By Kazuki Watanabe
PWCCは、言うまでもなく真剣勝負の場だ。
しかし、このトーナメントが多くのプレイヤーたちに愛されていること、”常連”と呼ばれるものが温かく受け入れてくれること、そして大会で何度も顔を合わせているものが多いことも合わさって、どこか同窓会のような雰囲気を覚える。会場が学校である、ということは差し引いても、初めて来たプレイヤーに”懐かしさ”を味合わせるほど、PWCCの空気は温かい。
準々決勝の一卓、守屋 大輔(神奈川)と簗瀬 要(東京)の一戦も、友人同士の会話から始まった。
写真撮影を終えて、対戦開始の合図を待つ間のことである。
簗瀬「PWCでテキストカバレージを取ってもらうマッチ、勝てたことないんだよなぁ……」
簗瀬がそうつぶやくと、守谷はこう返した。
守谷「PWCで、柳瀬に勝てたことないんだよなぁ……」
簗瀬が「そうだったっけ?」と笑いながら返し、二人はこれまでの思い出を語り合いはじめた。「あの時の大会は……」「そういえば、あの人が……」。
筆者も会話に耳を傾けていたのだが、無論、その楽しい思い出話も長くは続けられない。ジャッジの合図によって、真剣勝負の幕が開けたからだ。
願わくば、テキストカバレージの存在が、勝敗に影響を与えぬように……。
Game 1
両者、即座にキープ。先手の簗瀬はと動き出す。
簗瀬のデッキは「4Cサヒーリ」。最早説明する必要もないであろう「サヒーリコンボ」を搭載したデッキだ。エネルギーを有効活用したビートダウンをサブプランに据えて、現環境における三強の一角に鎮座している。
対する守谷は、と続ける。次のターンにを唱えて、そのままに「搭乗」。驚異的な速度でゲームを動かし始めた。
守谷は「マルドゥ機体」を使用して、この準々決勝に進出した。こちらも現環境における三強だ。一口に「マルドゥ機体」と言っても、様々なバリエーションがある。守谷のリストはを採用し、を始めとするプレインズウォーカーを多めに採用している点に特徴がある。
どちらもこの環境を代表する、トップメタ同士。互いに慣れているようで、淡々と、そして会話を交えながらゲームは進行していく。
簗瀬「そろそろ土地が止まるんじゃない?」
守谷「ん? どうだろうねえ……」
相手の激しい攻撃を受けながらも、簗瀬はじっくりとで攻撃を繰り返す。そして、コンボパーツの片割れであるを唱えて、を明滅。を除去して、相手の攻撃の手を緩めさせる。のみが残った相手の盤面を見つめて、簗瀬はターンを返した。
が盤面にいる。
現環境のスタンダードでは、これだけで勝利を緩やかに握られたことになる。ここからは、安易な行動を取った瞬間に敗北する可能性が生じてくる。
それを避けるために、守谷は思考を巡らせる。ひとまずを唱えてで攻撃。そしてを残すわけにはいかない、とで除去しておく。
ターンを受けた簗瀬。ライフは大きく減らされているが、で攻撃。そして、2枚目ので、またもを明滅。今度はを除去する。
ここで守谷が唱えたのは。簗瀬は少し顔を上げてから、深く頷く。「-3」能力でを除去することを選び、忠誠度は1。
守谷「ここで殴らないという手は……ないか」
娘の忠誠度を原動力に、父の遺志が簗瀬に襲いかかる。
大きくライフを削られていく簗瀬。しかし一切焦ることなく、、と続ける。これは守谷ので除去されてしまうが、次のターンにを唱えて盤面にクリーチャーを展開し続けていく。
守谷「手札が減らない、っていうのはずるいね……」
守谷が苦笑いと共にそう漏らせば、
簗瀬「そうだね、強いでしょ」
と笑いながら返す。
簗瀬は潤沢になったエネルギーを利用してで飛行機械トークンを3体生成。そこにも並ぶとなれば、で削ったライフ差を瞬く間に詰められかねないため、守谷にも猶予はない。
さらに簗瀬が序盤から握りしめていたを唱えたことで、「コンボによる敗北」も視野に入れねばならなくなった。「-1」能力でをコピーしようとするが、これは無視できずにで除去。3点は悩んだ末……プレイヤー。簗瀬の残りライフは、わずか2。
非常に困難な場面。18点のライフを削ったとは言え、をドローされてしまえば、これまでのゲーム展開をすべて無視してゲームを決められてしまう。
ターンを受けて、簗瀬はをプレイ。そのまま起動し、を場に出す。そして土地に一旦手をかけ……何もせずにターンエンド。
守谷「んん? 何もしないの?」
簗瀬「さすがにこの場面では殴れないよ」
これまで繰り広げられた二人の会話。1ゲーム目の会話は、次の守谷の言葉で終わった。
守谷「まあ、ターンが返ってくるだけで良いんだけどさ」
そう言いながら守谷が叩きつけたを見て、簗瀬は苦笑いを浮かべてから、言葉なく土地を畳んだ。
守谷 1-0 簗瀬
サイドボード中も会話は続いていた。とはいえ、互いに慣れているマッチアップであり、サイドボードプランが固まっていたようだ。その会話は、あっという間に終わってしまった。
両者、初手を見るなり即座にキープを宣言。互いに頷き、2ゲーム目が始まる。
Game 2
簗瀬は静かな手つきで。しかし、対する守谷が、と素早く動き出したため、戦場は一気に慌ただしくなる。に。さらに、でを撃墜する。守谷は2体目のを戦場に送り出してターンエンド。
グレムリンの攻撃、そしてと簗瀬が動けば、守谷は、そしてをプレイする。簗瀬の手が一瞬止まり、スタックでがトークンを生成した。
守谷「うーん、まあ仕方ないか(笑)」
簗瀬「いやいや、今のはそうするしかないでしょ(笑)」
グレムリン、飛行機械トークン2体、そしてで6点の攻撃。守谷がでに「搭乗」すれば、を当てて、確実に戦力を削って、勢いのままを唱える。
守谷はをX=1で唱える。次のターン、の攻撃を受け止めながら、ダメージを飛ばして飛行機械トークンを落とす。これで守谷の戦場は空になった。
簗瀬はのライフゲインも意に介さず、をタップイン。
ターンを受けた守谷。手札は1枚、のみ。それを唱えて、一言だけ告げた。
守谷「見せなさい!」
簗瀬が公開したのは、と。
サヒーリコンボはで止めている。しかし、盤面に残っている相手の戦力を止める手段が、守谷には残っていなかった。
守谷 1-1 簗瀬
「4Cサヒーリ」は、コンボが成立しない場合でも、ある程度戦線を維持できる。もちろん「マルドゥ機体」ほどの速さはないが、とが揃うまでの時間を稼ぐことや、最低限のビートダウンが可能な点が、このデッキの強さだ。コンボパーツを集める中で自然と貯蓄されていくエネルギーを有効活用すれば、コンボを成立させずとも、相手を粉砕することが可能なのである。
再び手にしたサイドボードを見つめながら、3ゲーム目のプランを練る簗瀬と守谷。これまでの会話を聞けば、この戦いが両者にとって「良い思い出」になるであろうことは想像に難くない。しかし、この戦いを「勝った思い出」にできるのは、どちらか一人なのだ。
Game 3
両者、即座にマリガン。
守谷「ここに来て、お互い即断か……」
簗瀬「本当だね。仲が良いというか(笑)」
改めて引いた6枚を、両者悩ましい表情を浮かべたままキープ。
守谷の動きは、、。簗瀬もと続ける。互いに思うところは一緒だったようで、
簗瀬「マリガン後、何を悩んでたの?」
守谷「いや、お互いさまだよ」
と動きの良さに驚いているようだ。
一足先に動き出したのは、4枚目の土地を引き込み、X=2でを唱えた守谷。即座に火力へ変換し、を除去する。さらにを加えてターンエンド。
こそで除去したものの、猛烈な攻撃であっという間に5まで減ったライフをメモに記す。そして、迎えた簗瀬のドロー。
簗瀬「あー……」
声を出しながら天を仰ぎ、がっくりと視線を落とし、もう一度ドローした手札を確認してから伏せて、簗瀬は土地に手を伸ばした。
ギャラリーと筆者、そして守谷はそれを静かに見つめた。簗瀬の戦場はほぼ更地。こちらは航空戦力がいないこと、そしてなどによって潤沢になったエネルギーカウンターこそ目に付くが、この状況を凌ぎ切るカードは限られている。勝利が眼前に迫っている。誰もが思ったに違いない。
……そう、簗瀬の伸ばした手が土地を畳まず、マナを捻出しながら発した、次の一言を聞くまでは。
簗瀬「繋がった……」
唱えられたのは、この場で唯一の受けとなる、! 潤沢になったエネルギーカウンターによってトークンを生成し、生命を繋ぐ1枚だった。
守谷「ええ!?」
と声を出すが、守谷は落ち着いて対処を始める。戦力を投下すれば、押し切れない状況ではない。再びを加えて、ターンを返す。
しかし、が繋いだ生命は、簗瀬の勝利にまで繋がり始める。唱えられたのは! その砲撃によってが撃ち抜かれた。
が生成を続け、トークンは4体。さらにも控えている。
守谷はを唱えて、3体と並べた状態。ここで勝敗を決すべく、1ゲーム目で、そしてこれまでの数多の戦いで勝利をもたらした強力な味方、を唱えて、反攻の機会を伺う!
それを、簗瀬は否定し、認めず、で守谷の反攻の目を刈り取った。
ここから、飛行機械によって駆動したの主砲が、1体、また1体と、地上の兵士と工匠を撃ち抜き、柳瀬を勝利まで導いた。
守谷 1-2 簗瀬
悔しそうに漏らす守谷。「どうにか繋げられたよ」と簗瀬が返し、対戦を振り返る。笑顔で互いのプレイを称え合い、反省点を述べ、そして守谷は簗瀬に「頑張って」と告げた。
冒頭にも述べたとおり、PWCCの空気は温かい。そこには様々な要因があるのだが、その温かさの一つが、筆者の目の前で繰り広げられている。席を立つことが名残惜しく思えるほど、その会話は魅力的に聞こえた。
この対戦も、彼らがこれまで繰り広げた数多の対戦とともに、思い出として刻まれることだろう。いつか、「そう言えばPWCC2017で対戦したよね」という会話が、未来のPWCCの対戦前に繰り広げられ、テキストカバレージに記される日が来るかもしれない。
このテキストカバレージが、彼らの刻んだ「良い思い出」の一部になることを願う。