行弘賢と学ぶドラフトセオリー vol.4 ~上家は人間?狼?色変えのタイミングとは~

行弘 賢



 ああー今年も終わるんじゃぁ~。

 今年ももう残りわずかとなりますが、皆さんいかがお過ごしでしょうか。僕はというと、痛めた腰の療養を兼ねて早めに実家に帰省しました。実家では特にやることも無く、ドラフトやっては寝、やっては寝の毎日……。あれ?実家に帰ってもやってることはあんまり変わらないですね。


 さて、それでは本題の記事の方ですが、今回は『色変え』について解説していきたいと思います。

 皆さん『色変え』についてはご存じでしょうか?『色変え』とは、それまで自分がピックしている1~2色の組み合わせを捨てて、別の色をピックする手法のことです。

 遅い巡目で上家の人から自分のやっていない色の強いカードが流れてきた場合に、それを取って色を変更するのが基本的な『色変え』の流れになります。

 そこでここからは、正しい色変えのタイミング、上家が発する情報の取捨選択の仕方について解説していきます。







■ 1. 『色変え』の必要性と難しさ

 そもそも何故『色変え』をしなくてはいけないのでしょうか?

 それは、上家と色が被るのを回避するためです。

 上家と色が被るということは、自分のやってる色の強いカードを取る機会が単純に減ってしまいます。それにより、デッキが弱くなってしまうのは言わずもがなですね。そういう色が被るリスクを回避するために、『色変え』は非常に有効な手段と言えます。

 しかしながら、そもそも上家の色を察知するのって凄く難しいですよね?ピック終了時まで上家の色が分からなかった、なんてこともありますよね。

 『色を変える』と言ってもどの色に変えたら良いかいまいち分からない人も多いと思います。『色変え』と一口に言ってはいるものの、非常に複雑な『色変え』。

 何故『色変え』はプレイヤーの頭をこんなにも悩ませるのでしょうか?





■ 2. 上家は常に正直な情報を流してくれるわけではない

 『人狼』というゲームを皆さんはご存じでしょうか?

 人間サイドと人間扮する『人狼』サイドに分かれて、いかに人間側は『人狼』を見つけ、全て駆逐するか。逆に『人狼』はいかに人間を騙し、『人狼』とばれずに生き残るか。プレイヤーはディスカッションすることで互いの情報を探り合いながら、誰が人間で誰が『人狼』なのかを判断していきます。


アヴァブルックの町長吠え群れの頭目


 ドラフトでは『人狼』のように言葉によってピックの情報を明らかにすることはできません。しかし、上家や下家からピックの情報を得る手段はあります。それは流れてきたカードパワーが高いカードの『色』です。

 カードパワーが高いカードが流れてくるということは、上家はそのカードを取らなかったということになりますから、その『色』を上家がやっていない可能性が高くなります。上家がやっていない色がわかれば、その色に『色変え』することも簡単ですよね。

 しかし、「常に」そうだと言い切れるのでしょうか?

 カードパワーが高いカードが流れてきたからといって、そのカードの『色』に飛びついてしまっていいのでしょうか。

 結論から言うと、これについても『人狼』と同じで、上家が『人間』サイドのような素直な情報を流しているのか、それとも『人狼』サイドのように虚実混じった情報なのかどうかを判断していく必要があるのです。





■ 3. 『真実の情報』を元に自分がやるべき色を見極めよう

 例えば、あなたは初手で《はじける破滅》をピックしました。2手目はレア抜けで《弧状の稲妻》、3手目はアンコモン以上にめぼしいカードはありませんでしたが、色の合う強コモンの《子馬乗り部隊》をピックし、マルドゥ(赤白黒)の流れがあると感じます。


はじける破滅弧状の稲妻子馬乗り部隊


 これは誰でもやっている、『流れてきたカードから上家の色の情報を読む』という分かりやすいセオリーにしたがってピックしています。今回のケースは初手との噛み合いもあり、素直に3手目までは色の合ったカードをピックすることができました。

 この時点で多くの人は『赤白黒の3色を固定』して、その後のピックを続ける可能性が高いと思います。

 ですが、果たして本当にそれで良いのでしょうか?

 たった2~3手目までのピックで上家を『人間』と断定してしまうのは早くないでしょうか。

 もしその色の情報を信用した挙句にそれが『虚偽の情報』だった、すなわち上家が『人狼』であったなら……?

 あなたのデッキは無残なデッキとして発見されてしまいますね。

 そうならないためにも、4手目以降の『真実の情報』を中心に、自分がやるべき色を見極めて行く必要があります。





■ 4. 1パック目2~3手目の情報は虚偽であることが多い

 先ほどの例で4手目以降も見ていきましょう。

 4手目はうってかわってマルドゥの色でめぼしいものは無く、色が2色合った土地ぐらい。そしてそのパックには《スゥルタイの占い屋》が。4手目でみかけるにはなかなか強いカードですね。


血溜まりの洞窟スゥルタイの占い屋


 ここから判断できるのは、『スゥルタイ(青緑黒)は上家はやってなさそうだ』ということです。しかし同時に、『2~3手目はマルドゥのカードが流れてきた』はずですよね?

 3色の氏族を中心にピックするこの環境では、「上家は青緑黒をやっていない」と「上家は赤白黒をやっていない」が両方成立することはほとんどありません。つまり、どちらかが間違っているのです。したがってここでは『2~3手目はマルドゥのカードが流れてきた』→『上家はマルドゥ(赤白黒)をやっていない』という思い込みを疑うべき、となります。

 では2~3手目で流れてきた《弧状の稲妻》《子馬乗り部隊》はどう説明するのか?

 4手目に《スゥルタイの占い屋》が流れてきた以上、これは上家が下家の都合を考えずに流してきた、『虚偽の情報』ということになります。

 しかし上家がこんな調子では、2~3手目に限らず今後も上家には振り回されることになるのでは……?

 と思うでしょうが、ご安心ください。上家もいつまでも『虚偽の情報』を流してくるというわけではありません。4手目以降はピックが進むにつれて、上家は『真実の情報』を流してくれるようになっていくのです。

 でも、そもそもどうして上家は2~3手目の間は『虚偽の情報』を流してくるんでしょうか?最初から『真実の情報』だけ流してくれれば、もっとドラフトが簡単になるのに……そう思いますよね。

 ですが実はドラフトにおいては、2~3手目だけは上家を特に信頼できない、とある『特別な理由』があるのです。

 では、その『特別な理由』とはなんなのでしょうか?





■ 5. 理由1: 上家は1パック目の初手~2手目で強力なレアを取ることが多い

アラシンの上級歩哨アブザンの鷹匠


 例えば1パック目の2手目で《アブザンの鷹匠》が流れてきたとしましょう。

 初手付近で強いアンコモンが流れてくることはよくあります。しかしその場合でもまず『何のレアリティが抜けているか』を確認しましょう。

 レアが抜けている場合は、仮に強いアンコモンが流れてきたとしても、特に色について参考にできる情報はない、と考えなければなりません。

 何故なら上家はその強いアンコモンより魅力的なカード(例えば《アラシンの上級歩哨》かもしれません)をピックしているだけなので、そのアンコモンの色を今後やらせてもらえるかどうかの情報にはならないからです。





■ 6. 理由2: 上家は1パック目の初手~2手目で一番強いアンコモンを取ることが多い

マルドゥの隆盛残忍な切断

 
 次にアンコモンが抜けていた場合は、流れてきたレアがカードパワーの高いものかどうかを確認します。そしてそれが高ければ、シグナルとしてその色が空いている可能性があると判断することもできます。

 しかし、それもまだあくまで『判断材料』の一つであり、過信は禁物です。上家の人は受けの広いカードをピックし、その後の流れによって色を決めるかもしれません。あくまで『空いているかも?』ぐらいの気持ちでいた方が良いですね。2~3手目ではレアですら『色』の情報としては疑ってかかりましょう。

 仮に流れてきたレアのカードパワーが低くてなおかつ強いアンコモンが一緒に流れてきた場合でも、まだ単純に『真実の情報』として受け取るには不十分です。




■ 7. 2~3手目までの上家は『人狼』と考えるべし

 要するに上家は2~3手目(上家の1~2手目)までは『単純に強いカードをピック』する可能性が高く、そこに『上家のピックした色』の情報はほとんど含まれないと思ってください。

 分かりやすく言えば『2~3手目までは上家は信用してはいけない』とも言えます。

 上家は気まぐれなもので、特に序盤流されたカードには上家の「この色をやろう」という意思が含まれないことが多いのです。

 つまり、2~3手目まで上家は判断するのが難しい情報を流してくる『人狼』なんですね。


狼に噛まれた囚人爪の群れの殺人者


 『人狼』の言うことを素直に聞いてしまって、ピックが終わったときには『そこには無残なデッキの姿が……。』なんてことにならないようにしましょう。

 なので、今回のケースでも2~3手目でマルドゥのカードが流れてきたからと言って、そのままマルドゥの路線でピックするのは危険と言えます。

 では逆に、4手目以降はどうなるのでしょうか?





■ 8. 4手目以降は上家は『人間』になる

 4手目(上家の3手目)以降は、それなりにカードパワーも抑えられ、1~2手目と噛み合った色のカードをピックし始める段階になります。この段階では多くの人が受けを広げる別の色のカードではなく、自分のデッキを強くするカードをピックし始めます。すなわち、上家が『色を意識したピック』をし始める段階とも言えます。

 つまり、4手目以降に流れてきたカードには『色の情報』が含まれている可能性が高いのです。不確定な情報を流してくる『人狼』だった2~3手目とは違い、素直な情報を流してくる、『人間』となる可能性が高いわけです。

 今回のケースですと、4手目で《スゥルタイの占い屋》が流れてきており、これは順手的にも明確なシグナルと読み取ることができます。したがって、《スゥルタイの占い屋》をピックして『色変え』に備えた方が良いです。

 ここで色の合った土地をピックするのも一つの手段ではありますが、大抵の場合こういうときは『上家の意向に従う』方が今後の流れを掴むキッカケになりやすく、強いデッキになることが多くなり、トータルの勝率も良くなると思います。

 でもスゥルタイにすると、1~3手目のマルドゥのカードは使えなくなる……。そんな疑問を皆さん感じると思いますが、そうです、それでいいんです。

 1~3手目の強いカードを捨てるには勇気がいりますが、明確なシグナルに従い、『色変え』に成功することができたら、それらを捨ててお釣りが来る程のリターンがあります。

 では、実際に『色変え』によってどれほどのリターンがあるのか、実際にピック譜を見て解説していきます。





■ 9. 実践編 ~1-1~1-6まで、色変えの成功例~

◎ 1-1




死の投下

行弘のピック: 《死の投下》


 まず1stピックは、《死の投下》をピックします。他の候補である《内向きの目の賢者》《弧状の稲妻》《道極め》等に比べて単色としての受けの広さがある点と、他の候補と比べてもカードパワーも見劣りしないという点が主な理由になりますね。下家に対して青白赤への若干のシグナル送るという意味合いも多少含まれます。



◎ 1-2




マルドゥの心臓貫き

行弘のピック: 《マルドゥの心臓貫き》


 2ndピックは《マルドゥの心臓貫き》です。初手で赤のカードを多数流しはしたものの、2手目ですので、カードパワーを意識してピックします。



◎ 1-3




マルドゥの荒くれ乗り

行弘のピック: 《マルドゥの荒くれ乗り》


 3rdピックは《マルドゥの荒くれ乗り》です。他の候補である《冬の炎》《眼の管理人》に比べると、カードパワー的にも上で、現状色も噛み合っているので余り悩む余地はありませんね。



◎ 1-4




射手の胸壁

行弘のピック: 《射手の胸壁》


 ターニングポイント!

 4thピックは《射手の胸壁》をピックします。

 他の候補である《跳躍の達人》《戦場での猛進》等がありますが、このパックにはもう一つの候補である《ティムールの軍馬》があります。《ティムールの軍馬》《射手の胸壁》と緑的にはピックしたいカードが4手目に一緒に流れてきました。これはもしかするとシグナルの可能性があります。

 2~3手目はやはり『人狼』の虚実混じった情報で、4手目のこの緑のシグナルこそ『人間』による『真実の情報』であるとここで判断し、緑のカードを取ることにしました。



◎ 1-5




陰鬱な僻地

行弘のピック: 《陰鬱な僻地》


 5thピックは《陰鬱な僻地》を取ります。パック内容がスゥルタイに寄っていることを見ても、4手目で緑のカードを取ったのは正解とここで判断します。



◎ 1-6




雪角の乗り手

行弘のピック: 《雪角の乗り手》;


 6thピックは《雪角の乗り手》です。ついに遅い巡目で明確に上家のやっていない氏族が分かりました。4手目以降『緑は空いている』と判断し、その流れでピックしたのが報われた形になりました。


 その後1パック目はティムール(青緑赤)軸でピックし、《千の風》《ケルゥの呪文奪い》《龍爪のスーラク》《書かれざるものの視認》《砂塵破》などの強力なレアを擁したティムール軸t黒白のレア満載デッキになりました。

 これらのレアのほとんどはマルドゥ軸でピックしていたら使えなかったレアであり、色変えのリターンは大きかったと言えますね。





■ 10. 今回のまとめ

 「2~3手目(上家の1~2手目)に流れてきたカードから得られる情報は疑え!」


 「4手目以降に流れてきたカードはシグナルの可能性がある!」


 これからは是非、これらを意識してドラフトしてみてください。今までと違ったドラフトになると思います。

 今回の記事はここまでです。次回もまた僕の「ドラフトセオリー」を余すことなく伝えようと思います。それでは、また来月もドラフトの記事でお会いしましょう!