行弘賢と学ぶドラフトセオリー vol.1 ~序盤はカードパワー~

行弘 賢

行弘 賢



 いつからだろう。僕が「奇抜なデッキ」を用いて構築の大会に出る、というイメージがついたのは。いつからだろう、僕に「構築」の分野で皆が期待してくれたのは。

 「オリスチャント」を作ってから?

 「人間リアニメイト」プロツアーTOP8に入ってから?

 皆が僕に「構築」の分野での活躍を期待してくれる。




プロツアー「アヴァシンの帰還」は、もう2年も前のことだ


 でも違う。

 僕の根底は違う。そうじゃない。

 隠していたわけではないけど、これまで黙っていた。口が裂けても言えなかった。

 皆の期待を裏切るようで、言えなかった。


 僕がプロとして活躍できている根底を支えているのは、実は「ドラフト」 だなんて……。




 試しに前シーズンのプロツアーを振り返ろう。


 前シーズンのプロツアーにおけるドラフト成績

プロツアー「テーロス」 in ダブリン     :1st 3-0 2nd 1-2  合計 4-2

プロツアー「神々の軍勢」 in バレンシア :1st 2-1 2nd 3-0  合計 5-1

プロツアー「ニクスへの旅」 in アトランタ :1st 2-1 2nd 2-1  合計 4-2

プロツアー「マジック2015」 in ポートランド:1st 2-1 2nd 2-1  合計 4-2


 見て分かるように去年のドラフトラウンドの合計は全て勝ち越しており、僕の成績を支えているのは「ドラフト」というのが分かってもらえたと思う。

 これだけドラフトを勝つために、僕は普段から異常な量の練習をしている。多い日では1日5回ドラフトする日もあるが、これだけ練習して身に着けた技量を自分だけのものにするのももったいない。

 そこで今回から始まったこの連載では、「ドラフトで勝つために」必要な基礎、テクニック……いわゆるセオリーを余すことなく解説していきたいと思う。

 ドラフトは好きだけど勝てない……。ドラフトやったことないけどやってみたい。

 そんな人たちにうってつけの記事になると思うので、是非毎回読んでみて欲しい。


 それでは第1回目、「カードパワー」について解説していきたいと思う。



1.カードパワーって?

 ドラフトのセオリーとして、「序盤はカードパワーでピックしろ」 というものがある。

 けど、そもそもカードパワーってなんやねん。そんな疑問が頭に浮かんだ。

 一口に言ってしまえば「強いカード」のことなんだろうけど、じゃあ「強いカード」ってどんなカードのことなんだろう。普段僕は経験則からそれを判断しているけれども、まずはそれについて解説しなければ、皆さんにカードパワーの説明なんてできない。

 そう思った僕は、「強いカード」について考えてみた。



◆強いカードの基準


・ほとんどの場合ゲームに勝つカードであり、プレイ可能なカード


テーロスの魂

例:《テーロスの魂》
能力を起動すればライフレース、コンバットが不可能になりほとんどのゲームで勝利してしまう。
更に単色の6マナと、プレイも現実的である。


 これは「強いカード」の中でも最上位カードにあたる。

 どんな盤面も覆す可能性があり、プレイが困難ではないカード。これこそまさしく「強いカード」だろう。



・ゲームの勝利に大きく貢献するクリーチャー


溜め込むドラゴン

例:《溜め込むドラゴン》
5マナ4/4飛行とマナレシオに優れており、飛行という能力がゲームを決定付ける可能性が高い。


 強いクリーチャーはえてしてそのマナ粋において比較できない「高パワー/タフネス」を持っていることが多く、さらに「飛行」のようなゲームの膠着を打破できる能力も持っていることが多い。タッパーなどの他にない強力な能力を持つシステムクリーチャー等もこれに該当する。

 これらのクリーチャーはゲームの勝利に大幅に貢献するので、強いカードと言えるだろう。



・ゲームの勝利に大きく貢献するスペル


火炎放射変身術士の戯れ

例:《火炎放射》
クリーチャーを最高で3体除去できるというのは、5マナの単色のカードとしては非常に高いパフォーマンスといえる。
本体にも飛ぶので汎用性も高い。

例:《変身術士の戯れ》
対戦相手のクリーチャー全てが基本的にこちらのクリーチャーより弱くなるので、
戦闘で上手く使えばほとんどのクリーチャーを一方的に倒せてしまう。
戦闘後は大幅に有利な場になるだろう。


 どの環境にも、「それだけは止めて!」と叫びたくなるようなスペルがある。

 特定のタイミングでプレイされるだけで大幅に場を有利にするスペル。これらは条件こそあるが、大抵の場合勝利に大きく貢献してくれる、強いカードと言える。



・デッキの核となりえるクリーチャー


国境地帯の匪賊三つぞろいの霊魂

例:《国境地帯の匪賊》
攻撃時限定ながら2マナで3/2と攻めるデッキならば是非欲しいカード。

例:《三つぞろいの霊魂》
3体の飛行トークンは非常に強力であり、更に全体強化系のスペルとも相性が良い。
「召集」が付いているので早いターンにプレイすることも可能で、6マナのカードながら複数枚ピックしてもまったく問題ない。


 そのマナ粋において他より優れている点があるクリーチャーは、次のマナ粋のカードとも渡り合えるカードである。

 そういったコストパフォーマンスに優れたクリーチャーはゲームの流れを掴む力がある、強いカードと言える。

 さらに他のカードとシナジーを形成しやすく、爆発力に長けたクリーチャーはデッキの力を支える屋台骨となる可能性が高い。



・コストパフォーマンスの良いクリーチャー除去


稲妻の一撃

例:《稲妻の一撃》
2マナで3点と申し分ない火力であり、クリーチャー除去のみならず、最後の押し込みでプレイヤーにもプレイ可能。


 除去は最低でも対戦相手のクリーチャーをなにかしら対処することが可能になる。

 序盤を凌いで後半戦うデッキでも、序盤から攻めるデッキでも、除去はいつだって安心できる保険のようなカードになる。

 特に軽い除去はクリーチャーと違って終盤引いてきても役に立つことが多いので、強いカードと言える。





 さて、これらのカードは「強いカード」だ。カードパワーも大抵高いと言えるだろう。

 しかしここで、「カードパワーが高いならば強いカード」と、単純に当てはめてしまっても良いのだろうか。

 いや、そうじゃない。



◆カードパワーが高いカードは必ずしも強いカードではない


 カードパワーが高いカードとは「強いカード」ではなく、「勝利に大きく貢献する」カードのことだ。

 ただ、そこで見ているのは「カードの文面とパワータフネス」であり、基本的に「マナコスト」や、デッキに合っているかどうかは度外視する。

 この「デッキに合っているかは度外視」というのが肝だ。

 例えば《嵐潮のリバイアサン》。8/8という高いパワー/タフネスに強制「島渡り」というほぼ最強クラスの回避能力。さらにお互いながらも地上のクリーチャーの攻撃抑制の能力もついており、一度場に出てしまえばかなりのケースで勝利するだろう。


嵐潮のリバイアサン



 しかし、《嵐潮のリバイアサン》のマナコストは5UUUである。リミテッドにおいて8マナとは、デッキの土地のおおよそ半分近くであり、それを引いた後に、UUUというトリプルシンボルが揃っていないとプレイできないという、強烈な縛りがある。

 こういったカードはよく、カードパワー「は」高いと評される。

 もちろんこういったカードをデッキに入れて活躍させるしかないときもある。だが、カードパワーが高いからといってホイホイピックしてしまうというのは、プレイできなかったりまったくデッキに合わず活躍しない等のリスクを伴うため、よく考えなければならない。

 何故なら、カードパワーが高いからといってデッキに合うとは限らないからだ。

 「カードパワーの高さ」はカードのテキストを読んだ結果なので絶対的なものであり、ドラフトにおいては「だからピックしよう」とはならない。

 デッキに合う「強いカード」をピックしなければ、正解には近づけない。

 逆に言えば、そもそも検討すべき「デッキ」がない最序盤においては、「カードパワーの高いカード」と「強いカード」は一致する。

 これがドラフトにおける「序盤はカードパワーでピックしろ」 の意味と言えるだろう。

 結局ドラフトをする上で何よりも気をつけなければいけないのは、カードパワーの高さを正確に把握した上で、デッキに合った「強いカード」をピックしていくことなのだ。



 さて、ここまでで朧げながら「カードパワー」とは何かについて見えてきたことと思う。

 次は実戦譜「序盤はカードパワーでピックしろ」 について解説していこう。



2.実践編 ~1-1~1-3まで、序盤におけるカードパワーピックとは?~


【こちら】は、プロツアー「マジック2015」 in ポートランドの1stドラフトで僕が実際にピックしたピック譜になる。





 まず1stピックだが、《ゴブリンの熟練扇動者》《熱光線》が候補になる。

 ゲームの勝利に大きく貢献するクリーチャーと、コストパフォーマンスの良いクリーチャー除去の比較になるが、こういった場合は、「勝利貢献度」が高いカードからピックするのが良いだろう。つまり、「強いカード」の基準の点で書いた、「ゲームの勝利」に貢献するカードの方が、他に比べて価値が高いということになる。


ゴブリンの熟練扇動者

行弘のピック:《ゴブリンの熟練扇動者》


 しかし、全てのケースにおいてそうと言えるわけではない。これはあくまで1stピックの段階の話だ。序盤のピックはとにかくカードパワーを意識する。カードパワーが高いカードはデッキの中心部として機能することが多いため、その後のピックでもその部分を考慮してピックすることができるようになる。

 例えば今回の《ゴブリンの熟練扇動者》などは、3ターン目に着地すれば、その後こちらが除去やコンバットトリックで湧き出たゴブリンをサポートすれば、盤面はどんどん有利になっていく。こういった「勝ち筋」の一つを作れるカードは、そのサポートをするカードの「点数」を引き上げてくれる。

 よくカードの「点数」という話を耳に挟むことがある。各種カードの強さの評価を10点満点で評価する方式がメジャーだと思う。その点数付けは個人のピックする方針を決めるのに重要な方法だと言えるが、点数を信頼できるのはあくまで、「序盤」のピックの段階においてのみと言えるだろう。

 カードの点数と言うのは流動的なもので、自分のピックしたカードの内容によって大きく変化するものだと言える。

 例えば10点満点で、今回の《ゴブリンの熟練扇動者》なんかは個人的に8点ぐらいはある、非常に良いカードだ。

 しかし、あくまではそれは1stピックの評価の話だ。

 例えば、3パック目に同じパックを開封したとしよう。

 それまでの段階で、自分のデッキは3マナに《珊瑚の障壁》が3枚あり、「地上を固めて飛行で殴る」を地でいく青赤のデッキになっていたとする。そういった場合、《ゴブリンの熟練扇動者》と、《熱光線》どっちが「デッキに合っている強いカード」であるかを考えなければならない。

 地上の他のクリーチャーは基本的に攻撃しないし、バックアップするカードも取れていない。そういった場合《ゴブリンの熟練扇動者》の価値は8点より下回るだろう。逆に、6点程の価値である《熱光線》は、地上を突破してくるクリーチャーや、邪魔な飛行クリーチャーをピンポイントで除去することが可能であるため、7点以上の価値になる可能性がある。こういったカードの点数の上昇下落は流動的に行われるものだ。






 「カードパワー」はあくまでピックする段階で参考にする「基準」でしかない。それを盲信するのではなく、「デッキに合った強いカード」であるか、を自分に問いながらピックすると良いだろう。




 さて、次に2ndピックを見てみよう。






 ……。

 あまりにも何も無い!こんな残念な2ndピックがあるか!と嘆いてしまいたくもなるが、ここは我慢して熊さんこと《ルーン爪の熊》

 カードパワーこそ他と同じか、少し見劣りするが、「早い段階で低マナ粋」を確保することで、後々の「カードパワー」が高いカードをピックする受けを残す。


ルーン爪の熊

行弘のピック:《ルーン爪の熊》


 カードパワーとは先ほども述べたように、「強いカード」とは別で、単純に「強いことが書いてある」カードのこと。それらは基本的に「高コスト」であることが多いため、低マナのカードを確保しておくことは、それらをピックする際に「デッキのバランス」を崩さないことに繋がる。

 しかしながら、序盤は基本的には「バランス」より「カードパワー」を重視してピックして構わない。今回はそもそもカードパワーの高いカードがないという理由で《ルーン爪の熊》をピックしているが、基本的には1stピックの《ゴブリンの熟練扇動者》のような勝利貢献度の高いカードをピックしよう。




 最後に3rdピックを見ていこう。






 3rdピックも普段より少し見劣りする内容だが、今回は《諸島の雨雲》をピックすることができた。

 高いパワーを持つ飛行クリーチャーは、ドラフトにおいてはそれだけでゲームを決める力がある。対処されなければそのまま殴り続けることができるからだ。押している場面、膠着している場面なんかでは非常に頼りになるだろう。


諸島の雨雲ぐも)

行弘のピック:《諸島の雨雲》


 《諸島の雨雲》は1st、2ndピックと同じ色のカードではない。しかしながら何度も繰り返しとなるが、序盤はカードパワーを意識してピックすることが大切だ。序盤におけるカードパワーピックは、その後それらを参考にしたピックをできるようにすることで、それらを「デッキに合った強いカード」にする、「序盤のセオリー」の1つだ。

 以降は遅く流れてきた赤と白のカードのカードパワーの高いカードに注目して、赤白のデッキの完成となった(→ピックした全カード)。



3.今回のまとめ

 「カードパワーの高いカードとは、強い文面が書いてあるカードのことである。」

 「強いカードとは、デッキに合ったカードパワーの高いものである。」

 「今までピックしたカードを強いカードにするために、カードパワーだけを考えるのではなく、デッキに合ったカードかどうかをピックする度に考える」


 そして何より、


 「序盤はできるだけカードパワーの高い、勝ち筋を作れるカードをピックすること」


 これからは是非、これらを意識してドラフトしてみて欲しい。今までと違ったドラフトになることだろう。

 今回の記事はここまで。次回もまた僕の「ドラフトセオリー」を余すことなく伝えようと思う。では、また来月もドラフトの記事で。


※編注:記事内の画像は、以下のサイトより引用させて頂きました。
『Pro Tour Avacyn Restored event coverage』
http://archive.wizards.com/Magic/magazine/article.aspx?x=mtg/daily/eventcoverage/ptavr12/welcome