Translated by Takumi Yamasaki
◆ イントロダクション
● 俺が起こるとは思っていなかった先週末の出来事 Top3
・前日まで開催されることすら知らなかったGPダラスを観戦したこと。
・「氷雪赤単」が優勝したこと。
・モダンの新しいデッキを作りたくなったこと。
そう、これら3つのこと全てが起きたんだ。俺は、これからのモダンはまだメタゲームが固まることはなく、多様性が見られる面白いフォーマットになる 、と考えている。
スタンダードでは、環境初期はたくさんのデッキをみることにはなるが、その後は3つから5つの”メタデッキ”たちが環境を固めてしまう。それ以外のデッキというと、天才のひらめきによるもの(1%程度だけど)、ただの下位互換、良いデッキとはいえないもの、あとは残り物のどれかって感じだ。
それがモダンだと、常にメタゲーム上には約20種類の”メタデッキ”が戦っている。その20種類ほどのデッキたちはどれも、それ以外のデッキよりも遥かに強力だと俺は確信していた。だから今まで見たこともない新しいデッキがメタゲームに登場することはないだろうと思っていたんだ。
「結論は」って?俺が間違っていたのさ。
【「氷雪赤単」】という俺がこれっぽっちの評価も信頼もしていなかったデッキが優勝したんだ。しかも、ただ優勝したってだけじゃない。「氷雪赤単」はモダンの原則の1つだと考えられている(いや、考えられていた、かな? )「4マナの呪文は、1枚でゲームに勝てるもの(とか)以外は使うな」をも破ったんだ。
こうした「氷雪赤単」の活躍は、俺たちにいくつかのメタ外のデッキについて考えさせ、そしてプレイさせることになった。なぜかというと、俺は常々、モダンには未開拓なアーキタイプとシナジーが眠っていると思っていたが、それらにTier 1のデッキたちと競合する余地が残されていると証明してくれる誰かが必要だったんだ。参加すらしなかった【グランプリ・ダラス/フォートワース2016】は、俺のやる気に火をつけた。こうして俺は調整するために、誰も使っていないようなメタ外のデッキを探しはじめることにした。
◆ ナヤ
Pierre Dagen – ナヤ
1
1
4
4
1
4
4
4
4
1
-土地 (28)-
4
4
4
-クリーチャー (12)- |
4
4
4
4
4
-呪文 (20)- |
4
4
4
1
1
1
-サイドボード (15)- |
このデッキは、膨大な参加人数の【グランプリ・リール2016】において49位という好成績を収めていた。誰一人としてこれと同じアーキタイプを使っていなかったに違いない。これは厄介で、残酷で、そして俺が自分では作らなかったであろうデッキだ。
まずはこのデッキの明らかな弱点から話すことにしようか。これはこのデッキを典型的なメタ外に留めている理由であるとともに、とてつもなく凶暴な一面をもつ理由にもなっている。このデッキを初めて見たときに、練りが甘い、と引っかかった点がある。それはデッキに明確なゴールとなるプランがないことだ。もっと正確に言うならば、微妙なプランがたくさんあるんだ。
基本的にはやの強烈な一撃で相手を倒そうとするのだが、一方では(主に《爆裂/Boom》のほうでね)で土地を縛ったり、との一撃必殺コンボの準備をしていたりする。これがたった1つのデッキにも関わらず、だ。
こうして多くのプランをデッキに詰め込むことは明らかに問題がある。カード同士が上手くシナジーを形成しなくなるんだ。たとえばに続けてを出しても意味がないし、とが揃った初手がきても楽しくないだろう?
だけど、これは「グラスに半分まで注がれた水のジレンマ」(注がれた水が半分も入っているのか、それとも半分しか入っていないのか。物事を楽観的あるいは悲観的に見るかをテストする問題)でしかない。だから俺はもっと楽観的に考えてみることにした。
◆ 分析と把握
このデッキにはとても強力なコンボが2つも詰まっている。1つはを使ったもの。もう1つはとだ。これらを完璧に引けることもあれば、そうでないこともあるはずだ。しかし、先ほどのデッキとは違って、デッキの残りのカードは、ほとんどの場合でしっかりと噛み合ってきちんと仕事をこなすだろう。それは2つのコンボのどちらもが「土地を置く」ことに依存しているからだ。
8枚の”上陸”もち攻撃クリーチャーたちは、文字通りデッキのなかにあるすべての「土地を置く」カードと噛み合う(だけは以外と機能しないがね)。だから、このデッキを「2つのコンボを搭載したデッキに適当な攻撃クリーチャーが入っている」と見るのではなく、代わりに「シナジー重視のアグロデッキに膠着を打破するコンボが入っている」と考えることができる。
どのプランもそれ自体が素晴らしいわけではない。”上陸”もちによる攻撃的なプランは「バーン」ほど耐久性があるわけではないし(相手は1匹か2匹の「上陸」持ちを焼くだけだ)、2つのコンボだってサーチやドローもなしに揃える必要があるのに手札破壊やカウンターから守る方法は多くないんだ。
でも、これらのプランは対戦相手を悩ませることになる。攻撃的なプランに対しては除去が欲しいし、コンボプランには除去やカウンターをしたい。しかも、時間を与えるととだけで負けてしまうので、時間をかけずに倒しにいかなければならない。すべてのデッキがこうした多様な攻撃への解答を備えているわけではないし、もし備えていたとしても、彼らは彼らでそれを適切な状況で引いてくる必要がある。
このような理由から、俺はこのデッキが「ジャンド」や「グリクシス」のようなコントロール系のデッキにとってすごく厄介なデッキだと理解した。つまり、なにかしらのメタゲームがある状況で、もし対策カードを躱せるアンフェアなデッキを使いたいならば、このデッキはとても素晴らしい選択肢になるはずだ。
プロアクティブな速いデッキと対戦するときはまた違った展開になるだろう。1ターン目のから2ターン目のは放置すると非常に速いクロックになるので、攻撃的なプランには戦うチャンスが残されている。だが、コンボプランは無視してしまってもいい。どちらのコンボも遅すぎるし、メインデッキでは時間を稼ぐ方法もない。たとえば「バーン」との対戦なんかは絶望的だ。
リアクティブかつフェアなデッキには強く、速く攻撃的なデッキには弱い。このことは「ナヤ」がメタゲームのなかに居場所をもつことを意味している。 たとえそれが完全に目立たない場所だったとしてもだ。得意な「ジャンド」や「アブザン」がとても強い現在は、「ナヤ」にとっていい場所なのかもしれない。
◆ 再構築
それでは話を進めよう。俺はいくつか改良できる点を見つけた。すなわち、、だ。 はとのコンボ以外に使い道がなく、フェッチランドの代わりに入っているとのせいでとてつもなく強欲なマナベースになっている。そう、強欲なんだ。実際のおかげで色マナの要求を満たしている。
問題は、3色 ”しか” 使っておらず、いずれにしてもフェッチランドを使いたいことにある。しかもがなくたってで倒すことはできるんだ。を抜くことでの最も重要な問題は、から84点の代わりに18点しか飛ばせなくなることだろうか。 俺も18点しか飛ばせないのはよくないってのは認める。でも、もしがいれば問題ないし、6~7ターン目に相手のライフが18を超えていることはそうそうないだろう。まあ、結果は変わらないってことさ。
俺が考えたデッキリストはこんな感じだ。
Pierre Dagen – ナヤ(改良版)
4
1
1
4
4
1
4
4
3
2
-土地 (28)-
4
4
4
2
2
-クリーチャー (16)- |
4
4
4
4
-呪文 (16)- |
4
3
3
3
1
1
-サイドボード (15)- |
まず俺が手を付けたのはマナベースだった。基本地形タイプを9枚から12枚に増やすことで、7枚の土地しかないときのから、6枚のと1枚のを探し出せるようにした。この変更でとが抜けたことでマナベースはよりまともになった。
そしてとを使わないことにした。代わりにをいれて少しだけデッキを攻撃的な方向に整えてみたんだ。はこのデッキのあらゆるプランをサポートしてくれる。攻撃的な展開の残り数点を削ってくれるし、相手の行動に干渉することでゲームの展開を遅らせられる。 あと、必要であれば、対戦相手を対象にして致死圏内に落とすことだってできる。 たった1枚のでは、「感染」を相手にすると焼け石に水の様に思えるかもしれない。実際そうなのだが、忘れちゃいけないのは、プレッシャーをかけることだ。そうすることで対戦相手はコントロール系のデッキを相手にしたときよりも上手く立ち回ることができなくなるはずだ。
2つ目のアイデアはとを2枚ずつ採用したことだった。この2枚は両方ともこのデッキと本質的な部分でよく結びついていて、しかも、これらを出してターンが返ってきたら勝ちも同然だ。
特には印象的かもしれない。序盤の「上陸」持ちクリーチャーを強化するし、コンボのために土地を伸ばせるし、フェッチランドを上手く使うことでドローを操作することだってできる。このドロー操作は、コンボパーツを引き込むことができるようになるため、元のデッキリストには是が非でも必要だった要素だ。 はとても脆いカードだが、なんにしても対戦相手は序盤の「上陸」もちクリーチャーに除去を使う必要がある。それ以上の除去を握っていないことを願うだけだ。
は簡単で、ただただ強力で、さらに同時にすごくシナジーをもっている。俺はのように、手札がなく土地ばかりでコンボもない状況でも1枚で何とかしてくれるカードをいれておくのが好きなんだ。
結論としては、この「ナヤ」は少しばかり焦点を絞ったことで現実的なデッキになった。依然としてブン回りがあり、以前のバージョンで見られたちぐはぐな手札はなくなり、悲惨な状況に陥ることのない多角的な攻撃も備えている。各デッキとの相性は全体的には変わらないが、自滅するような負け方が減った分だけ、得意なデッキ相手の勝率は上がっているはずだ。
◆ サイドボードについて
サイドボードについては、最初のリストにあったような目標を絞った強力なサイドボードカードに賛成するよ。俺は「ドレッジ」「バーン」「親和」を意識して少し弄っただけだ。この3つのデッキはとてもプロアクティブでありながら、しかも事故の少ないデッキだ。したがって、不利なマッチアップだと放置すると、常に負け続けることになるだろう。これが彼らとのマッチアップにおいてサイド後も不利であってはいけない理由だ。
はいいカードだ。少なくともと同じくらいのライフを回復してくれるし、たくさん追加のカードを引きながら火力呪文の圏外まで逃げ切ることができる。
◆ 「ナヤ」はTier 1になれるのか?
さて、これはTier 1のデッキになるだろうか? ……まあ、そんなわけはないな。俺もそうなるとは微塵も考えたことがない。ただ、予想通りのメタゲームが展開されたとするなら、グランプリに持ち込んで上手くいく程度の強さをもったデッキには仕上がっているはずだ。2つのプランはどちらも強力で、それらに対応することはとても難しい。速攻とコンボの組み合わせはとても強力な組み合わせだ。
明らかな弱点は、こちらよりも早く、こちらの戦略に対応しようという気がまるでないような直線的なデッキへの対応力がないことだ。これこそがTier 1のデッキになりえない理由なのだが、俺はしばらくの間は選択肢に残しておこうと思っている。みんなにも触れておくことをオススメするよ。
では、また次回会おう。
Pierre Dagen
Pierre Dagen
フランス出身。ヨーロッパを代表するプレイヤーの1人。
【プロツアー『テーロス』】で、親友であるJeremy Dezaniと共に”Les Bleus”と名付けた「青単信心」を持ち込み、決勝のミラーマッチを戦った姿が印象的。
3度のグランプリでトップ8を飾り、【ワールド・マジック・カップ2015】ではフランス代表のキャプテンとして3位に入賞し、 【プロツアー『カラデシュ』2016】では2度目のプロツアートップ8を経験した。
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