By Yuya Hosokawa
MTGの魅力は、一体なんだろうか。
ゲームのおもしろさと答える人は最も多いはずだ。カードプールの多さ、戦略の深さ、遊び方の多さ。マジックが20年以上も続き、愛されているのは、一言で言えばおもしろいからだ。
徹底的に整備されたトーナメント環境、そしてプロプレイヤー。これらに憧れてMTGに足を踏み入れた人も少なくないはずだ。これも立派なマジックの魅力である。
あるいは美麗なイラストに魅せられるプレイヤーも多い。まるで美術館の額縁から飛び出してきたような美しい景色から、おどろおどろしい怪物。さらには和テイストな人物などなど、絵一つ取っても話題に事欠かない。
そして。
トレードという文化もまた、マジックの魅力の一つだろう。
欲しいカード同士の物々交換、通称トレード。トレーディングカードゲームの元祖たるMTGには、もちろん古くからトレードという文化が根付いている。
『A』という赤が大好きで他の色を一切使わないプレイヤーと、青以外を決して使用しない生粋の青使いである『B』がいたとしよう。
彼らは、相手が望む色のカードをお互いに出し、それらをトレードする。こうすれば2人はWin-Winになるというわけだ。
お互いが自らのカードを必要ないと感じ、同時に相手のカードを欲すれば、それでトレードは成立する。交換したカードの価値が多少釣り合っていなくとも、2人が納得すればそれで良いのだ。
で、あるならば。
今持っているカードを、それよりも少しだけ価値のあるカードと交換し続けていけば、いつかとんでもないお宝に辿り着けるのではないだろうか?
かの有名な「わらしべ長者」では、わらしべは最終的に屋敷へと変わった。
それならば、俺は宝石を手に入れようではないか!
無から《Black Lotus》を生み出そう!
無
困った……。
交換するものが一切ないのである。早速この企画、破たんを迎えようとしていた。わらしべ長者もわらしべを持っていなければ屋敷を手にすることはできないのだ。
ここで終わってしまうのか。そんな不安が頭をよぎる。
と、そのとき。
???「顔をあげなさい」
絶望に打ちひしがれる細川に降りかかる、神のような声。顔を上げるとそこには、神と似て非なるもの――ゼウスの姿があった。
「貴方にこれを授けます。これを必ず《Black Lotus》にしなさい――」
そう言い残すと、彼は姿を消した。グランプリ神戸の参加賞、《大祖始》を残して。
細川「神様……」
《大祖始》をトレード!
そんなわけでまつがんから神を託される。
紙を掲げて救いの手を差し伸べてくれる神を待っていると……
通りすがりの人A(以下、加藤)「これなんですか?」
さっそく声が!!
細川「はい、実は今回わらしべ企画で、《大祖始》を交換してくれる人を探しているんですよ!」
加藤さん「それならこれなんてどうです?」
その手に持っているのは……な、なんと…!!
FNMプロモの《血清の幻視》!!《血清の幻視》と言えばモダンの最も強力な1マナドロースペル。今日もこの会場では何十枚、何百枚という《血清の幻視》が使われていることだろう。
加藤 健様、トレードありがとうございます!!
《血清の幻視》をトレード!
《血清の幻視》を握りしめて再びトレードという大海原へ船を漕ぎ出す細川。少し場所を変え、会場入り口付近でこれから入ってくるプレイヤーを探してみることに。
すると……。
細川「ん?」
こちらの《血清の幻視》を見つめる熱い視線!どっかで具体的には晴れる屋のクソコラで見たことがある気がするのは気のせいだろうか。
細川「実は今、わらしべ企画というものを行っていまして!」
通りすがりの人B「そうなんだ? それじゃあこれ、交換してあげるよ」
一体どんなものを出してくれるんだ。その正体は……
さ、《殺戮の契約》ゥ~!モダンでもアブザンやジャンドで使われる強力なカード!
冨澤 晋様、トレードありがとうございます!!
《殺戮の契約》をトレード!
ここまで順調にトレードを進めている細川。このままなら《Black Lotus》が手に入るのもそう遠くないか。意気揚々と次のトレード相手を探していると、すぐに声を掛けられる。
通りすがりの人C(以下、生田)「お、わらしべトレードですか? いいですね。しかも《殺戮の契約》はほしいなぁ」
細川「ぜひぜひ。何かトレードできるものはお持ちでしょうか!」
生田さん「そうですねぇ……」
そう言って、いくつかのカードを取り出し、その中にあった1枚のカードを手に取る。
生田さん「じゃあこれで!」
え? このカードってまさか……
ギ、ギルドランド!!!
細川「よ、よろしいんですか?」
生田さん「余っているので構いません! 《殺戮の契約》ほしいし」
細川「ありがとうございます!」
生田様、トレードありがとうございます!!
《寺院の庭》をトレード!
《寺院の庭》ということもあって通り過ぎるプレイヤー達も思わず立ち止まるように。間もなくして、声がかかってきた。
通りすがりの人D(以下、ヒコヒコ)「わらしべ、面白そうですね!」
細川「ありがとうございます! 何かお持ちであればぜひ!」
ヒコヒコさん「《寺院の庭》より価値があるかわかりませんが、ちょっと珍しいものでもいいですか?」
え……? これは……?
《スピリットトークン》……?
いや、実はこの《スピリットトークン》、ただの1/1ではない!褒章プログラムでのみもらえる『神河物語』の貴重なトークンなのだ!
ヒコヒコ様、トレードありがとうございます!!
トレード、難航
そしてわらしべトレード、空前の氷河期を迎える。この珍しい褒章プログラムの《スピリットトークン》を前にして道行く人は立ち止まりはするものの、トレードには至らない。
「このトークン、珍しいですよね」
「ほしいなぁ」
「え、これなんですか?」
次々にかかる声。中にはこのスピリットトークンを欲する声もあるのだが、残念ながらトレード材料となるカードを持ち合わせていない方が多く、ここにきて難航の兆しが見え始める。
そうこうしている内に人だかりは消え、気付けば独りぼっちに。
静かに、ただトークンを見つめる。
ここでわらしべは終了してしまうのか? そんな不安が立ち込め始めた、まさにそのとき――
《スピリットトークン》をトレード!
通りすがりの人E(以下、宮田)「ちょうど良い値段のカードがないのでパック剥きますよ!」
明るい声をかけて、その人は未開封のパックを机に置いた。そこには『Eternal Masters』の文字。なんでも手元にあるカードでは《スピリットトークン》に釣り合うカードがないため、パックを剥いてくれるのだという。
そして。
宮田さん「おっ! これは?」
歓声を上げながら、見せてきてくれたのは。
これは……《納墓》?
しかもこれは……
Foilだああああああ!!
細川「これいいんですか? 結構高いですよ……ほら。トークンと全然金額に差があります」
宮田さん「いいんですよ! せっかくですし。元々トレードしようと思って剥いたんですから。トレードしてください!」
あなたが神か。
宮田様、トレードありがとうございます!!
そして持ち主へ
まつがん「お疲れ~」
グランプリ本戦を無念の敗退で終えたまつがんが、挨拶にやってきた。
まつがん「そういえばあのわらしべ、どうなったの?」
細川「実は……」まつがん「ええ~!?」
まつがん「いや、受け取れないって、これ」
とは言いつつも、《納墓》を手に取り、見つめる。逢魔時の墓が美しく光る綺麗なこのイラストを堪能すると、やがて。
まつがん「じゃあこれ、視聴者プレゼントにしよう。次回のレガシー神挑戦者決定戦の!」
というわけで、《大祖始》からわらしべトレードで手に入れた《納墓》Foilは、レガシー神挑戦者決定戦の視聴者プレゼントとなった。
ちなみにまつがんは《納墓》Foilを残し、神戸国際展示場を去っていった。
エピローグ
こうして『わらしべトレードinGP神戸』は、《大祖始》を《Black Lotus》にすることこそできなかったものの、《納墓》Foilに変えることができた。
もちろん《大祖始》がより貴重なカードとなったことは嬉しかったが、何よりも、わらしべトレードを通じて、トレードの楽しさを知れたと思う。
名前すら知らない相手といきなりコミュニケーションを取り合い、物々交換を成立させる。こんな難しいことなどないはずなのに、MTGのトレードは、簡単に行えてしまう。トレード中には絶え間なく言葉が飛び交う。「そのカード、珍しいですよね」「それ、強いですよね」と。交換する物について語り合うだけで、赤の他人はもう知人となり、コミュニケーションが取れる。
トレードとはただ単にお互いが得をするだけの行為ではないのだ。
しかもグランプリという貴重な場では、日本全国、いや場合によっては世界の、どのプレイヤーとも触れ合うことができる。
この広い世界中の様々なプレイヤーが、マジックのために一つの場所に集まり、そして名前も知らない相手と交流を深められる。このインターネットでのコミュニケーションが主流となる現代で、だ。
グランプリに来るのであれば本戦に出場するのが第一目的、という人は最も多いだろう。だが、グランプリにはサイドイベントやアーティストブースなど、たくさんの魅力で溢れている。
そしてトレードも、そんなグランプリの妙味の一つなのだ。
皆様もグランプリに来たら、ぜひトレードを!
ご協力いただきました、『加藤 健様』『冨澤 晋様』『生田様』『ヒコヒコ様』『宮田 紘行様』、本当にありがとうございました。
※編注:グランプリ会場でのカードとカードのトレードは問題ありませんが、会場敷地内にて金銭のやり取りを含めるトレードはくれぐれも行わないようご注意ください。ルールを守って楽しいトレードライフを!
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