by Hiroshi Okubo
マジック:ザ・ギャザリング(以下:マジック)のトッププロプレイヤーの1人として現在まで第一線で活躍を続けながら、「晴れる屋」のオーナー業を務める齋藤 友晴。昨年末の大阪出店に続いて札幌、福岡へと徐々に店舗を拡大し、名実ともに国内最大規模のマジック専門店へと成長した晴れる屋のルーツは1LDKの”自宅兼事務所”のマンションだった――。
晴れる屋の経営に懸ける想いとその原動力は果たして何なのか? 自身もプレイヤーとして活動しているからこそ見える”理想のマジック環境”を実現すべく、数々の挑戦に込められたマジックへの深い愛と、経営者としての理念が織り交ざるインタビュー。
齋藤 友晴
福島県出身。1999年に「The Finals99」で優勝を果たして以来、マジックのトーナメントシーンを突き進んできたトッププレイヤーの1人。2009年に「晴れる屋」を創業してからは、マジックのプロプレイヤーとして活躍しつつオーナー業を務める。
日本最大規模のマジック専門店、そのルーツ。
「齋藤さんは2009年に晴れる屋を創業されたそうですが、当時はどのような形でスタートしたのでしょうか?」
「創業よりも少し前の話になりますが、昔から海外のトーナメントなどで遠征に赴く傍らで、カードの買い付けやトレードなどを行っていたんです。そこで集めてきたカードを必要としている人に届けられる仕組みを作れないかなと思い、ネットショップを開始したのが始まりです。最初期は僕とお手伝いに来てくれていた学生さんの2人だけで、当時僕が住んでいたマンションで仕事をしていました」
「自宅兼事務所、ということですか。インディーズ感漂うエピソードですが、苦労されたことも多かったのではないでしょうか?」
「まさにその通りで、ネットショップの運営が軌道に乗ってくると注文数も徐々に増えて、スタッフの人数も扱う商品の量も増えてきて、最終的にはプライベートな空間はベッドの上だけになっていました(笑) そのすぐ隣には仕事用のデスクがあったりで、朝はスタッフが問い合わせ対応のメールを打っている音で目を覚ましたり……」
「そうなるともう、プライベートな空間はもうほとんどなかったようなものですね」
「ええ。1年半ほど経った頃にはさすがに手狭になり、これは事務所を借りる必要があるな、と。それも当初は通販専門の事務所を持つだけの予定だったのですが、やっぱり人が集まれる場所にしたくて、交通の便や立地的な条件のよかった高田馬場に、50席の対戦スペースがある『CARDSHOP晴れる屋』をオープンすることになりました」
「齋藤さんにとって、『人が集まれる場所』という要素はプライオリティが高かったようですね」
「それについては話すと長くなるんですが……昔は渋谷に『DCIジャパントーナメントセンター』(※1)という施設があって、そこはそれこそ毎日たくさんのマジックプレイヤーが集まる、マジックの聖地と言えるような場所だったんです。当時福島県に住んでいた僕にとっても憧れの地で、僕が上京した理由も9割くらいはトーナメントセンターに通うためでした(笑) ただ悲しいことに、いざ上京してみたらその直後に閉鎖してしまったんですよ」
「そんなことが……不運な出来事でしたね」
「本当にショックで、そのときの不完全燃焼感が自分の中でずっとわだかまっていたんです。マジックをプレイできるカードショップ自体は都内にたくさんありましたが、やはり有名プレイヤーもカジュアルなプレイヤーもみんなが集まっている場所という、象徴的な存在がほしかった。だから、当時の僕の大目標は『トーナメントセンターを作りたい』ということでした」
「それが念願叶って現在の晴れる屋トーナメントセンターという形になった、と」
晴れる屋トーナメントセンターオープン時
「もちろん晴れる屋トーナメントセンターを設立してからも、これだけ広いスペースをちゃんと採算取りながら運営していけるかどうかは不安でしたが、機会と周囲の助力に恵まれたこともあり、夢を一つ叶えることができました」
※1:DCIジャパントーナメントセンター……マジックの国際公式競技組織「DCI」の日本支部。2003年に閉鎖された。かつての日本最大のマジックのプレイスペースであり、黎明期の日本のマジックを支えた場として今なお語り草にしている古参プレイヤーも多い。^
特別な体験、新たな発見。
「晴れる屋のフロアを見渡して最初に目につくものと言えば、やはり豪華なフィーチャーマッチエリア(特別な対戦テーブル)だと思うのですが、これはどういった理由で作られたのでしょうか?」
「そうですね。僕自身トーナメントなどでフィーチャーマッチエリアに呼んでいただくのは好きですし、とても光栄だと感じているのですが、大型のイベントと馴染みの薄いプレイヤーの方にとってはなかなか座る機会がないことも事実です。しかし、そういった非日常的な――ゲームプレイを通じて特別な体験を得られることはマジックの最大の魅力の一つでもあると思うんです」
高級感のあるフィーチャーマッチエリア
「この魅力をもっと多くの方に身近に感じてほしかったので、トーナメントセンターのオープンに際して、みなさんに憧れを抱いてもらえるようなカッコいいフィーチャーマッチエリアが必要だと考えていました」
「たしかにマジック独特の文化ですし、あのテーブルで対戦することを目標にがんばる、という方も多いですね」
「それはありがたいことです。僕も長年マジックをプレイしてきましたが、マジックにはゲームとしてのおもしろさや高い競技性の他にも、ゲームを通じて自己実現ができるという性質もあると思っています。たとえば『人と違うデッキを使うこと』や『自らを高めて勝利すること』などですね。フィーチャーマッチエリアが、そういった自己実現を果たすための機構の一つになれば嬉しいです」
「なるほど。そういった施策やサービスの根底には、具体的にどういったこだわりがあるのでしょうか?」
「僕にとってのトーナメントセンターは、有り体に言うと“マジックプレイヤーにとって居心地がいい場所”なんです。DCIのトーナメントセンターがマジックの聖地と呼ばれていたのは、それがマジックプレイヤーのことを第一に考えている空間だったから、というのが理由の一つになのではないかと思っています」
「マジックプレイヤーのことを第一に考える、ですか。齋藤さんの理想とするトーナメントセンターの姿とは、具体的にどういったものなのでしょうか?」
「毎日大小の様々なイベントがあって、たくさんのマジックプレイヤーが集まっていて、レベルの高いハイエンドなトーナメントも開催されながら、気軽にフリープレイなどもできるような場所は理想的ですよね。晴れる屋では、そういったマジックのプレイ環境を整えることの他にも、友だちとの待ち合わせや大会参加中の空き時間にも楽しめるようなサービスが充実している、といった細かい部分でもプレイヤーのみなさんに満足していただきたいと考えています」
挑戦×マジック=晴れる屋
「少し冒頭の話題に戻りますが、1LDKのマンションから300席超のトーナメントセンターをオープンするまで事業規模を拡大するには凄まじいエネルギーが必要だったかと思います。齋藤さんの原動力は何だったのでしょうか?」
「ありがちな答えになってしまいますが、やっぱりマジックが好きだからですかね(笑) 自分ががんばることで、マジックのことを好きな人たちの役に立てることも嬉しかったし、マジックのために活動できているという実感もありました。あとは僕自身の原動力がどうこうというより、元々マジックにはそれだけのことを実現できるだけの魅力があったんだと思います」
「マジックを好きだからこそ、マジックのポテンシャルを信じて進み続けてきた、と」
「そうですね。マジックには四半世紀にのぼる歴史があり、ゲームプレイそのものの楽しさはもちろんですが、プロプレイヤーというシンボリックな存在や、上達を目指す、あるいは新たな発見を求めるプレイヤーのための戦略記事など、マジックを取り巻くコンテンツもまた多岐にわたっています。これだけの奥深さと魅力を備えたゲームを僕は他に知りませんから」
「ありがとうございます。最後に、晴れる屋のオーナーである齋藤さんにズバリお伺いしたいのですが、晴れる屋とはどういった企業なのでしょうか?」
「晴れる屋はマジック専門店なので、マジックが盛り上がっていかないことには経営が成り立ちません。だからこそ、マジックを盛り上げることに本気で、使命感を持って取り組んでいます。全ての都道府県に「晴れる屋」を出店するという目標を掲げているのも、マジックを日本中の人に楽しんでもらえる環境を晴れる屋が率先して作っていく、という思いからです。マジックを愛する全ての人のために挑戦を続ける。それが晴れる屋という企業ですね。マジックをプレイするなら晴れる屋、と言ってもらえるようにこれからも邁進していきます」