グランプリ・千葉2016のサイドイベントとして開催された、日本モダン選手権2016 Winter。
優勝を果たし、日本一の座に輝いたのが、吉井 巧だ。
スイスラウンドを一度も負けることなく勝ち上がり、決勝ラウンドでは「白黒トークン」「感染」、そして決勝戦の「ナヤブリッツ」を相手に見事なプレイを披露し、見るものを魅了した。
決勝戦終了後、長時間の戦いを終えた後にも関わらず、快くインタビューを引き受けていただき、独自の調整が施された「アブザン《異界の進化》」について解説をしていただいた。最後までお読みいただきたい。
■ 吉井 巧、インタビュー
――「優勝おめでとうございます!」
吉井「ありがとうございます!」
――「まずは、現在の心境を一言お願いいたします」
吉井「嬉しいです。モダンは『運命再編』の頃からやっているのですが、やっとたどり着けました」
――「吉井さんは、モダンをメインにプレイされているのですか?」
吉井「モダンのみ、ですね。そして、このデッキも使い続けています」
■ 「アブザン《異界の進化》」
――「今回使用されているデッキは、いわゆる『アブザン《異界の進化》』ですが、かなり独自の調整を施されていますよね。」
吉井「このデッキは『異界月』が出たときに作りました。先ほど、モダンに触れたのは『運命再編』の頃から、と言いましたが、友人たちが『タルキール覇王譚』でフェッチランドが出たことでモダンを始めて、私も一緒に始めたんですよ。そのときは『《出産の殻》』を作ったのですが、一ヶ月位で禁止されてしまって……」
――「それは衝撃的ですね。そのころ使っていたとなると、《異界の進化》に注目されたのも納得できます。そして、色々な調整がなされたわけですね」
吉井「そうですね。かなりいろいろと調整をしてきているのですが、今回で言うと、《未練ある魂》です。とにかく『感染』が辛くて、3枚に増やしてみました。トークンが並べば、《復活の声》のエレメンタル・トークンもかなり強くなるので、今日も『感染』との対戦で役にたちましたね」
――「なるほど。その《未練ある魂》を増やしたことで、他の部分も変わっているんですか?」
吉井「そうですね。《未練ある魂》を増やしたことで、《異界の進化》が少し使いづらくなりました。なので、今まではこだわりで4枚にしていたのですが、1枚を《召喚の調べ》にしています」
――「おお、《召喚の調べ》が。決勝戦の1ゲーム目では《漁る軟泥》を持ってきて、それが勝利に繋がっていましたね」
吉井「あれは、本当に助かりましたね。『入れていて良かった!』と思いました」
――「《召喚の調べ》で《漁る軟泥》を持ってくるという発想は、使いこなしているからこそ、ですね。新たに採用したカードは、他にもありますか?」
吉井「これまでは《ガヴォニーの居住区》と《幽霊街》、無色土地2枚を採用していたのですが、無色なので初手のキープ基準にならない、という問題がありました。そこで今回は《ガヴォニーの居住区》を抜いて、《ペンデルヘイヴン》を1枚入れてます」
――「緑マナも出て、そしてクリーチャーを強化できる土地ですね。使い心地はどうでした?」
吉井「かなり良かったです。キープ基準で言えば、決勝戦の2ゲーム目は《ペンデルヘイヴン》《神無き祭殿》という初手だったのですが、緑マナが出るだけでかなり動き出しが違います。クリーチャーを強化する能力も重要で、《未練ある魂》のトークンを2/3にして、相手の攻撃を止められた場面が何回もあります。これも追加して正解だったと思います」
――「決勝戦でも《未練ある魂》は大活躍でしたが、2ゲームとも土地が3枚で止まっている状態での勝利でしたね」
吉井「そうですね。少し窮屈ではありましたが、軸となるのは2,3マナのカードなので、十分に動けます。《台所の嫌がらせ屋》や《復活の声》を《異界の進化》で生贄に捧げて、《包囲サイ》《鷺群れのシガルダ》、それから《先頭に立つもの、アナフェンザ》《オルゾフの司教》などを状況に応じて持ってくれば良いので」
――「なるほど……クリーチャーの選択を見ると、吉井さんが選びぬいたカードたち、という印象を受けますね」
吉井「ありがとうございます。本当に、ずっと使っていますから。なので、優勝できて本当に嬉しいです」
――「呪文にもこだわりが見られるのですが、比較的新しい《集団的蛮行》の使用感はいかがですか?」
吉井「かなり強いですね。そして、能力が現在のモダンに合っている、と思います。現在のモダンは、『感染』『親和』、決勝の『ナヤブリッツ』もそうですが、ものすごく速いですよね。そうすると、除去の枚数も増やしたい、そして、ハンデス呪文も欲しいな、と」
――「おお。では、その贅沢な願望を叶えてくれる1枚が……」
吉井「《集団的蛮行》ですね。《突然の衰微》をメイン、《集団的蛮行》をサイドで試していたのですが、《突然の衰微》で触れないもののほうが気になることが多かったですね。アーティファクトやエンチャントはあまり気にならないけど、何よりも『感染』のほうが辛かったので、《突然の衰微》はサイドにしました」
――「サイドボードで気になるのが《激変の機械巨人》の採用なのですが、これはどうして?」
吉井「これはですね。一週間くらい前に晴れる屋の平日モダンで、スリヴァーデッキに負けてしまったんですよ。それで『横並びが辛いな』と。『エルフ』などを相手にも役立ちます。《悪斬の天使》を使っていたこともありましたが、こちらの方が良いな、と今は考えてます」
――「モダンはかなり色々なデッキが存在するので、サイドボードを決めづらい部分がありますよね。吉井さんはどのようなプランで15枚を選んだのですか?」
吉井「やはり、すべてのデッキに対応するのは難しいとは思うのですが、現在のメタゲームに対して幅広く、を意識してますね。とは言っても、メインボードは60枚という枠に収まり切らなかったので、61枚なんですけどね」
――「そういった点も含めて、吉井さん独自の調整で、日本一になられたわけですね」
吉井「そうなりますかね(笑) ありがとうございます」
■ 吉井の語る、"モダンの魅力"
――「では最後に、日本一になった吉井さんの考える、"モダンの魅力"をお聞かせください」
吉井「モダンの魅力は、自分のやりたいことをやれること、だと思います。その分、相手もやりたいことをやってくるのも魅力だとは思います」
――「勝っても負けても、自分のやりたいことはやれる、ということですか」
吉井「そうですね。なので、たとえ負けたとしても、それをいつまでも引きずらないことが大切かな、と思いますね。『負けた。でもこれがモダンだな』と思って、次に向かって努力をすることが、次の勝利に繋がるので」
――「なるほど。努力した結果、スイスラウンドから一度も負けることなしの優勝。これが何よりの証拠ですよね」
吉井「練習の成果と、それから競技レベルということもあって、今日は一段階集中力が上がっていたような気がします」
――「初戦から決勝戦まで、本当に見事なプレイの連続でした。改めて、優勝おめでとうございます!」
吉井「ありがとうございます。次に向けて、また頑張ります!」
荷物をまとめて、筆者と、そして日本モダン選手権2016 Winterを担当したジャッジたちに挨拶をし、友人たちと談笑しながら、吉井は会場を後にした。
独自の調整が施されたデッキ。そのリストを眺めると、1枚1枚に、彼のデッキに対する愛情と努力の跡を知ることができる。
このデッキリストは、吉井が考え抜いた独自のものだ。コピーすることはできても、使いこなすことは難しいかもしれない。
そして、今大会で優勝したという結果も、誰にもコピーすることはできない。
2016年、冬。このモダン選手権を制したのは、吉井 巧、ただ一人なのだから。