スタンダードの面白さは、変化のスピードにある。
黒緑、「機体」、サヒーリ・コンボ……7年ぶりの【スタンダードでの禁止カード発表】が生み出した、「三すくみ」と呼ばれるメタ構造。プロツアーで「機体」が爆発的に増加したことで明らかになったこのスタンダード環境の構図は、一見強固で隙がなく、他のデッキタイプが割って入る余地などどこにもないように思われた。
しかし、【トップ8デッキリスト】を見ればわかるように。あれからほんの2週間で、この構図には少しずつヒビが入ってきている。
たとえば松田 幸雄の【黒単フレンズ】。あるいは萩谷 銀河の【霊気池サヒーリ】。新アーキタイプの息吹はそこかしこに存在しているし、黒緑、「機体」、サヒーリ・コンボそれぞれについても、デッキの芯は変わらないものの、細部は少しずつ洗練されてきている。
つまりは、そう。
メタゲームは、常に変化する。
そしてその変化の最先端に立っているのが、いまこの決勝戦の舞台にまで勝ち残った2人なのだ。
齋藤 智也(東京)。
「マジックを始めたのは『ビジョンズ』(1997年発売)から」という相当の古株。これまで目立った戦績などはないようだが、環境の構造的に強いであろう動きにメタに合わせた独自のチューンアップを加える、いわゆる「専用機」を作るような手法は、経験によって蓄積された絶妙な肌感覚なしでは行いえない。
得物は黒緑、というよりは白緑プレインズウォーカーに《致命的な一押し》と《巻きつき蛇》をタッチしたような構造のアブザンミッドレンジだ。
対するは、臼井 翔(東京)。
レガシーの【グランプリ・京都2015】で9位に入賞し、【プロツアー『マジック・オリジン』】に出場した経験を持つ。【Team Cygames】所属プロプレイヤー・市川 ユウキとの交流も深い注目選手だ。
使用しているのはメインは一見通常の4色「機体」。だが、サイドボードが一味違う。《燻蒸》や《領事の旗艦、スカイソブリン》を採用せず、相手の《グレムリン解放》プランの裏をかく《ゴブリンの闇住まい》と《反逆の先導者、チャンドラ》を採用しているのだ。
創造する意欲が、工夫する意思が、人を神へと近づける。
変化を見極め、今日というこの日、いまこの一瞬における最良の75枚を精緻に組み上げた2人。
そんな2人による、神への挑戦権をかけたラストマッチ。
勝ち名乗りをあげるのは、齋藤か、それとも臼井か。
Game 1
後手ワンマリガンの臼井による2ターン目の《経験豊富な操縦者》が互いのファーストアクションとなる。これに対し齋藤は返しで《ゼンディカーの代弁者、ニッサ》を送り出すが、生成した苗木トークンは忠誠度を守るためにチャンプブロック。一方臼井は《キランの真意号》を戦場に追加する。
これに《霊気圏の収集艇》で応える齋藤だが、臼井に2体目の《経験豊富な操縦者》をプレイされつつ「搭乗」されてしまうと、5/5となった《キランの真意号》が《ゼンディカーの代弁者、ニッサ》を落とすのを黙って見守るしかない。
それでも、《新緑の機械巨人》で苗木トークンを1/2にして《霊気圏の収集艇》の「搭乗」要員としつつ、7/7トランプルという強烈なフィニッシャーを送り出す齋藤だったが、返す臼井は狙いすました《無許可の分解》でこれを処理。2体の《経験豊富な操縦者》で《キランの真意号》を攻防に使いまわされて《霊気圏の収集艇》も機能しないという状況。
この状況を打開するためには、一刻も早く《致命的な一押し》を引きこむしかない……と、いうところで。
齋藤 智也 |
返すターンで齋藤がプレイしたのは《歩行バリスタ》「X=3」!
これにより《経験豊富な操縦者》2体を一気に失うと、臼井の攻め手が止まってしまう。さらに楔がとれて開けた空に飛び立った齋藤の《霊気圏の収集艇》が、2度のアタックでライフレースを逆転させる始末。
それでも果敢に《屑鉄場のたかり屋》を出して《キランの真意号》でのアタックを継続させる臼井だったが、齋藤は《霊気圏の収集艇》への「搭乗」後に《ゼンディカーの代弁者、ニッサ》の「-2」能力で《歩行バリスタ》と《霊気圏の収集艇》を一気に強化し、臼井がブロック時に《キランの真意号》を起動できない隙にライフを詰めにかかる。
《無許可の分解》を引けなかった臼井には、一度逆転された盤面を覆す術は残されていないのだった。
齋藤 1-0 臼井
齋藤「《歩行バリスタ》トップなんですよー。引きが強すぎました」
これに対し、臼井は応えない。トップだろうと何だろうと、負けという結果は変わらない。だから動じずにやれることをやるだけ、と言わんばかりに。
《歩行バリスタ》に弱い《模範的な造り手》《経験豊富な操縦者》や、それらを減らしたことで全体強化効果の恩恵が薄くなる《模範操縦士、デパラ》を抜き去り、臼井はサイド後のゲームに臨む。
Game 2
《スレイベンの検査官》、手がかり起動という回りの臼井に対し、齋藤は《ニッサの誓い》で《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》を手に入れてから《歩行バリスタ》「X=1」と、互いに静かな立ち上がり。臼井が2体目の《スレイベンの検査官》を送り出すも齋藤に3ターン目のアクションはなく、4ターン目の《屑鉄場のたかり屋》の返しでようやく《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》を送り出す。
これに対し、生成された2/2トークンをエンド前に《致命的な一押し》で落とした臼井は、さらに《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》を即「-4」して紋章を得ると、1/1の《歩行バリスタ》を乗り越えて確実に齋藤の《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》を葬り去る。
齋藤も遅れて《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》「-4」で紋章を得るが、返すターンの臼井のプレイは《歩行バリスタ》への《致命的な一押し》に加え、2枚目の《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》!
クリーチャー数は0対4。さらに《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》が健在。齋藤、万事休す……そう思われた。
だが。
齋藤「土地引かないと……あ、引いた」
対する齋藤のアクションは、この状況で値千金の《保護者、リンヴァーラ》!
ライフを安全圏に引き戻しつつ2体のクリーチャーを供給。さらに飛行でプレインズウォーカーに睨みを利かせられる100点満点の解答だ。
一方、ターンが返ってきた臼井は難しい選択を迫られる。場には忠誠度4の《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》、さらに手札には3枚目の《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》があったのだ。
少考ののち、臼井は決断をする。
まず戦場の《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》で「-4」。さらに手札の《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》をプレイ……そしてもう1回「-4」!
合計3枚の紋章で+3/+3修正を受けた《スレイベンの検査官》《スレイベンの検査官》《屑鉄場のたかり屋》そして兵士トークンが齋藤に襲いかかる。6/6飛行と3/3では止めきれず、残りライフは5点。
臼井 翔 |
さらに《歩行バリスタ》「X=1」+《ピーマの改革派、リシュカー》で持ちこたえる齋藤に対し、《グレムリン解放》《グレムリン解放》《蓄霊稲妻》と持っている臼井は、焦らず《グレムリン解放》「X=2」で自分の《屑鉄場のたかり屋》と齋藤の《歩行バリスタ》を対象にとり、戦線を拡大。さらに齋藤がドローゴーしたターンの返しで《ピーマの改革派、リシュカー》を《蓄霊稲妻》で落とし、「齋藤が何も持っていなければ勝ち」の全軍攻撃にうって出る。
はたして齋藤は。
持っていた。《致命的な一押し》。齋藤は攻撃を通した2体の《スレイベンの検査官》のうちの1体を葬り去り、4点通して残りライフ1で踏みとどまりつつ、臼井の戦線を壊滅させることに成功する。
だが、あと1点。《保護者、リンヴァーラ》と《森の代言者》のアタックで速やかに臼井のトップデッキ回数を減らしにいく齋藤も、臼井がカードを引くたびに気が気ではない。
《反逆の先導者、チャンドラ》。あるいは《無許可の分解》でも、墓地から《屑鉄場のたかり屋》を戻してすぐにでも消し飛ぶような点数なのだ。
残りライフ1。それを削るため、臼井はカードを引く。
そして、その1点が。
臼井にとっては、どこまでも遠かった。
齋藤 2-0 臼井
試合後のインタビューで齋藤はこう語った。
齋藤「たぶん2ゲーム目、3枚目の《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》は、『-4』の紋章より『±0』でトークンの方がきつかったですね」
2人で合計4枚もの紋章が発動したほどの複雑なゲーム展開。そんな中、メタゲームだけでなく戦場の変化も冷静に分析してみせた齋藤こそ、この激動の時代におけるスタンダードの挑戦者にふさわしい。
第8期スタンダード神挑戦者決定戦、優勝は齋藤 智也!
おめでとう!!
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