Translated by Junya Takahashi
■ イントロダクション
プロツアーが開催される直前にコラムを書くのはいつだって難しい。
まず、これからのメタゲームがどうなるかわからないから、紹介するアイデアやデッキが活躍するかどうかは定かじゃないこと。 次に立ちはだかるのは、いつだって俺たちが直面することになる”情報を公開する”リスクである。 もしかしたら世界最高峰のトーナメントで大活躍するかもしれない自分の最高のアイデアを、本当に世界中に向けて発信したいのかってことだ。
幸運なことにも『霊気紛争』は、そういった心配の少ない、一風変わったカードセットだった。 デッキ構築の中心になるようなメカニズムやカードが数え切れないほどあり、それらはたくさんのデッキを生み出してくれるだろう。 俺が紹介できるだけでも10個ほどのアイデアがあるし、それをプロツアーで使うレベルに仕上げるにはもう一工夫が必要になるから、ここで紹介しても大きな問題にはならないはずだ。
でも、それじゃあ物足りないよな。
だから、 このコラムを最高に面白くする ためにも、その中から数枚を選んでできる限り使い込み、それらが デッキパワーの観点からどの程度の力を秘めているのか を見てみようと思ったのだ。 言い換えるならば、今回のコラムの目的は、「メタゲームなど外的要素を無視したときに、それぞれのデッキやカードがどれほどの地力を持っているのか」 を君に知ってもらうことだ。
これから紹介するデッキは素晴らしいものかもしれないし、はたまた酷いものかもしれないし、メタゲーム次第では活躍できるといったものなのかもしれない。 ただ少なくとも、君はそれぞれの メカニズムやカードの価値がしっかりと分かるようになるはずだ。
それでは、まずはで相手を倒すデッキを紹介しよう。 おっと、これはマジな話なんだぜ?
■ 青緑
「青緑」
10
2
4
4
1
-土地 (21)-
4
4
-クリーチャー (8)- |
4
4
4
4
3
4
4
4
-呪文 (31)- |
もう君は気づいているかもしれないが、 このデッキはの力を最大限引き出すこと を狙ったものだ。
そのために俺たちのチーム(特にシルバーレベルプロのThierry Ramboa)が出した結論は、除去されやすいクリーチャーを使うのではなく、ほとんどの相手に干渉されないアーティファクトを中心に構築することだった。
ぱっとデッキリストを眺めただけでは「このデッキが何をするデッキなのか」がわかりにくいかもしれない。 そこで簡単な説明をさせてもらうと、このデッキは、戦場にとがあり、[4青青]をアーティファクトから生み出せる状態を目指している。
この状態になるとを 無限に出し入れできる ようになるのだ。 これはつまり無限エネルギーということで、6マナ以上でるならば無限マナであり、無限にを起動できるのだ。 無限にを起動できるということは、すなわち、 デッキの中のカードをすべてプレイできる ということである。
では、どうやって相手を倒すのか? これがなんとも華麗なのだ。
デッキに入ったをすべてプレイして、追加で(無限マナだから必要ならば起動して)最大24点のライフを得るだけである。 あとは、相手のライフが無くなるまでを起動すればいいのだ。
このコンボは時間が少しかかるが、途中で止まったり失敗するようなものではない。 決まったときには確実に勝てるコンボなのだ。 例外としては、自分のライフが少なすぎたり、相手のライフが24を超えている場合に、相手を倒す前にが変身してゲームが終わらないケースである。(編集注釈:変身するタイミングはお互いのライフが10を割った”瞬間”ではありません。こちらのライフが尽きない限りはそのまま倒せるでしょう)
ただ、この場合も大量のライフを得てから、4枚のと《エムラクールのオーロラ/Aurora of Emrakul》を並べてターンを返せばいいだけだ。 もしそれでも心配ならばを入れておくといい。 これさえあればすぐにでも倒せるはずだ。
このコンボの美しいところは、 フィニッシャーがデッキを動かすためのエンジンでもあるところだ。 だから1枚たりともエンジンと無縁のカードを採用する必要がなく、考えられる限り もっともコンボに特化したコンボデッキ になっている。 もしかするとコンボを完成させるのが難しすぎるように思えるかもしれないが、その実、とても簡単だ。
なぜならコンボパーツのそれぞれが他のパーツを集めることに貢献するからである。 特にはコンボをはじめるにあたっては素晴らしいカードだ。 これを1回起動するだけでも必要なパーツを集めるには十分だったりする。 本当に多くのゲームの分岐において、、、のいずれかが足りなくてもコンボを始められるし、その過程で足りないコンボパーツを見つけることはよくある。
このデッキのもつ強みは、同時に弱みでもある。 デッキに入っている60枚のカードすべてがコンボに関係するため、それによって弾力性と安定性が高いことは素晴らしい。 しかし、それはつまり、このデッキには 1枚たりとも相手に干渉する手段がない ということでもあるのだ。
だから、このデッキが調整においてどうだったかを話すと、まず素晴らしいこととしては、 とても安定して5ターン・キルを決めていた。 手札破壊かカウンター呪文でしか妨害できず、それらはそうありふれたものではないからだ。 ただ、それはこのデッキの酷さを表した結果でもあった。 つまり、5ターン目以前には何もできない ので、流行するであろう4ターン目の+コンボには無力で、ほとんどのアグロデッキは先攻ならば5ターン目以前にこちらを倒してしまえるのだ。
この結果からわかったことはなんだろうか?
まず、は 素晴らしいコンボパーツ であり、様々な構築が考えられるということだ。 クリーチャーを使ったものは速い代わりに妨害されやすく、アーティファクトを使ったものは遅くはなるが妨害されにくくなる。
次に、デッキ全体を”そのカードありき”の構築にさせるカードがあると、 対戦相手に干渉するカードのためのスペースが限られてしまう 、ということである。 だから、このようなデッキは、+コンボのように、対抗策が必要になるデッキが警戒されて数を減らしているようなメタゲームでは出番がある のかもしれない。 そうでもないと良い結果は残せないだろう。 普通に考えると、4ターン・キルのコンボがある環境で、干渉する手段を持たない5ターン・キルに何の価値があるのかって話だ。
ただ、確信をもって言えるのは、これから俺がそうするように、 メタゲームはコンボへの警戒を十分に強めていく ことになる。 そうなれば、この形のコンボには活躍する余地が生まれるはずだ。
コンボへの一般的な対抗策とは、インスタント・スピードの除去を採用することである。 そこで環境は対抗策を用意しやすい攻撃的じゃないデッキで溢れるだろう。 でも、そいつらは相変わらずのコンボには干渉できないってわけだ。 覚えておくと、いつかいいことがあるかもしれないな。
■ 赤青
「赤青」
8
1
4
4
4
1
-土地 (22)-
4
3
1
1
4
2
-クリーチャー (15)- |
4
3
4
4
2
4
2
-呪文 (23)- |
どうだ? 実に独創性に富んだデッキだろう? でも、これがどうやって生まれてきたのかについては、少しばかり説明する必要がありそうだな。
そもそもの発端はにあった。 このようなカードを見ると、誰だってよろしく、巨大なクリーチャーコストを踏み倒そうとする のだが、残念ながら現スタンダード環境で最大のクリーチャーはなのだ。 こいつをから出しても”プレイ時の効果”の恩恵には授かれず、いまいち物足りないのである。 しかも、 1枚しか入れないとこれを引いてしまったときにデッキが動かなくなるのはわかるが、手札から唱えられないカードをたくさん入れるっていうアイデアもいただけない。
そこで俺が見つけた華麗な解決策はこうだ。
それは、 たくさんの軽量アーティファクトとを入れる ことである。 これは5ターン目にを出せるようになるってだけじゃなく、にも新たな一面を与えられるのだ。
つまり、X=5あるいは6で唱えることで、あたかも強化版のになるのである。 並べておいた軽いアーティファクトをやに変えて、大量にカードを引き、必要であれば相手の脅威をさせてもいい。
もちろん、この効果には多くの分散が含まれるものの、をX=5で唱えれば、だいたい「カードを2枚引く、4つのアーティファクトを3つの軽いアーティファクトと1つの巨大なクリーチャーに変える、相手の脅威を除去する」くらいの効果にはなる。 これは4~5ターン目ならば強すぎる効果だ。
は、の”当たり”の密度を増やしつつ、主に序盤の時間稼ぎをするために採用している。 また、こいつは2つの理由でとの相性がいい。 ひとつは、”現出”のマナコストを”即席”で支払うことができること。 もうひとつは、”現出”の生贄にあてるアーティファクト・クリーチャーをタップして”即席”の支払いに当てられることだ。
さて、このデッキはどれくらい強いのだろうか?
ざっとした感想だと「そんなに」って感じである。 もちろん、それはとっちらかった構成をしているからなのだが、何より重要なのは、 このデッキが想像よりもずっと動かないデッキ だったことだ。
俺の結論としては、ものすごく楽しいし、かっこよく勝てるデッキではあるのだが、その反面でというカードが如何にチグハグなものであるかを示す一例でもあった。 基本的には、マナ加速のように働く軽量アーティファクトを大量にデッキに入れさせようとする。 しかし、の”当たり”は、アーティファクトであってはならないのだ。
これは俺が今になっても解決できていない 幾つかの構築上の制限 を引き起こしている。
・がないとチグハグ
を引かないと、当然ながらデッキが酷い有様になる。 たとえば初手の7枚にとがいる悲しさを想像してみてくれ。
・デッキの中身が薄すぎる
色マナを必要とする呪文があるかぎり、いくらかの土地は必要になる。 ただ、ここで生じる問題というのは、軽量アーティファクト、”当たり”のデカブツに加えて、たくさんの土地までも必要となると、デッキの中身はスッカスカになってしまうのだ。
これを解決するには、アーティファクト呪文ではない色マナを要求するカードたちを――たとえばエルドラージ呪文のように無色のものだけに変えてしまえばいい。 しかし、デッキとしては、たとえ重いマナコストであったとしても凄まじい効果を持つ呪文を求めているのだ。 をタダで唱えられたところで「だからどうした」って話だからな。
・またしても干渉手段に乏しい
これはのデッキでも同じことを言ったが、デッキを動かすためのエンジンにカードスロットを多く捧げているため、相手に干渉するためのスロットが残されていない。
■ 焼野原に残ったのは?
それでは、こうしたアイデアの失敗談から何がわかったのだろうか。 最後に3つのことをまとめてみよう。
(1) は強力なコンボパーツ
は、メタゲーム次第ではあるものの、正真正銘のコンボパーツである。きっとどこかしらのタイミングで、これを使った強力なコンボデッキがスタンダードに登場するはずだ。要注意の1枚だな。
(2) は罠
はおそらく偽りの希望だ。こいつを上手く使うには、たくさんの準備が必要で、その上でかなり都合の良い動きをしなければならない。
(3) を取り巻く環境の2つのルール
とのコンボの存在は、デッキ構築にとても厳しい制限をかけてくる。君がデッキを構築するにあたって、今まさに気をつけなければならないことは、 以下の2つのルールのどちらかをクリアしているかどうかだ。
1. 「3ターン目のをクリーチャーの攻撃で倒せる」
2.「4枚以上のインスタント・スピードの除去がデッキにある」
(は最も軽くコンボを妨害できる素晴らしいカードだ)
それでは、また次回会おう!
Pierre Dagen
Pierre Dagen
ピエール・ダジョン。フランス出身。ヨーロッパを代表するプレイヤーの1人。
【プロツアー『テーロス』】で、親友であるJeremy Dezaniと共に”Les Bleus”と名付けた「青単信心」を持ち込み、決勝のミラーマッチを戦った姿が印象的。
3度のグランプリでトップ8を飾り、【ワールド・マジック・カップ2015】ではフランス代表のキャプテンとして3位に入賞し、 【プロツアー『カラデシュ』2016】では2度目のプロツアートップ8を経験した。
Pierre Dagenの記事はこちら