Translated by Kenji Tsumura
(掲載日 2017/11/16)
スタンダードフォーマットは進化し続け、各デッキはメタゲーム上の新たな脅威と戦うべく適応を重ねている。ティムールと4色エネルギーデッキがミラーマッチやトークンデッキに打ち勝つために《秘宝探究者、ヴラスカ》、さらには《王神、ニコル・ボーラス》といった兵器を採用するようになったよな。
しかしながらラムナプ・レッドはどうかというと、このデッキは単色のデッキでありほぼほぼ色を足すことはできない。従って、この方向性においてより限定的なオプションに頼らざるをえないんだ。
ラムナプ・レッドは、次なる新セットが出るまで堅実なTier2であり続けるだろう。赤単はエネルギーデッキと比べてわずかにカードパワーで劣るものの、ティムール系統のデッキが唯一のTier1デッキになったことによる利益を享受できるデッキだ。エネルギーデッキがミラーマッチ用に採用する全ての重いカードが赤単に対して明確に弱いという事実は、これから先の大会においてラムナプ・レッドがいかに優れたデッキであるかを後押しすることになるだろう。
今日は先週に見受けられた、「ラムナプ・レッド」の異なる進化についてお話ししよう。
古典的なリスト
ヤン・ウィンチャン/Yam Wing Chungは、ここ2回のプロツアーで彼がラムナプ・レッドの操り方を知っていると証明し、さらに先週末にはグランプリ・上海2017にて下記リストを使用してトップ8に残った。
4 《ラムナプの遺跡》
4 《陽焼けした砂漠》
-土地(24)- 4 《ボーマットの急使》
4 《損魂魔道士》
4 《地揺すりのケンラ》
3 《航空船を強襲する者、カーリ・ゼヴ》
4 《アン一門の壊し屋》
4 《熱烈の神ハゾレト》
-クリーチャー(23)-
3 《ピア・ナラー》
2 《暴力の激励》
2 《霊気圏の収集艇》
2 《反逆の先導者、チャンドラ》
1 《チャンドラの敗北》
1 《マグマのしぶき》
-サイドボード(15)-
これは『イクサラン』がリリースされた直後に見受けられたリストに酷似しているが、これこそが俺がこのリストを “古典的” と呼んでいる由縁だ。《アン一門の壊し屋》を4枚フル投入したデッキリストは今日ではあまり目にすることはないものの、こいつにはいくつかのメリットが存在する。
このリストを見るに、ヤムは可能な限り攻撃的でありたいようだ。これはサイドボード後も同様で、彼は《栄光をもたらすもの》を採用しておらず《反逆の先導者、チャンドラ》も2枚だけしか採用していない。これらは間違いなく強力なカードではあるが、もしもどんなマッチアップであれ攻撃的に挑もうとするのであればそれほど使いやすいカードってわけじゃないよな。
《屍肉あさりの地》よりも16枚目の《山》を優先したのはいい変更だと思う。対戦相手よりも軽くを信条とするこのようなリストならば、《屍肉あさりの地》による追加の妨害よりも赤マナ不足に陥る問題の方が深刻だからだ。テンポデッキである以上、ゲーム序盤に2枚の呪文を唱えることは非常に重要だ。それに赤マナがひとつしかないと《熱烈の神ハゾレト》も悲しんじまうしな。
興味深いカードはサイドボードに2枚採用された《暴力の激励》だ。
齋藤 友晴が生み出したこのテクノロジーは、ブロッカーを大量に用意してくるデッキに対してこのデッキが欲していたものだ。《栄光をもたらすもの》や《反逆の先導者、チャンドラ》のような重いカードに頼るのではなく、そのまま押し切ってしまおうってわけだな。
《暴力の激励》を警戒するのは困難だし、これさえあれば《損魂魔道士》もまともなカードになる。重いカードをサイドインしてしまうと《この魔道士》はあまり良くないカードに成り下がってしまうものの、除去呪文を維持したままコンバットトリックを加えたのならば、ティムールに対してもマナカーブに沿った上々のカードとなる。
対戦相手がこちらのクリーチャーを全滅させるようであれば《暴力の激励》は最悪のカードになってしまうが、攻撃的なプランでいく限りその状況になってしまえばどの道最悪であることに変わりはない。
まとめ
これはラムナプ・レッドの中でも最も攻撃的なリストだ。サイドボード後のプランはほぼいつだって同じだし、このリストは最速かつ《地揺すりのケンラ》や《削剥》といったカードを使う利益を最大限に享受できる。
ヘイトベアー
プロツアー『イクサラン』で9勝1敗の成績を収めた3つのデッキのうち、2つがラムナプ・レッドだった。とはいえ、その2つのデッキを合わせたとしても《アン一門の壊し屋》はたったの1枚しか見当たらない。一体何が起こったっていうんだ?
これがダニエル・フォーニア/Daniel Fournierがプロツアーで使用したリストだ。
4 《ラムナプの遺跡》
4 《陽焼けした砂漠》
1 《屍肉あさりの地》
-土地(24)- 4 《ボーマットの急使》
4 《損魂魔道士》
4 《地揺すりのケンラ》
3 《航空船を強襲する者、カーリ・ゼヴ》
2 《過酷な指導者》
4 《暴れ回るフェロキドン》
1 《アン一門の壊し屋》
4 《熱烈の神ハゾレト》
-クリーチャー(26)-
《暴れ回るフェロキドン》と《過酷な指導者》は、今現在のスタンダードにおける “ヘイトベアー” だ。これらは単体では素晴らしいカードとは言えないものの、特定のカードやデッキに対抗するために採用されている。
《暴れ回るフェロキドン》はティムール、トークンデッキ、そして《王神の贈り物》デッキに対する最高の術だ。対戦相手がゲームに勝ちたいならこいつを除去するほかないし、とりわけマナカーブ通りに展開できたときはそれが顕著だ。《つむじ風の巨匠》や《スカラベの神》といったカードに対して、《暴れ回るフェロキドン》が対処されなかった場合には大量のダメージを叩き込むことができる。
懸念材料としては潜在的にテンポを失いやすいことだ。《暴れ回るフェロキドン》を出して単に《削剥》されてしまったとしたら、1マナ損してしまうことになる。こちら側がテンポを軸にしたデッキであるにも関わらずだ。これが《アン一門の壊し屋》なら、注意深くプレイしている限り普通は死んでしまう前にいくつかのアドバンテージを提供してくれる。
《過酷な指導者》は明確にティムール/4色エネルギーをターゲットにしている。これが対処されなかった場合には、エネルギーのデッキ全体を大きく悪化させることができる。もしもこのクリーチャーを戦場に出した状態で攻撃したならば、エネルギーデッキ側が大量のダメージを受けずに十分な数のブロッカーを用意するのは非常に困難だ。《つむじ風の巨匠》の起動1回につき2点のダメージは相当にやっかいだよな。
このカードの主な欠点は、ときに《過酷な指導者》自体がゲームを長引かせてしまう点だ。それは本来ティムール側が望む展開だし、特に重いカードが多い1本目はそうだろう。俺は《過酷な指導者》の大ファンってわけじゃないが、それでもいくつかのメリットはある。
俺たちがどのバージョンのラムナプ・レッドをプレイしているか分からないという事実は、対戦相手がプレイング面でのミスを引き起こす要因となりえる。なぜなら今現在の方が対峙するのが難しいからだ。
例えば対戦相手がティムールを使っていて、手札に除去呪文を1枚だけ持っているとしよう。彼はこちらのマナカーブ通りに展開されたクリーチャーを殺すべきだろうか?それとも “ヘイトベアー” のために除去を温存しておくべきだろうか?
もしもこちらが《暴れ回るフェロキドン》か《過酷な指導者》をデッキに入れているとすれば、これらの問題となる脅威に備えてそれまでに追加の1~2点のダメージを受けるのはおそらく正しいプレイになるだろう。しかしこちらがそれらのクリーチャーをデッキに入れておらず、代わりに《アン一門の壊し屋》をプレイしているとしたら、除去呪文を抱えたまま受けてしまったダメージは容易にゲームの結末をこちらにとって良いものへと変えてしまうだろう。
まとめ
このバージョンはエネルギーデッキに対しては “古典的なリスト” よりも優れているだろう。ただしこのデッキ本来の持ち味を失い速度を落としてしまうことは、《栄光をもたらすもの》や《秘宝探究者、ヴラスカ》といったカードを有効なものへと変えてしまう。
《アン一門の壊し屋》を採用しないということは、サイドボードにより多くのオプションを用意できることを意味している。メインボードに4枚の《暴れ回るフェロキドン》を搭載することで、サイドボードに4枚の空きができるからな。
ベン・スターク・スペシャル (デザート・レッド)
ベン・スターク/Ben Starkはリミテッドの技能で広く知られているが、彼はまたしてもこの週末に60枚のデッキでも卓越していることを証明してみせた。グランプリ・アトランタ2017で準優勝に輝いたこのデッキは、カバレージ内で “デザート・レッド” と呼ばれていた。
4 《ラムナプの遺跡》
3 《死者の砂丘》
2 《屍肉あさりの地》
3 《陽焼けした砂漠》
-土地(25)- 4 《ボーマットの急使》
3 《損魂魔道士》
2 《航空船を強襲する者、カーリ・ゼヴ》
3 《暴れ回るフェロキドン》
3 《砂かけ獣》
1 《熱烈の神ハゾレト》
3 《栄光をもたらすもの》
-クリーチャー(19)-
2 《チャンドラの敗北》
2 《マグマのしぶき》
2 《グレムリン解放》
2 《木端+微塵》
1 《損魂魔道士》
1 《暴れ回るフェロキドン》
1 《栄光をもたらすもの》
1 《削剥》
1 《反逆の先導者、チャンドラ》
-サイドボード(15)-
このリストと他のラムナプ・レッドを比較した場合に、最も驚くべき変化はデッキ内で最高のカードであるはずの《熱烈の神ハゾレト》が1枚まで減らされていることだ。
《熱烈の神ハゾレト》が4枚採用されていないだけでなく、それが《宝物の地図》といったカードに置き換えられていることからも、スタークがこのデッキでどのようなゲーム展開を思い描いていたかを伺い知ることができる。
他に特筆すべき “本来このデッキにいるべきはずのスター” は、《地揺すりのケンラ》だろう。こいつは「永遠」のおかげで終盤戦でも悪くないカードではあるが、俺にはなぜ《地揺すりのケンラ》がデッキに入っていないのかが分かる。このリストは序盤から押していくのではなく、代わりに中盤戦での優位を得るように構築されているんだが、《地揺すりのケンラ》はその点においてあまり役に立たない。
このリストには序盤の動きが鈍い相手を罰するべく、それ相応の枚数の軽いカードが含まれているものの、それらはしばしばアドバンテージを得る手段としても活用できるようになっている。
《ボーマットの急使》はアドバンテージ源として活用する限りデッキの構成が超攻撃的である必要はないし、《損魂魔道士》は除去呪文の信頼性を上げてくれる。
このデッキでは《損魂魔道士》が3枚に抑えられているが、その気持ちはよく分かる。複数枚引いちまうと使い勝手が悪いからな。
上記パッケージは、このデッキが中盤戦でアドバンテージを得るための手段だ。《地揺すりのケンラ》が《つむじ風の巨匠》に対して上手くやれなかったのに対し、《砂かけ獣》なら《つむじ風の巨匠》を葬ったうえで《飛行機械トークン》の前に3/3を残してくれる。
自軍のクリーチャーが後に続く《栄光をもたらすもの》のための避雷針となってくれるのはいいよな。《暴れ回るフェロキドン》はその筆頭だ。他のラムナプ・レッドで確定パーツのように扱われている4枚目の《陽焼けした砂漠》よりも《死者の砂丘》が優先されているのは、このデッキがカードアドバンテージで勝利しようとしていることをよく表している。
除去呪文の装いも少しばかり異なり、3~4枚目の《ショック》よりも《マグマのしぶき》が優先されているな。《地揺すりのケンラ》や《屑鉄場のたかり屋》のような戦場に戻ってくる能力を持ったクリーチャーを対処するのにうってつけであることに加え、《マグマのしぶき》は《スカラベの神》を捌く術にもなる。このデッキのゲームプランを考慮するに、本体に《ショック》を打ち込めることよりも《スカラベの神》への解答があることの方が遥かに重要だろう。
サイドボードに関してはまだ十分に理解したとは言えないが、スタークがラムナプ・レッドに対して《熱烈の神ハゾレト》3枚、《損魂魔道士》4枚という、より伝統的な形にするであろうことは明白に見える。もしかすると《熱烈の神ハゾレト》はミッドレンジやコントロールに対してサイドインするのかもしれないが、このデッキは《チャンドラの敗北》に弱いし、《熱烈の神ハゾレト》はそれを打ち破る助けとなるだろう。
まとめ
これは非常に興味深いアプローチだし、おそらくエネルギーデッキに対して最良の形だと思う。問題点としては、これから先エネルギーデッキ過多のメタゲームが終わりを告げたとしたら、その際に他の全てのマッチアップで勝率が下がってしまったことが致命的になるであろう点だ。もしもフォーマットがエネルギーデッキ過多のままならば、この種の赤いデッキこそが俺たちの進むべき道となるだろう。
俺はこのデッキに本当に感銘を受けたよ。初見ではいくつかのカード選択が良くないものに見えはしたものの、それらについて考えれば考えるほど納得がいったんだ。《熱烈の神ハゾレト》の2枚目はメインに採用していいかもしれないが、それ以外の構成に関しては文句なしだ。
総括
次なる大会に向け、どのバージョンのラムナプ・レッドがベストかはメタゲーム次第としか言いようがないが、少なくともデザート・レッドに挑戦してみようと思う。
もしも重い形が気に入らない、または対戦相手がデザート・レッドの構成を知っていた場合に結果が伴わないようであれば、俺は《アン一門の壊し屋》と共に進むだろう。結局のところ、ミノタウロスが最高ってことさ。
読んでくれてありがとな。
ハビエル・ドミンゲス