「プレインズウォーカーはいねがー!!」
こんにちは、毎日暑いですね。若月です。
皆さん、「実物大ガラク」は見ました? でかい。とにかくでかい。デュエルズ・オブ・ザ・プレインズウォーカーズ(以下、DotP)によればガラクは身長249cmとのことで、これは我々の次元にもそうそういるガタイではありませんよ。公式記事でイニストラード人に「とても人間とは思えなかった」と言われていたのも納得です。
プレイヤーがそんなガラクを追うという物語で進むDotP2015のストーリーモード。なかなか歯が立たないと各所で噂のラスボスですが、私は白黒ウィニーを使って、ラスボスが一度マリガンした後土地一枚すら出せない壮絶な事故の間にボコってクリアしました。CPUとはいえ「土地事故」というマジック世界の大法則には逆らえないのでした。名無。
そして同じく基本セット2015。「ガラクが様々な次元を巡りつつプレインズウォーカーを狩る」という設定を現すように、実に多種多様な、これまでにマジックに登場した次元を窺うことができます。連載第24回は、基本セット2015で巡る多元宇宙ツアーへ出発しましょう!
1. 基本セットの歴史と今回の特徴
基本セット、それは毎年初夏に我々プレインズウォーカーが帰る所。近年は「ファンタジーのフレイバー」を大切にしたセット作りがされていまして、例えば「刺激しすぎると目を覚ますドラゴン」「誰も見ていない時にだけ動く鎧」など、一目見てわかりやすいカードが沢山収録されています。
基本セットはマジックをプレイするにあたって根幹となるカードを収録したセットです。とはいえ「基本」と言いながら、近年は常に何かしら新しい試みが行われてきました。
■第10版:伝説のクリーチャー再録
近年、と言ったな。あれは嘘だ。もう7年前だ。
丁度この頃はコールドスナップ、時のらせんブロックと、ノスタルジックなセットが続いていました。懐かしい顔や大好きだったキャラクターと新絵・新枠で再会できて私はとても心躍りました。カマール・フェイジ兄妹が揃って再録されましたが、直前の時のらせんブロックではカマールの関係者として副官や後継者も登場していまして、スタンダードでカマール一族デッキが組めたくらいでした(実際組んだ)。
■M10:現在の基本セット形式(年一回)の開始、新規カードの収録
\アックザーン!/ 驚異のコストパフォーマンスと美しいアートを両立する《悪斬の天使》。二色土地の理想形の一つ、M10ランドには長いことお世話になりましたね。
■M11:キーワード能力再録
今も続く、「基本セットでのキーワード能力再録」。今年、基本セット2015では「召集」ということで面白い使い方のできそうなカードが沢山収録されていますね。そして《召喚の調べ》新絵再録まで! ところでヴェンセールVSコス版定業はせっかくのヴェンセール新絵なのになんで後ろ姿なんでしょうか……
■M12:新規プレインズウォーカー・カード
《精神を刻む者、ジェイス》の禁止が発表された直後だっただけに、基本セット2012のジェイスが一体どうなるのかはとても注目されていました。また、基本セットに入るプレインズウォーカーの顔ぶれが初めて変化した年でもあります(アジャニ→ギデオン、リリアナ→ソリン)。また戻ってきてもいいんですよギデオン?
■M13:多色カード収録
マジックの歴史上、基本セットにて初めて多色カードが収録されました(基本セットの拡張扱いのクロニクルにもありましたが)。公式記事曰く、「金枠は基本セットを貫くテーマというよりも、拡張セットを動かすテーマであると、そしてマジックをよりいっそう複雑な方向に持って行かせるものであると我々は考えている。だけど私は、もしそのルールを破る奴がいるとしたら、こいつしかないだろうと思った」。そしてボーラス様は基本セット2013の顔を務めました。
■M14:新スリヴァー(?)
\スリヴァーだー!/ 他の基本セットに比較して「新しい試み」かどうかは微妙かもしれませんが、スリヴァーの姿と能力適用範囲を変えるというのはかなり大きな試みだったと思います。基本セット2015でもスリヴァーが出ていましたね。究極メタリック・スリヴァーが更に強くなりますよ(防衛)。
そして今年、基本セット2015。多くの新規カードで、今までに過ごしてきた世界の「現状」が表現されています。以前も多少はありましたが(ジェイスの副官カヴィンがカード化されるなど)、今回ほど大々的なものは初めてです。
イニストラードは、《獄庫》に閉じ込められていたアヴァシンが復活して世界は天使の光に包まれ、闇の勢力に脅かされていた人間は息を吹き返しました。ですがまだまだ狼男や吸血鬼との戦いは続いているようです。きっとその証拠に、イニストラードの魂は闇の魂。その背の墓地が、今でもイニストラードの死者達が「祝福されし眠り」につくことは難しいのだと示しています。
ラヴニカはジェイスをその顕現としてギルド間不戦協定魔法「ギルドパクト」が復活しました(第20回参照)。世界を覆う都市と、時に手を取り合い時に小競り合いをする個性豊かな十のギルド。ラヴニカの本質は何ら変わらないまま、私達がまたいつか「回帰」する時を待ってくれているのかもしれません。
新ファイレクシア、各色の派閥が繰り広げていた権力闘争は、《大修道士、エリシュ・ノーン》が率いる白派閥が勝利を収めました。それを示すような《新たなるファイレクシアの魂》のホワイトピラミッドシング。日本語名が面白いと評判の《小走り破滅エンジン》もその禍々しいフォルムと背景の様子から新ファイレクシア製の気配がします。
そんな基本セット2015に登場する「次元」は、どれほどあるのでしょうか。単純な再録と、そのため今現在存在しない次元も含まれますが、それも含めて数えてみました。
訪れた記憶も新しいのはテーロス、ラヴニカ、イニストラード、新ファイレクシア。
いつだって帰りたいゼンディカー、いつだってそこにあるドミナリア、もうおなじみ
変わりはしたけれど今も健在のローウィンとアラーラ。一方今はなきセラの聖域とミラディン。
お馴染みのカードの新しいフレイバーテキストが示す世界は? 「年に一度、工匠ムッツィオの弟子となることを希望する者たちの作り出した飛行機械がパリアノ上空を埋め尽くす。」 ……フィオーラ!
計12の世界、この怒涛のラインナップ! 今まで、通常セットで扱われた次元は「帰らないよ」と言われた所(ウルグローサ、メルカディア、神河)以外は軒並み出ているのでは?
基本セット2015は「ストーリーが進んだ結果の、現状を確認する」、そして最近はDotPからマジックに入る、もしくはマジックに復帰する人が多いと聞きます。そういった層に向けてマジック世界の魅力を伝える、その意味もあるのだと思います。
2. 歴史的場所
基本セット2015に再録されている特殊土地は、過去のストーリーにおいて歴史的に重要な場所が選ばれているような感じがします。
■ダークスティールの城塞
そのきらめく塔に近づくと、グリッサは感嘆せずにはいられなかった。それが鋼、アルミニウム、チタニウムで造られていることはわかったが、パノプティコンの一部分は輝く水晶でできているように見えた。メムナークの城塞は空高く伸び、ミラディン内部のどんな構造物よりも高かった。
(略)
その頂上は針のように尖り、全てがガラスでできた部屋が置かれ、この内部世界へと入るものと出て行くもの全てを見ていた。
(小説『Darksteel Eye』より)
パノプティコン、ダークスティールの眼の溶鉱炉であり、ミラディンの守り手の本拠地。
(《ダークスティールの城塞》[DST]フレイバーテキスト)
第17回記事にも書きましたが、《ダークスティールの城塞》はミラディン世界の管理人《メムナーク》の居城であり、旧ミラディンブロックにて主人公《グリッサ・サンシーカー》とメムナークが対決した「最終決戦の地」でもあります。プレインチェイス(2009)の次元カードを紹介した公式記事「The Planes of Planechase」(未訳)にはこうあります。
ミラディン、パノプティコン
中空となっているミラディンの奥深く、その中央に奇妙な、パノプティコンと呼ばれる「魔術師の塔」が建っている。パノプティコンは、ミラディンの内部表面から次元のマナの核に向かって伸びている菌類に似た金属、マイコシンスの巨大な柱に囲まれている。《メムナーク》はこの隠された見張り塔から、次元の生態系を魔法的に何世紀にもわたって監視してきた、そしてここに旅したプレインズウォーカーは、万能に近い知覚力というアドバンテージを得ることができる。
《ダークスティールの城塞》のアートをよく見ますと、その尖塔の先に何かがくっついているのがわかると思います。それを拡大したものがプレインチェイスのカードに描かれた「パノプティコン」。更にパノプティコン/ Panopticonはマジックの固有名詞ではなく、現実世界に存在する英語の普通名詞です。意味は「中央の監視局の周りに独房が配置された円形の監獄」「全展望監視システム」。その名の通りにメムナークはここから、世界中に放ったマイアの目を通してミラディン次元を監視していました。
■ヨーグモスの墳墓、アーボーグ
今回は、正しい場所にやって来たのは間違いなかった。巨大な要塞が地平線を占拠していた。頭上、血の赤色をした雲と黒ずんだ煙の空に、暗黒の岩が巨大な楔となって突き刺さっていた。
「ようこそ、アーボーグへ」 テフェリーが言った。
「何これ」 ラーダが返答した。「腐った硫黄だ」
その悪臭は実際、ひどいものだった。古い油と腐った肉、沸き立つ灰汁のむせかえる臭いだった。ジョイラはその幅広の袖で口と鼻を覆った。
(小説『Time spiral』より)
そしてこちら、誰もがその再録に驚いたアーボーグ。基本セットに「伝説の土地」が収録されるのも初です。「アーボーグ」という名はとても古く、初出はレジェンドのその名も《Urborg》と、《Gwendlyn Di Corci》のフレイバーテキストでした。
アーボーグはドミナリア次元の南方に広がる諸島で、多くが沼地に覆われています。ドミナリアで最も黒マナが豊富な地の一つとして知られ、強大な力を持つ黒魔術師や死者の王の住処です。ファイレクシアのドミナリア侵略においてアーボーグは最初にファイレクシアの手に落ち、「次元被覆」によって敵の本拠地、《ヴォルラスの要塞》がアーボーグの火山の中心に転移してきました。ああそうだ、「ヨーグモスの墳墓」とはありますが、ヨーグモスは《レガシーの兵器》で「obliterated/痕跡も残らず抹消された」ので、実際にこの地に遺体が眠っているとかそういう訳ではない筈です、たぶん。
そしてアーボーグはまた、多くの有名なキャラクターの出身地でもあります。
守護天使との悲恋から悪の運命と呪いに堕ち、かつての仲間の前に敵となって立ちはだかる。切なくも熱い物語は今も多くのファンを引きつけているクロウヴァクス。
それまでのゾンビ・ロードとは一線を画す強さだった《アンデッドの王》。時のらせんブロックにて改めてアーボーグの死者の王ドラルヌ卿として、キャラクター本人としてカード化されました。
そしてこの連載でもう何回書いたかわかりませんね。時のらせんブロック、次元規模の災害「時の裂け目」の調査のためにアーボーグへとやって来た《ザルファーの魔道士、テフェリー》達はここで、《造物の学者、ヴェンセール》と歴史的な出会いをします。その色白の肌からはよくわかりませんが、実は南国出身のヴェンセール。青→白青のザ・善人な彼がこの「黒マナ」の濃い土地出身というのも意外です。
ああ、ヴェンセールで思い出しました。彼は「精神攻撃に強い」という特性を持っているのですが、それは彼がこのアーボーグ出身であるが故です。アーボーグは夜魔の棲む地、精神に囁きかけて正気を蝕む化物は身近な存在です。アーボーグの夜魔。そう、あれですよ!
《吐息の盗人》+《残忍な影》+《アーボーグの豹》=《夜のスピリット》!
懐かしくも心ときめく《夜のスピリット》。「合体クリーチャー」の系譜は《デルレイッチ》《闇の末裔》(《語られざるもの、忌話図》も?)、最近では《死の門の悪魔》《影生まれの悪魔》と、脈々と受け継がれています。
更に、歴史的重要地点はこれだけではありません。誰もが驚いた今回の、ダメージランドの再録。もしかしたらこれも「多元宇宙名所ツアー」の一つなのかもしれないと私は思っています。
その行き先は、とても懐かしいあの次元。
3. ドミナリアの記憶
基本セット2015の二色土地は対抗色ダメージランド。この再録の意味やそれによるマナ基盤の変化といった話は置いておくとして、この対抗色ダメラン、中でも《戦場の鍛冶場》以外の4枚に含まれた固有名詞。コイロス。ラノワール。シヴ。ヤヴィマヤ。これらは全てドミナリア次元の、マジックの背景ストーリーにおいて歴史的にとても重要な地名です。
ラノワールとシヴはアルファ版から登場。コイロスはアンティキティーから、ヤヴィマヤはアイスエイジから。マジックの多くの世界だけでなく歴史も旅する基本セット2015では、久しぶりにこの対抗色ダメランという形でドミナリアにも帰ってきました(まあ、以前も《ベナリアの古参兵》とかこっそりいましたけど)。
ところで第17回記事でも紹介しましたが、旧ミラディン小説の冒頭にて金属世界アージェンタムからドミナリアを思うメムナークのこの描写。
メムナークは豊かに生い茂る緑の森を思い出した。彼はまた、波に揺れる極彩色の珊瑚の都市を、蒼穹の下に聳える雪化粧をした鈍色の山々を訪れていた。地平線まで果てしなく続く草原の海を旅し、そこに生きる人々を見てきた。ミラーリとして、彼はありとあらゆる生き物を記録し続けていた。世界は、生命と色彩に満ちていた。
(小説『Moons of Mirrodin』より)
古いですがネメシスの小説、荒涼としたラース次元の者がドミナリアを初めて見た時のこの描写。
「誰も見たことのないものをお見せしましょう」
タカラが慣れた手つきで操作盤を動かすとラースの半球が消え、代わりに鮮やかに彩られた球体が現れた。ラース、灰と緑と茶のくすんだ色から成るそれに比べると、この世界は目もくらむような色彩で満ちていた――眩しくきらめく青い海、黄と赤の砂漠、煙る紫色の山々。大気に散らばる羽根のような白い雲が、その色の鋭さを和らげている。全てが宝石のようだった、女王の額を飾るにふさわしいような。
この彩りの世界の何かが、エラダムリーの中の奥深くを動かした。
「これは?」
「ドミナリアです」
同じくネメシス小説、ラストシーン近くから、《隆盛なるエヴィンカー》との決闘に敗れたヴュエル(《墜ちたる者ヴォルラス》の本名)が処刑される間際に目にしたものの描写。※ややグロ注意
耳と鼻が顔から滑り落ち、最後の息とともに歯も落ちるその時、ヴュエルは見上げた。そして目にした――ラースの永遠の灰色の空が、雲一つない完璧な青空に変わるのを。それはドミナリアの空だった。シダー・コンドーの息子ヴュエルは、最後の最期に、故郷へと帰り着いた。
(共に、小説『Nemesis』より)
マジックが始まった次元、ドミナリア。この世界を外から見る時、決まって言及されるのはその「鮮やかな色彩」です。上で述べましたアーボーグもその一つ。ドミナリアがその名を轟かすのは長い歴史と、色とりどりの豊富なマナ。ここでは、懐かしくも新鮮に映るそれらのロケーションを紹介しましょう。
■ラノワール
ラノワール。マジックプレイヤーに最も知られた地名の一つであることは間違いないかと思います。最も有名なカード、《ラノワールのエルフ》は基本セット2012を最後に再録が途切れていますが、同型再版の《エルフの神秘家》となって今も様々なデッキを支えています。ラノワールの豊かな緑マナを最もよく表しているであろうアートが、これもプレインチェイス(2009)にあります。
ドミナリア、ラノワール
かの有名なラノワールの森。空高くそびえる幅広の梢、生命が勝ち誇り賛歌を歌うその巨木の群葉はほとんど太陽の光をまだらに隠してしまう。ラノワールの空気は生命力に満ちていて、その住人達へと緑の魔法の生来の力を沁み込ませている。ファイレクシア、そしてカローナがもたらした破壊から蘇った地域の一つは、大きな魔法の仕事を請け負う前にドルイドの修行をする最適な地の一つである。もし君がエルフ達へと、小枝を踏み折っても骨を折らないと約束させられるなら。
アーティスト、Kev Walkerはラノワールにとって馴染み深い人物だ。《ラノワールのエルフ》と《ラノワールのビヒモス》両方のカードの最新版を描いてくれている。私はこのアートの素晴らしい光の具合をただただ愛している。これほどの緑の支配の下では、昼か夜かということは問題ではなくなる。
何て圧倒的な、美しい緑。
そしてラノワールといえばやはりエルフなのですが、日本におけるエルフのイメージとかけ離れた「眼帯にモヒカン」というビジュアルもさることながら、《ラノワールのエルフ》のフレイバーテキストを初めて読んだ時、「こわっ!」と思った人は多いのではないでしょうか。
フレイバーテキスト
小枝を踏み折れば、骨を折ってあがないとする。
――ラノワールの侵入者への処罰
このフレイバーテキストが示すように、ラノワールの住人達は排他的で、侵入者に対して容赦のない性質で知られています。とはいえファイレクシアのドミナリア侵略の際には、ラース次元から訪れた《葉の王エラダムリー》達と固く手を取り合い、世界のために共に戦いました。
■シヴ
バリンは体勢を立て直した。硫黄を含んだ風が彼のローブをはためかせ、ケルドの戦いで沁みついていた最後の悪臭を奪い取っていった。彼はその地を見下ろした。
ここでは、世界の肉体は溶岩で化膿したもろい外殻だった。あらゆる方角にカルデラ、煙を吐く山頂、マグマの海、蒸気口、渦巻くように固まった岩、玄武岩の崖、節くれ立った黒曜石、軽石、火山灰、硫黄……
(小説『Invasion』より)
シヴは赤マナの土地です。上に書いたように初出はアルファ版。《シヴ山のドラゴン》の存在はその地の様相を決定づけました。熱い赤マナの豊富な、ドラゴンの住まう地へと。上に同じプレインチェイスの記事からまた抜粋して訳します。
ドミナリア、シヴ
火山の噴火に絶えず揺れ、火山灰を含んだガスが立ちこめ、そしてドラゴン達が支配するシヴ地域はドミナリアで最も赤マナが優勢な地域の一つである。最近 テフェリーがそのプレインズウォーカーの灯を捧げたことによりドミナリアへと完全に帰還したシヴは、スラン帝国の時代まで遡る深い歴史がある。巨大なマ ナ・リグからパワーストーンを作り出し、その文明のエネルギーとしていた。今日ではスランの機械よりは炎を吐くドラゴンを君は多く見つけるだろう、だがそれは赤のマナを力の源とする攻撃の鍵となる役割を今日もまだ担っている。
更に、From the Vault: Dragonsの「説明書」にはとても興味深い、「シヴ」という名の由来が説明されていました。それもリチャード・ガーフィールド博士によって。抜粋して訳します。
「Shivan」の名前は「Shiva/シヴァ」、しばしば破壊神として知られるヒンズー教の神から来ています。私は若い頃、数度インドで過ごしており、それは常に私の中にありました。
シヴァ! メガテンくらいでしか知りませんがこれには驚きました。
またシヴといえば、個人的に好きな面白フレイバーテキストがあります。
《酸性土》フレイバーテキスト
ファイレクシアはウルザの魂を奪い取ろうとした。シヴは単に彼の靴底を奪い取ろうとしただけだったので、ウルザはほっとした。
旧世代プレインズウォーカーなんですから、靴くらいどうにかして下さいウルザさん。
■コイロス
ここは歴史的な場所だと彼女は知っていた。メゲドンの隘路、かつてそう呼ばれていたそれは、スラン帝国の都市ハルシオンへと陸路で至る最も確実な道だった。この窪地の下方、狭い谷となったそこで、スランの軍勢がファイレクシアとの戦いへと進軍した。彼らはその戦争で完全に破壊された、あのお方の大いなる叡智によって。だが、いかにしてか、スラン帝国の者達はあのお方をこの世界から、ドミナリアから閉ざした。サーボ・タヴォークの戦士達は侵食されゆく崖から飛び立ち、広大なコイロスの平原へと降り立った。地平線の彼方に、一つの露頭が姿を現した。
それは、かつて聳え立っていたハルシオンの、ただひとつの残滓だった。その露頭の地下の洞窟は――忌み者の洞窟、かつてそう呼ばれていた――ファイレクシアへの永続的ポータルを隠していた。それは六千年の昔、あのお方がドミナリアから追放された際に閉ざされた門だった。それは四千年の昔、ウルザとその弟ミシュラが再び開き、兄弟戦争の始まりとなった門だった。それは裏切り者ザンチャによって再度閉ざされた――あのお方もそれをよしとした――侵略が始まるまでのこと。
今や、門は開け放たれていた。地上にある唯一の門。それはサーボ・タヴォークのものだった。
(小説『Invasion』より)
インベイジョンの小説にて、《サーボ・タヴォーク》がこの土地の来歴をわかりやすく語ってくれていました。コイロスの初出はアンティキティー、《Mightstone》《Weakstone》のフレイバーテキストです。
《Mightstone》フレイバーテキスト(公式訳ではありません)
弟ミシュラ、師トカシアとともにコイロスの聖なる洞窟を探索していた際、ウルザはタグシンの間に辿り着き、そこで彼はあの驚くべきマイトストーンを発見した。
《Weakstone》フレイバーテキスト(公式訳ではありません)
あの兄弟が子供の頃、トカシアは彼らをコイロスの聖なる洞窟の探索へと連れて行った。その中、タグシンの間にて、ミシュラはあの神秘的なウィークストーンを発見した。
ウルザとミシュラ。彼らの名もアルファ版から存在しました。二人は少年時代にこのコイロスの洞窟にて発見したアーティファクト、《Mightstone》《Weakstone》を奪い合ったことから仲違いをし、決別し、やがてそれぞれが成長して地位を手に入れると兄弟の争いは国家規模の戦争となって再発しました。それが四千年以上の昔、争いの果てにドミナリアに荒廃と長い氷河期をもたらしたあの「兄弟戦争」です。それだけではありません。《Mightstone》《Weakstone》を手にしたことで兄弟は、ファイレクシアへの扉を開けてしまったのでした。
ただの白黒土地と思うなかれ。コイロスの洞窟は兄弟戦争の始まりの地、歴史の始まりの地です。
■ヤヴィマヤ
彼女は少し塩気のある空気を深呼吸した。ヤヴィマヤは今も瑞々しい、野生の楽園だった。空に触れるほどの巨木、それらの露出した根は地面でもつれ、容易に通り抜けることはできない。島の端では切り立った崖に沿って、人間の大人ほどもある太さの茨の茎が奔放に伸びていた。彼女の拳ほどもある刺の昆虫がその刺の上を物憂げな音を立てて飛び、その向こうは馬の頭をそのまま食いちぎり、丸ごと飲み込んでしまえるような顎を持つ食虫植物の広がる平原だった。
(略)
「信じられない」 ヴェンセールは言った。彼は目を大きく見開いて、巨木の森を凝視していた。彼はジョイラへと振り返って言った。「これで、何百年もマナを吸い取られているのか?」
「ここは、始まりの時からして強いの」 ジョイラはそう言った。
(共に小説『Future Sight』より)
この地名こそ初出はアイスエイジと他の3つよりも後ですが、ここも負けず劣らず、マジックの物語の歴史において重要な役割を果たしてきた土地です。上でも述べましたウルザとミシュラの兄弟戦争、その最終決戦の地アルゴス。
《踏査》フレイバーテキスト
最初の探検隊員はアルゴスを自然の富の宝庫だと思った ――― 豊富な鉱脈の上に生い茂る豊かな森の国だと。
《ガイアの揺籃の地》フレイバーテキスト
ここにアルゴスの最初の若木が芽を出した。ここで最後の木が倒れるだろう。
――― シタヌールの古老ガメレン
これも何度か書いてきましたが、兄弟戦争の最終決戦にてウルザはファイレクシアに堕ちた弟の姿に絶望し、《Golgothian Sylex》の力を解放してアルゴスを消し飛ばしました。おのれウルザー! 未来予知の小説には、ヤヴィマヤはそのアルゴスの灰から興ったとあります。そして工匠同士の戦争から大地を荒らされた記憶を強く残していることから、森そのものがアーティファクトに対して敵愾心を抱いています。「ドミナリアの緑の地」ということでラノワールとかぶる所があるように思えますが、ヤヴィマヤはその住人達というよりは森そのものが強大な意志を持ち、害する存在を排除します。
《ヤヴィマヤの接ぎ穂》フレイバーテキスト
鋸の刃が当たるたびに、木はそれを吐き出した。
《古えの遺恨》時のらせん版フレイバーテキスト
時の裂け目は、ヤヴィマヤに過去の敵を思い起こさせ、その火に新たな燃料を満たす。
《ヤヴィマヤの接ぎ穂》は珍しい「プロテクション(アーティファクト)」、《古えの遺恨》は見ての通りのアーティファクト破壊呪文であり、そのカード名からもアーティファクトへの長年の恨みが感じられます。ヤヴィマヤが持つ意志というものがカードの能力とフレイバーテキスト、その両方で表現されています。そのため、ウルザが対ファイレクシアの協力を求めて訪れた際にヤヴィマヤは彼を拒否し、森は彼を取りこんでアルゴスの知る苦痛を与えました。ですが後にヤヴィマヤもファイレクシアの脅威を理解し、この地そのものの化身である《マローの魔術師ムルタニ》はウルザの盟友となり、ウェザーライト号の製作に尽力しました。
4. プレインズウォーカー達の現在地
On the road 誰も旅の途中……そんな多くの世界を渡り歩くのはガラクだけではありません。今回もおなじみのプレインズウォーカー達が新規デザインで登場しました。それも、「物語を経た、現在の姿」として。
今回のアジャニがまとう、どこか見覚えのある白いマント、そして減った白マナシンボル(=信心)……個人的に「アジャニはテーロスで傷心の最中だろうから今回出るのかなあ」と思っていたのですが、こう来たか!
今やラヴニカのお偉いさん、DotP2015でイケメンボイスを披露してくれているジェイス。実際イメージぴったりだと思います。今回の彼は「調整版神ジェイス」とでも言うべき能力でしょうか。ところで髪切りました?
ガラクが黒緑になったのですが緑単色のプレインズウォーカーは?そう、ニッサちゃんが堂々の基本セット入り
そんな基本セット2015のプレインズウォーカー達についても、次回以降にそれぞれ詳しく話していこうかと思います。そろそろタルキール覇王譚の足音も聞こえてきましたし、統率者(2014年版)ではなんと「旧世代」達が現在のプレインズウォーカーのシステムでカード化とか! ああ、まだまだ語り尽くせないマジックの世界。今後も目が離せません!!
(終)
※編注:記事内の画像は、以下のページより引用させて頂きました。
『The Planes of Planechase』
http://archive.wizards.com/magic/magazine/Article.aspx?x=mtg/daily/stf/54