By Kazuki Watanabe
レガシー神挑戦者決定戦、準々決勝の一卓。菊池 雄大と岡 洋介の1ゲーム目は、ジャッジからの裁定によって、カードが音を立てる間もなく終わりを告げた。
デッキリスト不備による、菊池のゲームロス。これが、1ゲーム目のすべてである。
こういった裁定が出た場合、対戦に挑む両者とその周囲には少し不思議な空気が流れる。不意に勝利を手に入れた側も喜ぶことはなく、少し気まずそうにデッキをシャッフルするのが常だ。
もちろん、敗北側も悔しさに浸っているわけにはいかない。公開する間もなく、2ゲーム目が始まってしまうからだ。
両者、わずかに言葉を交わしながら互いのデッキをシャッフルし、7枚の手札を確認。静かに、戦いの始まりを待っている。
その両者の表情は真剣そのもの。これは、マジックの対戦における”いつもどおりの光景”であり、カバレージ冒頭で記される常套句ではあるのだが、この後に記す一文が、少々いつもとは異なっている。
カバレージとしての体裁を整えるためにも、裁定による勝敗をしっかりと記しておかねばなるまい。
菊池 0-1 岡
では、改めて準々決勝の内容を記していくことにしよう。
《師範の占い独楽》が環境から姿を消し、初めてのレガシー神挑戦者決定戦となった今回。準々決勝に駒を進めた両者のデッキは、「赤単ストンピィ」と「グリクシスデルバー」である。
「赤単ストンピィ」は、時に「ドラゴンストンピィ」と表されることもあるが、今回、菊池が持ち込んだデッキにはドラゴンが入っていない。代わりに採用されているのは『アモンケット』の新戦力、《熱烈の神ハゾレト》だ。《猿人の指導霊》や《金属モックス》を利用したマナブーストを活かして、素早くクリーチャーを送り出し、《血染めの月》や《罠の橋》によって相手の動きを制限していく。
対する岡の「グリクシスデルバー」は、デッキ名にもなっている《秘密を掘り下げる者》を始めとするクロックを、優秀な除去と打ち消しでサポートしていく。採用されている呪文は、レガシー屈指の優秀な呪文ばかりである。いわゆる、「クロックパーミッション」と称されるデッキだ。
「クロックパーミッション」。
この言葉に魅了されたマジックプレイヤーは、数多い。誰しも、一度はこのアーキタイプに憧れたことがあるだろう。
抱負な打ち消し呪文が採用されているため、相手が「これ、通りますか?」と常に許可(Permission)を求めることが語源のようだ。
そしてこの一戦も、「通りますか?」というやり取りによって、進んでいく。
Game 2
菊池の初動は《金属モックス》。これには《ゴブリンの熟練扇動者》を刻印した。序盤動き出せるだけのマナを十分に確保し、続くターンに早速《ゴブリンの熟練扇動者》を唱える。対する岡は、《意志の力》でひとまず打ち消しておく。
岡の動き出しは《秘密を掘り下げる者》から。2ターン目に《思案》を唱えてデッキトップを確認して、次のターンに変身させる準備を整える。さらに《陰謀団式療法》を唱える。早くも潤沢なマナを用意している菊池の次の動きを警戒して脅威となりうる《反逆の先導者、チャンドラ》を指定するが、今のところ手札にはなかったようだ。そして、違った驚異の存在を岡は確認することになる。それは、菊池の「許可願い」と共に、戦場に現れた。
菊池「《血染めの月》、通りますか?」
岡は「通ります」と一言。戦場を染め上げる月が、両者のマナ基盤を赤1色に変えていく。動きが制限された中でターンを受けた岡は、ひとまず《秘密を掘り下げる者》を変身させる。貴重なクロックではあるが、ここでは《陰謀団式療法》のフラッシュバックコストに充てる。先ほど確認した、もう一つの驚異、《罠の橋》を捨てておくためだ。
菊池 雄大
ここから、互いにドローのみでターンを返す状況が続く。盤面にクリーチャーは存在せず、ただ《血染めの月》のみが浮かぶ戦場。菊池のプレイは素早く、迷うことなく手札を消費し、相手に「許可」を求めていく。
菊池「《猿人の指導霊》、通りますか?」
と菊池が問えば、
岡「《意志の力》で」
と打ち消すことを宣言。それでも、菊池が展開を止めることはない。
菊池「《月の大魔術師》、通りますか?」
と許可を求めてから戦場に送り出し、
菊池「《焦熱の合流点》、通りますか?」
と尋ねてからから、6点のダメージを与えていく。
さて、対戦相手に「通りますか?」と聞かれた場合、我々に用意された答えは、通常で考えれば「通ります」と「通しません」の二つである。
しかし、ここで再び菊池に問われた岡の答えは、そのどちらでもなかった。
菊池「《熱烈の神ハゾレト》、通りますか?」
岡「次でお願いします」
岡が、菊池の勝利を「許可」した瞬間である。
菊池 1-1 岡
Game 3
このゲームも、岡は《秘密を掘り下げる者》を送り出すことから開始。
対する菊池は《古えの墳墓》。さらに《金属モックス》に《血染めの月》を刻印し、赤マナを算出し、
菊池「《血染めの月》、通りますか?」
と申し出る。岡の返答は、
岡「通らないですね」
岡 洋介
と一言。《真の名の宿敵》をコストに充てて、《意志の力》で打ち消しておく。
続くターンのアップキープ、岡はデッキトップを確認。今回は変身できなかったようだ。
このまま《秘密を掘り下げる者》を残して変身させてしまえば、あっという間にライフが削られてしまう。そこで菊池は《めった切り》をサイクリングすることを選択。《秘密を掘り下げる者》を切り裂いておく。
クロックを失った岡は、ひとまず《古えの遺恨》で《金属モックス》を破壊するが、次のターンには再び《金属モックス》が唱えられる。刻印されたのは、《速製職人の反逆者》。これまで「許可をする側」だった岡が、菊池に許可を求めた。
岡「テキスト確認しても良いですか?」
菊池はカードの向きを変えて、簡単にテキストを説明する。カードの能力は、アーティファクトを《ショック》発生装置に作り変える、とでも言うべきか。岡は「なるほど。ありがとうございます」と一言告げて、ターンを受ける。ここでは、土地を伸ばしてターンを終えた。
ここから、菊池と、彼が呼び出したプレインズウォーカーがゲームの主導権を握っていく。
《金属モックス》を利用して4マナを生み出し、《反逆の先導者、チャンドラ》!
まずは、デッキトップを追放して2点のダメージを与えていく。
どうにかして対戦相手2人の動きを抑えたい岡は、《若き紅蓮術士》の力を借りることを選択。《古えの遺恨》をフラッシュバックして《金属モックス》を破壊しつつ、エレメンタルトークンを生み出させる。
続くターン、《反逆の先導者、チャンドラ》が公開したデッキトップは《猿人の指導霊》。菊池はこれをそのまま唱えた。
岡は《若き紅蓮術士》、エレメンタル・トークンの2体で攻撃。《猿人の指導霊》が《若き紅蓮術士》をブロックして、この戦闘は終了。追加の戦力を送り出したい岡は、《若き紅蓮術士》と《秘密を掘り下げる者》を唱えてターン終了。
菊池はドローを確認し、まずは《罠の橋》で相手のクリーチャーの動きを制限。続いて、《金属モックス》。チャンドラが《虚空の杯》を公開するが、これはダメージに変換する。
現在の菊池の手札は0枚。1/1のエレメンタル・トークンさえも、目の前に横たわる橋を渡ることはできない。
このまま菊池がドローしたカードを使い切って手札0枚を維持すれば、相手のクリーチャーは一切動けない。さらに、《火山の流弾》で相手のクリーチャーをすべて処理し、このロックは完全に決まった。追い打ちをかけるように《血染めの月》を唱えてマナ基盤を染め上げておくことも忘れない。
ライフは残りわずか。しかし、相手が手札のカードの処理に手間取れば、攻撃をする機会はやってくるはずだ。菊池の盤面を一度確認し、
岡「その《金属モックス》、何も刻印してないですよね?」
と尋ねる。菊池は一言、「そうですね、何もしてないです」と返した。マナが伸びないことを確認した岡は《若き紅蓮術士》を唱えて望みを繋げる。
しかし、その望みは敢えなく潰えた。
なにも刻印されていない《金属モックス》。これを唱えたのは、手札を0枚に減らして《罠の橋》によるロックをかけるためだった。つまり、《金属モックス》自体は、何の役割も持たずに、ここまで戦場に存在していたことになる。
先ほど菊池の返答を聞いて「手札を消費するために唱えられた、ただの置き物」と確認した岡にも、きっと予想できていなかったはずだ。
その《金属モックス》が自分を襲い始める、ということを。
菊池が唱えた《速製職人の反逆者》によって、《金属モックス》は《ショック》発生装置へ生まれ変わり、そのまま《若き紅蓮術士》を除去!
手元のメモに目を落とした岡は、ターンを受けてドローを確認すると、その右手を差し出した。
菊池 2-1 岡
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