あなたの隣のプレインズウォーカー ~第19回 Love-nica 回帰のギルドへ愛をこめて~

若月 繭子



こんにちは、若月です。
前回はちょっとプレインズウォーカーではなく、一枚のカードにスポットを当てた「番外編」を書かせて頂きました。いかがでしたでしょうか?
今回第19回ではお待ちかねのラヴニカへの回帰ブロックの各ギルドの様子を、次回第20回ではジェイスを軸とした「暗黙の迷路」を巡るストーリーを解説したいと思います。なお前作、ラヴニカ:ギルドの都ブロックの物語については第11回記事をご覧下さい。

思考を築く者、ジェイス

ずっとスタンダードにいるので勘違いされがちですが、
実はブロックストーリーで主人公になったのは今回が初めてなんですよ?
「またお前か」 なんて言わないで!


さて各ギルドの話をする前に、ディセンションからラヴニカの回帰までの間に何が起こったのかを簡単に。
旧ラヴニカブロック。《秘密の王、ザデック》《アウグスティン四世大判事》が仕組んだ騒乱の結果、十のギルドを魔法的に拘束しラヴニカ世界へと悠久の平和をもたらしていたギルド間不戦協定魔法「ギルドパクト」が崩壊してしまいました。

秘密の王、ザデックアウグスティン四世大判事

ザデックはともかく、元々ギルドパクトを創造したアゾリウスのギルドマスターが何故?
アウグスティン四世は、ギルドパクトの崩壊によって
アゾリウスの権力を絶対的なものにできると考えました。


その後、《オルゾフの御曹子、テイサ》の主導にて魔法的拘束を持たない、文書によるギルドパクトが制定されました。とはいえ、拘束力のないそれはすぐに無意味なものとなってしまいました。ギルドパクトという枷が外れた結果、ほぼ全てのギルドが大なり小なりの混乱に陥ります。あるギルドはほぼ解散し、またあるギルドは潜伏して時を待ち、数十年が経過しました。ですが一万年もの間、都市世界ラヴニカにて明確な役割分担と文化を担ってきたギルドが完全に滅びることはありませんでした。ギルドあってこそのラヴニカ。ゆっくりと、十のギルドは再びその姿を取り戻していったのでした.




世界を覆い尽くす都市、そこで覇権を争う個性豊かな十のギルド。ラヴニカの本質はそれまでの一万年と何ら変わりなく、ただギルド間の紛争を抑制する魔法が存在しないという状態。
そこからラヴニカへの回帰の物語が始まります。



1. RTRのギルド

紹介順は、公正を期すために公式記事「プレインズウォーカーのための『ラヴニカへの回帰』案内」「プレインズウォーカーのための『ギルド門侵犯』案内」の掲載順と同じです。

■セレズニア議事会

寺院の庭セレズニアの声、トロスターニ復活の声

《復活の声》の影にはとあるキャラの能力を巡る悲しいエピソードがありまして……
それは次回に。


正直言って旧作ではかなり「やられ役」だったセレズニア。他ギルドの権力欲の標的となった結果、度重なる被害に遭って多くのギルド員を失いました。またギルドが信奉する「マット・セレズニア」、自然そのものの顕現であるとされている神秘的意識との繋がりをもほぼ断たれて壊滅の危機にありましたが、三位一体のドライアド姉妹トロスターニの力によりゆっくりと勢力を取り戻し始めました。

そうして復活したセレズニアは、回帰の発売とともに公式記事で気を吐いていました。ですが自然を信奉する者同士、きっとわかり合えるとグルールの支配領域へ布教に赴いた者達は価値観の違いから厳しい現実を思い知らされます。またセレズニアの拡大を快く思わない、もしくは他ギルドとの対立を煽る者の存在がほのかに示されました。そしてその者の思惑通りに、他ギルドの横暴に対してこちらも武力を行使するべきだという論調がセレズニア内でも高まっていきます……。



■イゼット団

蒸気孔竜英傑、ニヴ=ミゼットミジウムの迫撃砲

第三エキスパンション「ドラゴンの迷路」のドラゴンとは、ニヴ=ミゼットの事でした。


ラヴニカへの回帰のアナウンスとともに最初に発表された画像が、ジェイスとニヴ=ミゼットが並んで立つというものでした。ラヴニカを知っていてその画像に興奮しなかった人はいないでしょう。


物語も、ある意味イゼット団から始まりました。ラヴニカ中心街である第十地区の各所を掘り起こし、爆発を伴う実験を繰り返し、調査員が走り回る。その動きはやがて他ギルドの知るところとなります。彼らはしばしば他ギルドの領域へと侵入し、それは不審と疑念を生んでギルド間の空気を不穏なものにする一因となっていました。そこから起こった小競り合いの一つが『デュエルデッキ:イゼットVSゴルガリ』です。

とはいえ当のイゼットは他ギルドの目など気にしてはいませんでした。彼らが発見し研究していたのは、第十地区を複雑な経路で走る謎めいたマナの流れ。それは「迷路」「暗黙の迷路」と呼ばれるようになり、それを巡って今回のラヴニカにおける物語が繰り広げられます。

ラル・ザレック

更にイゼット団所属のプレインズウォーカー、ラル・ザレックも遂に登場。第15回記事でも書きましたが、暗黙の迷路の謎を調査する研究員として物語の中枢にぐいぐいと関わっていました。ドラゴンの迷路ではジェイスと対決する場面もあり、ヒロインの《イマーラ・タンドリス》も交えてある意味修羅場が繰り広げられていました。詳しくは次回に……。



■ゴルガリ団

草むした墓ゴルガリの死者の王、ジャラド死儀礼のシャーマン

ジャラドは数少ない前作からの継続登場キャラ。息子のミク君は結局出てこなくて残念。


旧作では主役格ギルドの一つだったゴルガリ団。前ギルドマスターである《ゴルガリの女王、サヴラ》はセレズニアを侵略し、自分のギルドをもかき回した揚句死んでいったのですが、弟のジャラドがその後を継いでギルドを立て直したとは第11回に書いた通りです。

生前のジャラドは真面目さと強い責任感とリーダーシップをもってギルドを統べていました。リッチとなって蘇ってからもそれは変わらなかったようです。ギルドパクトが失われ、他のギルドが混乱に陥ろうともゴルガリ団はラヴニカを文字通り地下から支え続け、世界のシステムが元に戻る時を静かに待っていました。ギルドパクトがあろうとなかろうと、ラヴニカ世界における生と死の循環を支えるという彼らの立ち位置は何ら変わりませんでした。とはいえイゼット団の項目で書いた通りに、時には他ギルドの侵入を受けて縄張り争いになることもあったようですが。



■ラクドス教団

血の墓所暴動の長、ラクドスラクドスの哄笑者


ディセンションにてネフィリム、クラージ実験体と対決した末に火口の中で眠りについたギルドマスター・ラクドス。数十年の眠りから目覚め、同時にラクドス教団員達も狂喜の騒乱を活発化させ始めました。




回帰においてラクドス教団には新たな性格付けが加わっています。「サーカス」。彼らは各種危険な娯楽の提供者であり芸術家となりました。ラクドスの経営するナイトクラブは好奇心旺盛な都会の若者を惹きつけて止みません(こういうのはどの世界でも同じなんですねえ)。また上客の中には秩序を掲げるアゾリウスやオルゾフといったギルドの有力者の姿もあります。時に対立しようとも、全てのギルドは持ちつ持たれつ。まさにそれを象徴しているようです。

流血の家の鎖歩き名演撃

様々なカードに「サーカス」や「カーニバル」のモチーフを見ることができます。


公式連載のショートストーリー「Uncharted Realms」にはラクドス教団員達が主人公の話が幾つか存在します。何処にも行き場のない者達が傷つけ合いながらも身を寄せはたまた痛いほどに彼らの芸術を追い求める。ラクドスというギルドが「死と破壊の狂信者達」であることは確かなのですが、彼らが主人公の話となると一転イイハナシダナーになるんですよねえ。



■アゾリウス評議会

神聖なる泉至高の審判者、イスペリア至高の評決

番外編記事でも少し書きましたが、《至高の評決》は物語上重要な、
そして恐ろしい呪文です。


前作で《アウグスティン四世大判事》がその謀略の果てに命を落とし、更にボロス軍の飛行戦艦パルヘリオンの墜落によって本拠地プラーフは崩壊、アゾリウス評議会は混乱に陥りました。彼らはそれをどう立て直したのか。

まず、アウグスティンの後継としてレオノス二世という人間の男性がギルドマスターとなりました。イラストはありませんが、《至高の評決》のフレイバーテキストに登場しています。ちなみに彼はディセンションの物語にも登場しており、《ウォジェクの古参兵、アグルス・コス》の幽霊へと身体を貸して活躍? していました。ですがレオノスは前任者を堕落へと追いやったその権力を怖れ、長命のスフィンクスがギルドマスターの座に就くべきだと主張、イスペリアは彼の説得に同意して最高判事の座に就きました。

ギルドマスターの交代や崩壊した本拠地の再建を経てアゾリウスは次第に再生していきました。更に他のギルドがゆっくりと元の姿に戻り始めると、アゾリウスは法による統治を求められ、彼らの本分を取り戻したのでした。

戒厳令拘引

官僚主義的で頭の固いイメージの強いアゾリウスですが、
大体においてはラヴニカの秩序を守る、市民の頼もしい味方です。


そしてアゾリウス評議会は、ある意味今回のストーリーの鍵を握るギルドでもありました。ラヴニカへの回帰ブロックのストーリーの軸となる謎の「暗黙の迷路」は、アゾリウスの創設者である最高判事アゾール一世が仕込んだものでした。迷路を解いた果てにあるものは何なのか、つまりそれはアゾリウスが望むものは何なのかということ……。



2. GTCのギルド


■ディミーア家

湿った墓ディミーアの黒幕ラザーヴ夜帷の死霊

信心デッキで頭角を現した《夜帷の死霊》。「夜帳」とは地名です。
ディミーアの有力者達が住む高級住宅街。


ディミーアの前ギルドマスター、吸血鬼ザデックは旧ラヴニカブロックにおける黒幕の一人でした。彼は《ウォジェクの古参兵、アグルス・コス》らの活躍によって《幽霊街》へと追放され、それによってディミーアギルドはほぼ完全に消滅しました。そこにザデックの声を聞くことができると称する強大なシェイプシフター、ラザーヴが台頭して散り散りになったギルド員を再び集め、ディミーアを実質的に再興しました。なお彼、シェイプシフターであることからか正体はボーラスでは? とも噂されていましたが、特にそんなことはありませんでした。

旧作では「存在しないギルド」とされていたディミーアはラヴニカ市民の前にはっきりと姿を現し、調査員や記者といった公的な役割も持つ普通の? ギルドとなりました。ですが誰もが想像するように、彼らの本分は影の中にあります。ディミーアが真に行うのは情報操作、スパイ、暗殺。前作ではギルドパクトの崩壊を狙い、結果的にその目的を達成したディミーア。そして今やギルドパクト無きラヴニカで彼らは何を望むのか? それは勿論、今回のラヴニカに隠された最大の謎である「暗黙の迷路」に潜む力でした。


「お前がトロスターニを扇動したのか、ラクドスへ戦争を仕掛けさせたのか」
「それだけではない。私は大特使殿も重用するオルゾフの司教であり、ゴルガリにとってはジャラドの側近の一人だ。ボロス軍では私は、他のギルドの緊急の知らせをいつも運んでくる斥候として知られている」
「つまり、お前は誤った情報を流しているのか」
「人々は自分の聞きたい事以外は耳に入れないものだ。誤っているのは情報ではない、受け取る側の心なのだよ」
「そして戦争を煽った。迷路の背後に何があるかを知るために」
ラザーヴが黄色い歯を見せて笑った。
「私がそれを手に入れた暁には、何も残らぬ――ギルドパクトも、平和も、法もない。ギルドさえも! そしてあらゆる生命と思考へと命令する私を止めるものは何もない! 単純であろう? 私はただ、従わぬ存在を全て消し去りたいというだけなのだよ。わかるかね、精神魔術師君?」

(小説Gatecrash; the Secretist part two より)


これはギルド門侵犯の小説にあった、ジェイスとラザーヴとのやり取りです。いかにも悪役的に自らの野望を語るラザーヴ、ですが彼の「人は自分の聞きたい事以外は耳に入れない」「誤っているのは情報ではなく受け取る側の心」という台詞にはどきりとさせられます。真実を突いている、そう思いませんか。ラヴニカに限らず、私達の世界でも……。



■ボロス軍

聖なる鋳造所戦導者オレリアボロスの反攻者

思えば旧ラヴニカでボロスが登場して以来、
白と赤は対抗色ながら仲が良いイメージがありますね。


ディセンションの騒動にて前ギルドマスターの《ボロスの大天使、ラジア》が死亡した後、旧作主人公アグルス・コスの同僚の天使フェザー、本名Pierakor az Vinrenn D’rav(ラヴニカ人でもなかなか読めない)がギルドマスターとなりました。

ですがギルドパクト無きラヴニカの混乱期にて、ボロス軍は統制を失って傭兵集団といった所まで一旦は落ちぶれてしまいます。そんな中フェザーは不名誉な天使という誹りを受け、新たに台頭した天使オレリアがギルドマスターとなってその強力なリーダーシップと自ら積極的に戦う姿勢で再びギルドをまとめ上げました。フェザーに具体的に何があったのか、詳しくはわかりません。もしかしたら各ギルドの混乱に際して力が及ばず、法の執行者たる職務を全うできなかったのかもしれません。

オレリアの下、ボロス軍は「秩序を守る軍隊」&「市民の平和を守る警察」という本来の役割を取り戻しました。とはいえ前作で目立っていた分? 回帰ブロックのストーリーにおいては影が薄かったことは否定できません。「暗黙の迷路」についても彼らは特に追ってはおらず、ギルド間の抗争に対処するという本来の仕事に専念していたようです。


ボロス軍は法の執行者であるべし。セレズニア議事会は法の生ける精神であるべし。オルゾフ組は法の範囲を監視し、ラヴニカの法廷において異議を申し立て告発を行う市民の権利を守るべし。アゾリウス評議会は法の究極的通訳者となり、あらゆる法廷手続きの審判であるべし。
――ギルドパクト 条項I 第2節

(小説Dessension Chapter7より)


ところでこれはディセンションの小説にあった、実際のギルドパクト(魔法)の条文です。
白は秩序や共同体を表す色のためか、白絡みのギルドは実際どこも割と友好関係にあります。彼らは日常的に協力・信頼しあって都市世界ラヴニカの秩序を支えており、よほどの事がない限り表立って敵対することはありません。マジックにおいて色は性質や性格を表す要素です。ギルドパクトという拘束が無くとも、ギルド同士の相性は本質的には変わらないのかもしれません。



■シミック連合

繁殖池首席議長ゼガーナ実験体

「ゼガーナバント」というデッキ名にもなりました。
実験体さんはシミックの研究者が自らその人工的進化の実験に身を捧げた姿です。


前ギルドマスターである《シミックの幻想家、モミール・ヴィグ》とその野望の結晶《クラージ実験体》の暴走から壊滅した旧シミック連合は、ラヴニカの古の海から現れたマーフォーク達が引き継いで再興しました。新たなシミックはモミールらの過ちを繰り返さぬよう自制しながら、とはいえ彼らなりの方法でラヴニカ世界の自然を真に生き返らせることを目標としています。前作と比較してとても「落ちついた」と言えるでしょう。結果、

両生鰐神出鬼没の混成体クロールの戦士


あれ……なんか前とあんまり変わっていないような……。

それはそうと、ギルド門侵犯にて期待されていたものの結局登場しなかった青緑プレインズウォーカー、キオーラ。ついに神々の軍勢でカード化されましたね!!

荒ぶる波濤、キオーラ

どこか浮世絵的な波の表現が印象深いアート。
カード名の「Crashing Wave」はもしかしたら 有名な作品
「神奈川沖浪裏」の英名「The Great Wave off Kanagawa」を意識しているのでしょうか?


これを書いている時点ではキオーラが活躍するかどうかは未知数ですが、シミックカラーにとっては待望のプレインズウォーカー。彼女はゼンディカー出身で、テーロス世界の海に棲む怪物に惹かれてやって来ました。現地のトリトン(マーフォーク)達からは海神タッサの化身か何かであると思われており、キオーラ本人もその誤解をある意味楽しんでいるのだそうです。彼女がテーロスのメインストーリーに関わってくるのかどうかもまだ未知数ですが、これだけ私達を待たせてくれたのですから期待してみましょう。



■グルール一族

踏み鳴らされる地怒れる腹音鳴らし炎樹族の使者

やっぱり今回も野人軍団のグルール。腹音鳴らしも少々歳を経ましたが健在でした。


遥かな昔、グルールはラヴニカの自然を守るドルイドやシャーマンの集まりでした。元はセレズニアと然程変わらない存在だったのかもしれません。ですがセレズニアが都市の中で自然を守りながら生きていくギルドとなったのに対し、グルールは自然を蹂躙した文明を憎んで野生の道を選びました。現在では彼らのほとんどが単純な弱肉強食のルールに従って生きています。都市世界に馴染めない者達の受け皿である彼らにとってはギルドパクトの有無など全く関係なかったようで、今作でもマイペースに暴れていました。

そうそう、グルールといえば外せないのがプレリリースキットに入っていた「ギルドからの手紙」。どのギルドも趣向を凝らした巧妙な表現、印刷技法、フォント等でそれぞれの個性を主張しつつ私達の「ギルド加入」を歓迎してくれていたのですが、その中でもグルールは際立っていました。




ラヴニカではラヴニカ語/Raviと呼ばれる共通語が主に使われているのですが、小説ギルドパクトではグルールの者達はグルール独自の言語を用いていました(地位のある者はラヴニカ共通語の会話や読み書きも割とできるようです)。これはグルールの文…字……?



■オルゾフ組

神無き祭殿幽霊議員オブゼダートヴィズコーパの血男爵

白黒両方のプロテクションを持つ《ヴィズコーパの血男爵》
とても除去しにくいクリーチャーですね。


「旧作主人公組」の一つオルゾフ。彼らが宗教の皮をかぶった拝金主義者であることはラヴニカ世界の誰もが知っているのですが、その富や荘厳な大聖堂は多くの者の羨望や畏敬の念を呼び起こしており、その一員となって成り上がろうとする者やパトロンとして頼る者は後を絶ちません。

オルゾフは宗教的な面も目立ちますが、市民生活に密着した面では主に商業や金融を担当する、都市世界に必須のギルドです。《ヴィズコーパの血男爵》《ヴィズコーパのギルド魔道士》といったカード名の「ヴィズコーパ」とは「ヴィズコーパ銀行」、他ギルドの者も利用する都市銀行です。

前作の騒動にてほとんど被害を受けず、またギルドのトップも代替わりしなかったこともあり、オルゾフギルドの内情や他ギルドへの態度、ラヴニカ世界における立ち位置に大きな変化はありませんでした。

債務の騎士

「彼は熾烈な決闘のさなかであっても、小数点第6位までの金利計算ができる」。
もしかしたら債務の騎士は普段は銀行員として決闘せずに
金利計算をしているのかもしれません。


ところでテーロスが出た時から気になっているのですが、オルゾフのスラルとテーロス世界の「蘇りし者」はとてもよく似ていると思いませんか。どちらも「灰色の肌に黄金の仮面をかぶったゾンビ」です(スラルのクリーチャー・タイプは「スラル」ですが、死亡した肉体の再生品であるのでゾンビの一種と考えて良いでしょう)。

アスフォデルの灰色商人従順なスラル

完全に一致……?


高度に発達した都市世界であるラヴニカと、青銅器文明のテーロスが繋がっているということは多分ないと思います。この類似の手がかりになりそうなことが、公式記事「未回答問題:『テーロス』編」にて語られていました。


2色の金色カードすべてがラヴニカのもののように見えるからである。2色カードのメカニズム空間には限界があり、ラヴニカはそれを使い尽くしているので、他の2色金色カードを見たらラヴニカっぽく見えてしまうのだ。


わかりやすい所で、二色小神の性格はラヴニカのギルドとよく似ています。例えば青黒神《欺瞞の神、フィナックス》は欺瞞や裏切りや秘密を統べる、まさにディミーアの神です。カードデザインだけでなく、設定的な所まで似せてくるというのは興味深いものです。


そんな個性豊かな、そして二色の組み合わせの全てを出しきっている十のギルド。
全体として、旧ラヴニカブロックで目立っていた・扱いの良かったギルドは今回の出番が少なかったような気がしました。まあ、ある意味正しいことですよね。ですがギルドが十個もあると前回・今回とも目立たないギルドがあるのも多分仕方ないことで……二回連続で割を食っていたシミックにはまた次の回帰に期待しましょう。



3. ギルドのプレインズウォーカー達

ラヴニカへの回帰ブロックに登場したプレインズウォーカー五人は、《思考を築く者、ジェイス》を除く四人が何かしら特定のギルドに身を寄せていました。メインストーリーに登場していたジェイスとラル以外の三人はラヴニカ世界でどのように過ごしていたのでしょうか?

■見えざる者、ヴラスカ/Vraska the Unseen

見えざる者、ヴラスカ


アゾリウスの高官から兵卒までが不可解かつ残酷な方法で殺害されるという連続殺人事件が発生し、ゴルガリ団に関係する、「首謀者の歪んだ正義感から由来する復讐の為の殺害」の都市伝説がまことしやかに囁かれていました。アゾリウスはその犯人の名前は不明ながらも「見えざる者」として指名手配しています

かつてアゾリウスから受けた仕打ちから、ヴラスカは自身の正義に則って復讐を敢行しています。彼女は大体ゴルガリと共に行動しているものの、プレインズウォーカーの常として彼女も究極的にはギルドに所属しているわけではありません。その証拠として、プレインズウォーカー達のカードにはギルドの「すかし模様」が入っていません。
……ですがまさかの『デュエルデッキ:ジェイスVSヴラスカ』!!




ネタバレしますとラヴニカへの回帰ブロックで戦った(ことが明らかになっている)プレインズウォーカーの組み合わせは「ジェイスVSラル」だけでしたので、この組み合わせは完全に予想外でした。『ソリンVSティボルト』が来た時は「もうどんな組み合わせでも驚かない」と思ったのですが驚いてしまいました。製品紹介を読むと、どうやらドラゴンの迷路の後日談的な戦いのようです。もし互いをプレインズウォーカーだと認識したなら、二人はどのような行動を取るのでしょうか。



■ドムリ・ラーデ/Domri Rade

ドムリ・ラーデ


モヒカン頭の少年プレインズウォーカー・ドムリ。彼はラヴニカ生まれで孤児として街路で逞しく生きてきて、やがてグルールへと身を寄せました。そして公式記事にてプレインズウォーカーとして覚醒する過程が語られました(【その1】【その2】)。


彼はグルールの成人の儀式として生きたまま埋葬され、その恐怖からプレインズウォーカーの「灯」が点火しました。
プレインズウォーカーの多くは、「最初に渡った次元」によってその後の運命が左右されます。例えばアジャニは幸運にも故郷ナヤから隣のジャンドへと渡ったことにより、その地の熱い赤マナに触れて復讐心を燃え上がらせ、《復讐のアジャニ》となります。逆にテゼレットは故郷エスパーから隣は隣でもグリクシスへと飛んでしまいました。一方、ドムリが覚醒して最初に辿り着いた次元は……




ナヤ!
ラヴニカとはまさに正反対の、野生そのものを体現する次元。グルールが憧れてやまないような、だが決して辿りつくことは叶わない瑞々しい緑の大地です。信じられない出来事に驚き、そしてそれも束の間、ガルガンチュアンに追いかけられ、現地のエルフ達と短い遭遇の後、ドムリはラヴニカへと戻ってきました。成人の儀式を途中で抜け出したような形になり、誰に話しても信じてもらえないであろう事が自分の身に起こった。ドムリはもう自分はグルールにいられないと覚悟をしましたが、部族のシャーマンは優しくドムリを迎えたのでした。「お前がお前の魂を持ち続けている限り、ドムリよ、お前はグルールだ。真中の炎の側にお前の居場所はあるのだよ」と。

この先しばらく彼は、きっとグルールを帰る家としながら、広大な多元宇宙を思いのままに飛び回るのでしょう。多くの可能性を秘めた若きプレインズウォーカー、ドムリの行く末に幸あれ。



■正義の勇者ギデオン/Gideon, Champion of Justice

正義の勇者ギデオン


ゼンディカー世界の危機に、ギデオンがラヴニカへと助けを求めに向かったことは以前からわかっていました。つまり次に(ゼンディカーブロック以降に)ラヴニカを訪れる時がギデオンの物語が進む時だと。そしてギルド門侵犯の発表とともに公開された宣伝画像には、ボロスの天使とともに立つギデオンの姿がありました!



ついに来た! あー確かにギデオンは何処のギルドかって聞かれたらボロスだろうなあ!! この第一報を見た時に私がどれほど興奮したかはお察し下さい。
ですが彼が探していたプレインズウォーカー達の組織、「無限連合」はどうも、もう存在しなかったのか、はたまたジェイスが放り出したのかはわかりませんが、とにかくギデオンは見つけられなかったことは確かなようです。期待していたジェイスとの接触も無かったと見ていいでしょう。ラヴニカへの回帰ブロックにおけるギデオンの様子は二本の公式記事で語られていまして、小説には……はい、全く登場していませんでした。ギルド門侵犯のトレイラーにて、「この世界に私を止められる者などいない」というラザーヴの台詞のバックに映像はギデオン、という熱い演出がありましたがあれは一体何だったんですか。


問題のシーンは1分08秒付近から。


ラヴニカでのギデオンの動きを決定づけたのは、ボロス軍のギルドマスター《戦導者オレリア》でした。ギデオンは、ラクドスの待ち伏せに遭って全滅の危機にあったボロスの一隊を救ったことからオレリアに招かれます。

戦導者オレリアオレリアの憤怒

チャンドラといい、どうもギデオンは赤絡みの女性に縁がありますね。


オレリアは美しくも猛々しい、それでいてどこか淑やかな天使。彼女はギデオンに、ボロス軍へと加わってくれるよう願います。ギルド間の争いに巻き込まれた人々の苦境を目にし、そしてオレリアの情熱的な眼差しに心を動かされ、彼はしばしボロス軍へと力を貸すことに同意したのでした。

無慈悲な追い立て軍部の栄光

フレイバーテキストでも割と絡んでいるギデオンとオレリア。
以前「ざわ・・ざわ・・」とか書きましたが、白の男が天使の誘いを断れると思うかね!!


このギデオンとオレリアの出会いが語られた公式記事「より善きこと」にて、オレリアはギデオンの身なりや名前や口調から彼を「この地区の者ではない」と見抜いていました。実はボロスの天使達は代々、ラヴニカの外の世界やそこからやって来る者達の存在を知っています。そして二本目の公式記事「第九地区の戦い」の最後では、名残惜しくも友好的にギデオンを送り出していました。《ギルドとの縁切り》とは何だったのかのグッドエンド。もしかしたらオレリアはギデオンの正体に気がついていたのかもしれませんね……。

ちなみにギデオンはボロスの迷路走者《軍勢の刃、タージク》とも意気投合していたようです。ナイス破壊されないコンビ! そう、「破壊されない」。ギデオンがエルドラージへの対抗策を手に入れたことは、彼のカード能力そのものが示しているのではないでしょうか。

《正義の勇者ギデオン》

[+1]:対戦相手1人を対象とする。そのプレイヤーがコントロールするクリーチャー1体につき1個の忠誠(loyalty)カウンターを正義の勇者ギデオンの上に置く。
[0]:ターン終了時まで、正義の勇者ギデオンは彼の上に置かれた忠誠カウンターの数に等しいパワーとタフネスを持つ、人間(Human)・兵士(Soldier)クリーチャーになる。それは破壊不能を得る。彼はプレインズウォーカーでもある。このターン、彼に与えられるすべてのダメージを軽減する。


[-15]:他のすべてのパーマネントを追放する。

これは《引き裂かれし永劫、エムラクール》を除去してしまえる効果です。「追放」ですので墓地には行かず、つまりライブラリに戻るということもありません。また、この奥義が打てる状態のギデオンのサイズは15/15、破壊不能。(飛行とか滅殺とかをどうにかできれば)エムラクールに一方的に勝てるスペックです。個人的に、ギデオンのこの能力そのものが「いつかゼンディカーを再訪する」フラグだと思っています。※個人の感想です



4. 迷路を巡る物語

ギルドパクト無きラヴニカ世界。各ギルド間の緊張が高まり、このままでは全面戦争に突入かと思われました。それが何故突然ドラゴンの迷路にて「レース」で決着をつけるという超展開、ある意味平和な解決策になったのでしょう? 第15回記事にもだいたい書きましたがもう一度。

イゼット団が発見し、熱心に調査を進めていた「暗黙の迷路」。それは各ギルドの支配領域の入り口である「ギルド門」を通っていました。謎を解明するためには全ギルドが手を携え、暗黙の迷路を正しいルートで走破する必要がある。それがわかるとニヴ=ミゼットはためらわず全ギルドへと迷路の存在を明かし、その背後に隠された報酬の存在をほのめかして「ギルド対抗迷路レース」の開催を宣言したのでした。


「我らがこの偉大なる都市は深い秘密を隠している」 ニヴ=ミゼットの幻影は続けた。「我がイゼット団の魔術師達は地区を貫き走る古の迷路を発見した。その存在目的、秘めた力を我々は今や理解しつつある。曲がりくねり、地区の街路やトンネルを貫いて描かれた『暗黙の迷路』、とはいえその道筋は定かではない。(略)だが我々は知っている、その終点には大いなる力が眠っていると。それを解明するためには、全ギルドが手を一つに携えねばならぬ」
(略)
「迷路を駆ける代表者として、各ギルド一人の勇者を送り込むのだ。定められた時間に、勇者達はギルド渡りの遊歩道にて集合せよ。よじれ曲がりくねる迷路を駆ける競争を始めようぞ。栄冠を手にするのは誰か、ギルドの為に迷路の力を手にするのは誰か、そしてその危険に屈する者は誰か、見届けようではないか。それまで、準備をするがよい」

(Gatecrash; the Secretist part two より)


この呼びかけに全ギルドが応じたということからも、イゼット団のギルドマスター、ニヴ=ミゼットの存在感の大きさがわかります。また各ギルドもこの発表からそれぞれ独自に「暗黙の迷路」の調査を多少なりとも行い、その重要性に気付いたようです。ちなみにこの演説において、ニヴ=ミゼットの映像を投影する仕事をしていたのはラル。小説を読むと結構な働き者です。
ラルといえば、第15回記事の時点ではまだ謎だったのですが、ギルドを代表する「迷路走者」として選ばれなかった彼がどういった手段に出たのか。もうご存知の方も多いと思いますのでここできっぱり紹介してしまいましょう。


ラル・ザレックの隣に立っていたエレメンタルが前に進み出た。その身体には魔力が火花を散らしていた。
「私はメーレク、迷路走者として――」
だが彼が造り物のような声で喋り、軽く頭を下げた時、ラル・ザレックが動いた。彼はメーレクを遮り、その手甲を掲げた。前触れもなく、ザレックは手甲をメーレクの背中に突き立て、稲妻をほとばしらせた。その手甲はエレメンタルの精髄を吸収し始め、メーレクは稲妻を纏いながら震えた。そして枯渇し、氷の塊だけが残った。
「俺はラル・ザレック、イゼット団を代表して迷路を走る者だ!」

(小説Dragon’s Maze; the Secretist part three より)

イゼットの模範、メーレク

「あ…ありのまま 今 起こった事を話すぜ!
『おれは走者としてカード化されたと思ったらスタート前に殺されていた』
な… 何を言ってるのかわからねーと思うが おれも何をされたのかわからなかった…」

いやあ、《グリセルブランド》に負けずとも劣らない出落ちでした。
ウルトラプロのDGMサプライ、走者ラインナップだと思いきやイゼット団はメーレクではなくラルだったのは壮大な伏線だったのか……?

そんなスタート前から大波乱の迷路レースで何が起こったのか、その結果どうなったかは……次回をお待ち下さい。


(続く)