あなたの隣のプレインズウォーカー ~第17回 ハロー、ミラディン~

若月 繭子





こんにちは、若月です。
何と先日、この連載の第13回「チャンネルはアラーラに」が中国語に翻訳されました(編集部許可済)。こちらのWEBサイトで読むことができます。 うむ、読めん!(笑) コメントを機械翻訳する限り好評らしくて嬉しい限りです。しかし「訳注」を見た所どうやら《アメーバの変わり身》の「キモ可愛さ」はなんか理解してもらえなかったみたいです。

アメーバの変わり身

どうも、神です。


また前回の記事におきまして、「《怒りの天使アクローマ》だろうが《鋼の風のスフィンクス》だろうがかかってこいよ!! (防衛)」と書きましたが、究極メタリック・スリヴァーは防衛もそうですがシャドーを持っているため、かかってこられても困るのでした。ていうか防衛・シャドーって一体何がしたいんだ。
そしてテーロスが発売されましたね。主役格はエルズペス、そして新キャラが二人。ですが期待されていたマーフォークのプレインズウォーカー、キオーラは今回も出ませんでした。

歓楽者ゼナゴス悪夢の織り手、アショク

トレイラーによれば今回のラスボス?のゼナゴスと、「性別:アショク」のアショク。
多色PWの面子も賑やかになってまいりました。


彼らについてはまだ多くが語られておりませんので、突然ですが今回はミラディンのお話をしたいと思います!



1. ミラディンの生い立ち

かつて、ミラディンは別の名前で呼ばれていました。「アージェンタム」


美しい世界が彼らの眼前に広がった–かすかに輝く星空の下、鏡の世界が。天のあらゆる光の点が眼下の次元に映し出されていた。舞台の緞帳が引かれるように、混沌が去った。右手には幾何学的に完全な木々が森をなしていた。優雅に直立した幹から、枝が極めて精密な角度で伸びていた。小枝、葉、葉脈に至るまでが完全な自己相似形を成していた。その全ては銀、葉はまるでガラス装飾のようで、金属の匂いを含む風にかすかに揺れていた。左手には急な台地が連なり、それらはついに巨大なガラスの谷へと続いていた。水銀の流れる川、深い谷に凹凸をなす岩壁が輝いていた。迷路のような流れの中、丘がその線状の頭をもたげていた。
(小説Scourge P.241-242より抜粋・訳)


何とも静かで、細やかで、美しい風景。これはオンスロートブロック、スカージの物語中盤にて《邪神カローナ》と彼女の従者二人が初めて金属次元アージェンタムを訪れた際の描写です。同時に、マジックにおいてアージェンタムが初めて登場した際の描写でもあります。「アージェンタム/Argentum」とはそのまま「銀」を意味します。


ミラディンの森は銅の緑青、海の水は水銀です。
とはいえいわゆる「水」、H2Oも多少は存在します。


ではその金属世界アージェンタムを創造したのは? この連載を読んで下さっている方はもうおわかりでしょう、アポカリプスのエピローグにてプレインズウォーカーとなった《銀のゴーレム、カーン》です。


銀のゴーレム、カーン


そのカーンとは何者なのか。公式サイトのプレインズウォーカー紹介の項目に簡潔かつわかりやすく説明されていますのでそれを引用します。


千年以上も前、プレインズウォーカーのウルザは、ファイレクシアとの戦いの中で新たな武器を作り出しました。それが、今ではカーンと呼ばれる銀のゴーレムです。ウルザの計画は、彼の創造物をファイレクシアの脅威が初期の段階の時代に送り込もうというものでした。しかしその計画は事故を巻き起こし、トレイリアの島は壊滅状態になります。しかし、カーンには他に仕えるべき多くの目的がありました。
このゴーレムは、その神秘の力が最終的にファイレクシアと戦うために用いられた、レガシーと呼ばれる一連の造物の最初のものでした。
(中略)
ファイレクシアがドミナリアの次元に侵攻した時、カーンはレガシーのアーティファクトに囲まれた中で、己の運命を満たすことになります。船は武器となり、白マナの力による壊滅的な一撃で、ファイレクシアの“神”である機械の父、ヨーグモスを葬り去りました。その時にカーンは自らの造物主のプレインズウォーカーの灯を引き継ぎ、プレインズウォーカーとなりました。






基本セット第10版の《レガシーの兵器》のアートには、その「レガシーと呼ばれる一連の造物」が全て描かれています。いくつわかるかな?(答えは【こちら】)

カーンは機械次元ファイレクシアのドミナリア侵攻へと対抗する切り札の一つとして創造され、そのように生きてきました。ドミナリアとファイレクシアの数千年に及ぶ戦いが描かれた「ウェザーライト・サーガ」、エキスパンションで言いますとウェザーライトからアポカリプスまで続いた長い物語にはとても多くのキャラクターが登場し、またその死亡率も非常に高かったのですが、カーンは最後まで生き残った数少ない一人でした。

プレインズウォーカーとなったカーンはアポカリプスのエピローグでドミナリアを離れ、その後のいつなのかはわかりませんが自身の世界アージェンタムを創造しました。そしてオンスロートブロックの一連の騒動が終わると、新たにプレインズウォーカーとして覚醒した《熟達の戦士ジェスカ》を連れて多元宇宙を巡る旅に出たのですが、その際にアージェンタムを管理人である《メムナーク》へと託しました。

メムナーク

この二つはビフォー・アフター、同一の存在です。


オデッセイブロックで「強大な力を持つ古のアーティファクト」として登場し、多くの人々を巻き込みオタリア大陸へと災いをもたらした《ミラーリ》。その正体は、カーンがドミナリアへと送り込んでいた「探査機」でした。ジェスカとともにアージェンタムを去る際、カーンはミラーリを作り変えて《メムナーク》とし、世界の管理人という役割を与えました。そしてメムナークはカーンが自分へと残した世界をどうするか考えます。


メムナークは豊かに生い茂る緑の森を思い出した。彼はまた、波に揺れる極彩色の珊瑚の都市を、蒼穹の下に聳える雪化粧をした鈍色の山々を訪れていた。地平線まで果てしなく続く草原の海を旅し、そこに生きる人々を見てきた。ミラーリとして、彼はありとあらゆる生き物を記録し続けていた。世界は、生命と色彩に満ちていた。
ミラーリに直接影響され、破壊と争いの中にあったとはいえ、オタリアの人々は生を営み続けていた。それはアージェンタムには存在しないもの。生命が無いのなら、世界は死んでいるものと変わらない――美しい、死の世界。ドミナリアから何かを持ち込むのは危険だろうか? カーンの創り出したこの完全な世界に、元の世界の要素を組みこんだならば、より至高なるものへと昇華するだろうか? メムナークはこの単調なモノクロームの世界に、鋭く尖ったフラクタルの風景へと色彩を散らし、生命を息づかせたいという想いを止めることはもうできなかった。

(小説Moons of Mirrodin P.5 より訳)


これまた、小説Scourgeのアージェンタム世界に負けず劣らず美しい描写だと思いませんか。ミラーリであった頃、メムナークは生命が豊かに溢れるドミナリア世界を見てきました。そのためか彼は生物の存在しないアージェンタムを美しく完全ながらも「死の世界」だと感じ、生命を呼び込むことを考えました。彼は「魂の檻」と呼ばれる捕獲装置を創造して様々な次元から生物を連れてくると、金属世界へと順応させました。ですがその最中、アージェンタムに染みついていた「謎の黒い油」を拭き取ったことからやがてそれに蝕まれ、次第に精神へと狂気をきたしてしまいます。そして主であるカーンへの思慕を募らせた果てに、自身も同じプレインズウォーカーになりたいと願いました。
そこから、金属世界ミラディンの物語が始まります。



2. 金属世界

繰り返しますが、銀のゴーレムであるカーンが創造したことから、アージェンタム/ミラディンは「全てが金属からなる世界」です。でした。他の次元から連れてこられた有機生物は金属組織を組みこまれ、この過酷な世界に順応させられました。「全てが金属である」ことは、カードにもそのまま表現されています。金属、すなわちアーティファクト。生物もアーティファクト。それまでも「アーティファクト・クリーチャー」は特に珍しい存在ではありませんでしたが、ミラディンのそれはあまり「人工物」然としておらず、「生物」としてその世界に生きています。その証拠にミラディンのアーティファクト・クリーチャーはお馴染みのゴーレムや構築物だけではなく、様々なサブタイプに渡っています。カエル、蜘蛛、猪、羊、リバイアサン。金属のゾンビやエレメンタルまでいます。

金属ガエル日々を食うもの錆の精霊



ミラディンオリジナルの金属生物種族だっています。可愛らしいマイア。彼らはこの世界の管理人メムナークの目として世界の各所を監視する、とはいえ基本的に無害な存在です。


マイアのモデルは「蟻」、
正確にはギリシャ神話に登場する蟻人「ミュルミドーン人/Myrmidon」なのだそうです。
確かにマイアの頭部は蟻に似ています。



金属なのは生物だけではありません。金属から成る次元はすなわちその地面も――土地も金属、アーティファクトでした。

古えの居住地教議会の座席囁きの大霊堂

大焼炉伝承の樹

コモンカードではありますが、
ミラディンブロックのアーティファクト・土地は全てストーリーにおいて重要な場所です。



その次元に存在する物体全てが金属であるなら、土地も金属。確かに何らおかしい事ではありません。一見シンプルな真理、ですがこれがミラディンブロックのメカニズム「親和」と合わさってとんでもない事になってしまったのは皆さんご存知かと思います。「親和」デッキは環境を席巻し、支配し、その結果スタンダードにて八枚ものカードが同時に禁止されてしまったのでした。金属世界だからこそアーティファクトテーマとなったのか。アーティファクトをテーマとするべく金属世界になったのか、どちらが先なのかはわかりません。禁止によって親和デッキは当時のスタンダードからは駆逐されてしまいましたが、「アーティファクトが沢山存在するほど利益を得る」メカニズムというのは、全てが金属からなるミラディン世界を良く表していたと思います。

また今ではすっかり見慣れた存在である「装備品」も、ミラディンで初めて登場しました。剣や槍、鎧や盾といったいわゆる武器防具はファンタジー作品には欠かせないものです。一応、過去にもそういった機能を表現しようとしたと思しきカードは何枚かありましたが、マジックに上手く組み込まれてはいませんでした。

選ばれしものの剣内骨格器

装備品のイメージに近い「クリーチャーを強化するアーティファクト」達。



直感的にわかりやすい、そして強力なギミックである装備品はすぐにマジックへと馴染みました。ミラディンブロックで登場した装備品には今の基準で見ても実に凶悪なものが多く、リミテッド・構築問わず大暴れしたものも複数あります。

頭蓋骨絞め

愛用していた、もしくは苦しめられたという人は多いでしょう。



装備品というカテゴリーができた事により、例えばストーリー上で重要な「伝説に謳われる武具」といったようなものもカードとして的確に表現できるようになりました。変な表現をすれば「カードを作るネタの幅が広がった」とも言えるでしょう。
余談ですが、ミラディンブロックの禁止カードが発表された際の公式記事「Eight Plus One」を読みますと、親和が「環境を支配している」こと以上に「環境をつまらなくしている」ことが問題なのだとされています。思えば《精神を刻む者、ジェイス》《石鍛冶の神秘家》が禁止された際にも、同じようなことが書かれていました。「(環境がつまらないという)クレームは大会の参加人数にはっきりと現れていた」と。

もう一つ。基本セット第8版からカードの枠が現在の「新枠」に、アーティファクトのカードの枠色が茶色から銀色へと変更されました。ミラディンはその後最初に発売されたエキスパンションになります。またFoilカードの「印刷技術」が年々向上しているのは皆さんお気づきでしょう。ミラディンのFoilカード、金属の質感の美しさは新枠とも相まってそれまでにないものでした。

威圧のタリスマン

片や古い魔法の道具、片やSF感漂うガジェット。例えるならそんな雰囲気でしょうか。
私はどちらも好きです。




3. ミラディンの物語

ミラディンブロックの主人公は《グリッサ・サンシーカー》。幼馴染の青年との関係にちょっと悩み始めるお年頃のエルフの娘です。しかし他のエルフ達の中、どこか疎外感を抱き続けていました。ある夜、謎めいた《地ならし屋》の襲撃で家族を失い、《カルドラの剣》を手に故郷の絡み森を出ます。そして旅の中で《メムナーク》が元凶であると知り、その復讐と謎を求める旅はやがてメムナークとその手下であるヴィダルケン達と他の種族との間に勃発する戦争へと繋がっていくのでした。

グリッサ・サンシーカーカルドラの剣

グリッサの先制攻撃と非常に相性の良いカルドラ剣。



ミラディンの環境はとても過酷です。先日ちょっとツイッターで「行ってみたい次元と絶対に行きたくない次元」を尋ねてみたのですが、「行きたくない次元」の方には速攻で「ミラディン」という回答がずらずらと返ってきました(協力して頂いた皆さん、ありがとうございました)。
複数の太陽に熱せられた金属の地面は焼けるような熱さとなり、植物さえ金属そのもののためいわゆる食用の作物は僅かです。正直、ミラディンの住人達がどのような物を食糧としているのかあまりよくわかっていませんが、少なくとも金属を消化できないプレインズウォーカーは訪れない方が賢明だと思います。

腐食ナメクジ板金鎧の金屑ワーム

小説でグリッサ家の食卓に上がっていたのは、この二種のクリーチャーの料理でした。
ナメクジを食べる……エルフ……うっ頭が


そんな厳しい世界の旅を始めたグリッサが最初に出会った「旅の仲間」が、《ゴブリンの修繕屋スロバッド》でした。


ゴブリンの修繕屋スロバッド


スロバッドは初めて「工匠/Artificer」というクリーチャー・タイプを持ったカードの一つです(他には《ゴブリンの考古学者》《ヴィダルケンの技術者》等)。後のオラクル変更にてこれ以前のカードにも「工匠」のサブタイプが加わりますが、とにかく彼らが初でした。第12回冒頭にも書きましたが、マジックの物語では多くの工匠達が重要な役割を果たしてきました。
スロバッドはゴブリンにとって不吉な青い太陽の下に生まれたために同族から疎まれ、隠遁生活をしていました。ですがカード名の「修繕屋」としての腕は天才的で、「直せないものはない」と豪語する通りにあらゆるアーティファクトを直すことができます。彼はゴブリンとしては、いえ、ゴブリンという事を抜きにしても極めて高い知性を持ち、機知に富んでいます。当初、グリッサが地ならし屋に襲われた際の怪我を直すべく、レオニンの都市へと彼女を案内するだけの予定でした。ですが二人は互いの境遇に共感し、意気投合して共に旅を続けます。世間知らずで猪突猛進なグリッサへと時に呆れながら、それでも友達と一緒にいる事が嬉しくてたまらないスロバッドは、熱い心と篤い友情の「熱くて篤い」男なのでした。


「聞きなよ。おいらはずっと独りで生きてきた。ただ生き延びるだけ。幸せじゃなかった。そこを変なエルフが穴から危険な世界に連れ出した。スロバッドに、生きるために隠れるんじゃなくて戦うことを教えてくれた。スロバッドに目的をくれた、そうだろ? 家族みたいに感じさせてくれたんだ」
「スロバッドも殺されるかもしれない」 グリッサは溜息をついた。
「かもしれない」 スロバッドは肩をすくめた。「でも、目的のために死ぬんだ。悪者と戦って死ぬ。友達の隣で戦って死ぬ。穴の中で、独りぼっちで安全に生きていくよりずっといいよ」

(小説Moons of Mirrodin P.186より)


物語の途中、次から次へと自分を襲う刺客との戦いに多くの者が巻き込まれ、半ば絶望したグリッサに寄り添う彼の最高の名言がこれです。異論はあるまい?
そして次に出会ったのが、《鉄のゴーレム、ボッシュ》。彼はスロバッドの絵で「修繕」されている姿も見ることができます。


鉄のゴーレム、ボッシュ


いわゆる「気は優しくて力持ち」のゴーレムです。特技は変形と分離。メフィドロス(《囁きの大霊堂》を中心に広がる沼地)に半分沈んでいた所をグリッサとスロバッドに引き上げられました。自身の起源や何やらについては定かではないものの、グリッサ&スロバッドと行動を共にし、友情を築いてゆきます。そう、「友情」。ミラディンブロックの物語ではこの三人の熱い友情を軸に、過酷な金属世界の冒険が描かれます。三人だけではありません。レオニンの王ラクシャやニューロック(ミラディンの人間のうち、青に列する人々)の長ブルエナ、メフィドロスに居を構える死者の王ゲス。グリッサ達は旅の中、例え出会いは敵同士であったとしてもやがて彼らと確かな絆を結びます。

黄金の若人ラクシャ血清の幻視

ブルエナ自身はカード化されていませんが、
その描写から《血清の幻視》の女性がそうなのではないかと言われています。



一方、狂ったメムナークは主であるカーンへの思慕を募らせ、自身もプレインズウォーカーになろうとしていました。グリッサは自覚こそなかったもののプレインズウォーカーの素質である「灯」を有しており、メムナークは彼女へと目をつけます。そして地ならし屋を絡み森へと放ち、また配下のヴィダルケン達に命じてグリッサを何としてでも手に入れて自身へその灯を「移植」しようとしました。

地ならし屋教議会の工匠

また余談ですが、メムナーク直属の部下の一人ポンティフェクスは、
主が執着する「エルフの小娘」に嫉妬するあまり狂気に走るという
今で言うところの「ヤンデレ」に近い展開もありました。



そのメムナークが黒幕であると知ったグリッサ達は旅の間に強力な武器防具の一式、「カルドラ装備」三種を手に入れ、アバターである「カルドラのチャンピオン」を呼び出してメムナークを打倒しようとしました。ですがメムナークは容易くカルドラのチャンピオンを支配し、逆にグリッサ達へと襲いかからせます。その時……

ボッシュ 「ここは俺に任せて先に行け!」


これがそのカルドラ様の御姿です。えっと……



ミラディンブロックの小説では、カードではコモンのクリーチャーが割と重要な登場人物であったり、些細なアーティファクトが重要なアイテムであったりします。例えば《テル=ジラードに選ばれし者》はグリッサの幼馴染の青年、《知識の渇望》で飲まれている青い液体は物語中にしばしば登場する「血清」と呼ばれる霊薬です。そんなわけでここにボッシュとカルドラとの戦闘が勃発するのですが……




カルドラはボッシュを掴み、ゴーレムの表情は苦痛に歪んだ。金属が砕ける音がグリッサの耳に満ち、彼女は背を向けた。見ていることはできなかった。
(小説『Darksteel Eye』 Chapter25より)


……というボッシュの犠牲によってグリッサは逃げることには成功するものの、スロバッドは捕えられて拷問と改造を受け、メムナークのために灯の「移植装置」を造らされることになります。そしてメムナーク軍とミラディン連合軍の全面戦争が繰り広げられる中、グリッサは単身メムナークの住処へと赴き、直接対決します。機械の中に残っていたスロバッドの意識や、ゲスの生首を持ったラクシャに助けられつつ死闘を繰り広げますが、灯移植装置が起動すると同時にグリッサはメムナークへと最後の一撃を繰り出し、そして二人は共にマナの核へと落ちて行ったのでした。


ダークスティールの城塞

最終決戦の地。



スロバッドははっと気が付きます。そこは静かなミラディンの内部。人影はなく、改造されて変わり果てたはずの自身の姿は何故か元に戻っていました。そんなスロバッドの前に突然姿を現したのはこの世界の創造主、カーン。彼は説明します、グリッサの灯はメムナークではなく、スロバッドへと移ったのだと。史上初のゴブリン・プレインズウォーカー誕生の瞬間でした。カーンはスロバッドへとプレインズウォーカーの全能性を説明し、この世界の外に広がる果てしない多元宇宙へと誘います。そんな素晴らしい能力を手に入れたスロバッドは勿論……

と思いきや。彼が望むのはそんな力ではなく、友が戻ってくることだけでした。ミラディンブロック三部作を通して描かれていた二人の友情の、何というクライマックス。彼の望みを汲んで、カーンはグリッサの灯の力を用いて戦争で死んだ者達の魂を蘇らせました。ミラディンに魂を捕らわれていた「魂の檻」はメムナークの死とともに破壊されていたので、全ての魂は解放され、他の次元から連れてこられた者達は皆ミラディンを忘れて故郷へと帰りました。そしてカーンはメムナークをミラーリの姿に戻すと、スロバッドへとその番をするように頼んで再びミラディンを離れたのでした。
何だか記憶は少々曖昧ですが、ずっと一緒に旅してきた友達が目の前にいる。それで十分でした。ミラーリの番人となったグリッサとスロバッドは手を取り合って、地上へと向かう道を歩き始めたのでした。二人でまた、このミラディンを旅するために。





































いやー、これで完全に終わりだと思ったんですよねー。

あ、まつがんさん芸風お借りしました
ええ、とても綺麗なハッピーエンドだと思ったでしょ? 友情物語の結末は、二人で手を取り合って世界へ。いい……凄くいい。それはそうとカーン、あんまり長く戻ってこないとエルフとゴブリンじゃ寿命がだいぶ違うからいつかスロバッドが先に死んじゃってグリッサが取り残されちゃうよ、だから早く帰ってきた方がいいよ……って終わったと思ったでしょ? でもほら、伏線残ってなかったっけ? プロローグでメムナークが拭き取ったなんか「黒い油」。あれ結局何だったの?

すっきりとしたエンディングに、多くの読者がそんな伏線を忘れたまま、それから実時間で6年の時が過ぎたのでした……

(次回に続く)



※編注:記事内の画像は、以下のサイトより引用させて頂きました。
『The Legacy Weapon』
http://www.wizards.com/magic/magazine/Article.aspx?x=mtgcom/arcana/1372
『Ask Wizards – June, 2008』
http://www.wizards.com/magic/magazine/article.aspx?x=mtgcom/askwizards/0608