禁止措置。それはフォーマットが健全であるために必要とされる最終手段。
カードにとってはある種の名誉であり、同時にそのフォーマットにおける事実上の「死」を宣告されるに等しい。
環境のバランスを保持するための禁止措置。で、あるならば、もし仮に、すべての禁止を解除したとしたらどうだろうか。強大な力と力の拮抗。一周回ってバランスが取れるのでは?
そんな思惑があったかどうかは知らないが、ここ、【グランプリ・千葉2016】の会場で禁止解除を謳ったサイドイベントが開催された。
「禁止解除モダン/Banless Modern」
一目見て「ヤバさ」が伝わってくる大会名。Banless Modernて。
この魔境極まりない大会のデッキリストは【こちら】を参照いただくとして、ここではその最終ラウンドの様子をお届けしたい。
川口 テツ(京都)。
京都から参戦した川口が手にするは長らくモダン環境を定義し続けていた《欠片の双子》コンボ。
そもそも今となってはデッキ名を冠する《欠片の双子》自体が禁止一覧に名を連ねているこのデッキ、元来より2枚成立コンボの安定感が売りであったが、そこに《思案》《定業》《時を越えた探索》というアドバンテージ獲得手段が加わり、より安定してコンボパーツを集めることが可能となっている。加えて、1マナの手札破壊や除去には《精神的つまづき》を合わせていく隙の無さを併せ持つ。
Prusa Adam(アメリカ)。
海外遠征となるPrusaが選んだ選択肢はジャンド。フェアデッキの代表格と呼べるセレクションだが、《死儀礼のシャーマン》《血編み髪のエルフ》《罰する火》のラインナップは凶悪の一語に尽きる。レガシーのジャンドと比較しても遜色のないデッキパワーだろう。
ここで少し昔を振り返ってみよう。モダン発足後、ジャンドにとって重要な位置付けとなるセットが発表された。
『ラヴニカへの回帰』
多色セットとして名高いラヴニカブロックの参入がジャンドにもたらしたもの、それが《死儀礼のシャーマン》、そして《突然の衰微》である。
この2枚のパワーカードはジャンドというデッキをモダンの代表格に押し上げた。結局、このジャンド黄金期とも呼べる時期の活躍を受けて《死儀礼のシャーマン》と《血編み髪のエルフ》が禁止されるに至るのだが、その一方で不遇をかこったデッキが存在する。それが何を隠そう《欠片の双子》コンボだ。
とにかく《突然の衰微》がどうしようもなかった。手札に大量のカウンターを抱えようがお構いなしに飛んでくる「打ち消されない」確定除去。当時のジャンドがトップメタだったこともあり、《欠片の双子》コンボの使用率に大きな影響を与えることとなったのだ。
言うなれば、この対決は在りし日の再現に近い。両名による「禁止解除モダン」の最終ラウンドが開始された。
Game1
先手は1マリガンのPrusa。
まずは挨拶代わりにと放ったジャンドの定番《コジレックの審問》で川口のデッキが《欠片の双子》コンボであることが判明する。
川口の《詐欺師の総督》が捨てられてゲームスタート。
川口 テツ |
双子にとって手札内容を確認されつつコンボパーツを落とされるのは厳しい展開だが、《定業》によって失ったパーツを探しに向かう。
Prusaも追撃の手を止めることはない。2枚目の《コジレックの審問》により、こちらも2枚目の《詐欺師の総督》をディスカードさせる。
一見すると、手札破壊の連打でコンボ側のリソースを削っているPrusaが優位に映るかもしれない。しかし、この時点での彼の手札は3枚の土地に《罰する火》であり、もし3枚目の《詐欺師の総督》を引かれた場合は川口が既に持っている《欠片の双子》とのコンボ成立を妨害することができない。
Prusaからしても戦々恐々なこの状況。川口の次の手が揃う前にライフを削りきるしかない。
《闇の腹心》を《稲妻》と交換し、満を持して《怒り狂う山峡》で攻撃を仕掛けるPrusa。
川口は対応して《時を越えた探索》。《コジレックの審問》で受けた手札破壊も合わせて、墓地には「探査」に十分な燃料が溜まっていた。
Prusa Adam |
この《時を越えた探索》が事実上のフィニッシュとなった。
《怒り狂う山峡》の攻撃を受けた返し、川口は《蒸気孔》をアンタップインして《呪文滑り》。Prusaのターンに《やっかい児》。再び返ってきたターンで《欠片の双子》。決着。
川口 1-0 Prusa
Game 2
不運にもダブルマリガンに見舞われてしまったPrusa。
先のゲーム同様に《コジレックの審問》からアクションを起こし、川口の手札から《思案》を撃ち捨てる。
しかし、川口の手札は依然として潤沢なドローソースが揃っており、《定業》《思案》と重ねてパーツを集めに向かう。
Prusaの4ターン目、ゲームが転換点を迎える。
《思考囲い》で確認した川口の手札には《詐欺師の総督》と《欠片の双子》の組み合わせが揃っているが、Prusaはそのどちらをも指定せず、《時を越えた探索》のディスカードを選んだ。
これが何を意味するか、それは《欠片の双子》コンボからすれば明白だ。すなわち《突然の衰微》の存在。
Prusaがこのように動いた以上、《突然の衰微》を手札に持っているのは間違いないだろう。それが事実上の見えている手札である以上、川口はおいそれと動くわけにはいかない。
どうにか打開策を……再び《呪文滑り》を引かなくては……。
川口が動くに動けない状況で、Prusaは《タルモゴイフ》《ヴェールのリリアナ》と続けて展開し、制限時間を突きつける。
《タルモゴイフ》がライフを、《ヴェールのリリアナ》がリソースを削っていくなか、なお打開策を引き込めない川口。そうして、擦り減ったライフに《コラガンの命令》が撃ち込まれ、勝負は最終ゲームにもつれ込んだ。
《欠片の双子》vs.ジャンド、否、vs.《突然の衰微》。その壁は今なお高い。
川口 1-1 Prusa
双子対ジャンドの構図ゆえか、そこで繰り広げられている光景はかつてのモダンに他ならない。
ならば、当時のようにモダンを行うだけだ。少しばかりカードが強力であろうとも、その本質は変わらない。
Game 3
先手の川口は2枚の《詐欺師の総督》に《欠片の双子》と良質な手札。
気を揉むのは手札破壊だが、Prusaからは《コジレックの審問》も《思考囲い》も飛んでくることはなかった。
川口は1枚目の《詐欺師の総督》を差し向け、これには予定調和的な《突然の衰微》。
再び様子見が続くかと思われたが、ここでPrusaが土地をすべて寝かせて《血編み髪のエルフ》。そう、このゲームにおいては川口は手札破壊を受けておらず、Prusaはその内容を窺い知ることはできない。そしてPrusaは1枚目の《詐欺師の総督》に切った《突然の衰微》以降、《欠片の双子》に対応する手段を引き込めていなかった。
もちろん、Prusaはここで2マナを立て続けるブラフを選ぶこともできただろう。しかし、それは仮定の話でしかない。見えない《欠片の双子》に怯えるを良しとせず攻めの姿勢を見せるPrusaだったが、川口の手札にはすべてが揃っていた。
シンプル=強いを体現するかの如く、2枚のカードが最終戦に幕を下ろした。
「禁止解除モダン」優勝は川口 テツ!!
Twitterでつぶやく
Facebookでシェアする