By Yuya Hosokawa
対戦テーブルが、どよめいた。
《狂暴化》した《ファイレクシアン・ドレッドノート》が対戦相手を一撃で屠ったその瞬間は、観戦者だけでなく、対戦中の他のプレイヤーの視線すら釘づけとなった。
衝撃はそれだけではなかった。そのプレイヤーは別のラウンドでは、《難題の予見者》を唱え、《現実を砕くもの》をレッドゾーンに滑らせていたのだ。
久しくレガシーで見る機会のなかった《ファイレクシアン・ドレッドノート》と、感染以外のデッキで使われるのを見たことがなかった《狂暴化》。その同居だけでも一つ記事が書けてしまえそうなものだが、エルドラージ達がそこに加わっているというのだ。
しかもなんとこのデッキ、前日行われた日本レガシー選手権トライアルで見事に上位入賞を果たしているのだ。これはもう、使用者に話しを聞かないわけにはいかないだろう。
というわけでこのデッキを使用した川地 勝也と製作者の戸塚 公太。静岡からはるばる神戸にやってきた2人に、この謎のデッキについて語ってもらった。
川地 勝也&戸塚 公太
このデッキ、何?
--「根本的な質問をいいですかね。このデッキ、一体なんですか?」
川地「私にもわかりません」
--「(笑)」
川地「新しいスタイフルノート、とでも言いましょうか。そして同時にエルドラージでもあります」
戸塚「どっちだよ(笑)」
--「でも確かに、スタイフルノートとエルドラージを合体させたようなデッキですよね」
戸塚「そうですね。青の強い呪文と無色のカード達、みたいな感じです」
デッキの出発点
--「そもそもこのデッキ、どうやって思いついたのですか?」
戸塚「始まりは《エルドラージのミミック》だったんですよ」
--「《エルドラージのミミック》?」
戸塚「はい、このカードを見た時に思ったんです。《エルドラージのミミック》は《もみ消し》だって」
--「詳しくお願いします」
川地「《エルドラージのミミック》がいる状態で《ファイレクシアン・ドレッドノート》を出すと、12/12になるじゃないですか。だから《もみ消し》を手札に持っていなくても、《ファイレクシアン・ドレッドノート》を活用できるんですよ」
--「なるほど。《エルドラージのミミック》が“置き”《もみ消し》のようになっているんですね」
戸塚「そうです。今までは《もみ消し》がなくちゃ《ファイレクシアン・ドレッドノート》が出せなくて、スタイフルノートってすごく脆弱なデッキだったんです。それが《エルドラージのミミック》で少しだけ強固になったな、と。これがこのデッキの始まりでした」
ドレッドノート、ミミック、その先に
戸塚「とはいえ、それでもまだデッキは脆かったんです。何せ《エルドラージのミミック》が入っても、《突然の衰微》はやはり辛いですから」
--「それもそうですね」
川地「そこで《難題の予見者》と《現実を砕くもの》に白羽の矢が立ったというわけです」
--「確かに、どちらも《突然の衰微》が効かないですね!」
戸塚「エルドラージコンビの《エルドラージのミミック》との相性は言わずもがな。おっしゃる通り《突然の衰微》に強くなったのも大きいです。これが良くハマってくれましたね。《ファイレクシアン・ドレッドノート》の一撃が入ると一気に《現実を砕くもの》圏内ですからね」
最強の呪文はやはり青
--「で、クリーチャーが《ファイレクシアン・ドレッドノート》とエルドラージ達に決まった後に、スペルを選定していったんですね」
川地「そうですね。でも選定したってわけでもないんですよ」
--「え?」
戸塚「強い呪文を順番に入れていきました」
--「(笑)」
戸塚「スタイフルノートなので《もみ消し》はまあ入るとして、《意志の力》は入れたい。クロックパーミッションなので《目くらまし》も入るじゃないですか。《渦まく知識》も当然入るし、コンボパーツを集めるために《思案》も欲しい。ほら、全部入っちゃいました。青の呪文って強いんですよ」
--「おお、なるほど。あ、でも《狂暴化》は?」
川地「これはですね、2ターンキルへの夢がそうさせました」
夢の2ターンキル
川地「男の子だったら誰でも2ターンキル好きじゃないですか」
--「わかります」
戸塚「だから《狂暴化》を入れたんです。1ターン目に2マナランドから《エルドラージのミミック》を出して2ターン目に《ファイレクシアン・ドレッドノート》、《狂暴化》で2キルなんですよ」
--「すごい!」
川地「あまりにも2キルへの夢が捨てきれずに《狂暴化》を入れましたが、これも見事にハマりましたね。コンボデッキにめちゃくちゃ強くなりました」
苦手なデッキ
--「このデッキ、奇跡がとにかくきつそうなので、《師範の占い独楽》の禁止は大きかったように見えます」
戸塚「そうですね。《師範の占い独楽》《相殺》が効くエルドラージデッキですからね(笑)」
川地「単純に白除去がこのデッキは苦手ですからね。《剣を鍬に》だけでも結構きついのに、《終末》まで入ってますから。奇跡がいないのはかなり大きいです」
--「となると、白い除去を擁するデッキは厳しいですか?」
川地「そうですね。特にデス&タックスは苦手です。除去もそうなんですが、マナを縛られるのがもう辛くて。《不毛の大地》と《リシャーダの港》でさっきもやられました」
調整期間
--「それにしてもこのデッキ、《エルドラージのミミック》が生まれたと同時にできたということは、『ゲートウォッチの誓い』で生まれたデッキなんですよね? それからずっと調整を?」
川地「いや、そんなことはないですね」
戸塚「できたのは昨日です」
--「えっ!?」
戸塚「今までずっと強そうだよねって話はしてて、でもなんだかんだ放置してたんです。でも昨日やっと組んでみようってなって、組んでみて渡したら、なんか思ったよりいい感じで(笑)」
川地「コンボに強いっていうのがやはり大きかったと思いますね」
--「さすがに驚きました」
ネクストレベルスタイフルノート?
--「色々とお話が聞けて本当に良かったです。でも最後に一つ、気になることがあります」
川地「なんですか?」
--「デッキ名です! このデッキはなんですか? スタイフルノートですか? エルドラージですか?」
戸塚「うーーーん。難しいですね」
川地「最初はネクストレベルスタイフルノートかなって思ったんですけど、それだとあまりにもエルドラージ達が可哀相なので……」
--「かわいそうですね」
川地「なので、Mono Blue Eldraziにしましょう!」
戸塚「スタイフルノートどっか行った(笑)」
--「《狂暴化》あるんでMonoBlue(青単色)でもない気がするんですけどいいと思います!」
《エルドラージのミミック》と《ファイレクシアン・ドレッドノート》から始まったこの『モノブルーエルドラージ』。
奇特な見た目とは裏腹に、弱点となるカードをしっかりと見極めてデッキが組まれており、異様な完成度を誇っている。
そして何よりこのデッキの魅力は、動きを全く予想されないことだという。
《エルドラージの寺院》と《古えの墳墓》から《難題の予見者》を出している時に《意志の力》を打ったり、《もみ消し》と《渦まく知識》から突然3ターン目に《難題の予見者》、《現実を砕くもの》と展開など、他のデッキにはない動きがある。
対戦相手の驚きの表情を見るのも面白いと、二人は語ってくれた。
懐かしのスタイフルノートと今をときめくエルドラージ群の見事な無色連合デッキ、『Mono Blue Eldrazi』。どうぞお試しあれ。
4 《Tropical Island》 1 《島》 3 《汚染された三角州》 2 《溢れかえる岸辺》 2 《沸騰する小湖》 2 《裏切り者の都》 4 《エルドラージの寺院》 3 《古えの墳墓》 1 《ウギンの目》 -土地(22)- 4 《難題の予見者》 4 《ファイレクシアン・ドレッドノート》 3 《現実を砕くもの》 4 《エルドラージのミミック》 -クリーチャー(15)- |
4 《渦まく知識》 4 《思案》 4 《もみ消し》 2 《狂暴化》 4 《目くらまし》 4 《意志の力》 1 《森の知恵》 -呪文(23)- |
2 《呪文貫き》 2 《次元の歪曲》 2 《クローサの掌握》 2 《墓掘りの檻》 2 《真髄の針》 1 《現実を砕くもの》 1 《狼狽の嵐》 1 《白鳥の歌》 1 《壌土からの生命》 1 《四肢切断》 -サイドボード(15)- |
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