■ 挨拶
「お久しぶりです」、が最も適当でしょうか?
いつものことですが、こうやって文章という形で挨拶する際、しかも久しぶりの場ではなおさら戸惑ってしまいます。中村 修平です。
マジック的な身分での紹介をすると、
ゴールド・レベルの、晴れる屋からスポンサードを受けているマジックプロプレイヤーで、所属チームは本当に良く間違われますがチャネル・ファイアーボールではなく、カナダのカードゲームショップ、【フェイス・トゥ・フェイス】。
かつては“プロプレイヤー兼旅人”として、マジックしながら世界各地をふらふらっと廻っていました。
今はというと、予定では去年を最後にマジックを辞めて、「ポーカーでどこまでやれるか、あるいはどこぞで野垂れ死ぬかチャレンジ」をしている筈なのですが、ついうっかりヤソ(八十岡 翔太)の殿堂表彰式を見に行ったこと、そして「【グランプリ・神戸2015】に出るから日本滞在の色々を手配してくれ」というジュザ(Martin Juza)の頼みを聞き入れた結果、不覚にもマジックのランダム性によってこうやって何故かマジックしているという次第。
しかも、どうせやるならの最低目標としていたプラチナ復帰もできず、もはや完全に糸の切れた凧。
おまけに、かつて決めた自分内ルール、”航空券が出る間はプロツアーに出る”が妙な方向にもつれ絡まってしまい、もともとふらふらはしてましたが、もうここまでくると歩く死体といったところです。
本人もどうなることやら、何がしたいのやら解らないまま流されるまま。ただなんとなくマジックをやっている状況、というのが率直な自己評価、本心です。紐の先は本人も解ってないのです。
とは言いつつもマジック関連でやってみたいと思っていることが何個かあるのもまた本心。Hareruya Prosの契約勧誘時にクラウドファンディングを利用するという項目に、
「これを旅行記に組み合わせたら、何か面白いことができないかな?」
なんて考えてしまったのがことのおこり。
もっとも、次回のクラウドファンディングは諸事情により来年初頭以降になるらしいのですが、「それにはまずパイロット版が必要だよね」みたいな軽いノリで久しぶりに書いてみるとどんな感じになるのか始めてみることにしました。
そんなわけで【なかしゅー世界一周】、再開してみます。
■ 合宿編
結構な時間、「飛行機から飛行機へ」というライフスタイルを送っていますが、つくづく思うことが1つあります。それは「日系航空会社の2社、ANAとJALこそが機内サービスの二大巨頭」。
日本人だから、という贔屓目ではなく、ただ単純に良質、細やか。エコノミークラスでフットレストが付いているところなど「なんで他の航空会社は真似してくれないのか」と毎度思いながらも、乗るときには毎回助かってます。
そんな気配り上手な航空会社が企画するドル箱、“ハワイ路線”ともなると力のかけ方がさらに1ランクアップ.
搭乗するとハワイアーンな音楽が流れ、キャビンアテンダントも花飾り装着。アナウンスでは「アロハ」。もちろん機体は最新鋭の787。
便座がゆっくり落ちるように仕様変更するなんて、たぶん日本人以外は考えつかないだろうなあ。
ここ数年で航路が拡充された”夜の羽田発”というのも相まって、気がつけばハワイです。
しかし、毎度思うのですが本当にハワイは設備が古いですね。
マジックのプロツアーがここでやるようになって10年以上。さらにさかのぼって私が子供のころに親が一世一代の奮発で連れてってくれたハワイから、微塵も変わっていません。
下手しなくてもバブルのころから時間が止まっているのじゃないか、と思えてしまいます。
世の流れは、まずは中国語。いまだに日本語がもてはやされてる地域なんて、精々ここくらいなものです。
あとワイキキビーチのホテルは、総じてボロいのに高い。
と、ひととおりボヤいてみましたが、なんだかんだでまったく変わらないというわけでもありません。いつの間にか入国審査がほぼオートメーション化されましたし、宿泊先は民泊斡旋専用サイトのエアビーアンドビー。
先に到着している面々と会話しているのはFacebookのメッセンジャー。
アプリで表示されている電子チケットも含めてスマートフォン1つで事足りる。
何か重要事項はスクリーンショットしてPCに保存したり、ましてや紙にして印刷するという文化は過ぎ去りて……ん?
「ドラフトを初めてしまったから迎えにいけない。自力で来てくれないか」
……ふむ、まあいいでしょう。これも配車代行サービス、ウーバーを使えば一発かいけ……。
えっ、配車できないって何事なの!?
あとでウーバードライバーに教えて貰ったのですが、ハワイの法律で空港でのタクシー利権が守られているからウーバーでは空港に行くことはできても、空港から使うことができないそうです。
どこでもそういうのはあるものか。
ワイキキビーチを通り過ぎ、風光明媚な小高い丘の上の豪邸まで85ドル。早速予想外の出費をしてしまいましたが致し方なし。
ここが今回のチーム、フェイス・トゥ・フェイスの秘密基地。
メンバーは
ジョン・スターン、マイク・シグリスト、アレクサンダー・ヘイン、ジョシュ・マクレーン、サム・パーディー、ジェイコブ・ウィルソン、パウロ・ヴィター・ダ・モ・デロサ、スティーブ・ルービン、イヴァン・フロック、オンドレイ・ストラスキー、そして私です。
プロツアー直前までの10日ほど、11人での共同生活がスタートです。
■ ドラフト
私を含む大部分のマジックプロプレイヤーにとって、プロツアーでマジックをする理由は”勝つため”です。
そこにはもちろん気が合うから、という要素もありますが、本来は個人戦。目につく相手すべてを倒しきらないといけないこのゲームで、それでもチームとして行動するというのはその方が効率が良いからに他なりません。
使用に耐えうるデッキたちの選別とブラッシュアップ、そこからメタゲームの予想。さらにそれらに勝ちうるデッキの開発などなど。
新セット発売からプロツアーまでは2週間。限られている時間の中でやるべき作業はとても膨大で、それらをこなすには1人よりも2人、2人よりももっと多数でやる方が理に適っているから。
ですが、1+1が2になるのはおとぎ話の世界だけ。「船頭多くして船山に上る」というのが世の常。人が増えればそれだけ意志の伝達や齟齬の発生は避けれません。
「勝ちたい」という目標こそ同じですが、私が調整でやりたいこととチームの誰それがやりたいことはまったく違うというのは当たり前、というか当然です。
私はビートダウンやミッドレンジを研究したいかもしませんが、イヴァン・フロックなら間違いなくコントロールを調整したいでしょうし、オンドレイは気持ちよくなりたいだけかもしれません。
それもチームであるということ。
「違う意見があるからこそ一緒にやるというメリットがあるし、個々人でいる分には気づかない隙間、あそびの部分から何かとてつもないブレイクスルーが生まれるのでは?」
と、期待なんかしていないなんて絶対に言えません。
かと言ってやりたい放題を尊重していては、それはそれで終始がつかなくなるわけで、「個人のやりたいこと」と「チームの目標点」という、ともすれば相反するものをマネジメントするのはかなりの苦労に、まあ、自分の身の振りを考えるだけでもなりますね。
そういうものを一手に担ってくれているのが、このチームではジョン・スターンです。
「マネージャー」と日本語で表現すると、どうしても下に見られがちなこの役割を、毎回見事に切り回すだけではなく、新たな試行まで考え出してくれます。
また、チーム全体にも「ジョンの言うことにはただ従おう」というだけではなく、「率先して盛り立てていこう」という意志を感じられます。
そこは日本人グループとアメリカ人グループ両方を経験していて感じる、大きな違いですね。
そのジョン発案で合宿中のドラフトに関していくつか実験的な試みをやっていくことになりました。
・ドラフトは朝の部と昼の部の2回
これは厳密には前回からなのですがドラフト時間とメンバーをあらかじめ決めておくことで、各々バラバラだった生活サイクルをより近づけるという意味合いも。
回数は就職したてで1週間しか休みが取れなかったジョシュが遅れて合流のため、総勢10人のローテーションで抜け番は持ち回りで均等に、といった形です。
・ドラフト後、デッキ構築は一番当たらない位置にいる2人1組だけで行う
今回のドラフト練習で最も感触が良かったのが、この方式の採用です。
ドラフトデッキの最後の22~23枚目あたりというのは微細でありながら、かなりゲームに影響を与えうる箇所です。
それについて自分以外の人間から意見を聞ける、そして余計な情報、特に対戦相手になるかもしれないデッキを見ることがないというのは、より実戦に近い練習環境だと感じました。
・レアはゲーム終了後に8面ダイスを降って割り振られた番号の参加者が全取り式
これについては、うーん……趣旨としては勝敗に物品がかからないことによって、よりドラフトでの挑戦ができやすい環境づくりなのですが、こういうのに妙に強いジェイコブ・ウィルソンがスイープしまくったのもあって、都合10回ほどで私の獲得レアはゼロなので「僕にもレアを下さい」としか言えないです。
・これらに各自のスコア、色別勝率などを集計しつつ17時からドラフトディスカッション。
ちょうど10人なので各自にスコア上で得意と思われる割当色を決めて、30分程度の時間を区切り、その人が考えるこの色のありかた、この色ならこれが強いランキングを発表していました。
まるで大学のレポート発表ですが、中々に有意義でしたね。
ちなみに私の担当は「青黒」。
ここでのドラフトで人気が比較的薄かった青いコントロール系のドラフトばっかりしていたら、まあ青黒担当になるのも致し方ありません。
英語でやらないといけないのはかなりのハードルですが、そこはみんな解ってくれているのでなんとか。
内容自体はだいたいこんな感じ。
青黒の基本的なドラフト戦略
この環境はクリーチャーが強力なことに眼を奪われがちなのですが、半呪文枠である「機体」で枠を取られてるコンバットトリックが従来に比べても弱い、という側面も見逃してはなりません。
つまりクリーチャーのサイズが大きく、延々とクリーチャーが止まらないという事態が多発する反面、一度止まりさえすれば、その状態を攻める側が打破するのは中々難しい、ということになります。
青黒をやるメリットはまさにそれで、青の人気薄と《粉砕》系の呪文が当初は高すぎた反動を利用して高タフネスのアーティファクトクリーチャーで盤面を作り、フィニッシャー兼壁の《歯車襲いの海蛇》。
サイズではなく頭数を増やして盤面を食い止めるために、必要な引き増しを中心に戦線を構築する古典的なコントロールを総じて安価なカードで構築できるのがポイントです。
■ 青黒のドラフトリスト
青黒のカードをまとめたリストを載せますが、注意して欲しいことが何点か。
まず、こちらが使用すべきコンバットトリックは、あちらのコンバットトリックに対応できるという“後の先”を意識すること。
盤面が膠着しやすく、一度膠着してしまうとデッキの自力の差で逆転を許しやすいので、ゲームを決めうる中型以上の飛行クリーチャーは評価を高めにしていること。
エネルギー系のカードは3つの役割に対してどれも中途半端にしか対応できないことが多いので、基本的にカードとカウントしていないこと。
この手のデッキに必須、かつ通常は取得に頭を悩ませることになるアドバンテージ獲得手段が、性能的にはアンコモン+あたりにあるはずな《テゼレットの野望》が放っておいてもどこかで1周してきても取れるので、優先度を低くしているが、ぜひどこかで1枚は取りたいこと。
これらを踏まえた上で、リストを見てもらえればと……。
Tier 1: ボム。いかなるコモン/アンコモンより優先される
Tier 2:最高のアンコモンと同等の強さ
Tier 3:最高のコモンと同等の強さ
Tier 4:デッキには必ず入る
Tier 5:最後の数枚で悩む
Tier 6:使うべきではない
Tier 1 《密輸人の回転翼機》 《領事の旗艦、スカイソブリン》 《陰謀の悪魔》 《霊気烈風の古きもの》 《害悪の機械巨人》 《豪華の王、ゴンティ》 《サヒーリの芸術》 《慮外な押収》 Tier 2 《多用途な逸品》 《奔流の機械巨人》 《ドビン・バーン》 《競争排除》 《組織の密売人》 《行き詰まりの罠》 《高速警備車》 《捕獲飛行機械》 《マリオネットの達人》 《巧みな交渉術》 (以下は、3枚以上の多色土地、 もしくは《予言のプリズム》があれば) 《永遠の造り手、ラシュミ》 《雲先案内人》 《無許可の分解》 《機械修復職人》 《つむじ風の巨匠》 |
Tier 3 《当然の結論》 《禁制品の黒幕》 《鋳造所の隊長》 《本質の摘出》 《発明の領事、パディーム》 《耕作者の荷馬車》 《金線の使い魔》 《霊基体の匪賊》 《奥の手》 《自己組立機械》(早めにピックできれば) 《光り物集めの鶴》 《短命》 《霊気溶融》 《ドゥーンドの調査員》 《予言のプリズム》 《誤動作》 《ヒレナガ空鯨》 《歯車襲いの海蛇》 《抜き取り検査》 《楕円競走の無謀者》 Tier 4 and 5 《理論霊気学者》 《エンブロールの暴れ者》 《ダッカラの孔雀》 《試験飛行士》 《鉄華会の馬》 《襲拳会の部隊》 《鋳造所のコウモリ》 《プラカタの柱行虫》 《武器作り狂》 《活力の奔出》 《上天の貿易風》 《天才の片鱗》 《テゼレットの野望》 《革命的拒絶》 《砦のマストドン》 《金属紡績工の組細工》 《検査不合格》 《風のドレイク》 《失跡》 《偶然の発見》 《霊基体の野心家》 《隠然たる襲撃》 《領事府の空船口》 《過酷な精査》 |
Tier 6 《夜更かし》(カウンターがなくなってしまうと、コンバットトリックを手札に留めておけなくなるので微妙) 《サヒーリ・ライ》(?) 《歓待する構築物》 エネルギー系 |
だいたい、このレジュメで私のこの環境のドラフト感が表現できていたので、ほとんどそのまま抜粋しました。
「攻める側のデッキを使う際は単調な攻めにならないようにすること」。そして、「受ける側のデッキを使う際は相手のクリーチャーを複数ブロックで対処しつつ、コンバットトリックを使用されたときにそれを弾く構成にすること」。
この2点が、ほとんどすべてです。
あとはこの線を意識しつつ、プロツアーに向けたドラフトの練習で私にとって得意かつ優勢なアーキタイプを2つ、3つ用意してから、それができなかったときの分岐を開拓していく、というのが基本路線で、それに従っていくだけです。
ちなみに、ここまでの段階で私の持ち札は、
・「白系『機体』」
・「青黒コントロール」
・「緑のサイズ押し系」
という、3種類。
ここでやっておきたかったのが、苦手な……というより【晴れるーむ合宿】では試せず、それ以降もエネルギーマニアが卓内で2人以上いるとそもそも参入が難しくてまったく試せなかった「青緑エネルギー系」と、「エネルギー or コントロール」のどちらでもありうる「赤青系」全般。
残念ながら、ここでもマニアがいて中々試せませんでしたが、当のマニアたち――この発表形式で高勝率を叩き出していた青緑担当のジェイコブ・ウィルソン、そして青赤担当のイヴァン・フロックの考えを理解することができましたし、自分のものにしているアーキタイプについてもまだ他人の意見に影響されていない段階でのその人独自の考え方、捉え方を聞けたというのは環境理解に大きくプラスになりました(数少ない私の黒緑タッチ青エネルギーはかなり良い出来でしたが、決勝で青緑のジェイコブにしてやられました)。
ちなみに以下がイヴァンが考える青赤のパワーランク表です。イヴァン的には青赤はビートダウン、コントロール、そしてエネルギー、その全てに進むことができる点が持ち味だとのことです。
■ 構築
ドラフトについて満足のいく結果になったものの、構築については難航してました。
スタートラインとして「SCGオープンの各デッキから」というのはどこの調整グループでも同じだと思います。
特に「赤白機体」、「赤黒ビートダウン」の2つはほとんど新カードで構成されており、R&Dが考えている環境を規定するビートダウンの限界値に限りなく近い出来を感じました。
もう1つ調整初日から解ったことがあります。
それは《密輸人の回転翼機》は『カラデシュ』最強のカードである、ということです。
単体では何もせず、隣にもう1枚クリーチャーがあって初めて”限定的なクリーチャー”として機能する。「機体」は、正直言ってカードデザインとしてはかなり駄目な部類だと思いますが、このカードだけは別格。
というよりも、「機体」をなんとか構築レベルに持っていこうとした結果、もはや「機体」という枠ではなくなってしまったカードと言って良いでしょう。
2マナ、3/3、飛行、ルーターにデメリット能力としてクリーチャーをタップしなければならなくてデッキを前のめりに”させてしまう”カード、というのが実態に近いです。
調整2日目あたりで回転翼機デッキに《癇しゃく》を入れるのが流行りだしてからは、本当にもう無茶苦茶。
こうまであからさまに強いと前々環境での赤ビートダウン、そして前環境での白ウィニーの2/1というサイズが「バントカンパニー」や、他の白緑デッキが擁する《森の代言者》の2/3というサイズに駆逐されたように、今回は3/3、飛行というサイズが環境を規定して《森の代言者》やプレインズウォーカーたちを駆逐するのは簡単に予想できます。
環境で抜けて強いプレインズウォーカーである《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》すらメイン投入はためらわれるほどです。
それと、もう1つ《密輸人の回転翼機》を使った面白いデッキがあります。SCGオープンで2位に入賞したグリクシス・ドレッジ/現出。《密輸人の回転翼機》に加え、《屑鉄場のたかり屋》という実戦レベルの墓地から戦場に戻ってくるカードのおかげで《秘蔵の縫合体》がスタンダードでも強く使えるようになったのは、とても可能性を感じさせます。
では《密輸人の回転翼機》に追いやられて旧世代のカードたちは生き残れないのか?
いや、もう1枚、規格外と言えるカードがあります。
それが《約束された終末、エムラクール》。
条件付きながら7マナ、13/13、飛行に《精神隷属器》で抵抗手段を奪いつつ、自殺アタックでクリーチャー1体を《殺害》、場合によってはもっと付いてくる。
《墓後家蜘蛛、イシュカナ》と蜘蛛トークンで戦線を足止めしている合間に《約束された終末、エムラクール》、という流れはビートダウンには悪夢そのもの。
《密輸人の回転翼機》デッキに加え、この動きができる2種類のデッキである「黒緑昂揚」と「ティムール現出」の5デッキが環境で有力なデッキではないだろうかと考えたのですが……これら全てを打ち破るデッキが中々組めなかったのです。
以下試したデッキたちです。
白赤「機体」:アウト
除去が多すぎるのでちょっと削ったバージョンでやってましたが、まあメタゲームのど真ん中。しかもビートダウンで使っても良いというレベルには到達していない印象。何よりも一番勝っている白赤機体が除去を多めにとって同系に対して強く作っているのがよろしくない。
人間白ウィニー/白赤人間ウィニー:アウト
白赤「機体」とあまり差を感じなくて終了。
白青ミッドレンジ:アウト
《墓後家蜘蛛、イシュカナ》、《約束された終末、エムラクール》の前に分の悪さが目立つ。私が持ち込んだのをスティーブ・ルービンが気に入って色々いじってましたが、最終的に廃棄。
白緑 or バントビートダウン:アウト
タッチ青の場合は主に《実地研究者、タミヨウ》。《新緑の機械巨人》は強いものの、《森の代言者》、《不屈の追跡者》というラインに疑問が残る。というかそこを抜きたいという話になりいつの間にか終了。
黒緑ビートダウン:△
白緑と同じ問題は発生してるものの、こちらは《残忍な剥ぎ取り》という別軸のカードもあり、可能性は感じる。ただしクリーチャーの選択とコンセプトに中々一貫性が取れず苦労。何度も作っては壊しを行き来する。
黒緑コントロール:アウト
ビートダウン型と同じ問題に。どこまで対クリーチャーに寄せられるか、そして寄せた場合、《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》がとても問題。
白青コントロール:アウト
黒赤にボコボコにされて早々に終了。
グリクシス《電招の塔》:アウト
ヘインちゃんが何回か組んでましたが、その都度解体してたのだけは覚えてます。
グリクシス・ドレッジ/現出:アウト
初めの数日はオンドレイが気持ちよくぶん回していて、「このデッキ実は最強じゃないか?」と思ったものですが現実はそんなに甘くなく。マナベースが悪い、手札のかみ合わせが必要、それ以上に墓地を上手くかみ合わせなければならない、という三重苦により諦め。
青黒ドレッジ/現出、赤黒ドレッジ:アウト
私がグリクシス・ドレッジ/現出に《査問長官》を入れているのを見てパウロが「『青黒』で良くない?」と言ったところからスタート。2色にしたことによりマナベースは大幅改善。しかし、”《秘蔵の縫合体》を上手いこと墓地に落とさない限りジリ貧なデッキ”という共通する弱点は解消されるどころか悪化。デッキのトップスピードがなくなったことにより「ティムール現出」にまったく勝てなくなり解体。
黒赤:△
白赤「機体」の影に隠れがちですが、ゲームスピードは最も速く、だいたい新参デッキをボコボコにするのはこのデッキ。もしビートダウンを使うならこのデッキではないか? ただし白赤「機体」に対してあまり分が良くないのがかなりマイナス
ティムール《霊気池の驚異》:アウト
たしかに《約束された終末、エムラクール》が出るスピードは驚異的なのですが、
「これ、《霊気池の驚異》を対処すれば良いだけだから、たとえば打ち消しをサイドに取られたらどうするの?」
という問いかけに誰も納得いく答えを用意できず。それだったら「ティムール現出」を選択した方が良いよねということであえなく終了。
ティムール現出:アウト
幾多の中速デッキを屠ってきた「ティムール現出」ですが、序盤がマグロになってしまうという弱点を補える要素は少なく、それほど白赤、赤黒に分が良いということもなく。なによりも私が使われる側で続いていてデッキ熟練度が足りない所にこのデッキを愛用してたジェイコブ・ウィルソンが匙を投げたのもあって終了。
《金属製の巨像》:アウト
いいから早く《約束された終末、エムラクール》使え。
デッキを作っては壊し、作っては壊しを繰り返し、なんの真新しさもないままにただ時間だけが過ぎていく、というあまりよろしくない展開。困ったときの“速ささえあれば”で、とりあえず赤黒が第一候補ではありますが、全部微妙なデッキの中で押し出されて選ばれているだけ、といった状況から抜け出せないまま、刻一刻と時間だけが経過していく。
そんな中でプロツアー開催4日前の月曜日に合流したジョシュ・マクレーンが開発したのは、シグリストがスクラップ&ビルドを繰り返していた黒緑系デッキの新しいアプローチでした。
6 《沼》 5 《森》 1 《山》 2 《燻る湿地》 2 《燃えがらの林間地》 2 《進化する未開地》 4 《花盛りの湿地》 2 《風切る泥沼》 -土地 (24)- 4 《残忍な剥ぎ取り》 2 《巡礼者の目》 3 《ゲトの裏切り者、カリタス》 2 《墓後家蜘蛛、イシュカナ》 1 《害悪の機械巨人》 1 《膨らんだ意識曲げ》 1 《約束された終末、エムラクール》 -クリーチャー (14)- |
4 《ウルヴェンワルド横断》 3 《発生の器》 3 《過去との取り組み》 4 《闇の掌握》 2 《殺害》 1 《精神背信》 2 《光輝の炎》 3 《最後の望み、リリアナ》 -呪文 (22)- |
デッキのコンセプトは、
「《墓後家蜘蛛、イシュカナ》でお茶を濁し、最速で《約束された終末、エムラクール》」
という環境のテーマに沿ったものでありつつ、《約束された終末、エムラクール》のアーティファクトカウントを出すために搭載されている《巡礼者の目》と《ウルヴェンワルド横断》のおかげでほとんどフリータッチになっているので、《光輝の炎》を積んでいるのが特徴。
これまでの黒緑系デッキで気に入らないポイントであった”《森の代言者》から《不屈の追跡者》“というラインを排除しているのが加点ポイント。
タフネス1が多い白赤「機体」に対しては《最後の望み、リリアナ》、ドレッジ系に対しては《ゲトの裏切り者、カリタス》と、展開によってはそのまま完封できるというのも○。
この高速環境では基本受け身ですし、大幅に有利がつくという相手はおらず、黒緑という相手から見ても想定内のコンセプトであることに減点は付きますが、「現状の手持ちデッキの中では一番使うべきデッキに近い」というのがプロツアー3日前、最終ディスカッションでの私の意見であり、大多数のチームメンバーの意見でありました。
というわけで、もしものときの保険を赤黒にして、ここからはデッキの習熟とデッキそのもののブラッシュアップに費やしていきました。
まずは何故かメインに1枚だけ入っている手札破壊(《精神背信》)はサイドに退去して頂き、嬉しいは嬉しいけど”土地手に入れる手段多すぎ問題”な《巡礼者の目》を《金線の使い魔》に変更。《墓後家蜘蛛、イシュカナ》は神、故に3枚。流石にミシュラ土地は4枚使おうよ、などはすんなりと決まったのですが……。
《最後の望み、リリアナ》を4枚使いたい。そして、《ゲトの裏切り者、カリタス》は3枚か2枚かあたりは喧々諤々で、一端持ち越し。
■ サイドボード
それと並行作業だったのがサイドボードの選定。このとき、本番であるプロツアーでのデッキの分布予想は、
白赤機体:20%
赤黒:15%
黒緑系:15%
ドレッジ系:15%
打ち消しが入るコントロール:5-10%
赤緑:5-10%
現出:5%
赤黒:15%
黒緑系:15%
ドレッジ系:15%
打ち消しが入るコントロール:5-10%
赤緑:5-10%
現出:5%
と想定しており、これらに対して、
それに、《帰化》系のアーティファクト破壊カードが2枚。
プレインズウォーカーを触れるカードは必要だろうということで2枚ほどの《餌食》か《破滅の道》。
並べた感じ欲しいのは17枚。
これに加えてメインボードから当落を繰り返しているカードが何枚かあるので、都合19枚前後をイン&アウトに整合性を持たせつつ圧縮しなくてはなりません。
黒緑は役割がはっきりしているカードが多いので、「何枚枠を取るか」というより「何枚サイドボードから投入できるか」が重要になります。
まず真っ先にリストラされたのは、私が最も推していた《死の重み》。
特に後手時に信用できるカードが4枚の《闇の掌握》では心許なく、手数負けするのが嫌で2枚欲しかったのですが、デッキの構成上、ビートダウン相手に抜きたいカードがほとんどないし、そもそもサイド後に注意すべきは《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》というのを説得&実地で体験させられたので、提案撤回。
同じような理由で個人的には使うなら3枚にしたかった《光輝の炎》もメインサイド合わせて2枚ということに。
《苦い真理》対《不屈の追跡者》は、テストプレーの結果、あっさり後者に軍配。さすがにものが違います。
《帰化》系の2種類も、おおむね《人工物への興味》の方が優秀ということで決着して、これでだいたいのサイドボードができたかな、というところで大問題が発生しました。
「赤緑エネルギーデッキ」の台頭です。
■ 赤緑の衝撃
ここまで完全にノーマークだったのがマジックオンライン上で大繁殖。取り急ぎプレイテストをしてみると、これがもう相性最悪。
用意していたデッキは、コントロールとは言っても基本除去は薄め。クリーチャーで盤面を耐えるタイプのデッキなので、いくらブロッカーを用意しても「トランプル付き《巨大化》」である《気宇壮大》からの二段攻撃には意味がなく、《顕在的防御》の存在が常にちらついて心理的に辛いゲームを強いられますし、ゲームプラン的に除去を率先して使っていくのでエネルギーが貯まりやすく、そんな状況で《逆毛ハイドラ》が出てきてしまうと、もうお手上げ。「クリーチャーと《巨大化》」という、さながら現代に蘇った「感染」デッキに大苦戦。
サイドボード後は幾分かマシな戦いとはなりますが、シグリストが、
「赤緑だけが(想定内)で苦手なマッチアップ」
と言っていたのが、印象に残っています。
さらに私としては、それに加えて別の懸念もありました。このデッキが苦手とするプレインズウォーカーがサイド後に大量投入されてしまうと、いやそもそも世界がもっとプレインズウォーカーに頼っていたとしたら……?
ここまでデッキの長所をより多く書いてきましたが、このデッキが抱える構造的弱点として「対戦相手のサイドボードプランであるプレインズウォーカーたちに脆弱だ」という不安要素は、調整中、ずっと燻り続けていました。
もともと前環境で使用されていた《破滅の道》ですら、テンポ的にかなり不利になるのを覚悟で泣く泣く使用していた感があったのに、《密輸人の回転翼機》を対処するためにそのスロットを《殺害》にしているのです。
「《密輸人の回転翼機》がプレインズウォーカーを駆逐しているだろうから、《密輸人の回転翼機》を倒すカードにする」
と、理屈の上ではとても正しいのですが、相手のプレインズウォーカーに触るのが本当に難しい。
これに加えて、この段階で切っているいくつかのデッキに対して、致命的に弱い。
不安を抱えながらもプロツアー前々日の水曜日にひととおりデッキが完成したときの印象は、“せいぜい9段階でちょうど中間”といったところでした。
6 《森》 6 《沼》 1 《山》 1 《進化する未開地》 2 《燻る湿地》 4 《花盛りの湿地》 4 《風切る泥沼》 -土地 (24)- 4 《残忍な剥ぎ取り》 1 《金線の使い魔》 1 《巡礼者の目》 3 《墓後家蜘蛛、イシュカナ》 3 《ゲトの裏切り者、カリタス》 1 《害悪の機械巨人》 1 《膨らんだ意識曲げ》 1 《約束された終末、エムラクール》 -クリーチャー (15)- |
4 《ウルヴェンワルド横断》 4 《闇の掌握》 2 《過去との取り組み》 2 《光輝の炎》 2 《殺害》 4 《発生の器》 3 《最後の望み、リリアナ》 -呪文 (21)- |
2 《不屈の追跡者》 2 《精神背信》 2 《知恵の拝借》 2 《破滅の道》 2 《餌食》 2 《生命の力、ニッサ》 1 《高木背の踏みつけ》 1 《本質の摘出》 1 《人工物への興味》 -サイドボード (15)- |
そんな不安を抱えてプロツアーへ。観光編へと続きます。
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