皆が知っているReid Dukeが「呪禁オーラ」を使って決勝まで行ったのを覚えてるだろうか?主な理由は、誰もがこのデッキに対する想定が甘く、用意ができていなかったからだ。
では、これを今のスタンダードとモダンに置き換えるとどうなるだろうか?
■ スタンダード
今のスタンダードは、とてもフェアなフォーマットだ。まず1番強いのが「バントカンパニー」。今までも、これからも、「バントカンパニー」だ。これは《集合した中隊》が落ちない限り、変わることのない事実だろう。
MOにおいて、メタゲームの37.8%が「バントカンパニー」だ。メタに対する、とても良い練習環境だろう。いや、良いミラーマッチの練習と言うべきか?
マッチングに関して考えてみよう。上手い「バントカンパニー」使いが、途方もなく苦労するマッチングと出会うことはない。もちろん、ゲームの上で負けている場面もあったりするが、それも稀なことだ。つまり、「バントカンパニー」は上手いプレイヤーが使えば、最強のデッキと言える。
そして世界選手権に出るのは、上手いプレイヤーのみ。もう、俺が言いたいことは分かるよね?
これを頭に入れておこう。そして、簡単な憶測ではあるが「バントカンパニー」を使うプレイヤーは最低でも33%、つまり8人ほどということになる。あくまでも個人的な意見だが、俺は50%のプレイヤーが「バントカンパニー」を握るだろう、と考えている。
そして、2つの結論に至ることになる。
1. 「バントカンパニー」使うならば、ミラーマッチ対策を重点的にするべきだ。
2. 「バントカンパニー」に簡単に負けるデッキを持ち込む人はいないだろう。
本来、主要な大会のメタゲームは、以下のような3つのカテゴリーに分けられる。
カテゴリーA: この環境で「ベスト」のデッキ
カテゴリーB: 「ベスト」に勝つためのデッキ
カテゴリーC: Aには勝てそうにないけど、Bには勝てるデッキ(Aは、Bがなんとかしてくれるだろう)
カテゴリーB: 「ベスト」に勝つためのデッキ
カテゴリーC: Aには勝てそうにないけど、Bには勝てるデッキ(Aは、Bがなんとかしてくれるだろう)
この世界選手権で、カテゴリーCを選ぶことはまずないだろう。Aは「バントカンパニー」だろうから、これに負けることを想定すると、あまりにも規模が大きすぎる。Bは他のBに負けない範囲で、Aの対策を盛りだくさんにできて結構有利だ。そしてAは規模の大きさから、ミラーマッチのために多くの枠を割くことになり、Bの対策はおろそかになる。
さて、この環境でBに値すると思うデッキがこれだ。
8 《沼》 6 《平地》 4 《コイロスの洞窟》 4 《乱脈な気孔》 4 《放棄された聖域》 -土地 (26)- -クリーチャー (0)- |
4 《闇の掌握》 2 《究極の価格》 2 《神聖なる月光》 2 《骨読み》 2 《破滅の道》 2 《苦渋の破棄》 3 《衰滅》 2 《次元の激高》 4 《リリアナの誓い》 2 《最後の望み、リリアナ》 4 《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》 1 《灯の再覚醒、オブ・ニクシリス》 4 《死の宿敵、ソリン》 -呪文 (34)- |
3 《精神背信》 2 《強迫》 2 《荒野の確保》 2 《骨読み》 2 《無限の抹消》 2 《闇の誓願》 1 《血統の呼び出し》 1 《灯の再覚醒、オブ・ニクシリス》 -サイドボード (15)- |
オーソドックスな「白黒コントロール」を取れば、「バントカンパニー」とのマッチングはまずまずだろう。なぜか?それは、「バントカンパニー」以外のデッキに対しても“様々な角度”から対応できるからだ。ミラーマッチも意識して、メインに《神聖なる月光》入れて、インスタント除去を山ほど積みすぎるのは良くない。《リリアナの誓い》を使ったのに、《コジレックの帰還》を単純に誘発させてしまった、というのは目も当てられない。
このデッキはメインから「バントカンパニー」に勝つための武器を仕込んでいる。
現実の話をすれば、そこまでして用意したデッキでも、負けることはある。それだけ「バントカンパニー」はこの環境で強いということだ。だが、このデッキであれば1ゲーム目は勝てると思う。2ゲーム目は多少だが、相手より有利なはずだ。メインから正しいカードを正しいタイミングで使えたとすれば、勝利は目前だ。相手の盤面を小さいまま維持し、《リリアナの誓い》とプレインズウォーカーでこちらの盤面も整える。相手ができることは、さらに横に広く展開することだろう。その結果、5枚も積んでいる全体除去が刺さることになる。あとは4枚積んでいる《死の宿敵、ソリン》が勝利へと導いてくれるはずだ。
このサイドボードは、Bのカテゴリーに属するデッキのために組んでいる。おそらく、1ゲーム目は負けてしまうだろう。プレインズウォーカーや手札破壊は、早々と《約束された終末、エムラクール》などにアクセスするようなデッキに対して、あまり仕事をさせてもらえない。1枚差しの《血統の呼び出し》は「赤青バーン」(知ってのとおり、《熱錬金術師》が入ってるデッキだ)は、とても絶望的な相手だが、今回はそれほど多くは見かけないだろう。それに加えて、もうプロたちはこのデッキへの勝ち方を学んでるはずだ。
そしてCのカテゴリーに入るのは「緑白トークン」のようなデッキだろうが、これらに対する対策カードは採用していない。単純に、「バントカンパニー」がこの地上から消し飛ばしてくれるだろう、と考えているからだ。ある意味、これは賭けだ。しかし、とてもこちらに分がある賭けだろう。大きい大会なら、なおさらだ。
■ モダン
モダンは、まるで別の世界だ。そして、今俺が一番楽しんで遊んでるフォーマットでもある。
【グランプリ・リール2016】のために、かなりテストをしていた。もしも世界選手権に持っていくならば、グランプリ・リール2016で使用したデッキをさらに調整した《残忍な剥ぎ取り》入りの「ジャンド」になるだろう。
詳細に入る前に、なぜ《残忍な剥ぎ取り》が「ジャンド」に最適なのかを説明しておこう。
俺が考える「ジャンド」というのは、クリーチャーベースのデッキに対して、常にチャンスのあるデッキだ。単純に、豊富な除去で相手のマナカーブの流れを分断し、コンボの初動を叩くことができる。そして、こちらののクリーチャーは相手よりも1対1で強い。つまり《タルモゴイフ》は《根の壁》や《野生のナカティル》より勝っているということだ。
しかし、除去が噛み合わない場合(例えば、「トロン」や「スケープシフト」が相手の時に)、崖に追いやられた気分になる。《闇の腹心》に頼ってクロックを刻むのも遅く、有効なカードに出会えるか1枚1枚めくっている間に、相手に十分な時間を与えてしまうことになる。こうなってしまえば、相手はやりたい放題だ。
そんな状況を《残忍な剥ぎ取り》がすべて変えてくれる。クロックを早めるだけでなく(1,2ターンだろうが、とても大きい)、デッキからドローするのではなく、掘り進んでいく。言い換えるなら、カードアドバンテージは失うが、選べるカードの質を高めることができるわけだ。カードの質を高めて選べることで、特定のマッチングで特定のカードによって勝負を決定付けることもある。
こう考えてみよう。「トロン」相手に3枚の除去と1枚の《塵への崩壊》、どちらを握りたい?
ミラーマッチで《残忍な剥ぎ取り》が《闇の腹心》より劣っていることは確かだ。しかし1枚1枚のカードが影響する環境では、俺ならば《残忍な剥ぎ取り》を推すだろう。
では、世界選手権の話に戻ろうか。
この環境では、誰が何を持ってくるか、分かるわけがない。それだけメタは多種多様だ。そんな中で、この《残忍な剥ぎ取り》入り「ジャンド」は、「予測に入らないタイプの良いデッキ」だと思う。とても有利なマッチングもある中で、3,4人しか使わないような予想外のデッキに対しても、不利になることは少ないだろう。
「感染」、「スーパークレイジーズー」、「トロン」とはグランプリ・リール2016で対戦したが、とても快適に対戦できた。7割は勝てるだろう。これらに対してサイドボードの枠を割いたから、「親和」だけは辛かったが。
さて、俺が世界選手権(実際には、俺が出場する大きな大会)に持っていくデッキはこれだ。
2 《沼》 1 《森》 2 《草むした墓》 1 《血の墓所》 1 《神無き祭殿》 1 《踏み鳴らされる地》 4 《血染めのぬかるみ》 4 《新緑の地下墓地》 1 《吹きさらしの荒野》 4 《黒割れの崖》 3 《怒り狂う山峡》 -土地 (24)- 4 《タルモゴイフ》 4 《残忍な剥ぎ取り》 2 《漁る軟泥》 1 《闇の腹心》 1 《ゲトの裏切り者、カリタス》 1 《叫び大口》 -クリーチャー (13)- |
4 《稲妻》 4 《コジレックの審問》 2 《思考囲い》 3 《終止》 1 《突然の衰微》 1 《戦慄掘り》 2 《未練ある魂》 1 《コラガンの命令》 1 《大渦の脈動》 1 《虚無の呪文爆弾》 3 《ヴェールのリリアナ》 -呪文 (23)- |
2 《吸血鬼の夜鷲》 1 《強迫》 1 《思考囲い》 1 《古えの遺恨》 1 《戦慄掘り》 1 《ラクドスの魔除け》 1 《ムラーサの胎動》 1 《苦い真理》 1 《塵への崩壊》 1 《滅び》 1 《仕組まれた爆薬》 1 《虚無の呪文爆弾》 1 《墓掘りの檻》 1 《最後の望み、リリアナ》 -サイドボード (15)- |
メインボードは直球、という印象だが多少の小技が入っている。白の出る土地が1枚のみ(手札に加える方法は10通りある)で、《未練ある魂》が2枚入ってる。《ヴェールのリリアナ》と《残忍な剥ぎ取り》で墓地に落としながら、ミラーマッチと「親和」たちとの対戦を有利にさせることもできる。
他にも、メインの《虚無の呪文爆弾》は「昂揚」を達成させる目的で採用されていて、これによってサイドボードのスロットを1つ空けていることになる。それから《叫び大口》は最も簡単にクリーチャーを墓地に落としてくれる。ほとんどのデッキでは《タール火》を使うと思うが、俺にはどうもこのカードは弱く思えてしまう。
かなりアグレッシブな相手、例えば「ズ―」などならば、1ゲーム目は割と早く進められる。相手に2マナの呪文でプレッシャーを与えながら1対1交換をして、自分が完全に盤面を支配するのを待つだけだ。
マナベースには、特に変わったところはない。ただ1つ覚えておいてもらいたいのだが、アグレッシブなマッチングでは《踏み鳴らされる地》を先にフェッチして、後から《沼》を持ってきた方が、ライフでいろいろと支払う展開になったときに有利だ。そして、これも頭に入れておいて欲しいのだが、《森》ではどんなに頑張っても《終止》を打てない。。
このサイドボードに関しては、多くの疑問を呼ぶだろうから、いくつかここで説明しておく。サイドボードの例を見せるよりも、このリストに存在するルールみたいなものを教えるほうがよいだろう。
まず、《吸血鬼の夜鷲》は「バーン」に対してサイドインする。《台所の嫌がらせ屋》より少し劣っているかもしれないが、「親和」を相手にしたときに強いブロッカーであることが最も大事だ。
「バントエルドラージ」に対しても有効な切り札になることも忘れないで欲しい。こちらも今度の世界選手権で良く見るデッキの1つだろう。
各種エルドラージとの対戦で考えるべきことは、「相手がエルドラージ切れになるか、もしくはエルドラージに対するこちらの回答がなくなるか、ということだ。《吸血鬼の夜鷲》はとてもクリーンなカードで、このマッチでの回答として非常に役に立つだろう。
条件さえ整えば「アブザン」にも対応できる。例えば、《闇の腹心》が活躍しないから、《稲妻》を抜いて対応することだってできる。もちろん、この選択肢を用いるならば《ヴェールのリリアナ》の存在を忘れてはいけない。
ミラーマッチに関しては、手札破壊をすべてサイドアウトすることだ。7割のゲームでは、お互いの手札がない状況で進行することになる。そして、そのような状況でトップデッキが手札破壊だったら、これは負けに等しい状況だろう。手札破壊が最初の数ターンで有効なことはもちろんだが、サイドアウトしない候補に入るほどの価値はない。
《仕組まれた爆薬》に納得できない人もいると思うが、「呪禁オーラ」、「スーパークレイジーズー」、「マーフォーク」に劇的に刺さるカードだ。「マーフォーク」では、1体のマーフォークを倒しつつ、《広がりゆく海》を一撃で処理すれば、ゲームを制したも同然だろう。
「トロン」相手には驚きのゲームプランがある。 《残忍な剥ぎ取り》で素早くゲームを終わらせようする一方で、手札破壊をしながら《塵への崩壊》を唱えようとしても、こんなことが簡単に両立できるわけがない。《苦い真理》を用いて、2枚目の《戦慄掘り》を引き込むべきだろう。《ウギンの目》が使えない以上、相手の脅威を1つ1つ除去しながら、物事がうまくいかなくなった時のために思考を巡らせる必要がある。
「ドレッジ」にはどう考えても勝てない。墓地対策を採用し、墓地を攻撃できない初手ならば絶対にマリガンすべきだろう。
このデッキがある程度機能したことで、良い結果が残せた。古き良き「ジャンド」と違って、ビッグマナデッキとのマッチングは悪くない。そして「親和」相手の対戦も改善している。一方で、マナベースが少し悪くなり、《闇の腹心》を利用しない結果、他のフェアデッキに対しては若干不利かもしれない。 現在の環境に存在する《神聖の力線》を搭載した「アドグレイス」とのマッチングも、とても厳しい。おそらく、世界選手権で一番の懸念材料だろう。
さて、俺の見据えた世界選手権の構図はどうだったろうか?皆は何を使うべきだと思う?そして、少しは《残忍な剥ぎ取り》のことを良く思ってくれたか?皆の意見を聞いてみたい。
では、また次回会おう。
Pierre Dagen
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