行弘賢と学ぶドラフトセオリー vol.2 ~「色主張」を使いこなそう~

行弘 賢



 プロツアー『タルキール覇王譚』 in ホノルルお疲れ様でしたー!

 いやー盛り上がりましたねプロツアー!なんといってもナベ(渡辺 雄也)のトップ8が非常にめでたい!いやーやはり日本人がトップ8に入ると盛り上がりますね!





 え……?僕……?


 ちゃんとドラフトは2-1でしたよ!ドラフトは、ね……(構築4連敗で初日落ち)



 さ、そんな訳で今月もしっかりドラフトのセオリー紹介していきますよ。

 今月は「色の主張」について説明していきたいと思います。



1.色の主張とは?

 「色の主張」とは……簡単に言えば、2手目以降のパックから一定の色だけを絞ってピックすることで、下家の人に上家の自分がピックしている色を分かりやすくし、その結果下家と協調した強力なデッキが作れる、ということを目的としたピック手段です。

 しかしこれはあくまで簡単に説明したものになりますので、例を使って詳しく解説していきます。



 例えば、初手で強い赤のレア(例:《龍語りのサルカン》)を取ったとします。


龍語りのサルカン


 そのレアは「できれば使いたい」と考えますよね。

 次に2手目で赤い60点くらいのカード(例:《軍団の伏兵》)と、黒い70点くらいのカード(例:《マー=エクの夜刃》)が流れてきました。


軍団の伏兵マー=エクの夜刃


 単純にカードパワーだけを意識してピックするならば、黒いカードを取るべきです。

 しかし、初手のレアはできる限り使いたい。レアだけで勝てそうなくらい強いレアです。

 そんなときは、点数に関わらずあえて赤いカードを取るのもセオリーの一つです。



 何故カードパワーが劣る赤いカードを取るのか?

 それは「色の主張」ができるからです。


 「色の主張」の大きなメリットとして、「2パック目の流れに期待できる」「初手付近でピックした強カードを使いやすい」といった2点があります。

 「2パック目の流れに期待できる」というのは、自分がその色を固め取りしている以上、なんらかの特殊な事情がなければ自然と下家は別の色のカードをピックすることになり、その結果自分のやっている色が逆周りで流れてきやすくなります。

 「初手付近でピックした強カードを使いやすい」というのは、固め取りした色が最終的に2色目になってしまったとしても、流れの良い1色+「色の主張」をした1色という最終形にすることも可能なので、初手付近でピックできた勝ちに直結しやすい強カードが使いやすくなります。


 カードパワーが少し見劣りするカードをあえてピックすることで、無駄ピックも少なくなりやすく、後のピックを楽にする効果が期待できるということですね。言うまでもなく、上家の人からその色の強いカードが多く流れてきたときは3-0しやすい強いデッキになるという特徴もあります。







 (この記事をここまで読んだ読者の方の心境)


読者A「なんだ色の主張やり得じゃないか!早速今日からは初手の色と同じ色をいっぱい取ろう!」

読者B「うんうん間違いない!下家との協調でデッキも最強!明日からレッツ色主張!」

読者C「ヒャッハー!色主張で3-0だー!」



 
 ……あ、皆さんすみません。まだ「色の主張」の解説は終わってないんです。


 ABC「「「え?」」」


 「色の主張」のメリットは説明しましたが、それと同じくらいの「デメリット」も存在するんです。


 ABC「「「なっなんだってー!!」」」



 「色の主張」を覚えて浮かれ気味なこんな方達に今から教えるのが、今日の本題とも言える「色の主張の落とし穴」です。



2.色の主張の落とし穴 ~色主張の様々なデメリット~


◆落とし穴その1:同じパックに同じ色の強いカードが複数含まれる場合


 先ほどと似たケースで見てみましょう。

 あなたは赤い強いレアを取りました。ただし先ほどと少し違うのは、「そのパックには赤い70点ぐらいの強いカード(例:《焼き払い》)が含まれていました」。


龍語りのサルカン焼き払い



 次に70点の黒いカード、60点の赤いカードがあり、あなたは赤いカードを取ります。しかしそのパックにはまたもや60点ぐらいの同じぐらい強い赤いカードがありました。


軍団の伏兵マー=エクの夜刃軍族童の突発



 さて、あなたはこの2回のピックで「色主張ができたでしょうか?」





 答えはNo。下家の都合はありますが、基本的には下家は流れに沿って赤いカードをピックしてしまう可能性があります。さらに言えば、下家はともかくとして、下下家は赤いデッキになってしまう可能性が高いです。


 単色ピックの大きな利点は先ほども説明した通り、「2パック目の流れに期待できる」という点です。これが期待できないようでは、単色ピックの旨味も減ってしまいます。

 色主張できないパックと感じたら素直にカードパワーを優先してピックすることも覚えておくと良いと思います。


 逆に「初手で同じ色の強いカードが複数ある場合」は、別の色の少し見劣りするカードをピックし、下家の色を操作するという手段もありますので、このパック下家と被りそうだなと困ったときは使ってみると良いでしょう。



◆落とし穴その2:上家からほとんどその色のカードが流れてこない場合


 これも最初に似たケースで説明していきます。

 あなたは赤い強いレアを取りました。次に70点の黒いカード、60点の赤いカードがあり、あなたは赤いカードを取ります。


 しかし3手目、赤いカードは50点以下のギリギリデッキに入るレベルのカード(例:《山頂をうろつくもの》)が1枚のみ、そして黒の70点のカードが流れてきました。


吠える鞍暴れ山頂をうろつくもの



 あなたは色主張のために赤いカードを取ります。

 しかしその後も流れてくるのは他の色、特に黒のカードはたくさん流れてきました。

 2パック目の逆周りこそ流れは良いものの、単色ピックした際にあまり強くないカードをピックしたせいか、デッキは見るも無残なものになってしまいました……。

 一方、下家で黒のカードを取った方は3-0が見える良いデッキになってました。



 これは少し極端ですが、単色ピックで一番失敗しやすい例です。

 上家と色が被ってしまっているのにも関わらず、そのまま色主張を続けるのは『自殺行為』です。

 逆周りのパックは1パックしかありませんが、通常の周りは2パックあります。通常の周りで流れが良い色と逆周りで流れが良い色がある場合、通常の周りで流れが良い方の色を取った方が強いデッキになるのは自明の理ですよね。

 
 3手目、4手目以降に別の色の強いカードが流れてきた場合は素直にそれをピックし、色の幅を広げることも覚えておきましょう。



 さて、それでは実際に色主張をした実践譜を見ながら解説していきましょう。



3.実践編 ~1-1~1-4まで、色主張とは?~



◆1-1




行弘のピック:《龍語りのサルカン》


 これは嬉しいレアです。個人的にはKTKのドラフトは赤が嫌いなのですが、このレアには喜んで飛びつきます。

 このパックの次点のピックは《戦名を望む者》辺りが予想されるので、今後は積極的に色主張して僕が赤であることを主張していきたいですね。



◆1-2





行弘のピック:《マルドゥの心臓貫き》


 初手クラスのアンコモンが続けてピックできました。他に赤いカードもほとんど無く、色の主張は続けられそうです。

 この時点で流したカードを覚えておくと、今後カードを流す際に、下家の色が想像しやすくなって良いでしょう。

 ちなみにこのパックでしたら、おおむね《消耗する負傷》がピックされると思います。赤の色主張的には嬉しいパックですね。



◆1-3




 打って変わって赤いカードが多いパック。これだけ赤いカードが多いと、赤のカードをピックしたところで「色の主張」ができるかは怪しいです。

 しかしながらマルチカードのカードは流したところでそこからその3色に触れるかどうかは不確かです。

 ここはKTKドラフトのセオリーに則り、赤の対抗色である白の優良コモンを取ることで下家に「赤白」を含む氏族をメインカラーにさせないようにして、間接的に「赤」の協調を図ることにします。


行弘のピック:《アイノクの盟族》


 なお、下家のピック候補は土地2種のどちらかが濃厚です。初手のレアが赤だったり、マルドゥのカードだったりした場合は、マルドゥの2種のマルチカードどちらかが取られ、そのままマルドゥ一直線のピックになりえますが、そこまでは計算できないので、まだまだ協調できる範囲だと思って今後も色主張を続けます。



◆1-4





 ここがこのドラフトのターニングポイントです。

 カードパワーで言えば他のカードに比べて1ランク以上上である《スゥルタイの占い屋》を取るか、《道極め》を取るかです。


 今までの流れとこのパックを見るに、どうやら上家は白をやってそうな雰囲気。

 スゥルタイとジェスカイのカードの流れが良いが、ここでどっちをピックするか。


 ここで《スゥルタイの占い屋》を取ってしまうと、パックの内容的に下家には《道極め》《イフリートの武器熟練者》をピックされ、それらがシグナルと思われるかもしれません。

 そうなってしまった場合、2パック目で赤の流れは期待できない可能性が高いです。


 しかし《スゥルタイの占い屋》というパワーカードを流すことで、下家に「スゥルタイは空いてるよ!」と主張することができます。

 今まで流したカードの傾向からも、下家のスゥルタイへの参入はありえます。


 《龍語りのサルカン》を擁した赤を使いやすくするという狙いもあり、《道極め》をピックします。



行弘のピック:《道極め》


 その後は青赤の土地を取りつつ、青のカードも取り、「青と赤の色主張」ができれば良いなといった感じで1パック目は終了。


 2パック目は期待通り返しの赤と青の流れが良く、ティムール軸でピックし、黒含みの土地も取れたので、完成したデッキはティムールタッチ黒のデッキとなりました。



4.今回のまとめ

 「色主張とは、色を絞ったピックをすることで下家と色の協調をはかりデッキを強くする手段のこと」


 「色主張のデメリットは、主張に失敗したときや上家と色が被ったときに悲惨なデッキになってしまうこと」


 そして何より、


 「色主張をする際は、本当にそれで色主張ができるか、上家と被ってないかを考え、思考放棄せずに慎重にピックすること」


 これからは是非、これらを意識してドラフトをしてみてください。今までと違ったドラフトになると思います。

 今回の記事はここまで。次回もまた僕の「ドラフトセオリー」を余すことなく伝えようと思います。では、また来月もドラフトの記事でお会いしましょう。


※編注:記事内の画像は、以下のサイトより引用させて頂きました。
『Facebook マジック:ザ・ギャザリング (Magic: The Gathering)』
https://www.facebook.com/MTG.JP