By Yuya Hosokawa
《Black Lotus》が、各種Moxが飛び交う究極のフォーマット、ヴィンテージ。
誰もが茶色い宝石を並べてストームを稼ぎ、あるいはモンク・トークンを生み出し続け、あるいは1枚の土地から3マナを生み出して強力なアーティファクトを叩きつける。ヴィンテージでしか見ることのできない光景が、そこかしこで広がっている。
そんな中。
彼のテーブルでは、《墨蛾の生息地》が攻撃していた。次の瞬間、《猛火の群れ》が対戦相手を毒死させていた。
次のゲーム、今度は《墨蛾の生息地》はマナを生み出すためにタップされた。そして《実物提示教育》で《大祖始》が飛び出し、相手を屠っていた。
まるで同じデッキとは思えない二種類の必殺技。
この『第9期ヴィンテージ神挑戦者決定戦』に、意欲作を持ち込んだ男。
その名は、桧山 憲二(東京)。
桧山 憲二
桧山はレガシー界ではその名の知れた強豪であり、『日本レガシー選手権 2015』優勝や第7期ヴィンテージ神挑戦者決定戦トップ8など、数々のエターナルフォーマットでの実績を持っている。
独創的なデッキを持ち込むプレイヤーとしても知られ、The Last Sun 2015では『黒単ポスト』を披露してくれた。
そんな桧山がこの『第9期ヴィンテージ神挑戦者決定戦』の相棒に選んだデッキ、『Pro-Infect』。その全貌が今、明らかとなる。
Pro-infectの基本的な動き
――このデッキの基本的な動きについて教えてもらえますか?
桧山「大きく2種類です。まずは《墨蛾の生息地》や《荒廃の工作員》に《猛火の群れ》を打ち、《大祖始》を追放して一撃で毒死です」
――モダンでは禁止されてしまったテクニックですね。
桧山「そしてもう一つが、《実物提示教育》で《大祖始》を出す、というプランです」
――《グリセルブランド》が入る前のレガシーのショーテルを思い出しますね!
桧山「レガシーと違って《大祖始》が全然対処されないので、安心感がすごいんですよ」
Pro-Infectができるまで
――それにしても、感染とショーテルのハイブリッドなんて初めて見ました!
桧山「ですよね(笑)」
――このデッキを組む経緯について教えていただけますか?
桧山「そうですね……まあぶっちゃけてしまうと、カードを貸してしまっているからです(笑)」
――え!資産の都合ということですか?
桧山「そうです(笑)今日はパワー9を含めて、僕がいつも愛用しているMUDを全て貸していて、じゃあどうしようかな、と思って。最初はオースでも使おうと思っていたんですよ」
――オースもヴィンテージではかなり有力なデッキですよね。
桧山「そうですね。でもMoxがないオースはちょっとデッキが弱くて、これじゃいかんなとなって。それで別のデッキを探し始めたんです」
――行き着いたのが、感染だったのですね。
桧山「第7期ヴィンテージ神挑戦者決定戦の準々決勝で僕、感染に負けたんですよ。その時にこのデッキはやるなぁ、と」
――敗北から学んだ、と。
桧山「かっこよく言うならそうですね(笑)」
感染が抱える弱点
――でも、普通の感染を使用すれば良かったのではないでしょうか?
桧山「最初はそうでしたね。でも感染がヴィンテージでほとんど成績を残せていないのには理由があったんです。このデッキはとにかく、除去が苦手なんですよ」
――除去、ですか。
桧山「オースは《罰する火》を入れていますし、メンターには《剣を鍬に》が大体入っています」
――ヴィンテージと言えばクリーチャーが死にづらい環境というイメージでしたが、そんなことはないのですね。
桧山「そうですね。加えてMUDには《歩行バリスタ》も入っていますからね。普通に感染だけで勝利を目指そうとするのは無謀かな、と思ったのです」
――なるほど。
桧山「そこで、《大祖始》に目をつけました」
《大祖始》の第二の活用法
桧山「《猛火の群れ》で追放するためだけにデッキに入れている《大祖始》。これを何かに利用できないかな、と思ったんですよ」
――《大祖始》だけ沢山引くと悲しいですもんね。
桧山「そうです。コンボパーツゆえにデッキから減らせない。でも手札にたくさん来たら困る。それならばいっそ有効活用しようと」
――《大祖始》の活用法を考えた結果がこのデッキなのですね。
桧山「そうですね。追放されるだけじゃもったいないし、このカード、元々踏み倒される目的で使われてたし、それなら出したら強いんじゃないかな、と思って。フラッシュアイディアというやつです」
――素晴らしい発想力だと思います。
桧山「これがなかなかハマってくれたんですよね」
《大祖始》プランの魅力
――具体的にどのような点が良かったのですか?
桧山「まず、《大祖始》ってヴィンテージだとまったく対処されないんですよ。レガシーでは《悪魔の布告》が入っていたり、《ヴェールのリリアナ》があったりしますけど、ヴィンテージでは出せばまず対処されません」
――なるほど。確かに今日は1度も見ませんでした。
桧山「さらに、感染が除去に弱い勝ち手段なのに対して、《実物提示教育》からの《大祖始》は全く別の勝ち手段じゃないですか。だから相手は打ち消しばかりの手札も除去ばかりの手札もキープしづらいんですよ」
――それは言えますね。相手にしたら厄介そうです。
桧山「さっきも、一本目を《実物提示教育》《大祖始》で勝って迎えたサイド後、相手がカウンター多めの手札をキープして、《墨蛾の生息地》だけで殴り切りました」
――見事に《実物提示教育》を見せた効果が出ているというわけですね!
『Pro-Infect』の魅力
――感染と《大祖始》をそれぞれ擁するこの『Pro-Infect』の良いところはなんでしょうか?
桧山「ヴィンテージのコンボデッキってチェインコンボが多いんですよね。そういうデッキって《抵抗の宝球》がきついじゃないですか。でもこのデッキは《抵抗の宝球》を苦手としていません」
――呪文を打つのは一度でいいですものね。
桧山「そうです。《墨蛾の生息地》に《猛火の群れ》を打つだけでいいですからね。1マナぐらいなら払いますよ!」
――コンボデッキなのに《抵抗の宝球》が効きづらい、というのが強みと。
桧山「はい。それに加えて《実物提示教育》ですからね。こちらもこのカードさえ打てれば良いので。普通のコンボよりもMUD耐性が非常に高いのが魅力的です」
――そう聞くとものすごく良さそうです。
桧山「あ、それともう一つ」
――まだあるんですか!
桧山「パワー9がほとんど入っていないです!」
――元々、パワー9を貸してしまったから組んだ、という経緯がありましたね(笑)
各デッキとの相性
――流行のデッキ達との相性はいかがでしょうか?
桧山「《罰する火》が入ったオースは厳しいですね。後はパラドックスストームにも決して強くはないです。MUDに対しては、往来のストームよりはまとも…とは言ったものの、そこまで有利というわけではないです」
――メタデッキに対してはそれなりに厳しいのですね。
桧山「そうなりますね。MUDは《歩行バリスタ》さえなければ有利なんですけどね……あのカード強すぎないですかね」
――強すぎます。
桧山「それ以外のデッキに対してはそれなりに強いと思いますよ。ローグ殺しとでも言いましょうか。やっぱりわからん殺しが多いんですよね、とにかく」
――《墨蛾の生息地》置かれるだけで凄まじいプレッシャーですもんね。
桧山「そこから《実物提示教育》を打った時の相手の困惑の表情と言ったら(笑)」
――目の前でそんなことをされたら頭が混乱します。
今後の『Pro-Infect』
――もし『Pro-Infect』を次に大会に持ち込むとしたら、どのように改良しますか?
桧山「そうですね……かなり難題ですが、もう少しコンボの配分に関しては工夫しようかと思いました」
――《実物提示教育》ですか?
桧山「そうですね。感染クリーチャーで攻撃しながら手札に《実物提示教育》だけ、ということがありましたし、ちぐはぐな手札が来ることはやはりあるんです」
――コンボを2種類以上入れているからこそ起きてしまいますね。
桧山「だから例えば、《実物提示教育》を減らしてドロースペルを入れるとかすれば、《猛火の群れ》にも《実物提示教育》にも辿り着けて、バランスが良くなるかもしれないです」
――なるほど。
桧山「とはいえこのデッキ、何人かできちんと時間をかけて調整すれば、すごく良くなるんじゃないかな、と個人的には思いました。もっと色々と試してみたくなりましたよ」
パワー9を使わないデッキを探し、そんな中過去に自分が負けたデッキ『感染』に目をつけ、《実物提示教育》とのハイブリッドに辿り着き、出来上がった『Pro-Infect』。桧山だからこそ辿り着いた75枚と言って差支えないだろう。
流行のデッキには厳しい戦いを強いられるものの、2ターンキルもでき、何より対戦相手が想定しない勝ち手段を2種類持っているというのは、大きな強みと言えるだろう。
ヴィンテージで感染旋風が巻き起こるとするならば、《大祖始》がその横に佇んでいるかもしれない。
1 《島》 3 《Tropical Island》 2 《Underground Sea》 4 《汚染された三角州》 2 《沸騰する小湖》 4 《墨蛾の生息地》 -土地 (16)- 4 《荒廃の工作員》 4 《Elvish Spirit Guide》 3 《大祖始》 -クリーチャー (11)- 1 《Ancestral Recall》 -パワー9 (1)- |
3 《精神的つまづき》 1 《定業》 1 《思案》 1 《渦まく知識》 1 《狼狽の嵐》 1 《吸血の教示者》 3 《突然の衰微》 4 《猛火の群れ》 1 《自然の要求》 4 《実物提示教育》 1 《Demonic Tutor》 4 《意志の力》 1 《時を越えた探索》 1 《宝船の巡航》 1 《精神壊しの罠》 1 《師範の占い独楽》 1 《水蓮の花びら》 1 《太陽の指輪》 -呪文 (32)- |
4 《貪欲な罠》 3 《自然の要求》 2 《無のロッド》 1 《魅力的な執政官》 1 《エメリアの盾、イオナ》 1 《外科的摘出》 1 《狼狽の嵐》 1 《破滅的な行為》 1 《毒の濁流》 -サイドボード (15)- |
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