奇跡の使い手たちに聞く、禁止改定後のレガシー環境について

斉藤 伸夫

 みなさんお久しぶりです。レガシーのコラムを書かせていただいている斉藤 伸夫です。

師範の占い独楽

 2017年4月24日、レガシーにおいて《師範の占い独楽》禁止になりました。これはレガシー開始時に存在していたカードとしては2011年11月1日の《適者生存》以来です (正確には《師範の占い独楽》はレガシーが制定されてから一ヶ月遅れての参入ですが)。

 私が所属する調整チームも白青奇跡 (ミラクル) を中心に調整していたのですが、これを受けて多くの方から今後どうするのか?という質問をいただきました。

 そこで今回は、《師範の占い独楽》禁止後のレガシー環境について、チーム内での考察・インタビューという形で記事にしてみましたので、参考にしていただけたら幸いです。

師範の占い独楽とは?

 禁止されたカードということで今更かもしれませんが、簡単に紹介させていただきます。

Sensei’s Divining Top / 師範の占い独楽 (1)
アーティファクト
(1): あなたのライブラリーのカードを上から3枚見る。その後それらを望む順番で戻す。
(T): カードを1枚引き、その後師範の占い独楽をオーナーのライブラリーの一番上に置く。

 《師範の占い独楽》を使ったミラクルというデッキは、基本的に長期に渡ってアドバンテージを稼ぐデッキでした。

 長期化を目指すデッキですので妨害が豊富にあり、《師範の占い独楽》によって新たな情報を得るということだけでなく、コントロールエンジンとしてカードの質をあげて勝利に貢献していました。しかもたった1マナと軽く、「奇跡」カードをライブラリーの奥に埋めたり、相手のターンに「奇跡」を起こすことさえできるのです。

 さらに、《師範の占い独楽》はプレイヤーに高い技術を要求し、とても扱いの難しい置物でしたので、実力差のつけやすいデッキでした。

相殺

 それに加えて、相方とされている《相殺》はレガシーのメタの中心だったと思います。

 何せ《相殺》を使わないデッキは、《相殺》に干渉する手段、若しくは無視することができるのかを求められていたのです。簡単にいうと、「《相殺》」 vs 「《突然の衰微》《呪文貫き》」 vs 「《魂の洞窟》《霊気の薬瓶》」です。

 この視点で見ると、これまでのレガシー環境でのデッキは実質3タイプしかなかったとも言えます。そのくらい《相殺》が強い環境だったのです。

アーキタイプ別の今後の立ち位置予想

 しかし、そんな《師範の占い独楽》も禁止になりました。これによりレガシーのメタゲームは大きく変化することが予想されます。

 そこで、全てのアーキタイプがあるわけではありませんが、メタ上で当たりやすいアーキタイプの今までの立ち位置と今後の立ち位置の予想をチーム内で話し合いながらまとめてみました。

 青字は評価が上がったデッキで赤字は下がったデッキ、数字は5段階評価で1が最高です。つまり1に近ければ近いほど今後の環境で勝ちやすいデッキということです。1~2にあたるアーキタイプに勝てるようにすることが今後のレガシーでは重要になるでしょう。

アーキタイプ 禁止前 禁止後
テンポ
グリクシスデルバー
1
1
URデルバー
3
1
チームアメリカ
3
2
マーフォーク
4
3
パトリオット
5
3
感染
2
4
カナディアン・スレッショルド
5
4
   
ビート・コントロール
デス&タックス
3
1
エルドラージ
2
3
BUG続唱
2
3
アグロローム
3
3
デスブレード
4
3
その他ブレード系
5
3
ジャンド
3
4
バーン
4
4
バント
5
4
マーベリック
5
4
 
 
 
コンボ
ANT
3
1
ショーテル
1
2
RBリアニメイト
2
2
土地単
3
2
エルフ
4
2
UBリアニメイト
4
2
赤単スニーク
3
3
ペインター
4
4
ドレッジ
4
3
アルーレン
2
4
食物連鎖
3
4
ベルチャー
5
4

 ミラクルが《相殺》《終末》というカードでデルバーやコンボデッキを押さえつけていたのが明確です。また基本地形のデッキが減るのが予想されるので、《不毛の大地》《血染めの月》というマナを縛るカードの評価が上がると考えます。

死儀礼のシャーマン緑の太陽の頂点ドライアドの東屋

 また、《終末》(4枚積まれる全体除去) がなくなるので、マナ生物である《死儀礼のシャーマン》《貴族の教主》《緑の太陽の頂点》からの《ドライアドの東屋》などの点数も上がったと思います。マナ差をつけるアクションが《不毛の大地》とも相性がいいですしね。

 そして《相殺》の使用頻度が減ることを考えると《突然の衰微》の価値が下がるかもしれません。《血染めの月》《虚空の杯》を割れるので便利なカードであることは変わりませんけどね。

致命的な一押しグルマグのアンコウ

 生物においては、《致命的な一押し》が新しく参入したせいで《タルモゴイフ》などが除去されやすくなってしまいましたが、《グルマグのアンコウ》《致命的な一押し》されず、今回の禁止により《剣を鍬に》の使用率が減ることにより、なかなか除去されにくくなりそうです。

調整メンバー6人へのインタビュー

 ミラクルを長年使っていた調整メンバーたちに、禁止を受けてどう感じているのか以下の質問をしてみました。

1. 独楽禁止に対して一言
2. どんなデッキを使う予定?
3. 今後の環境で強そうなサイドボードは?

 の3点です。

高野 成樹 (GP静岡グレードアップレガシー優勝、第7回BMO優勝)

1. 独楽禁止に対して一言

 ミラクルを回すのも楽しいが、新しい刺激が欲しかったので良かったです。また、それなりに使っているはずなのにベストプレイがわからなくてとても難しいデッキだったので、使わなくて済むなら助かるとも思いました。

2. どんなデッキを使う予定?

 以前はエルフを使っていたこともあったのでエルフを考えていますが、今までミラクルが抑えていたANTやリアニなどが増えるようであれば、その両方と戦えてデルバーも比較的有利なデスタクも候補です。

3. 今後の環境で強そうなサイドボードは?

 《外科的摘出》: 今後の増加が見込まれるANT、リアニにとても刺さるカード。
 《封じ込める僧侶》: リアニに加え、エルフ、デスタクを見れるので。

青柳 元彦 (日本レガシー選手権2016優勝、GP京都10位)

1. 独楽禁止に対して一言

 ショーテルやハイタイドを使っていた頃から考え、かれこれ4年以上大好きな《師範の占い独楽》を回していた気がします。間違いなく値段の10倍以上遊ばせてくれました。これまで独楽を使わせてくれたウィザーズ、運営とジャッジの皆様に感謝しかありません。

2. どんなデッキを使う予定?

 今のところグリデルかデスタクでしょうか?今までコンボとコントロールを使ってきたので、次はクリーチャーでゲームすることを学べたらなと考えています。

3. 今後の環境で強そうなサイドボードは?

 《唐突なる死》: デスタク、エルフ、グリデル、URデルバーのように面で攻めてくるアーキタイプに強そうかなと感じています。

土屋 洋紀 (エターナルフェスティバル2016準優勝、第8回BMO準優勝)

1. 独楽禁止に対して一言

 禁止になるほど奇跡が環境を支配していなかったのではないかという意見もあるが、ほとんどのデッキが構築を歪ませるほど対策をする必要があったので、禁止して良かったと思う。奇跡パーツの中でもイベントの進行が遅くなる可能性を孕んでいる《師範の占い独楽》が選ばれたのも適切と感じた。

2. どんなデッキを使う予定?

 《稲妻》を使うデッキ!

3. 今後の環境で強そうなサイドボードは?

 環境予想: 土地単、エルフ、ANTがかなり強くなると同時に、カード資産や使いやすさからデルバー、石鍛冶、ショーテルも使用者が増加すると思う。

 《侵襲手術》: 《狼狽の嵐》と違い、コンボに加えエルフと土地単にも刺さるから。総じて今後は土地単・墓地対策もしっかり取るべきだと思う。

黒川 直樹 (第4期レガシー神挑戦者決定戦準優勝、第1回BMO準優勝)

1. 独楽禁止に対して一言

 奇跡が明確に抜けていたので仕方ないと思います。ウィザーズもレガシーを気にしてくれていたのかなと思うと嬉しかったです。次のベストデッキは何かというのを試行錯誤するのが楽しい!

2. どんなデッキを使う予定?

 グリクシスデルバーを使う予定です。明確に不利なデッキが少ないし、デルバーを使い慣れているので。以前使っていたカナスレも考えましたが《死儀礼のシャーマン》がきついですね。

3. 今後の環境で強そうなサイドボードは?

 《イゼットの静電術師》: デスタクやエルフに強く、グリクシスデルバーにも入れられる。ANTの《巣穴からの総出》対策になるのも良い。

川居 裕介 (第8期レガシー神挑戦者決定戦優勝、エターナルフェスティバル2015 TOP8)

1. 独楽禁止に対して一言

 今までずーっと使ってたから、なくなってショックです。何度もあった禁止の噂を乗り越えてもう安全だと安心した先に落とし穴が待っていた……。ただ、ミラクルは国内だと勝ちすぎて環境が停滞していたので、レガシー環境の活性という面ではいい禁止改定だと思っています。

2. どんなデッキを使う予定?

 ミラクルに近いコントロールを使いたいですが、心が折れたらデスタクに移行します。実際新環境ではデスタクが一番強いコントロールデッキなのではないかとも思います。

3. 今後の環境で強そうなサイドボードは?

 《封じ込める僧侶》: 墓地利用デッキ、実物提示教育・騙し討ち、エルフ、《霊気の薬瓶》系デッキと、これから人気の出るであろうデッキを広く見れる万能サイドボード。しかも瞬速持ちだからケアしづらい。

 《コジレックの帰還》: ミラクルがいなくなり、全体除去への意識が薄くなったビート全体に効果的なカード。各種デルバー、エルフ、デスタクに効果的。デスタクの《ルーンの母》も越えられるので。

小林 龍海 (エターナルフェスティバル2016優勝、GP静岡グレードアップレガシーTOP8)

1. 独楽禁止に対して一言

 発表された当初はそりゃもう《ショック》!!《稲妻》!!!《轟く怒り》!!!!!くらいの《突然の衝撃》でしたね。せめて発表から発効まで追悼する時間くらいは欲しかったです。

 ただ、愛機を失ってとても悲しかったですが、今は名誉だとも思うようになりました。奇跡というデッキの強さが看過できないレベルになったから《師範の占い独楽》が殿堂入りした。奇跡というデッキが成立してからそれなりの年月を経て、その域に達したのは、世界中の奇跡ユーザーの調整の結果です。

 奇跡を愛用していた人はそのくらいの気持ちで見送ってあげてもいいんじゃないかと思います。

2. どんなデッキを使う予定?

 いつか奇跡を再興させたいという思いはありますが、コントロールはメタが固まってからですかね。それまでは奇跡の前に使ってたデルバー、デスタク、スニークあたりを回そうかなと思ってます。

3. 今後の環境で強そうなサイドボードは?

 《力ずく》《古えの遺恨》: 環境から《相殺》が消え、《森の知恵》も優位性を失ったことで、エンチャントより、複数枚アーティファクトが割れるカードが強そうです。色が合えば《古えの遺恨》はぜひ採用したいですね。《力ずく》は未知数ですが試す価値はあると思ってます。

最後に

 奇跡というアーキタイプはぶん回りこそないものの、あらゆる相手に対して、構築、プレイングによって戦うことができる懐の広いデッキでした。

 環境を激変させた《宝船の巡航》《時を越えた探索》、エルドラージによる蹂躙、デスタクの大幅強化、《トレストの使者、レオヴォルド》《反逆の先導者、チャンドラ》。今思い返してもこれだけの苦手なカード、デッキが出てきたにもかかわらず、最終的に《師範の占い独楽》が禁止されるまで奇跡というアーキタイプはTier 1に居続けました。こんなデッキはレガシー史上なかなか出てこないと思います。

 《師範の占い独楽》が禁止されてしまい、奇跡というデッキの大幅な弱体化は間違いのないものです。

 しかし長い間奇跡を使い続けたメンバーでも、総じてみると今回の禁止は前向きに捉えています。周囲からも今まで停滞していたレガシーが活性化されて楽しくなったという声を聞きます。実際、昨日の禁止改定後の関東のレガシーの大会には計120人以上が集まっていたことからもそれが窺えるのではないでしょうか。

 僕自身もこの記事を書きながら今後のレガシー環境へのワクワクが止まりません。この記事をなにかの参考にしていただけたらと思っています。今後のレガシーの環境を作るのはあなたかもしれません。

 それでは、これからも皆さんと一緒に再び回りだしたレガシーという環境を追いかけていきたいと思います。

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