ワールドウェイクがデベロップの卓上にあったとき、ゼンディカーのプレインズウォーカーは3種類ともあまりにも弱かったと気づいていました。
――アーロン・フォーサイス「スタンダードの禁止に関する声明」より
あのう、私だって一応販促する側ですからどんなカードでも「弱い」とか「使えない」とか「駄目」とかなるべく書かないようにしていますよ? それが、よりによってプレインズウォーカーが公式からこんなことを言われてしまうなんて。思えばあいつが来るまで、「弱い」ことをネタにされるプレインズウォーカーは彼女でした。
ですが時は流れ、同じ彼女の新たなカードが、プロツアートップ8のデッキに4枚投入される大活躍
こんにちは若月です。すごいですよニッサちゃん、基本セット2015の栄えあるトップレアですよ。そして誰もが気になっているでしょう、今ゼンディカーがどうなっているのか。今回は基本セット2015で再登場して華々しく活躍しているニッサと、ゼンディカーの現状についてお話しします。
1. ゼンディカーとエルドラージ
さてニッサ本人の話をする前に、ニッサの物語に至るまでのゼンディカー世界の経緯を説明しましょう。
遥かな昔のことでした。エルドラージは「久遠の闇」、次元と次元の間の混沌を彷徨っていました。彼らは次元から次元へと渡り歩いてはマナと生命力を貪り食いました。物理的な肉体や属する色を持たない彼らは、ただ食らうためだけに存在していました。数えきれない世界がエルドラージの犠牲となりました。
そして三人のプレインズウォーカーが、エルドラージを対処すべく立ち上がりました。精霊龍ウギン、吸血鬼のソリン・マルコフ、そして名も種族も知られていない「Lithomancer/石操術士(仮訳)」。ですが、例え旧世代プレインズウォーカー三人がかりであってもエルドラージは太刀打ちできない存在でした。そこで三人は窮余の策として、エルドラージを一つの世界に永久に幽閉しようとしました。
そして豊かなマナと瑞々しい生態系を備えた次元、ゼンディカーが選ばれました。ウギンは無色の炎のブレスでエルドラージを攻撃し、ソリンがエルドラージを「美味しそうな」ゼンディカーへとおびき寄せ、石操術師がエルドラージに物理的な姿を取らせ、更に菱形の岩「面晶体」からなる封印ネットワークを構築し、次元規模の牢獄にエルドラージを閉じ込めました。
それは「エルドラージをゼンディカー世界に閉じ込めるための牢獄の柵」です。
その場所はアクーム大陸、山脈地下深くの秘密の空洞「ウギンの目」。更に三人は魔法的な鍵をかけました。その鍵はプレインズウォーカーの灯が三つ揃い、そしてウギンの「無色の炎」が放たれた時にのみ開く、という計画でした。
その罠と牢獄は作動しました。エムラクール、ウラモグ、コジレックの三体は物理的な姿を取らされて面晶体のネットワークに閉じ込められ、幽閉呪文の魔力によって活動停止状態へと沈みました。任務が完了し、プレインズウォーカー達は解散してゼンディカーから去りました。
ですがその牢獄の束縛は、エルドラージ達にとっては緩いものでした。やがて彼らは面晶体の牢獄の柵を試し、覚醒しました。ただ全てを食らうことを目的とし、破壊の力をゼンディカーの豊富なマナと生命力に向けました。落とし子達も生み出され、歩くだけで全てを塵と化す大エルドラージとともに彼らはゼンディカーの自然も文明社会も同じく引き裂きました。この時に古のゼンディカーの文明は破壊し尽くされ、今ではその名残すらほとんど見かけることはありません。
ゼンディカーは不毛の地と化すかに思われました。一方で《ウギンの目》の魔法は保持されており、大エルドラージ達が霊気の姿へと戻りゼンディカーを去ることを防いでいました。プレインズウォーカー達は一旦帰還し、呪文を強化してエルドラージ達をもう一度牢獄へと閉じ込めました。改めて三体が逃亡する危険がないことを確認し、彼らは再び解散しました。
それから数千年。エルドラージは力を蓄えながら、再び解き放たれるその時をただ待ち続けていました。
そしてある時、古のドラゴンにしてプレインズウォーカー、ニコル・ボーラスがエルドラージの存在に気付きました。彼は下僕の一人、サルカン・ヴォルをウギンの目へと監視に向かわせました。
偶然か否か、サルカンの他にもう二人のプレインズウォーカーがウギンの目へと向かっていました。謎めいた巻物によってゼンディカーへと導かれ、ウギンの目を宝物か何かと信じるチャンドラ・ナラー。彼女を追うジェイス・ベレレン。ウギンの目を侵入者から守るように命令されているサルカンは、二人と対峙します。
サルカン、ジェイス、チャンドラ。プレインズウォーカーの灯が三つ。
戦いの中、チャンドラはジェイスの助言を受け、「無色の炎」をサルカンへと放ちます。
……こうして、牢獄の鍵が開かれました。
そんな感じで、ニッサが旅を始める直前のゼンディカーは、エルドラージの牢獄の「鍵が開いた」状態ではありましたが、エルドラージ達の封印そのものは保持されていました。また、封印が緩んだことを察知し、ソリンは古の約束を果たすためにゼンディカーを再訪しました。ですが約束をしていた筈のもう二人の姿は何処にもありませんでした。
ところで最近、そのウギンの名前をやたらと目にしますよね……。タルキールで何が待っているんでしょう?
2. ゼンディカーのニッサ
そして、登場したニッサ。ゼンディカーにてカード化された彼女ですが初登場は更に早く、DotPシリーズの「初年度版」にあたる「Magic: The Gathering Duels of The Planeswalkers」(2009年発売)でした。
ラルと似た登場の仕方だったんですね、ニッサの方が先ですが。そんな彼女のデッキは黒緑エルフ。ニッサはゼンディカー世界でも深い密林と危険な沼地で知られるバーラ・ゲドの出身のため、黒のマナと深い繋がりを持ちます。更に彼女はローウィン世界を訪れ、現地のエルフと接触した経験からも黒のマナに結構な造詣があります。ですが知っての通り、ゼンディカーにてカード化されたニッサは緑単色でした。
+1: あなたのライブラリーから、「ニッサに選ばれし者」という名前のカードを1枚探し、それを戦場に出す。 その後あなたのライブラリーを切り直す。
+1: あなたはあなたがコントロールするエルフ1体につき2点のライフを得る。
-7: あなたのライブラリーから望む数のエルフ・クリーチャー・カードを探し、それらを戦場に出す。 その後あなたのライブラリーを切り直す。
ここで彼女にとっては不幸なことに、世はアラーラ・ゼンディカーブロックスタンダード、ジャンド全盛時代。
3 《沼》 3 《山》 2 《森》 4 《新緑の地下墓地》 4 《野蛮な地》 4 《根縛りの岩山》 3 《竜髑髏の山頂》 2 《巨森、オラン=リーフ》 -土地(25)- 4 《朽ちゆくヒル》 4 《芽吹くトリナクス》 4 《血編み髪のエルフ》 2 《野生の狩りの達人》 2 《若き群れのドラゴン》 -クリーチャー(16)- |
4 《稲妻》 1 《噴出の稲妻》 2 《終止》 4 《荒廃稲妻》 3 《大渦の脈動》 3 《瀝青破》 2 《野生語りのガラク》 -呪文(19)- |
4 《ゴブリンの廃墟飛ばし》 3 《大貂皮鹿》 3 《強迫》 2 《ジャンドの魔除け》 2 《思考の大出血》 1 《大渦の脈動》 -サイドボード(15)- |
すごい! なんだかマジックの記事みたい!!
「+1」能力を使っても忠誠度が3にしかならないニッサは《血編み髪のエルフ》からの《稲妻》や《荒廃稲妻》、《大渦の脈動》で簡単に対処され、折角呼び出した《ニッサに選ばれし者》は《芽吹くトリナクス》《朽ちゆくヒル》を突破できず……かろうじて緑単<エルドラージの碑>デッキにて使用された実績を残しただけでめっきり見なくなってしまったのでした。
すごい、この連載がマジックの話してる!!
さて実際のカードではそんなだったニッサですが、実はゼンディカーブロックの小説『Zendikar: In the Teeth of Akoum』では主人公を務めていました。故郷を離れ、タジュールのエルフと共に過ごしていたニッサは、ある時奇怪な「落とし子」の襲撃に遭い、また吸血鬼を従えた不思議な青年と出会います。
第7回記事にも少し書きましたが、ゼンディカー小説はニッサ・ソリン・アノワンの三人を中心とした物語です。上の画像がその表紙絵ですが、ニッサとソリンと、中央に小さくアノワンが後ろ姿で見えています。
ニッサはソリンに案内を請われ、遥か遠くアクーム大陸を目指す旅に出ます。彼女にその義理は特になかったのですが、「落とし子達はエルドラージの先兵、それらを止めなければならない」というソリンの言葉を聞き、そしてある程度受け入れられていたとはいえタジュールにて常に疎外感を否定できなかったこともあり、その地を離れることを決意しました。
ソリンは覚醒しかけているエルドラージを対処するためにゼンディカーを再訪し、偶然出会った? ニッサに協力を仰いだのですが、そのわりには詳しい説明をすることも特になく道中もずっと謎めいた態度でいました。妙に博識かつ不敵な物腰ながら時に拍子抜けするほど弱かったり、格好つけながらも高い所が苦手だったりと本当に「謎の人物」でした。ニッサは彼がプレインズウォーカーであることは薄々気が付いていたのですが、吸血鬼だとは物語のかなり終盤まで気付きませんでした。同じ吸血鬼でもゼンディカーとイニストラードでは姿や性質が多少異なるためでしょうかね。
一方アノワンはゼンディカー考古学に精通した学者です。エルドラージの研究をする中、彼はプレインズウォーカーではないにもかかわらず自力で「ゼンディカーの外の世界」の存在に気付きました。そして普段は寡黙なのですが、質問を受けたり興味のある事となると途端に嬉しそうに饒舌になるあたりがいかにも学者さんという感じで微笑ましい。彼とニッサは過酷な冒険を共にする中で命を助けまた助けられ、ある程度の信頼関係を結ぶに至りました。そういえばZENニッサのエルフ贔屓の能力、そして過去の公式ウェブサイトの紹介記事からも「エルフ至上主義」が見え隠れしていた彼女ですが、小説では内心でこそ他の種族を見下しつつもそういった態度を取ることは然程ありませんでした。ですがもしかしたら、彼女の初期忠誠度が2と低いのは「我々がエルフではないから」なのかもね?
「エルドラージの霊と語る」らしきコーの女性Smaraと彼女に従うゴブリンのMudheel。
旅の中で、ニッサは「エルドラージを解放しなければいけない」という思いを強くしていきました。それは故郷ゼンディカーを守るため。彼女が愛するゼンディカー世界の自然がまるで敵意に満ちているように荒々しいのは、その内にエルドラージが封じられているからなのです。多元宇宙は危機にさらされるかもしれませんが、少なくともこの世界から脅威は去る。……「この世界こそ荒らされるが、多元宇宙は危機から切り離される」と考えたソリン達とは正反対です。ニッサはプレインズウォーカーとして覚醒してからまだ日が浅いらしく、訪れたことのある次元の数も然程多くないとZEN小説で述べられています。
事実、ニッサが訪れたことのある次元は少数だった。一つはそびえ立つ建造物が密集した、唖然とするほどの大都市だった。彼女はその街路を一時間程歩いたが、人々の数も建物の高さも増すばかりで、緑は全く見かけなかった。彼女はすぐにそこを去った。
(小説『Zendikar: In the Teeth of Akoum』 チャプター11より)
そして辿り着いたアクーム大陸、ウギンの目でニッサは封印の最後の鍵となる面晶体を破壊します。ですが知っての通り、そしてニッサの思惑とは裏腹に、エルドラージ達はゼンディカーから離れることはせずにその世界を蹂躙し始めたのでした。ソリンは彼女の行動に呆れてゼンディカーを去り、ニッサはジョラーガへの帰路につきました。道中、世界がエルドラージに荒らされた様子を目の当たりにしながら。
枯渇した大地に種を捲きながらニッサは誓うのでした、すぐにソリンを追いかけ、解決策を見つけると。今までずっと疎外感を抱いてきた原因であるプレインズウォーカーの力、それを世界のために役立てるのだと。
3. ゼンディカー世界の現状と「世界を目覚めさせる者」
そのように、エルドラージが解放された所でゼンディカーブロックは完結しました。そして実時間で4年が過ぎ、最近ようやくその世界の現状が語られ始めました。
幸いにしてゼンディカーはエルドラージに食らい尽くされて滅びたということはなく、RTRブロックの小説においてもジェイスが一時的に訪れていました。また、公式記事「プレインズウォーカー達の現状」によりますと、どうも不吉なことが起こっているようです。「エルドラージは既に久遠の闇へと去ってしまったのかもしれない」と。過去に一度エルドラージが封印から目覚めた時は、「ウギンの目の魔力は保持されていたためにゼンディカー次元を離れることはできなかった」らしいのですが、今回はどうも違ったようです。
ニッサは一度ソリンを追いかけてゼンディカーを離れるも、やがて彼の痕跡を見失い、故郷の世界へと戻ってきました。三大エルドラージでも、《無限に廻るもの、ウラモグ》はゼンディカー世界に留まっているらしく、M15ニッサのプレビュー記事は、ニッサの故郷ジョラーガがウラモグに破壊される所から始まっていました。
ニッサ曰く「腐った肉と茸と硫黄の臭い」だとか。
ニッサはエルドラージと戦うために世界に留まっていましたが、それが希望なき戦いだということも薄々感づいていました。それでも、死にかけていた所を人間に救われてその温かさに触れ、また世界の現状を実感して、種族を越えたゼンディカーの全てが手をとり合って生きていかねばならないという思いを新たにします。
+1: あなたがコントロールする土地1つを対象とする。それはトランプルを持つ4/4のエレメンタル・クリーチャーになる。それは土地でもある。
+1: 森を最大4つまで対象とし、それらをアンタップする。
-7: あなたのライブラリーから望む数の基本土地・カードを探し、それらを戦場に出す。その後あなたのライブラリーを切り直す。それらの土地はトランプルを持つ4/4のエレメンタル・クリーチャーになる。それらは土地でもある。
M15ニッサのカード名にある「世界を目覚めさせる者/Worldwaker」を見て、「世界を目覚めさせたのはお前だろうが!」と思った人は結構いるかと思います。すいません、私も思いました。
エキスパンション名の「ワールドウェイク」は、ゼンディカー世界の大地そのものが復讐に目覚めるという意味です。発表された時の宣伝文は「激怒する世界」。ゼンディカーはとても「強い」世界です。好き勝手に貪り食われてただ黙っていることはせず、世界そのものがエルドラージへと反抗します。土地のエレメンタルや獰猛な生物、自然の「罠」といった、この世界が持つドラマティックなエネルギーがその「免疫システム」の現れです。
今回のニッサはこの「免疫システム」を操る能力で占められています。ゼンディカー世界と繋がり、呼び覚まし、共にエルドラージと戦う。エルフ愛から郷土愛へ。その変化の原因は、やはり、自分がエルドラージを解放してしまった事に対する罪悪感と責任感です。
M15ニッサのプレビュー記事にはこうあります。
(記事より抜粋)
彼女はその全ての責任を負っているのだ。彼が失った全ての、ゼンディカーの荒廃全ての。ハマディは彼女を、一人のジョラーガのエルフを、確実な死から引っ張り出してくれた。命を危険に晒してまで、彼女を救ってくれた。そしてその原因は自分なのだ。最悪の場所から、暗い記憶がニッサの心に忍び入り始めた。全ての失敗、馬鹿げた選択、自分本位の心と思い上がりが、鉛のように重く胃袋へと流れこんだ。彼女がもつれ捕えられた過去という網は、エルドラージによって死んだ何千もの無辜の民から成っていた。その全てを救えたはずだったのに。
ニッサは浅い考えでエルドラージを解き放ったことを深く反省し、悔いていることがわかります。そしてゼンディカーの人々と手をとり合って、共に戦い続けています。エルドラージがこの世界を荒廃させている責任は自分にある、その意識を忘れないままに。そして人間やコーと協力し、上で引用しましたプレビュー記事では実際にその力で《ウラモグの道滅ぼし》を倒していました。
もちろん、辛いことは多いでしょう。エルドラージの被害を目の当たりにしても、仲間の嘆きを聞いても、彼女には謝ることしかできず、とはいえ謝る理由が言える筈もありません。ですが心一つ持って、世界のために戦い続けるニッサはとても格好良く、また美しいと私は思いました。その身を賭けてでも戦い続ける理由がある。代償はとても大きかったですが、ニッサは本当に成長したなあと……。もしゼンディカーに「回帰」する日が来たなら、きっとニッサも再登場するのでしょう。とても楽しみです。
4. おまけ
……と、そのようにイイハナシダナーで締めた所で何ですが、「ナメクジ料理を振舞うニッサ」の話を耳にしたことがある人は多いと思います。実際この連載でも何度かネタにしてきました。その場面はゼンディカー小説に本当に存在します。せっかくですので紹介しましょう。旅の途中での出来事です。
「何処へ行くんだ?」 アノワンが尋ねた。
ニッサは鳥の小さな群れが岩から岩へと飛び移る様子を観察していた。彼女はアノワンの質問を無視し、鳥が集まる岩へと近づいた。鳥は散り散りになり、そしてニッサは注意深く、一つの巨岩の根元を見た。
(略)
そしてニッサは掘り始めた。彼女は素手で、注意深く岩の隣に土を積み上げていった。しばしの時間が過ぎ、ニッサは鼻歌を口ずさみはじめた。朝と言えない時間になる頃には穴は深くなり、ニッサも疲労の色が見え始めた。彼女がソリンとアノワンへと顔を上げると、二人は穴に近づいた。
「柔らかいから、しっかり持ってくれる?」 ニッサは言った。
「おや、壌土にどんな贈り物を見つけたんだい?」
ソリンはそう尋ねて、スマーラをちらりと見つつ、粘体の満ちたワインの袋のようなものを両手で掴んだ。何週間も雨は降っていない筈だったが、土は湿っていた。
スマーラはソリンへと首をかしげた。彼のその言葉が侮辱だと気付いていないようだった。
「引っ張って」
六回引いたところで、それは抜けた。巨大な、赤いぶよぶよした物体が穴から飛び出した。ソリンは思わず飛び退き、アノワンはよく見ようと身を乗り出した。
「砂ナメクジ」
ニッサは言った。彼女は岩の間に育つ節くれ立った常緑樹の低木の枯れ枝を集め、小さな焚火を準備した。
「何をするつもりだ?」 炎を見てソリンが尋ねた。
「ナメクジを調理するの」
「どうやってだ?」
「これで」
ニッサは火打ち石と鋼で炎を起こし、その周囲に石で小さな風避けを作った。
「こんな炎では、……それ、に、炎は通らないぞ」
「一箇所に通ればいいの。あとは皮の余熱で焼けるから」
それでも、調理には数時間かかった。そしてその間ずっと、山は動かなかった。
ニッサがナメクジをつつき、焼けたと声を上げると、スマーラとゴブリン達が周囲に群がった。アノワンさえも興味深そうに近寄ってきた。
「あなた血しか摂らないと思ってたけど」
「血の方が好きだよ」
アノワンは肩をすくめた。
ニッサは右の袖に仕舞いこんでいた食事用ナイフを用いてナメクジを切り取った。肉は鈍い赤色をしていた。ゴブリン達は我先にとそれを飲み込んでは荒々しく次を手掴みにした。
「味は……生の脂肪に近いな、人間の」
アノワンが感想を述べた。ソリンは独り離れてその様子を嘲笑った。
(小説『Zendikar: In the Teeth of Akoum』 チャプター9より)
驚いて後ずさる&食べないソリンさんが微笑ましい。イニストラードのお坊ちゃん育ちには「ないわー」だったのかもしれませんね。M15ニッサは能力も物語も、ZENニッサの「名誉回復」に十分成功していると思いますが、それでもこの「ナメクジエピソード」は今後も笑いとともに語られていくことでしょう。
(終)
※編注:記事内の画像は、以下のページより引用させて頂きました。
『世界を目覚めさせる者、ニッサ』
http://mtg-jp.com/reading/translated/ur/0010802/
『鍵となるのは時間』
http://archive.mtg-jp.com/reading/translated/010055/
『Duels of the Planeswalkers Core Game』
http://magic.wizards.com/en/articles/archive/duels-planeswalkers-core-game-2014-02-13