”フロンティア神”として座す心境とは、どのようなものなのだろう? それを語れるのは、現世に誰ひとりとして存在しない。
それでも、ひとつ確かなことがある。
この写真を見れば分かる。「このどちらかが、これから神の座にたどり着くのだ」と。
スイスラウンド9回戦を、そして準々決勝、準決勝を勝ち抜いた両者。この戦いの勝者が、”初代フロンティア神”に輝くことになる。
鈴木 崇仁が使用するのは、「4色人間カンパニー」だ。
前環境のスタンダードで猛威を奮った「バントカンパニー」には様々な派生が存在した。その1つが、プロツアー殿堂顕彰者、Team Cygames所属の渡辺 雄也が世に送り出した、「バント人間カンパニー」である。
「人間」というタイプの強力さは、フロンティアであっても変わらない。さらに、フェッチランドを使用し、マナベースを改良したことで”4色”を可能としている。
対する松本 友樹が使用するのは、「スゥルタイ昂揚」。
現在のスタンダードでトップメタに君臨する「黒緑昂揚」に青をタッチした形だが、単に「タッチした」では終わらない。フロンティアで「青を使用する」ということは、「《時を越えた探索》が使用できる」という意味でもある。
【インタビュー】でデッキの選択理由を審らかにしているが、そのカード選択には、細部まで松本の意匠が反映されているといっても過言ではない。
初代フロンティア神を決定する、記念すべき一戦が、今始まる。
Game 1
両者マリガン。その後、鈴木の《ヴリンの神童、ジェイス》から、長い戦いがスタートする。
松本は早速《強迫》で鈴木の手札を暴く。公開されたのは……《アブザンの鷹匠》《サリアの副官》《サリアの副官》《異端聖戦士、サリア》。
松本「白マナは……出ないですね」
対戦相手の言葉に、鈴木は思わず苦笑いを浮かべる。
白マナが1つあれば、大きく動き出せる状態。鈴木は《ヴリンの神童、ジェイス》の能力を頼りに土地を探す。今しばらくの時間を稼ぐために、《ラムホルトの平和主義者》を唱える。
対する松本は《最後の望み、リリアナ》を唱えて相手の打点を下げる。土地も順調に伸ばし、ゲームは中盤へ。
土地は伸ばせるのだが、望む白マナを用意することはできず、何も唱えずにターンを終える。《ラムホルトの平和主義者》が変身したため、松本の《最後の望み、リリアナ》が一直線に奥義へ向かう動きは牽制できそうだ。
松本はじっくりと土地を伸ばし、《最後の望み、リリアナ》で《ラムホルトの解体者》を弱体化させ、そのままターンエンド。
鈴木は待望の《溢れかえる岸辺》をドローし、そのままプレイ。白マナがようやく用意できそうだ。
松本は再び《最後の望み、リリアナ》を起動するのみ。そのエンドフェイズ、鈴木は《溢れかえる岸辺》を起動し、《大草原の川》を持ってくる。
互いに潤沢なマナを用意し、盤面の動きが慌ただしくなる。変身直前の《ヴリンの神童、ジェイス》に対し、松本は《闇の掌握》。戦力を増やしたい鈴木は、《始まりの木の管理人》。豊富なマナを注ぎ込めば、一気にフィニッシャーをも担うことが可能だ。
松本は、ここで《ウルヴェンワルド横断》。鈴木は身を乗り出して、墓地を確認するが、まだ「昂揚」は達成していない。ここでは《島》を持ってくるが、墓地が豊富になったため、《ラムホルトの解体者》を《残忍な切断》で除去。
エンドフェイズ。鈴木は《優雅な鷺の勇者》を瞬速で唱えて戦力を補強するが、これには松本の《奔流の機械巨人》が《闇の掌握》をフラッシュバック。
鈴木 崇仁 |
ターンを受けた鈴木は《サリアの副官》を出して、《始まりの木の管理人》を強化。次のターン、《サリアの副官》には《最後の望み、リリアナ》の能力が刺さる。
《始まりの木の管理人》を強化し、どうにかリリアナの忠誠値を下げたい鈴木。ところがここで2体目の《奔流の機械巨人》が盤面に現れ、それも不可能となった。
ここで鈴木は投了。手早く盤面を片付けると、サイドボードに手を伸ばした。
鈴木 0-1 松本
真剣な表情でサイドボードを見つめる両者。
フロンティアは、たしかに公認フォーマットではない。しかし、二人の真剣な表情に、「カジュアル」という言葉は浮かんでこない。ひとつひとつのやり取りには、あらゆるフォーマットで見られる「真剣なマジックの戦い」としての緊張感が、常に漂っている。
張り詰めた空気の中、二人の手の届くところに「神」と記されたトロフィーが鎮座する。
どちらがこのトロフィーを掲げるのか。松本か。それとも、鈴木が一矢報いて振り出しに戻すのか。
戦いの行く末を、ギャラリーとジャッジ、そしてジェイスが見つめている。
Game 2
鈴木の《大草原の川》、松本の《窪み渓谷》と、両者タップインでスタート。
鈴木は《サリアの副官》をプレイするが、これは即座に《死の重み》で除去される。
副官を墓地に落としてターンを受けた鈴木は、《異端聖戦士、サリア》を唱える。
松本の手が、一瞬止まる。ターンを受け、《溢れかえる岸辺》を“タップイン”。動き出しが1歩遅くなる。
フロンティアが多色環境であることは言うまでもない。その環境を支えているのは、フェッチランドを始めとする土地の存在だ。《異端聖戦士、サリア》は、その環境に突き刺さる1枚である。《溢れかえる岸辺》をアンタップし、《島》を持ってくるために、1ターンの時間を使用してしまうことになった。
エンドフェイズ、鈴木は《集合した中隊》を唱える。対する松本は、ひとまず《餌食》で《異端聖戦士、サリア》を除去して備える。
6枚から出てきたのは、《荒野の後継者》……のみ。
鈴木「ここに来て……」
今日、幾度も鈴木を助け、勝利の鍵となったであろう《集合した中隊》。悔しそうに呟きながら、手札と盤面を見つめる。とはいえ、唱え直すことは不可能。この《荒野の後継者》が鈴木の持つ主戦力であることは揺るがない。そのままターンを受け、《サリアの副官》で強化し、攻撃。さらに《始まりの木の管理人》を唱えて、3体のクリーチャーを並べる。
「4色人間カンパニー」の強さは、人間を並べてこそ活きる。全体を《サリアの副官》で強化し、《アブザンの鷹匠》がそれらを飛行させれば、どれだけ地上が膠着しようとも、一気にライフを削ることが可能だ。さらに、瞬速で戦場に出る《優雅な鷺の勇者》が合わされば、ライフレースを崩壊させるほどの破壊力を持つ。環境選りすぐりの人間を並べることができれば、勝利は手堅いだろう。
しかし、「並べることができれば」という言葉は不十分だ。「並べて、“攻撃することができれば”」。つまり、並べた人間たちを維持することが、必要不可欠なのだ。
松本 友樹 |
松本は、手元のメモにライフを記し、土地をアンタップ。静かに4枚の土地を倒して、手札から1枚のカードを盤面へ。
《衰滅》!
相手の展開を、灰燼に帰す1枚。さらに、《ウルヴェンワルド横断》で《墓後家蜘蛛、イシュカナ》を手札に加える。
無人となった戦場を見つめる鈴木。戦線の構築は振り出しに戻った。《アブザンの鷹匠》を唱えて、展開を始める。
松本のマナは潤沢。《墓後家蜘蛛、イシュカナ》を手札に留めたまま、ここでは《最後の望み、リリアナ》を唱えることを選ぶ。
リリアナの能力によって、0/1となった《アブザンの鷹匠》は、ひとまず「長久」。さらにもう1体《アブザンの鷹匠》を唱えて、横に展開。リリアナが弱体できるクリーチャーは1体のみ。人間を並べることで、その防御を突破することが可能となるであろう。
それを、松本が許せば、の話だが。
またも盤面を襲う《衰滅》!
これには鈴木も声を漏らす。《反射魔道士》を唱えて、再び戦線の構築を目指す。
《最後の望み、リリアナ》の忠誠度は既に6。
松本は先ほど手札に加えた《墓後家蜘蛛、イシュカナ》を唱えるが、これには《軽蔑的な一撃》! さらにターンを受けて、《先頭に立つもの、アナフェンザ》を唱え、鈴木の抵抗は続く。
その盤面を、松本は静かに見つめながら頷く。ひとまず《闇の掌握》で《先頭に立つもの、アナフェンザ》を除去し、さらに《ウルヴェンワルド横断》で《奔流の機械巨人》を手札に加える。
《最後の望み、リリアナ》の上に、2つ目のダイスが乗る。忠誠値は7。次のターンからは、ゾンビが人間を飲み込み始めるであろう。
何としてもリリアナの奥義を阻止せねばならない鈴木。《優雅な鷺の勇者》を唱えて、少しでも忠誠値を減らそうと試みる!
その試みも、松本の、いや、新たなる神によって、拒絶されてしまった。
鈴木 0-2 松本
あらゆる戦略を、見事に抑えきられた鈴木は、新たなる神に手を差し出した。その手を握り返し、笑みを浮かべながら、松本は喜びを周囲に伝える。
競技レベルでも数多くのデッキを生み出し、デッキ・デザイナーとして確固たる地位を築いている松本。事前の【インタビュー】で、松本は今回のデッキ選択について語っている。
環境の中心を《密輸人の回転翼機》と判断し、それに対抗するための手段を意識し、《時を越えた探索》を始めとする青黒緑の強力な呪文を採用。そして語られた、
「一番信頼できるのは《闇の掌握》」
「《奔流の機械巨人》は、スタンダードの10倍くらい強い1枚」
といった言葉の裏には、「プロプレイヤーの目から見た、フロンティアの解」という印象を受ける。そして、このゲームの展開は、彼が弾き出した解の正しさを目の当たりにさせるものであった。
”フロンティア神”として座す心境とは、どのようなものなのだろう? それを語れるのは、現世に松本しか存在しない。
それでも、ひとつ確かなことがある。
この写真を見れば分かる。「きっと、嬉しいに違いない」と。
初代フロンティア神は、松本 友樹(神奈川)!
おめでとう!!
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