By Kazuki Watanabe
練習会の残りラウンドもあとわずか。ノンストップで繰り広げられた練習会も、そろそろ終わりが見えてきた。
参加者の表情には幾ばくかの疲労も見られるが、それでもその真剣さ、そして明るさは失われない。その明るい表情の背景にあるのは、今しがた経験した「勝利に寄る喜び」とも、「敗北による悔しさ」とも違う、「環境を解明し、さらなる勝利を目指す」という知的好奇心によるものだろう。
ラウンドを重ねるごとに、プレイヤーたちには変化が生じている。それは少しずつ環境を解明している証拠でもあるのだが、練習会ならではの”流れ”のようなものがある。
その流れについて、ドラフト巧者であるHareruya Prosの”はまさん”こと、金川 俊哉が解説してくれた。
環境の変化と、練習会の流れ
まず、現在の状況について伺ってみよう。
金川「ラウンドが進行するに連れて、コントロール寄りのデッキが勝てるという状態になっていたのですが、それに対抗して”赤で速く殴りきるプラン”を選択する人が増えてきたような印象がありますね」
Hareruya Hopesの熊谷 陸がインタビューで語った「速さから重さへの変化」が、さらに一歩進んだようだ。
金川「《火付け射手》《ケンラの潰し屋》といったカードを用いて素早く殴りきるプランは、周囲が重たく構えているからこそ有効なプランです」
実戦を繰り返していくと、「こっちのほうが良いのでは?」と考え、プランが変化していく。それは、当然参加者全員に生じる変化であり、ある種の“流行”であると金川は続ける。
金川「やはりこういった練習会には”流行”のようなものがあって、現在は赤の人気がとにかく高いですね。そして、タフネス1が多いということで《猛火の斉射》がメインボードから採用されている点も、流行なのかなぁ、と」
殿堂プレイヤー・中村 修平が第一感で「評価が上がった」と述べた《猛火の斉射》。その評価の上昇は、この練習会の共通認識となったようだ。
『破滅の刻』がもたらした”コントロール寄り”の世界
さて、なぜ重たいプランを選ぶプレイヤーが増えたのか。その理由は『破滅の刻』の特徴であり、”コモンの特徴”であると金川は考えている。
金川「『破滅の刻』は、除去が比較的強いので、相手のクリーチャーは簡単に排除できます。そして、《王神、ニコル・ボーラス》の影響下ということで青黒赤のコモンが強いのですが、“コントロール寄り”で強いんですよ」
ドラフトでは、コモンのカードが鍵を握る。ピックの大半で手に取ることになるコモンを活かそうとすると、この環境では自然とコントロール寄りになっていくようだ。逆に「生物を並べて殴る」というビートダウンの代表である緑の評価は、というと、
金川「緑の人気は低い傾向にありますね。コンバットトリック、『破滅の刻』で言えば《活力の贈り物》を使って殴っていくようなプランしか取れないような印象なので」
とのこと。緑絡みの人気の低さは、どうやら共通認識のようだ。筆者が取材の合間にプレイヤーたちに話を聞くと、概ね「緑絡みはやりたくない」という答えが返ってきたことからも、間違いないと言えよう。
とは言え、この状況が”環境の最終結論である”とは誰も考えていないだろう。金川も、
金川「もう少し進めば、状況は変わりそうですけどね。少なくとも、”今は”そういう状況です」
と述べる。
シールドとドラフト -その大きな違いと、勝利への道筋-
さて、この練習会が終わると、多くのプレイヤーの視点は一週間後のグランプリ・京都2017へと向かう。『破滅の刻』のリミテッドで争われる、最初のプレミアイベントだ。初日はシールドだが、この環境のシールドについて伺ってみると……?
金川「シールドとドラフトはまったく別物ですね」
と、きっぱりと答えた。具体的に、どのように違うのか。まず、「他のプレイヤーが選ぶ色の傾向」、そしてその色に絡んだ「レアの圧倒的な強さ」があるという。
金川「この環境では、やはり青黒赤を選ぶ人が多いんですよ。《王神、ニコル・ボーラス》や《蝗の神》を始めとする神を引けば、それらを活かす形でまとめれば良いですからね」
そうなると、当然の疑問が湧く。「じゃあ、青黒赤のレアが引けなかったらどうすれば良いの?」と。
金川「青黒赤のレアを引けず、プールもそこまで強くない、という状況で戦えるプランを持っていなければいけません」
と続けた金川に、そういった場合のプランについて伺ってみた。
金川「とにかく、プール全体を活かして勝利を目指します。そのために、引いたカードをすべて活かして、3パターンくらいデッキを作るんですよ」
6パックを向いてデッキを1つ作るのではなく、3パターンほど作っておく。そうすることで、
金川「『とにかく相手のレアが強い』と思ったら、それに対処できるカードを投入するプランを選ぶわけです。この環境では《リリアナの敗北》のような”色対策カード”があるのでそれを投入するプランもありえます。そして、異なったプランを持っていれば相手の”色対策カード”を外すこともできますからね」
と、相手のプランを崩すことが可能となるわけだ。そのためには、それ相応の準備が必要なので、
金川「プール全体の8割をスリーブに入れて、サイドチェンジに備えています。当然ですが、基本土地も用意しておくと良いですよ」
というアドバイスも覚えておこう。
しかしながら、プールの強弱による絶対的な差は覆し難いようだ。金川も「パックを開ける前に、祈ることが必要」と笑顔を見せながら、「だからこそ、ドラフトの実力を付けたい」と続けた。
金川「シールドのプールによっては、どうしても勝てない場面が出てきてしまいます。だからこそ、実力で勝利を掴むことができるドラフトでの勝利を、安易に落としたくないんです」
金川の目は、一週間後の日曜日……グランプリの2日目を捉えている。
練習会には、”流れ”がある。それは参加者全員が把握していることだ。その流れに執着することなく、「流れがあるからこそ、違った戦い方を」と誰しもが思っているからこそ、この練習会に流れる空気は常に真剣で、張り詰め、それでいて新しい。
ここで金川が語ってくれたことは、あくまでも”現在の状況”だ。筆者が執筆作業をすすめている最中も、扉の向こう、プレイスペースでは活発な議論の声と共に、カードの音が小気味よく響いている。
この瞬間も、プロプレイヤーたちは一歩前へ。その先にある「それぞれの勝利」に向けて歩み続けていく。
彼らにとって最も望むものが「勝利」であることは疑いようがない。
そして、二日間、彼らが研鑽を積む姿を間近で見て、その言葉に耳を傾けてきた筆者が望むものも同じであることを、ここに記しておこう。