By Hiroshi Okubo
吉田 渓(東京)。
【トップ8プロフィール】ではこれまでの戦績について控えめに「晴れる屋20時の部 3-0」と述べているが、【BIGMAGIC Sunday Legacy vol.6】でもベスト4に入賞した猛者だ。
そういった謙虚な人柄もあってか多くのプレイヤーたちに愛される彼は、この日も「次決勝か、頑張れよ!」と激励の言葉を受けてこの席に着いた。
川居 裕介(東京)。
関東の誇るレガシー集団、「斉ゲームス」の白青奇跡コミュニティが一人。普段は斉藤 伸夫をはじめとして高野 成樹や小林 龍海たちとともにその腕を磨いているという川居は【Eternal Festival 2015】でトップ8に入賞した経験を持つ強豪だ。
この日もスイスラウンドを7-0-2の無敗で切り抜け、【BIGMAGIC Sunday Legacy vol.8】で準優勝を果たした土屋 洋紀(東京)を下して見事に決勝進出を決めている。ここまでの長い戦いを経てなおそのプレイは針の穴を通すような正確さを誇り、白青奇跡の申し子と呼ぶべき極致へと達している。
使用デッキは互いに「白青奇跡」。ただし、カテゴライズは同じ括りだがデッキの細部は異なっており、吉田のものは「メンター型」と呼ばれる《僧院の導師》をフィニッシャーに据えた構成で、微差ではあるがデッキの構成がやや軽めにまとまっている。
それに対し、川居の白青奇跡は「純正奇跡型」とでも呼ぶべきだろうか。《天使への願い》や《精神を刻む者、ジェイス》を勝ち手段に据えた構成で、より長期戦を視野に入れているため若干重めの構築が特徴的だ。
ミラーマッチでは《造物の学者、ヴェンセール》が万能パーマネントバウンスでありながら「奇跡」対策としても機能する。
幕前で2人が席に着き、デッキをシャッフルしながら穏やかに「疲れた」「これで最後だ」と語り合う。
ふと、吉田がフィーチャーマッチ席を囲うギャラリーの隙間に目を留めた。
吉田「川北さん来てますね」
(※編注:当日ニコニコ生放送の解説役として川北 史朗が来ていた。)
川居「本当だ。あの人本当にエンターテイナーですよねぇ」
交わす言葉は少なに。しかし確実に。2人は向かいに座す対戦相手のその先にいる川北を見据えている。
レガシー神・川北への挑戦権を賭した決勝戦。勝利を収めるのは果たして……!?
吉田 渓 vs. 川居 裕介
Game 1
先攻の川居が土地を置くのみでターンを返すのに対し、吉田は《師範の占い独楽》。
川居は苦笑を浮かべながら「強いなぁ」と漏らすもこれに対応できず、ならばとプレイした《相殺》が吉田の《意志の力》に打ち消されてしまうといよいよ表情が曇り始め、苦し気に《師範の占い独楽》をプレイ。
吉田はこの最序盤に掴み取ったペースを離さない。後攻3ターン目に1マナを立たせながらしっかりと《相殺》をプレイ。《師範の占い独楽》+《相殺》ロックを完成させる。
だが、百戦錬磨の白青奇跡使いである川居はここまでのゲームで動じるどころかさらに冴えを増すようだった。まずはと《師範の占い独楽》でカードをドローし、フェッチランドを起動。続けてプレイしたるは《精神を刻む者、ジェイス》!
対応して《師範の占い独楽》を起動する吉田だが、“4マナ”は見つからずこれを通すこととなる。
だが、ここまでに毎ターン《師範の占い独楽》を起動してドローを操っていた吉田の手札は川居の戦術を容易に粉砕し得るものだった。《議会の採決》で《精神を刻む者、ジェイス》を処理し、さらに続くターンにはお返しとばかりにフルタップで《精神を刻む者、ジェイス》を戦場に送り込む!
川居もいよいよ厳しいかと思われたが、冷静にフルタップの隙を突く《造物の学者、ヴェンセール》で《相殺》をバウンスし、手札に溜まっていた《渦まく知識》と《思案》で手札を整える。
川居 裕介
さらに、マナで先行していた川居の手札から2枚目の《精神を刻む者、ジェイス》を呼び出すと、互いに「0」能力で手札を蓄えながら虎視眈々と仕掛け時を見極める展開が続く。
数ターンが経過したのち、痺れを切らした川居が《天使への願い》を「X=4」でプレイし、一挙攻勢に転じる。吉田はこれに《終末》で応じ、返すターンには自身も《天使への願い》を「X=2」でプレイする。
この天使の攻撃で《精神を刻む者、ジェイス》を失い後手後手の対応を迫られてしまった川居は、無人の荒野で吉田の《精神を刻む者、ジェイス》が悠然と《渦まく知識》を連打する様子を見てカードを片付け始めた。
吉田 1-0 川居
長らくレガシー環境の最前線で戦い続けてきた白青奇跡デッキ。
このデッキの根幹をなす《師範の占い独楽》+《相殺》ロックは非常に強烈で抜け出しがたい反面、互いの手札や盤面の情報に加えてライブラリーの上の3枚のカードも意識し続けなくてはならないため、プレイの難易度が高く、プレイヤーの腕前やコンディションも強く影響する。
プレイ中に無数に発生する選択肢の中から最善のものを選択し続けるのはただでさえ至難の業だが、殊にこのミラーマッチにおいては先手後手の決定でさえも容易には選択しがたいものとなる。
幕間に2人がサイドボーディングを行いながら言葉を交わす。
吉田「先手後手はどうされます?」
川居「うーん、どうしよう。俺はミラー後手の方が好きだけど、《師範の占い独楽》と《相殺》さっさと揃えたいよね」
ロングレンジのゲーム展開が増える白青奇跡同型対決は自然とテンポの勝負よりもアドバンテージ合戦になりやすい。後攻のプレイヤーにもたらされる1ドローの権利は消耗戦で《意志の力》をプレイできるかどうかが分岐し得るラインでもあり、この議題はかねてより白青奇跡を使用しているプレイヤーたちにとって頭を悩ませる問題でもあった。
シャッフルまでを終え、川居が言葉少なに後攻を選択する旨を伝える。この選択は川居に勝利をもたらすだろうか?
Game 2
吉田が《思案》、《師範の占い独楽》と序盤から順調に展開していく。白青奇跡のミラーマッチは後手有利という意見もあるが、最序盤から手数を増やすことができるのはマジックにおいて先攻が持つ不変のイニシアチブと言えるだろう。
だが、第2ターンに異変が起こる。
吉田はセットランドを忘れてターン終了を宣言する痛恨のミス! 吉田も「あっ」と声を漏らしてジャッジに裁定を求めるが、「ターン終了の意思表示をした」と見なされ、川居にとっては思わぬ僥倖で先手後手が入れ替わる形となった。
この好機を見逃すことなく川居は《渦まく知識》と《思案》で手札を整え、《紅蓮破》を構えながら《相殺》を通し、《精神を刻む者、ジェイス》までをも戦線に追加する。
吉田も負けじと《僧院の導師》をプレイするが、川居の優位は揺るがず《造物の学者、ヴェンセール》がこれをバウンスし、吉田の《精神を刻む者、ジェイス》には《紅蓮破》を合わせる。
吉田はなおも《瞬唱の魔道士》や《僧院の導師》の再キャストで体勢を立て直そうと奮闘するが、《相殺》と《精神を刻む者、ジェイス》を突破することができない。
そしてついに川居の《カラカス》+《造物の学者、ヴェンセール》までもが機能し始めると《天使への願い》での一発逆転の目も失われ、膝を屈することとなってしまった。
吉田 1-1 川居
セットランド忘れという手痛い失敗を思い出して顔をしかめる吉田。ここまでのスイスラウンド9回戦に加え、決勝ラウンドでの2戦の疲労も蓄積しており、普段ならばありえないような失敗を犯すこともあるだろう。
吉田「こんなミスしてたら勝てないですよね、お恥ずかしい」
吉田が自分に言い聞かせるように呟き、気を引き締め直す。
川居「まぁ、一日中マジックしてたら疲れますしね。でもこれで最後ですよ」
長かった一日に終止符が打たれる。泣いても笑っても最後の一戦だ。吉田が後手を選択し、第3ゲームが幕を開けた。
Game 3
川居「先手の動きをしないとなぁ」
そう漏らしながら、川居は《思案》で手札を整え、2ターン目に《師範の占い独楽》をプレイ。ライブラリートップを確認すると、第3ターンに《相殺》。吉田の《意志の力》には《狼狽の嵐》で応じ、素早く《師範の占い独楽》+《相殺》ロックを揃える。
吉田 渓
ここまでに《師範の占い独楽》をプレイしたのみでこのロックを打破する手段を持たない吉田は一気に苦しくなってしまう。早期決着を目論んでプレイした《僧院の導師》は川居の《意志の力》によって着地を許されず、続けてプレイした《ヴェンディリオン三人衆》も《紅蓮破》で打ち消されてしまう。
だが、吉田は《師範の占い独楽》とフェッチランドで巧みにライブラリートップを操作して《摩耗+損耗》に辿り着く。
これを「融合」でプレイし川居の《相殺》を除去。ならばと張り返された川居の《師範の占い独楽》と《相殺》にはさらに2枚目の《摩耗+損耗》。全力で《相殺》を除去しにかかる。
だが、川居がこれに不敵に微笑んで《相殺》を指さし、ライブラリートップを公開する。何度も同じ手が通用するわけではない、とばかりに捲ったのは《ヴェンディリオン三人衆》!
ここまでの攻防で手札の消耗が激しい吉田は続く川居のターンに戦線に送り込まれた《ヴェンディリオン三人衆》を処理することができず、延々と続く3点クロックに10→7→4→1と着実にライフを削り取られていく。
ついにフェッチを切ることさえできなくなってしまった吉田だったが、最後まで諦めずに川居のアタックに対して吉田も《ヴェンディリオン三人衆》を差し向ける。だが、川居はその抵抗さえも弾き返す最後の一手を用意していた。
叩きつけた《紅蓮破》が勝利への道を切り開く!
吉田 1-2 川居
第8期レガシー神挑戦者決定戦、優勝は川居 裕介(東京)!
おめでとう!!