あなたの隣のプレインズウォーカー ~第20回 Love-nica ギルドパクトの王子様~

若月 繭子

若月 繭子



こんにちは若月です。
思えば基本セット2012とともに始めたこの連載も遂に第20回となりました(「番外編」が一本あったので前回が実質第20回でしたが)。ここまで長く続けさせて頂きまして心から感謝です。そしてその2012のプレインズウォーカーで未だ取り上げていないのが一人……うーん……

炬火のチャンドラ

もうM15だって発表されたのに!


まあともかく、今回は、ラヴニカの回帰ブロックのメインストーリー、ジェイスの物語をお話します。また後半では、皆さんが気になっているであろう、「暗黙の迷路」についての話もしますのでお楽しみに!



1. ジェイスの回帰

さて前回「ジェイスがブロックストーリーで主人公になったのは初めて」と書きましたが、これは本当です。



ご存知の通り、ジェイスはローウィンにて最初にカード化されたプレインズウォーカーのうちの一人として登場しました。
実はローウィンのプレインズウォーカー達は皆、ローウィンのストーリーに全く関わっていません。そもそも彼らは元々未来予知でカード化される予定だった所を調整が間に合わずにローウィンに送られたという経緯でした。ローウィンPWの種族はレオニンと人間、どちらもローウィン世界には存在しません。それがかえってプレインズウォーカーが「異邦人」であることを際立たせた、と公式記事「Planeswalkers Unmasked」(未訳)は述べています。

次にジェイスが登場したのはゼンディカーブロック。主人公が誰なのかは曖昧ですが、ウェブコミックではチャンドラ、小説ではニッサです。ジェイスはメインキャラの一人であり、エルドラージの復活に関わる重要人物でしたが「主人公」と言えるポジションではありませんでした……ストーリーでは。

精神を刻む者、ジェイス

あまりの強さにジェイスのイメージが固定されてしまいましたね……


そしてゼンディカーの後、どうやらジェイスはしばしの間多元宇宙を放浪していたようです。テゼレットリリアナエルドラージ。ジェイスは大きすぎる野望と力に翻弄され続け、疲れていました。そして孤独と静穏を求め、彼は故郷ではないにせよ最も愛着のある次元、ラヴニカへと戻ってきました。そこからラヴニカへの回帰でのジェイスの物語が始まります。

ところで第3回記事にて「(ジェイスは)無限連合ラヴニカ支部の支配者として収まりました」と書きました。当時の情報ではそうでした。ですがラヴニカへの回帰の蓋を開けてみますと、無限連合の名は影も形もありませんでした。実のところ、連合がどうなったのかはわかりません。公式記事にも小説にも触れられていません。



安らぎを求めてラヴニカへと帰ってきたジェイス。
遠くを見つめる、どこか悟ったような憂鬱な表情です。


とはいえ完全な隠遁生活を送るには、ジェイスはどうしても好奇心旺盛すぎました。知識を求めるのは青の魔術師の本能のようなもの、そしてジェイスは特に「隠された真実」に惹かれる傾向にあります。ラヴニカに安らぎを求めた彼でしたが、イゼット団が精力的に何かの調査を行っている様子を見て、そして自身でもラヴニカ中心街・第十地区のそこかしこに見つかる古いシンボルとパターンを発見し、その謎を追い求めずにはいられなくなりました。ジェイスは連合時代の助手であるヴィダルケンのカヴィン/Kavinとともに独自の調査を開始しました。

ジェイスの文書管理人

ジェイスの助手カヴィン。ウェブコミック→カード→小説という珍しい登場順のキャラです。


ある時、ジェイスは密かにイゼット団の調査員を尾行します。実はそれはラル・ザレックと助手のゴブリンでした。なおこの時ジェイスは二人の名前こそわかったものの、追跡を続けながらでは彼らの思考の奥深くまでを読むことはできず、そのためラルの正体に気付けませんでした。

彼らはイゼットの支配領域へと向かい、そしてイゼットのギルド門の中ではニヴ=ミゼット自らがラル達を待っていました。ジェイスにとっては願ってもないチャンスでした。イゼットのギルドマスターの精神を読み、「迷路」の秘密を知るという。ですがこれは危険すぎるともわかっていました。ギルド門が閉じられるまで時間はありません……



ジェイスは好奇心に負けました。
ニヴ=ミゼットの嵐のごとき精神を探り、イゼット団が解明した「迷路」の謎を、そしてその先にあるものを知りました。ですがギルド門が閉じられる時、ニヴ=ミゼットが自分を見ていることに気が付いたのです。

研究室へと逃げ帰って、ジェイスは自分がニヴ=ミゼットの注意を惹いてしまったということの恐ろしさに震えます。更に、精神魔術師である彼はわかっていました。記録を全て破棄したところで、記憶さえあればギルドはそれを手に入れることができると。ジェイスは研究室を破壊して調査記録を全て破棄するようにグルールの《自由なる者ルーリク・サー》へと依頼し、更には自分とカヴィンの「迷路」についての記憶をも全て消し去ろうとしました。

自由なる者ルーリク・サー破壊のオーガ

ルーリク・サーは二つの頭、二つの人格をもつ双頭巨人。
向かって左側がルーリク、右側がサー。
またグルールには「解体業」を請け負う者も存在します。
野人のギルドが都市と付き合う一つの形。


ところでジェイスは友人である《イマーラ・タンドリス》を心配させまいと、事前に彼女へと手紙を送っていました。これから自分の記憶を消す、そのため言動に何処か変なことがあっても気にしないでくれと。イマーラはそれを止めるためにジェイスとカヴィンが借りた宿へと飛び込んできたのですが……時既に遅し、ジェイスは自分とカヴィンの記憶を消してしまいます。

そしてどれほど時間が経ったのか、ジェイスが目覚めるとそこは荒らされた部屋でした。記憶に奇妙な空白を感じて疑問に思う彼に、宿の主人が告げます。ラクドス教団の者達が襲撃してきて、イマーラが誘拐されたと。



2. ジェイスとイマーラ

イマーラ・タンドリス


RTRブロック小説のヒロインにしてセレズニアの迷路走者イマーラ。実は初登場は早く、ジェイスが主人公のプレインズウォーカー小説「Agents of Artifice」(2010年1月発売)です。なおウェブコミック「ヴェールの呪い」にも登場しており、その時は「エマーラ」と訳されていました。

イマーラはジェイスがラヴニカへやって来た当初からの数少ない友人です。小説『Agents of Artifice』当時、ジェイスの彼女であったリリアナは二人の仲について少し心配していましたが、イマーラは「まさか、彼は人間よ!」と種族の違いからジェイスを恋愛対象としては見ていなかったようです。

イマーラは癒し手であり、またエレメンタルを召喚して使役することができます……が、ストーリー上のその能力は全くと言っていいほどカードに反映されていません。僅かにカードイラスト、彼女の背後に描かれた植物らしきもの、そして5/7という謎に高いP/Tが「エレメンタルを召喚して使役する」という設定を反映しているのではないか、と考えられるに留まっています。

実は《復活の声》のエレメンタル・トークンのアートはイマーラの背後にいるエレメンタルのものと同じ姿です。アーティストさんも同じです。



《復活の声》《イマーラ・タンドリス》。二枚のカードの間に紆余曲折が、背景世界好きにとっては何とも悲しい紆余曲折があったらしいことは容易に想像できます……。

さて物語に戻りますが、襲撃現場に落ちていたコインからジェイスはラクドスのとあるナイトクラブへと辿り着きます。そこで《ラクドスの血魔女、イクサヴァ》と接触してイマーラの手がかりを得ると、向かった地底街にて《縞痕のヴァロルズ》に遭遇し、それをやり過ごした先では《精神を飲む者、ミルコ・ヴォスク》が待っていました。

精神を飲む者、ミルコ・ヴォスク


ディミーアも「暗黙の迷路」の謎を追い、その過程でジェイスに目をつけていたのです。ミルコはジェイスへ襲いかかると首筋へと食らいついてその血とともに記憶を奪おうとしますが、ジェイスの記憶には何も残されていませんでした。戸惑いながらもミルコは退却し、ジェイスはイマーラと合流すると彼女をセレズニアの本拠地ヴィトゥ=ガジーへと送っていきました。



3. 暗黙の迷路

イマーラはギルドへと戻り、ジェイスは独り取り残されました。助手のカヴィンもまた姿を消していました。無くしたものは記憶だけではない、そんな寂しさが募ります。この次元は自分を必要とはしていないとジェイスは感じました。そしてプレインズウォーカーである彼にとって、ここではない世界へと踏み出すのはとても簡単なことでした。


プレインズウォーカーの前にはいつでも、幾つもの道が伸びています。


ですがジェイスの心に空いた穴は大きく、深すぎました。イゼットは何を発見したのか。ディミーアは彼の知識に何を求めたのか。ジェイスは自身の記憶の手がかりを求めて様々な者に接触します。襲撃現場の調査にやって来た《第10管区のラヴィニア》、研究室を破壊する依頼をした《自由なる者ルーリク・サー》。ええ、先程から次々と迷路走者の名前が出てきますがその通り、ドラゴンの迷路発売前から彼らは小説に登場していました。

ラクドスの血魔女、イクサヴァ第10管区のラヴィニア

イマーラも含めて「ジェイスヒロインズ」なんて呼称もあったような(無い)。


ルーリク・サーとの一騎打ちに勝利し、ジェイスが彼(彼ら?)の記憶を覗く許しを得てそこに残されていた手がかりを得た頃、セレズニアの軍がラクドスの縄張りへと侵攻を開始しました。そして遂にギルド間全面戦争が勃発……しかけた所で、ニヴ=ミゼットが動きました。第15回19回記事に書きました通り、ニヴ=ミゼットはギルド間全面戦争を回避するため、「暗黙の迷路」の存在を明かしてその先に隠された報酬の存在をほのめかし、全ギルドへと「迷路レース」への参加を呼びかけました。

その「暗黙の迷路」。ニヴ=ミゼットの存在感があったとはいえ、他のギルドにとっても争いを停止して耳を傾けるほどの価値を持つものです。一体これは具体的に何なのでしょうか。


《発掘された道しるべ》フレイバーテキスト
暗黙の迷路はラヴニカ全土に張り巡らされており、
10のギルドすべての秘密の史跡を繋いでいる。


まず迷路は「全てのギルド門を貫くマナの流れ」という形で現れました。これほど思わせぶりなものが自然現象であるわけはなく、何者かが、それを解明させるために仕組んだものであることは明らかでした。
イゼット団の調査員達は迷路を正しく追いかけ、終着点であるアゾールの公会広場へと到着しますが何も起こりませんでした。発見し、解明するだけでは駄目だったのです。迷路とは何なのか、何を試しているのか、研究者集団のイゼット団は理論立ててそれを解明していきました。

迷路が出現したのはいつなのか? 正確な月日こそ不明ですが、ギルド間の調和を守る魔法であるギルドパクトが消滅して以降ということだけは明らか。迷路は何のために現れた? その鍵は「迷路の仕掛け人」が誰なのかということでした。調査によるとそれはアゾリウス評議会の創設者でありギルドパクトの作者、最高判事アゾール一世。ギルドパクトの作者が仕掛けたものが、ギルドパクト消滅によって出現した……つまり迷路は「ギルドパクトが消えた時に起動される安全装置」なのだという結論にイゼット団は達しました。

迷路はアゾリウスによって作られた。つまり、アゾリウスが価値を見出す方法で解かねばなりません。そして報酬はアゾリウスが相応しいと思う者へと与えられるということです。

さて、ニヴ=ミゼットの演説が終わると、ジェイスの前にラザーヴが姿を現しました。シェイプシフターである彼は自ら様々なギルドに潜入して工作を行っており、特にセレズニアではイマーラと親しいセレズニアの騎士にすり変わって他ギルドとの争いを煽っていたのでした。

ディミーアの黒幕ラザーヴ


ラザーヴの目的は、迷路を解いた先にある力。ジェイスはディミーアの工作員達に拘束され、地底街へと連れて行かれてしまいました。そして放り込まれた出口のない牢獄では、ミルコ・ヴォスクと吸血鬼化したカヴィンが待っていました。ミルコはジェイスの血とともに再びその記憶を頂くつもりでした。首筋に牙が突き立てられ、意識がぼやける中ジェイスは必死で集中し、プレインズウォーカーだけが可能な方法で逃げ出しました。辿り着いた先は……




ゼンディカー。

ある意味ラヴニカから最もかけ離れた、都市文明の手が触れたこともない世界です。ジェイスは一瞬、このまま二度とラヴニカへ帰らなくてもいいのかもしれないと思いました。きっと、プレインズウォーカーはずっとそうやって生きてきたのでしょうから。どんな相手とも、どんな場所とも繋がりを断って。
ですがジェイスは風の中に生物の思考をかすかに感じました。意識を広げてそれを追うと、遠く見捨てられた谷のどこか地下深くで、コーの女性が家族へと語りかけながら剣を鍛えていました。エルドラージの災いによって彼女らはその暗闇の中で生きねばならなくなったのです。

石鍛冶の神秘家

「剣を鍛えるコーの女性」。


彼女は子供達へと、希望を持ち続けるよう伝えていましたが、子供達が絶望に飲まれてしまうことを怖れてもいました。ジェイスは躊躇しながらも思考を更に広げます。そして母親と子供達全員の意識へと同時に到達すると、新たな精神魔法を試みました。一度に多数の意識へと接触するだけでなく、それらを繋げるという。

それを試みるのはまるで魂が引き裂かれるような大変な苦痛を伴いました。ですがジェイスが試したその精神魔法は一瞬、新たな領域に到達しました。ジェイスは「橋」となって彼らの意識を繋げ、母が持ち続ける希望を子供達へと届けたのでした。ジェイスは踵を返し、再び歩き始めました。
そして彼の足跡は唐突に、ゼンディカーの砂の上で消えていました。



4. 迷路レース

ラヴニカへと帰ってきたジェイスは迷路の終点、アゾールの公会広場へとやって来ました。各ギルドの勧誘所が並び立ち、市民が集う活気溢れる広場です。何気ない光景の中にジェイスは秘められた力を感じました。広場の演壇に登り、その内へと自身の精神を投影します。彼の精神の目に、アゾリウスの法官衣装を纏った人間男性の姿が映りました。彼は迷路の執行吏、アゾールの代理人を名乗りました。ジェイスは彼へと問いかけて迷路の情報を得ます。そしてとても重要な、衝撃の事実が明らかになりました。もし全ギルドが試練をクリアしたなら、新たなギルドパクトが最も価値ある者によって起動される。
ですが、もしできなければ、「アゾールの至高の評決」がもたらされると。




そして、ニヴ=ミゼットが宣言した迷路レース開催当日。スタート地点である《ギルド渡りの遊歩道》には走者とその応援に駆け付けたギルド員でごった返していました。
レーススタートの「司会者」として現れたラルは、走者達に名乗りを上げさせます。ここで面白かったのはイクサヴァとミルコの自己紹介場面。


「イクサァァーーーヴァ!」 イクサヴァは叫んだ。「我らが悪魔の王よ、輝かしき教団ラクドォォォーース!」 彼女の戦士達が大声で喝采を上げ、様々な剣やフレイル、刺付きの棍棒を宙へと振り上げた。
ミルコ・ヴォスクが浮かんで段上へと進み出ると、何かを呟いた。
「どちらさま?」 ザレックが尋ねた。
「ミルコ・ヴォスク」 かろうじて聞こえるほどの声でヴォスクは言った。
「ギルドは?」
「ディミーア家」

(小説『Dragon’s Maze; the Secretist part three』 より)


ラクドスの狂乱のお祭り騒ぎで「場馴れ」しているイクサヴァと滅多に人前に出ないのであろうミルコとの対比が実に際立っています。
そしてラルは最後に名乗りを上げようとしたイゼットの走者《イゼットの模範、メーレク》をワンパンKOすると自身が走者の名乗りを上げ、レース開始を宣言しました。好き勝手な方向に走り出す走者達、ですが正確なルートを知るジェイスはそこに現れてイマーラの手をとり、彼女を先導して迷路を走り始めました。ジェイスにとってはセレズニアのイマーラ、調和を謳うギルドの者こそが迷路を解く最良の候補者だったのです

そして二人は様々な妨害をくぐり抜け、イゼットのギルド門へと辿り着きました。ジェイスは偵察をして来ると言って一人で向かいます。そこでは稲妻をまとってラル・ザレックが待っていました。

ラル・ザレック


ジェイス VS ラル! ラヴニカへの回帰ブロックの小説で唯一の「プレインズウォーカー対決」です。ラルは迷路について自分の知らない何かを知っている、そう感じたジェイスは彼の精神へと侵入しますが、発見したのは全く別の驚きでした。彼はラヴニカ以外の世界を見たことがある。ジェイスは自分も同じ、次元を渡ることのできる存在だと明かします。ラルは驚きますが、だからといってギルド門を通させる理由にはなりません。そこにジェイスを心配したイマーラが現れます。何かに気付き、ラルは意地の悪い笑みを浮かべました。


「お友達は知らない、そうだな?」
「知らないって何を?」
「彼女を巻き込むな!」
「それだ。次元に縛られた者を卑下し、蟻みたいに扱う。それこそがプレインズウォーカーの証だ。幾つもの世界を見ては干渉してきた。そうなんだろう、ベレレン? いずれは、戯れに遊んだ相手を捨てて逃げてく。そしてまた別の新しい玩具を見つけて遊ぶんだろう?」

(小説『Dragon’s Maze; the Secretist part three』 より)


この場面はマジックではとても珍しい「男女三人の修羅場」のようでした。
ラルは嬉々としてジェイスの秘密を、彼はこの世界に縛られぬ存在だと語ります。ジェイスはイマーラとは昔からの友人ですが、プレインズウォーカーであることはずっと秘密にしてきました。概してプレインズウォーカー達は積極的に正体を明かそうとはしません。多元宇宙に生きるほとんどの者は、自分の世界の外に別の世界があることなど知りません。プレインズウォーカーの知識はそれを知らない者にとっての世界を根底から覆してしまうような危険を孕んでいます。

セレズニアギルドに仕える者は、議事会の全ての魂と全てを共有しなければならないという掟があります。全ての知識を。彼らはそれゆえに秘密を嫌います。信頼を寄せる古い友人が、そこまで深い秘密を明かさずにいたというのはイマーラにとっては裏切りに等しいことでした。

ドライアドの闘士勇士の再会

セレズニアの集合意識的な「世界魂」。
幾つかのカードのフレイバーテキストに登場しています。


イマーラはジェイスに背を向け、ギルド門の出口へと進みました。ラルはイマーラがギルド門を通過するのを見送りましたが、ジェイスを通す気はありませんでした。激しい雨が降り始め稲妻が光る中、プレインズウォーカー二人は対峙します。ジェイスはその視界の悪さを利用し、精巧な幻影を作り出してそれにギルド門を通過させ、ラルを誘い出してから自分も密かに門を抜け、イマーラを追い始めました。



5. 思考を築く者

ところで「プレインズウォーカー ― ジェイス」には2014年3月現在、4種類のバリエーションがあります。そしてカード能力だけでなく、それぞれのカード名もまたジェイスの持つ能力の一面を表現しています。例えば「精神を刻む者、ジェイス」には対象物に傷をつけて形を変えてしまうような、どこか攻撃的な意味があります。ですがラヴニカへの回帰のジェイスは「思考を築く者」。築く。何か大きなものを組み立てる。この名の意味が《迷路の終わり》にて明らかになります。

迷路の終わり


迷路の終わりにジェイスが辿り着くと、走者全員が入り乱れて戦っていました。ジェイスは争いを止めるよう訴えますが、そこにラザーヴが現れ、持ち前の変身能力を駆使して各走者をそそのかして更なる争いを煽ります。どうしようもない中、演壇の上に半透明の人影が浮かび上がりました。迷路の執行吏が広場を眺め、「評決」を下しました。執行吏の指先から放たれた魔力が走者全員打ち、彼らは皆何かに気付きました。

それが迷路の報酬でした。《至高の評決》、都市を破壊し尽くす恐ろしい呪文。そして走者達は皆、他のギルドを罰するためにそれを放とうとしていました。執行吏がアゾールの至高の評決を下すのではなく、彼は走者全員へとそれを下させる力を与えたのでした。
走者達の心は全て、それぞれへの怒りと非難に満ちていました。このままでは至高の評決が発動する、それを阻止すべくジェイスは再び「橋」となりました。ゼンディカーにてコーの母子へ試みた時と同じように。互いの心の内を見せ、理解させるために。彼は走者全員の精神を繋ぎ合わせ、互いの精神を覗かせ、その信念と生き方と希望を見せました。走者達は皆同時に全員の思考と感情に満たされ、精神の、人生の輪となりました。

そう、まさにジェイスは一つの思考を築いたのです。

争いは止み、至高の評決は未発に終わりました。迷路の執行吏、アゾールの代理人はこの様子を見て、ジェイスへと各ギルドの力の均衡を理解する調停者たる資格を認めて彼が「新たなギルドパクト」であると宣言し、その資格と力を与えました。


「君、ジェイス・ベレレンはギルド間の契約の生ける顕現となった。君がギルドパクトだ」
「どういうことだ?」
「君は調停者であり、十のギルドの考え方を理解する者だと自身を証明した。それゆえに、かつてと同様に、ギルドが衝突した時には、法の規則が彼らの間を調停するだろう。かつてと違うのは、君がその法だということだ」

(小説Dragon’s Maze; the Secretist part three より)


そして迷路レースが終了してからしばらくして。第十地区に建造中の「ギルド大使館」、そこで待っていたジェイスをイマーラが訪れました。彼女はジェイスへと、他の世界やプレインズウォーカーについての記憶を消して欲しいと願いました。セレズニアの者はあらゆる知識をギルド員で共有する義務があります。ですが他の世界の知識はギルドにとってあまりに危険すぎる。親しい友人の精神を「刻む」ことはジェイス自身の身を切られるほどに辛いことでしたが、彼は友人の頼みを受け入れました。



6. 残る疑問

ジェイスがギルドパクトとなり、また他の世界についてのイマーラの記憶を消去したところでドラゴンの迷路の物語は終わっています。ですがいくつか疑問が残されているかと思います。それを説明しましょう。

■つまりジェイスはどういう状態なの?

「『ジェイスがギルドパクト』ってなんのこっちゃ?」と思った人は多いでしょう。人なの? 魔法なの? なんか概念的なものになったの? この疑問について、背景ファンにはおなじみクリエイティブ・チームのDoug Beyerがわかりやすく説明してくれていました。抜粋して訳します。


彼はギルドパクトの生ける化身となりました、その裁定がラヴニカのギルドを拘束する、ある種の神秘的な調停者です。彼には議論の場を据え、ギルドが互いに滅ぼし合うことを防ぐための権限が与えられています。
(中略)
この先もしも、あるギルドが他のギルドを侵害するもしくは影響を与えるような何かを求めたなら、もしくは複数のギルドの管轄に及ぶ議論が発生したなら、それは生けるギルドパクトが解決すべき問題となるでしょう。
ジェイスは助力を必要とするでしょう――これは大変な仕事です。そしてギルドは間違いなくジェイスの好意を得ようとし、賄賂を贈り、もしくは率直に彼を脅すでしょう。
(中略)
ジェイスにとっては奇妙な変化です――彼はその責任を重く受け止め、ラヴニカ世界を深く気にかけています。ですがそれはまた彼をとても難しく、とても危険な地位へと押しやる事になります。「生けるギルドパクト」のニュースが広がれば、何千人もの人々が彼を殺そうとするでしょう。そしてもし彼が死んだならラヴニカやギルドがどうなるのか、それは彼にとっても定かではありません。
彼はまだプレインズウォーカーでもあります。ジェイスはラヴニカを離れても生けるギルドパクトであり続けますが、ラヴニカから離れることは彼をその義務から引き離すことであり、彼はラヴニカで常に時間をとられています。ラヴニカから離れて過ごす一瞬ごとに、彼だけが鎮めることのできるギルド間の破滅的な問題が持ち上がる危険を負うことになるのです。



ジェイス自身がギルドパクト、ギルド間の平和を維持するシステムそのものとなりました。ですが彼は未だ生身の人間であり、プレインズウォーカーです。ジェイスが死亡する、もしくはプレインズウォークしてラヴニカを離れたなら、ギルドパクト不在となりまたギルド間の争いが可能となってしまいます。

で、ここからは私個人の解釈なんですが――ギルドパクトそのものにある程度の自己防衛機能が備わっているのではないでしょうか。ギルドパクトの魔法は途方もないほどの細目まで気を配られて作られているはずです。何たってアゾリウス製です。そして「ギルドパクトである自分の身を守るために、ギルドパクトの権限を使え」。迷路の執行吏、アゾールの代理人はそう言っていました。そうやすやすと暗殺等はされないと思いますよ。


■「暗黙の迷路」を仕組んだアゾール一世とは何者だったの?

アゾリウス評議会の創設者、最高判事アゾール一世。その名前だけは旧ラヴニカブロックから出ていました。一万年前、ギルド間不戦協定魔法であるギルドパクトのほとんどを記した人間の男性です。この魔法によってラヴニカの十のギルドは時に小競り合いをしながらも、おおむね悠久の平和を享受してきました。彼の名を冠する「アゾールの公会広場」は、全ギルドの中立地帯であり活気溢れる公的広場です。

アゾールの雄弁家

つまりこのカード名にある「アゾール」は地名でしょうね。

旧作小説には「ギルドパクト締結という歴史的事件を再現する演劇の演者」のものですが、そのアゾール氏についての描写が少しだけありました。《演劇の舞台》というカードがあるように、歴史上の重要な出来事を元にした演劇というのはラヴニカにおいてポピュラーな娯楽のようです。


白い髭に禿頭、陽に焼けた顔は農夫のよう。だが白と青の最高判事の装いをまとっていた。

「我ら、ギルドの長達が血の署名を交わした時、この魔法はラヴニカが続く限りの平和を与えるだろう。我が友よ、我が敵よ、それはギルドパクト」

(小説『Ravnica: City of Guilds』 チャプター2より)


さて、ジェイスと執行吏との会話の中にこんなやり取りがあります。


「無理だよ」
「だが、君が法だ」
「でも俺は……この世界の者じゃない」
「アゾールもそうだった。だが彼の査定においてそれは重要なことではない」

(小説『Dragon’s Maze; the Secretist part three』 より)


驚きの事実、アゾール一世は「ラヴニカ出身ではない」

そして彼はギルドパクトという、次元規模を一万年に渡って拘束するほど強力な魔法を用いました。更に言えば、アゾリウスの歴代ギルドマスターはラヴニカの外の世界の存在を知っています。これらのことから導き出される結論は……すなわち、アゾール一世は旧世代プレインズウォーカーだったのではないかと私は思っています。まあ、あくまで推測ですよ。

もしそうだとして、大修復を過ぎてアゾール一世が今も生きているかどうかはわかりません。ですが彼から見たらジェイスは自分と同じ「ラヴニカを愛するプレインズウォーカー」でしょう。おまけに色も合ってます。そんな人物がギルドパクトになってくれたことは嬉しく思っているんじゃないですかね。


■今回の宣伝画像はどうだったの?

宣伝画像
――「必ずしも信用できないもの」を意味する、フェメレフの言い回し


「宣伝画像は必ずしもエキスパンションの内容をそのまま表現しているわけではない」とは過去何度か書いた通りです。ギデオン&オレリアのツーショットなギルド門侵犯爽やかで野心的な笑みのラル・ザレックなドラゴンの迷路は何の問題もないのですが、ラヴニカへの回帰がですね。



ラヴニカへの回帰、この宣伝画像には誰もが興奮したでしょう。ですが実はこの二人が顔を合わせ、直接会話をするというのはドラゴンの迷路のクライマックス、ジェイスがギルドパクトとなった直後に初めて実現しました。えー。


ドラゴンの目が彼を見下ろしていた。
ジェイスは急ぎ立ち上がった。ニヴ=ミゼットは広場のすぐ外、近くの建物にその巨体を休めていた。迷路走者達は皆、ジェイスとドラゴンとの遭遇を見上げていた。ラザーヴの姿はどこにもなかった。
ドラゴンは首を伸ばし、傾けて不確かな視線でジェイスを見つめた。その直立した瞳孔はジェイスのあらゆる動きをとらえようとしていた。湿り気を帯びた薄膜がその目を覆い、そして引っ込んだ。
「ギルドパクトは……修復された」 ドラゴンはゆっくりと言った。
「はい」 ジェイスは返答した。
ニヴ=ミゼットの鼻孔から煙が細く漏れ出た。彼は首をわずかに傾げた。「イゼット団は、セレズニア議事会へと宣戦布告したいのだが」 彼はそう言って、黄色い大きな瞳をぴくりと動かした。ドラゴンはジェイスの反応を推し量っていた。
「駄目だよ」 ジェイスは静かに言った。
ドラゴンの頬の刺がわずかに動いた。彼は太い首を曲げ、巨大な頭部をジェイスの顔の高さまで下ろしてその小さな全身を見据えた。ニヴ=ミゼットは二つの鼻孔から熱い煙をジェイスへと吹きかけ、その煙の向こうの彼を上から下まで眺めた。煙は拡散し、ジェイスは咳込みたい衝動を抑えた。ドラゴンは唇を動かし、象牙色の巨大な牙を見せた。
「うむ」
ニヴ=ミゼットは下がり、背筋を伸ばすと翼を広げた。広場全てを覆うほど大きかった。そして一つ力強い羽ばたきで、広場に風を巻き起こした。ジェイスと走者達が見守る中、ニヴ=ミゼットは宙へと舞い上がった。その視線をジェイスに定めたままで、だがやがて背を向けるとラヴニカの地平線へと姿を消した。

(小説『Dragon’s Maze; the Secretist part three』 より)


ここだけです。はい、本当にここだけです。
ラヴニカへの回帰単体の宣伝画像としては詐欺かもしれません、ですが新世代プレインズウォーカーの代表的存在であるジェイスとラヴニカ世界を代表する存在であるニヴ=ミゼット、この二人が今回のブロックで共演するという大ニュースを表現したものと考えれば……いいんじゃない?


■これからラヴニカはどうなるの?

ラヴニカ:ギルドの都ブロックにてギルドパクトの魔法が破壊され、ラヴニカへの回帰ブロックで修復されました。《ギルドのタブレット》のように、世界はぐるりと一周して元に戻りました。生けるギルドパクトの下、ラヴニカの十のギルドはきっとこれからもこの都市世界で、仲良く喧嘩しながら繁栄を続けるのでしょう。
新たなギルドパクトを担うジェイス自身も、とてもラヴニカに愛着を持っています。


二人が門へと向かおうとした時、イマーラは一瞬だけジェイスの手を握った。その接触は奇妙に複雑な感情で、息を呑むほど衝撃的で、それでいてジェイスがかつて感じた何よりも自然なことのように思えた。彼女はすぐに手を離し、その瞳を輝かせてジェイスを覗きこんだ。急ぎ二人で門のアーチをくぐる中、ふとジェイスの心にある想いがよぎった。彼が訪れてきたあらゆる世界の中でもラヴニカこそ、ある言葉で表現できる世界なのかもしれないと。プレインズウォーカーでない者だけが使うと彼が信じる言葉、「故郷」と。
(小説Dragon’s Maze; the Secretist part three より)


イマーラをセレズニアへと送っていった後、そしてゼンディカーへ辿り着いた時。ジェイスは二度も、ラヴニカから去ってもう戻らないことを考えました。ですが今や彼はラヴニカを故郷のように思っています。
そして「デュエルデッキ:ジェイスVSヴラスカ」のバックストーリーはラヴニカへの回帰の後日談、ギルドパクトとなったジェイスがギルド間の平和を脅かす暗殺者ヴラスカを対処しようとするというものです。これを見るにどうやら彼なりに精一杯、ラヴニカの平和に尽力しているみたいじゃないですか。頑張れ!

ちなみに今回の黒幕ラザーヴはといいますと、ジェイスとニヴ=ミゼットが顔を合わせる歴史的な場面の後、全く姿を見せていません。彼がどうなったのかは不明ですが、まあきっとディミーアはディミーアのまま、ラザーヴはラザーヴのまま今も色々なギルドの構成員に変身して忙しく働いているんじゃないでしょうか。それもまたラヴニカのあるべき姿なのでしょう、きっと。まあ、めでたしめでたし?

ラヴニカは、ギルドとともにあるこの次元は、誰もがとても愛し、大切にしたと願っている世界です。

もしまた回帰する時があるとしても、十のギルドが集う華やかで賑やかで魅力に満ちたこの都市世界はどうか、変わらないままでいてくれますように。

(終)




※編注:記事内の画像は、以下のサイトより引用させて頂きました。
『プレインズウォーカーのための「ラヴニカへの回帰」案内 その2』
http://mtg-jp.com/reading/translated/003808/
『「全」てを「知」る』
http://www.wizards.com/magic/magazine/Article.aspx?x=mtg/daily/ld/201
『バーリンの仰天話』
http://mtg-jp.com/reading/translated/ur/018355/
『The Look of an Awakening World』
http://www.wizards.com/magic/magazine/Article.aspx?x=mtg/daily/stf/76
『The Verdict Is In!』
http://www.wizards.com/magic/magazine/article.aspx?x=mtg/daily/pr/271
『新セット発表:ラヴニカへの回帰』
http://www.wizards.com/magic/magazine/article.aspx?x=mtg/daily/arcana/946