『霊気紛争』のドラフト環境を覗いてみよう

Oliver Polak-Rottmann

Translated by Junya Takahashi

2017になったぞ!さっそくだが、君たちは『霊気紛争』のプレリリース・イベントを満喫できただろうか?最新カードセット『霊気紛争』が加わったドラフトを楽しみにしているかな?今回の記事では、『霊気紛争』以後のドラフト環境について話していくつもりだ。

改革派の貨物車 領事の旗艦、スカイソブリン

『カラデシュ』ドラフトは、俺的にはすごく面白い環境だった。だから、追加のカードセットが加わることで「どんな変化が起こるのか」が楽しみで仕方なかったんだ。まあ、初めから一つだけ言えたのは、《改革派の貨物車》は相変わらずトップコモンで、《領事の旗艦、スカイソブリン》を超えるカードは登場しないだろうってことくらいだな。

現在、俺は12回目のドラフトを終えた。これが多いか少ないかは分からないが、きっと君たちに簡単ながらも『霊気紛争』後のドラフトの姿を伝えられると思う。これから話すのはドラフトの話だ。シールド戦には応用できないから注意してくれ。

■ 2つの新しいキーワード能力について

『カラデシュ』環境では、色の組み合わせによるシナジーの関係で、デッキのあるべき姿は極めて限定されていた。新しいセットが加わると、ほとんどの場合、これまでの常識はいくらか崩れることになる。『霊気紛争』も例外ではなかったようで、デッキの核となるコモンが変わり、特定のカードをパックから、あるいはドラフト中に回ってくる確率だって変わったのだ。だから俺達はその変化に対応しなければならない。

以前に「アーキタイプによって環境を分析する方法」を紹介したが、今回はそれぞれの色とその組み合わせについて詳しく見ていくつもりだ。でも、とりあえずは「新しいキーワード能力」について整理するところから始めようか。

● ”紛争”
致命的な一押し

まずは”紛争”について話していこう。そう、君たちが大好きな《致命的な一押し》に書かれているアレだ。このキーワード能力はリミテッドだとうまく誘発させることが難しくなる。だから《改革派の地図》《枷はずれな成長》や各種《器具/Impliment》などで手助けして、”紛争”をもつカードの潜在能力を引き出す工夫が求められるのだ。特に各種《器具/Impliment》は想像以上に活躍してくれた。まあ、とはいっても、こればっかり入ったデッキにはしたくないがね。

改革派の地図 枷はずれな成長 悪意器具

あとは、パーマネントを”明滅”させる効果も”紛争”を助けてくれる。《軽業の妙技》なんかは”紛争”によって評価をあげた1枚だ。”紛争”もちのクリーチャーを”明滅”させるだけで、その誘発効果を再利用できるのだ。とりわけ《復讐に燃えた反逆者》とは相性が良い。色でいうと緑が”紛争”のカードを使いやすいな。

軽業の妙技 復讐に燃えた反逆者
● ”即席”

2つ目のキーワード能力は”即席”である。第一印象だと、この能力は全然機能しないと思ったんだが、新しいエネルギー・サイクルによって『カラデシュ』環境以上にばら撒かれる《霊気装置・トークン/Servo》や、各種《器具/Impliment》がまるで《精神石》みたいに働いてくれたのだ。ちょっと拡大解釈をすると、”即席”のカードは『カラデシュ』環境にもいた。《歯車襲いの海蛇》だな。これとは少し挙動は違うが、マナコストを軽減させるような効果は、当然ながら、またしても素晴らしかったってわけだ。俺のお気に入りは《湿原の運び屋》だが、ほかの”即席”たちも予想以上に強力で、とてつもない展開力を与えてくれる。

霊気毒殺者 歯車襲いの海蛇 湿原の運び屋

■ 『霊気紛争』以後のアレコレ

● アーティファクト除去について

『霊気紛争』が加わった後も、世界は相変わらずアーティファクト・ブロックのはずなのだが、アーティファクトらしいアーティファクトはそれほど多くはない。そう、《霊気装置・トークン/Servo》や《器具/Impliment》といったアーティファクトはいくらかあるが、それがほとんどだといってもいい。また、『霊気紛争』にある機体は、『カラデシュ』のものと比べて基本的には弱くなっている。だからメインデッキからアーティファクト除去をいれることには反対だな。ほとんどアーティファクトが入ってないデッキだって珍しくないからだ。

あと、『カラデシュ』だけの環境では、《発明者のゴーグル》《放射篭手》はそんなに好きじゃなかったんだが、『霊気紛争』後はむしろ強すぎるくらいのカードだと感じている。”即席”を助けるし、『霊気紛争』に収録されている「工匠」たちと強力なコンビネーションを発揮するのだ。ついでに『霊気紛争』で最強のアーティファクトを紹介すると、これまでの俺の経験によると《鎮定工作機》だな。

発明者のゴーグル 放射篭手 鎮定工作機
● マルチカラーのカードについて

『霊気紛争』にあるマルチカラーのカードたちはとてつもなく強いが、それらはすべてアンコモン以上のレアリティのカードでもある。つまり、それらをいつでもピックできるかというと、そういうわけにもいかないのだ。弱いパックでは検討することはあるが、基本的にはマルチカラーのカードを初手でピックするのはおすすめしない。俺はもう2回ほどマルチカラーからドラフトを始めたことがあるが、どちらも色が合わずにサイドボードで鎮座することになってしまった。この環境では、君が正しくテーブルの状況を把握して、あるべき色を選べているならば、後の順手でも”爆弾”レベルのカードが流れてくるはずだ。だから2パック目でも同様に無理してピックせずに流してしまっていいと思う。もしピックする機会があるとしたら、それは《異端の飛行機械職人》だろうか。彼はあまりに強すぎるカードだからな。

異端の飛行機械職人
● 『霊気紛争』環境の速度について

環境の速度。これを環境初期から正しく認識・分析することはとても難しいが、俺は『カラデシュ』環境と似た速度だと感じた。優秀な2マナ域とクロックを早める”即席”が加わったことから、『カラデシュ』当時よりも遅くなったということはない。したがって除去呪文の評価が高まり、ゲームは長引く傾向にあるが、それでも序盤の数ターンの速度は早く、4ターン目までに何もできなければ生き残ることはできないだろう。

霊気急襲者 搾取工区の喧嘩屋
● ”爆弾”レアについて

『カラデシュ』ブロックには”爆弾レア”がとても少ない。これはWotCを褒めなければならないな。俺が大好きな方向性だ。たしかに強くて独特な効果をもつものは時々いるが、そいつらはコモンやアンコモンを一回りアップデートしたようなものなのだ。いつの世にも各種《プレインズウォーカー/Planeswalker》たちや《領事の旗艦、スカイソブリン》のような化物はいるものだが、それ以外はとてもバランスがいいと感じた。

生真面目な補充兵 艱苦の伝令

■ 各色の評価と印象

● 白の評価

それでは各色の評価に移ろう、まずは白だ!ここ最近のカードセットやブロックだと、白は常にベストか、ベストに近い色だった。さて、それが『霊気紛争』だとどうかというと、俺の認識だと最弱色の1つである。まず、初手で取りたいような良いレアがほとんどなく、アンコモンだって”《忘却の輪》もどき”の他は平凡で、コモンにだってそこそこの合格点しかやれないくらいだ。たしかに《暁羽の鷲》はあるが、除去呪文はすべてとても悪く、コンバットトリックも他の色よりも弱い。それでも《罪の自覚》だけはちょっと良さそうだなって思えたな。これをバウンスするだけで”紛争”を誘発できるんだ。覚えておいて損はないだろう。

暁羽の鷲 罪の自覚

白を中心にした色の組み合わせについてだが、『カラデシュ』ブロックは「白青飛行」のような戦略ができるように作られていない。それは今でも変わらず、どうしてもそれ以外は駄目ってときくらいしか俺はやろうとしないな。「白黒《霊気装置・トークン/Servo》」は『カラデシュ』環境では俺のお気に入りの1つだったが、”製造”は少なくなり、《霊気査閲者》はサイクルのなかで飛び抜けて弱いから、最良の組み合わせってことはないだろうな。

「白赤」は依然として攻撃的な機体デッキだが、相手を押し切る力は失われたように感じた。「白緑」は”紛争”の恩恵を活かすデッキで、ほとんどの場合で多色化することになる。そのため、トークンの横並びの戦略から、超攻撃的なアグロ、エネルギー主体のシナジー構成と、幅広い戦略を採る余地がある。このどれもと相性のいい《渦跡の鷹》はすごく重要な1枚だ。

霊気査閲者 渦跡の鷹
● 青の評価

青は『カラデシュ』では白と最弱色を争っていたが、『霊気紛争』が加わった今では、その最下位争いから抜け出せる程度の力は付けたようだ。それでも俺は好きになれない色だがな。少なくともたくさんの良いレアと使いやすいアンコモン、エネルギー関係の素晴らしいコモンを手に入れた。他にも《置き去り》《凍り付け》によっていくらか対戦相手に干渉できるし、ドローはスペルの質の低さを補うに足る効果だ。

青を中心とした色の組み合わせとしては、青黒はコントロールとしても攻撃的なデッキとしても組み上げることができる面白い2色だ。この方向性は、基本的に自分のデッキに入っているアーティファクトによって変わる。もしアーティファクトが多いのであれば、いくらか遅いものになるだろう。それはゲームプランが巨大な”即席”や《歯車襲いの海蛇》の力を活かしたものになるからだ。

歯車襲いの海蛇 湿原の運び屋

「青赤」は2マナ域のクリーチャーと除去やバウンスを活かした展開力で勝負するデッキだ。デッキの呪文数が多くなるから、貴重なクリーチャー枠を埋めるカードの質を高めなければならない。したがって1枚でゲームを決められるような巨大なクリーチャーは数枚ほしいな。もちろん《歯車襲いの海蛇》は大歓迎さ。「青緑」はテンポを活かしたエネルギーデッキだ。ほとんどの場合で3~4色目に手をだすことになる。「青赤」と違うのは、緑の分だけクリーチャーが大きく、赤じゃない分だけ除去の使い勝手が悪くなるところだ。どちらの組み合わせもマルチカラーのカードがとてつもなく強い。

● 黒の評価

今回の黒はとても興味深い色だ。様々な戦略をとれるパーツが揃っているのだ。ひとつは巨大なクリーチャーを捌く手段があること。強化版《チフス鼠》があり、レアやアンコモンの除去だって素晴らしい性能のものが用意されている。また、《強気な回収者》だってある。一見すると残念なカードなのだが、《器具/Impliment》を生け贄にするだけでアドバンテージを生み、好きなときに”紛争”を誘発させられることもまた素晴らしいところだ。

霊気毒殺者 強気な回収者

これから紹介する赤と緑に比べるとちょっとばかり弱いが、黒は対応力に優れる、俺のお気に入りの一色だ。 「黒赤」は様々な戦略をとることのできる組み合わせだが、多くの場合はアーティファクトを中心にした、とても攻撃的なものになるだろう。赤い”即席”クリーチャーたちでたくさんのダメージを与えたり、《強気な回収者》《世話》のコンボでアドバンテージを稼ぐこともできる。このデッキにはこういった瞬発力があり、たとえ不利な状況からでも一撃で逆転することは難しくない。《増強自動機械》はこのデッキで素晴らしいカードだ。”即席”のタネとして使えるし、強化能力によって爆発的な打点を出すこともできる。

世話 増強自動機械
● 赤の評価

さて、俺が思うに最強の色である赤について話すことにしよう。これが最強の色である理由は、コモンで最も優秀な4枚のうちの3枚が赤であり、アンコモンで一番強いカードもまた赤だということにありそうだ。《ショック》《チャンドラの革命》《霊気追跡者》の3枚は《果敢な爆破》と共にベストコモンとして知られている。《屑鉄会の勇者》はカードプールの中でも最強の1枚である。もしこいつが対処されなければ、君はさっさと荷物をまとめて賞品を受け取って家に帰れるだろう。もしパワーのあがる装備品やコンバットトリックを使われれば、もう何をしても倒すことはできなくなってしまう。

チャンドラの革命 霊気追跡者 屑鉄会の勇者

あらゆる環境において赤をドラフトすることが難しいのは、魅力的なカードがたくさんある一方で、ほとんどの赤いクリーチャーたちは味噌っかすだからだ。ただ、今回はそうではなさそうだ。ゲームプランにさえ合えば、《最前線の反逆者》《エンブロールの歯車砕き》は悪くないカードなのである。

最前線の反逆者 エンブロールの歯車砕き

このことから「赤緑」という組み合わせに行き当たる。多くの場合において、強い色同士の組み合わせはベストデッキになる。今回もその例外ではないのだ。赤と緑の両色のもつ柔軟性から異なる戦略を選ぶことができるが、アーティファクトはできるだけピックしないほうがいいだろう。この2色のゲームプランにはまったく貢献しないどころか、相手のアーティファクト除去に引っかかるだけのカードに成り下がることだってあるからだ。ともかく「赤緑エネルギー」や「赤緑速攻」から「赤緑デカブツ」までなんだってできる。あと、もし君が赤をドラフトするなら《放射篭手》がとても強いカードだということを覚えておくといいだろう。君がドラフトする多くの赤いクリーチャーたちは、先制攻撃や威迫、可能な限り攻撃する、アーティファクトを生け贄に捧げる、といった効果を持っているからだ。

放射篭手
● 緑の評価

最後に紹介するのは、とても強力な緑だ。《たかり猫猿》を筆頭とした優秀な2マナ域に、《霊気運用者》のようなエネルギー関係、《捕食》、強力な”紛争”クリーチャー、ぶっとんだアンコモンたち。緑をピックすればいつだってこれらと巡り合えるのだ。緑は赤と同じようにアーティファクトとの相性は良くないが、思うがままの自由な構築ができる。

たかり猫猿 霊気運用者 捕食

《たかり猫猿》は”紛争”との相性が素晴らしくいい。アップキープに[+1/+1]カウンターを移して自殺することで、”紛争”を引き起こしつつ戦線を拡大できるのだ。緑でどのカードが一番強いかを決めるのは難しく、あくまでも自分のデッキやシナジーに依存する結果になるだろう。ただ、それらの性能は極めて高い水準にある。

■ さて、ざっと色の強さはわかったかな?

さて、いかがだっただろうか?君たちがこの記事から何かを学びとれたなら嬉しい。ぜひ次のグランプリやプロツアー、フライデーナイトマジックで活かしてくれ。

今回はここまでだ。次に会えるのは、そうだな、数週間後になりそうだ。そこでは俺がプロツアー『霊気紛争』でいかに大活躍したかを話せたらいいなぁ。それではまた会う日まで元気でな!

Oliver Polak-Rottmann

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