あなたの隣のプレインズウォーカー ~第61回 ザ・ダーク物語もリマスター~

若月 繭子

 「次回はイクサランのプレインズウォーカー」と言ったな。あれは嘘だ。

 ごめんなさい、若月です。掲載遅くなった上に内容変更してしまいました。

 ところで皆さん、「カードに一目惚れする」という経験はありますでしょうか? カード名、アート、能力、何でも構いません。一目見てまさしく心を掴まれ、実物が欲しくなる。使ってみたくてたまらなくなる。私の場合、久しぶりにその感覚に近いものに襲われたのが彼でした。

偽善者、メアシル

 『統率者(2017年版)』でカード化され、なかなかテクニカルかつおもしろい構築が可能と評判の彼。で私が何に一目惚れしたかって、その「ストレートなカード名」「イメージそのままの姿」「設定を完璧に再現した性能」です。過去の物語に登場していたキャラクターが待望のカード化、というのは今でこそ珍しくなくなりました。ですがメアシルはその「再現度」において群を抜いていると思っています。これはきちんと物語を取り上げるしかあるまい! 彼が登場している『ザ・ダーク』もドミナリア史においては重要だし!

 丁度良いことにこの連載にはウェザーライト・サーガを語る「リマスター」シリーズが存在します。現在は『アンティキティー』&『ウルザズ・サーガ』(の一部)まで来たのですが、時代的にその次にあたる暗黒時代・氷河期は詳しく取り上げずに随時補足していく予定でした。ですがこんなカード見せられたら語るしかないじゃんよー。問題は主人公とヒロインのカードが存在しないことなんですが、そこはどうにかして(雑)今回は『ザ・ダーク/The Dark』のお話です!!

1. ザ・ダークというセット

 もう恒例のこういう話から。『ザ・ダーク』は1994年8月発売、テーマは「暗黒時代」。その通りに多くのカードに陰鬱な雰囲気が漂っています。時代が昔なので割とおどろおどろしい絵も……(検索は自己責任でお願いします)。そしてこれまでのセットと比較して、使用者にもダメージを与えたり生贄のようなコストを要求するカードがぐっと増えたことも「暗さ」を際立たせています。

 今でも使用されている、または注目すべきカードはこのあたりでしょうか。

血染めの月血染めの月

 説明不要の特殊地形殺し! 『基本セット第8版』『基本セット第9版』に収録されていたことからモダンリーガルです。新枠版アートがこの旧絵の雰囲気を残しているのがまた良いと思いません?

イス卿の迷路

 昔から『ザ・ダーク』随一の強カードとして知られていましたが、長い時を経て『エターナルマスターズ』にて待望の日本語化つい最近にも《オラーズカの尖塔》という亜種が登場しました。

ボール・ライトニング

 元祖「歩く火力」。こちらも多くの亜種が存在しますね。

森の暗き中心

 第39回でも取り上げましたが、マジック初の対抗色カードがこちら。『ラヴニカ:ギルドの都』にて再録されましたが、時代も次元も全く異なりながら名前も能力もゴルガリにぴったりっていう不思議な偶然。

トーモッドの墓所

 時々スタンダードに戻ってくる豪快な墓地対策。固有名詞入りのため基本セットがなくなってからはご無沙汰してますが(基本セット復活するけど)。私は『クロニクル』でこれを引いて「0マナのカードなんてあるんだ!」と驚いたのを覚えています。

 こんな所でしょうか。勿論、上に挙げたカードはセット全体の中ではごく一部ですがそれでも「案外やるじゃん」と思いませんか。とはいえ、歴代マジック最弱カードの有力候補と言われるものがこのセットから出ているということにも言及しておかなければなるまい。

Sorrow's Path

 気になった人は調べてみて下さい、おもしろい話が色々と出てきますよ。

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2. その登場人物

 『ザ・ダーク』の主要登場人物は一部しかカードに登場していないので、知名度の差が激しかったりします。そして前述の通り、肝心の主人公とヒロインがカード化されていないんですよ。この先の統率者セットに期待しとく?

※例によって、日本語訳されていない固有名詞が多数登場しますが、公式のものではありません。

■ジョダー/Jodah

小説版『The Dark』

 カード化こそされていませんが主人公です。ドミナリアの暗黒時代から氷河期にかけて活躍した大魔道士であり、その時代のテリジア大陸において多くの重要な出来事に関わります……が、『ザ・ダーク』ではまだそこまでの存在ではなく、魔術の才能を持つ若者というくらいでした。表紙の写真では結構大人びていますが『ザ・ダーク』の話中では少年時代を抜けきっていないくらいの年齢です。

 そして物語では重要なネタバレなのですが、この連載でも何度も繰り返していてもったいぶるのも今さらなので。彼の数代前の祖先であるジャーシル/Jarsilはウルザ・ミシュラの孫にあたります。つまりジョダーはあの兄弟の直系の子孫。後年に彼と出会ったジョイラが評した所によればわりとウルザの面影があるようです。かつてはそこそこ裕福な一族だったのですがやがて衰退し、ジョダーがまだ少年と言える頃に一家は離散してしまいました。

 ドミナリアにおけるウルザの評価は時代によって異なります。暗黒時代から氷河期にかけては大体において「世界を荒廃させた極悪人」という認識であり、その名前を罵り言葉に使われるほどでした。そんな時代に少年~青年期を過ごした彼が自分の血筋に思う所があったのは確かなようで、後の時代に結構苦々しく言及していました。

■シーマ/Sima

 悲しいことにカードも絵もないのですが、多分ヒロインだと思います。《City of Shadows》所属の魔術師、黒髪ショートカットの女性。最初の師匠ヴォスカ/Voskaと散り散りになったジョダーに出会い、新たな師として彼を導くことになります。気が強いながら世話焼きで、上手くいかないことがあると地団駄を踏む癖があります。しかし年上の女師匠……いいよね。

■イス卿/Lord Ith

高位の秘儀術師、イスイス卿の迷路

 『ザ・ダーク』の登場人物として昔から最も知名度が高かったのはこの人でしょうか、《イス卿の迷路》からその名を知られていました。暗黒時代に生きた名高い魔道士の一人であり、同時代に存在した結社の一つ「魔道士議事会」の創設者です。ある時弟子のメアシルに裏切られて全てを奪われ、魔法の檻に幽閉されて力を吸収され続けていました。やがて長年に渡る責め苦から狂気へと堕ち、ですがある時、わずかな正気を取り戻した隙に救助を求める手段を講じます……。

■メアシル/Mairsil

偽善者、メアシル友なる石

 イス卿を幽閉し、議事会を手中にしたのがこのメアシルです。表向きは紳士的な人物、ですが本性では他者を見下し力に飢えていました。イス卿を排除し、全てを手に入れた彼でしたが師を殺すことはしませんでした。力を吸収するためだけでなく、もう一つ別の理由から……。

 カード化されたのはごく最近ですが、フレイバーテキストとして幾つかのカードに登場していたため、名前を見かけたことはあったかもしれません。中でも有名なのは《友なる石》でしょうか。前述の通り『ザ・ダーク』の発売が1994年8月、『統率者(2017年版)』が2017年8月ですのでメアシルは登場から実に23年目にしてのカード化ということになります。マジックがそこまで長く続いているという証拠でもあり本当にすごい。

■バール/Barl

 プレイヤーには《バールの檻》でその名を知られる工匠バール。メアシルの副官であり、魔道士議事会の様々な物事を管理していました。具体的な手段はよくわかっていませんがメアシルと共にイス卿を幽閉し、その檻を《底なしの奈落》の上に吊るしました。非常に現実的かつ冷静沈着な人物として知られ、時に激昂する主にも怖れることなく、媚びることもなく変わらず接します。最近で言うところのテゼレットとドビン・バーンの雰囲気に近いかもしれません。

■人さらい/Rag Man

人さらい

 と言っても人はさらわないのですが、カード名に合わせて”人さらい”と表記します。ジョダーの行く先にたびたび現れ、無言で行き先を示し、時に彼を助ける謎めいた人物?です。その正体は、イス卿が助けを求めて放った召使というか使い魔というかとにかくそういうもの。性格はなんとも健気。

 こんなところになります。それでは、物語へ移るとしましょう。

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3. その物語

アイスエイジ三部作

 左から「The Gathering Dark」「The Eternal Ice」「The Shattered Alliances」。『ザ・ダーク』『アイスエイジ』『アライアンス』の三部作になります。発行は1999年1月~2000年12月と、カードセットが出てからだいぶ後。そのため、恐らくは先にカードがあって、それを用いながら物語が書かれたのだと思われます。

 まず、兄弟戦争に続く暗黒時代とはどのような時代だったのでしょうか? この三部作小説には各章冒頭に「後世の歴史家による記述の引用」という形式でその時代や人物や出来事について簡潔な説明が掲載されており、これが非常にわかりやすいのでそのまま紹介します。

小説「The Gathering Dark」冒頭より抜粋・訳

いわゆる「暗黒時代」の始まりは漠然としている。その真の始まりと終わりを確定するのは、薄暮がいつ始まり、昼がいつ夜へ完全に屈するかを正確に決めようとするようなものだ。多くの学者や神学者は、暗黒時代はアルガイヴ暦64年のアルゴスの大災害から始まり、テリジア大陸が氷の檻に完全に包まれるまでの数百年間続いたという認識で一致している。

その当時、あの兄弟が生きた黄金時代から文明が下り坂を進む時代において、自分達が暗黒時代に生きているという認識を持った者はいないだろう。彼らにとってはただ日々の生活が続くだけであり、気象が寒冷化し、年を経るごとに世界が危険を増していたとしても、気付く者がいただろうか?

それは古き国家が崩壊し、ゴブリンは数を増し、都市国家は対立して圧政的な教会の重荷の下で確執を増した時代だった。だが同時に、今日我々が知る魔術が開花した時代でもあった。近代の呪文術における基礎的な理論が初めて確立した。この古の時代に、初めて魔道士らが真に集い、テリジアの都の精神を受け継ぎ、その知識を持ち寄って新たな技術を熱心に探究した時代であった。

――新アルガイヴの学者、アーコル

 五色のマナの性質、土地との繋がり。マジックの基礎の基礎であるそういった理論は、ドミナリアではこの頃に確立しました(他の次元ではまた違う時期かもしれません)。

バールの檻

 プロローグは底なしの縦穴、その上に鎖で吊るされた小さな檻。隙間から伸ばされる痩せ衰えた腕と、絶えず響き渡る狂気の悲鳴。かつて魔道士議事会の長として君臨したイス卿は弟子メアシルにその座を簒奪され、魔法の檻に幽閉されていました。メアシルは師から全てを奪うも、まだ手に入れていない――少なくともまだ手に入れていないと信じるものがありました。「ウルザの秘密」を。一方でイス卿は長年に渡る幽閉と責め苦から狂気へ堕ち、ですがあるとき、わずかな正気を取り戻した隙に魔法の下僕を作り出し、助けを求めるため城外へ放ちました。

 そして主人公側の物語は、ジョダーが最初の師であるヴォスカから魔法の初歩を習う場面で始まります。記憶にある土地を思い起こしてマナを引き出す。呪文を記憶し、形にする。ジョダーが最初に習得した呪文は眩しい光を発して相手の目を眩ませるというものでした。そしてヴォスカはジョダーへと魔法の鏡を手渡しました。それはヴォスカ自身が、初めて呪文を使えた日に師匠から譲り受けたもの。そして今、ジョダーへ譲られる番となったのでした。

Reflecting Mirror

 気付いた人もいるかもしれませが、上に載せた表紙画像でジョダーが持っているものと同一です。「Eternal Ice」の表紙にも見られるように、これは後々まで重要なアイテムとなります。

 ですが2人はタル教会に見つかってしまいます。その組織は、魔法が邪悪なものであると信じて魔術師狩りを行っていました。兄弟戦争の傷跡はとても大きかったのです……本当のところはウルザもミシュラも魔術師ではなく工匠であり、世界が荒廃してしまったのは《Golgothian Sylex》の力によるものなのですが。

Inquisition魔女狩り師

 2人は一旦逃走するものの、離れ離れとなってしまいます。ジョダーは逃亡中にとある街へ立ち寄り、ですがゴブリンの襲撃を受けて身を隠すために見捨てられた噴水に潜りました。それは極めて長時間に及び、彼は危うく溺死しかけましたが、実はそれは魔法の噴水であり、ジョダーの老化を著しく遅らせてしまうことになります。とはいえそれが発覚したのはずっと後年になってのことでした。

若返りの泉

《若返りの泉》フレイバーテキスト(日本語訳は『クロニクル』より)

その泉は何世紀もの間、街の広場に存在していたが、その秘密を知るのは鳩だけだった。

 また、彼は逃走を始めた頃から、何者かに追跡されていることを察していました。追跡というよりは、むしろ見守られているように感じました。それは時折視界の隅で動くフードの影、ですが正体を調べに向かっても姿はないのでした。

 そして放浪を続ける中、ジョダーは教会によって護送されていた魔術師シーマを救い出し、ヴォスカは死亡してしまったと知ります。シーマは自分の手枷を壊すようジョダーに願うのですが、その際のやり取りが、「マジックにおける魔術の初歩」が語られるなかなか貴重な場面でした。主人公が新米魔術師ということもあり、この小説ではしばしばこういった説明がなされて我々読者に教えてくれています。

小説「The Gathering Dark」P.103-104より抜粋・訳

「君の色は何?」

ジョダーは疑念とともにその手枷をはめられた女性を見た。「僕の何です?」

「色って言ったの!」女性は声を囁き程度に抑えようと努めていたが、無理らしかった。「ヴォスカが話してないなんてまさか……いいわ、最初から始めましょう。どんな呪文を使えるの?」

「眩しい光を出せます。眩しくて熱い光を」

(略)

「呪文を唱えるとき、何を考える?」

「考える?」ジョダーはそう答え、そして彼女の言葉の意味を察知した。「故郷です。ギーヴァ、僕が育った所」

「それは山、平地、それとも海岸?」

「遠くに山がありました。でもだいたいは農地です。果樹園とか、葡萄園とか、庭園とか」

「つまり平地。癒しの魔術や光球。いいわ、ならできる事がある。君の土地から魔力を引き出してみて。やり方はわかる?」

ジョダーは頷き、目を閉じた。彼はギーヴァを、家族の館を思い出した。ゆっくりと彼はそれらの記憶からエネルギーを引き出し、心の中で輝く白い球へと形成した。

「いい調子よ。今、何を思い描いてる?」

「白い光の球です」

「その球こそがマナ。魔法のエネルギーよ」

 彼はシーマを新たな師として、魔術師が集まる影の都/City of Shadowsへ向かうことを決めます。船に乗ると、彼は様々な物事を教わりはじめました。2人が目指す共同体は兄弟戦争の時代から存在し、その創設者はウルザでもミシュラでもない「第三の道」を模索していました。そして大破壊を生き延びて存続している由緒ある組織でした。一方で2人の師弟関係は当初あまり上手くいきませんでした。シーマが教える魔術の基本は、ジョダーがヴォスカから教わった実に直観的なそれとは全く異なるもので、互いの意見と理解の相違はフラストレーションを溜めるばかりでした。ですが2人とも辛抱強く、師と弟子であろうとしました。ヴォスカは赤、シーマは青。ジョダーがその色の違いを明確に認識するのはもっと後になるのですが。

 当初は順調だった船旅でしたが、やがて嵐とマーフォークの襲撃に見舞われます。ジョダーはそのマーフォークに捕われてしまい、ですが彼らはとある砂浜へ上陸すると、待っていたあのフードの影――”人さらい”へと引き渡します。”人さらい”はジョダーと引き換えに珊瑚の兜を手渡すと、彼が目覚めるのを無言で待ちました。

 やがて意識を取り戻したジョダーは、長いこと自分を見守っていた存在と対面しました。ですがその”人さらい”はただジョダーに行き先を示すだけでした。彼は警戒しながらもそれが何を意味するのかを知りたく思い、その案内に従うことにします。”人さらい”は遠隔地を繋ぐ謎めいた通路《隠れ家》を抜けて遥かな距離を越え、ジョダーを魔道士議事会の居城まで導きました。

隠れ家

 これがその「謎めいた通路」。わかりやすく言うとドラクエの「旅の扉」のようなもので、ドミナリア各地に存在しますが知る者はわずかです。後に『次元の混乱』ストーリーにてジョダーが再登場した際にしばしば利用されていました。タイムシフトで再録されているのはそういうことなんでしょうか。

 ジョダーは光の魔法で自身が魔術師だと示し、城内へ入れられました。これまでの出来事に困惑しながらも魔術師仲間を見つけたことに彼は安堵し、長であるメアシルの試験を通過すると議事会へと迎えられました。 一方で、ジョダーとの面談の記録に目を通したメアシルはとある名前に目を止めます。ジャーシル、彼はその名を兄弟戦争の記録から知っていました。ウルザの孫であり、ファイレクシアへ至るも生きて帰ってきたらしき人物。すなわちこれはイス卿から聞き出さずとも、「ウルザの秘密」を手に入れられるかもしれないとメアシルは考え、ジョダーを利用すべく優しい同志を装って近づきました。

 その中でメアシルは、各色の性質を教授します。さきほど訳したジョダーとシーマのやり取りもそうですが、マジックの基本原則がしっかり物語でも生きていることがわかります。

 小説「The Gathering Dark」P.225-227より抜粋・訳

 「白は癒し手、調停者、社会的人物となる。議論をもとに全員が合意に至ることを求める者。秩序を求める者。小奇麗な者らが白のマナに引きつけられる――その簡素さに惹かれるためだ」

 「赤はその正反対と言えるだろう――移り気で破壊的、統率を好まず無秩序。赤の魔道士らは激しい気質を持ち、荒々しい口調で話す傾向にある。計画的ではなく直情的だ」

 「緑は白に近い。生命を信奉しているが、その扱いはずっと気長なものとなる。緑の魔道士は慎重に計画する。動物や植物、その他の生物の扱いが得意だ。辛抱強く、だが独善的でもある」

 「青、それは何かを支配する者だ。幻影、大気、海、変化し流動するあらゆる要素は青の領域だ。青はそのように物事を扱い、意見の相違は許さない。青の魔道士と議論をすれば、まるで侵食される崖のように自らの意見の基礎が崩れ落ちることとなるだろう。議事会に純粋な青の魔道士が少ないのは良いことだ」

 「そして黒、これで魔術の色は全てだ。誤解されているが、黒は、我々の大半が考えないようにしているものを扱う――恐怖、死、狂気などだ。それに向き合うことによってのみ、力を得られる。黒の魔道士は孤独を好み、他よりも秘密主義だ。非難を怖れてな。彼らは死と付き合う、だが癒し手のようにではなく狩人のように。黒の魔道士は汚名を負っているのだ」

 日々を過ごすうち、ジョダーは議事会の仲間から不穏な噂を耳にします。それはメアシルを「簒奪者」「偽善者」と呼ぶ声。かつての議事会の長であったイス卿が行方不明となっており、メアシルがそれに関わっていることは明らかだと……声高に口にする者こそいませんでしたが、それは公然の秘密でした。イス卿は殺害されたのか、はたまた「堕ちたる者」にされてしまったのか……。

堕ちたる者

《堕ちたる者》フレイバーテキスト(日本語訳は『クロニクル』より)

魔法を使いこなせぬ者は、往々にして、魔法に使われる身となる。

 どうやら小説を読む限り、マナバーンしすぎると「堕ちたる者」になってしまう、らしいのです。

 一方で、議事会にまたも志願者が訪れます。それは離れ離れになったジョダーを遥々(《隠れ家》を使うことなく)探してやって来たシーマでした。バールは面談から彼女がジョダーを追ってきたこと、影の都の関係者であることを察します。そして影の都は魔道士議事会と敵対関係にあることから、メアシルはシーマをそのスパイと推測しました。彼はジョダーを必要としていたことから、互いの正体を隠した上で魔法での決闘を行わせ、ジョダーにシーマを殺害させようと目論みました。

 メアシルの真の狙いとは。それは彼がDark Landsと呼ぶ地、ファイレクシアへ至る方法でした。ジョダーに流れるウルザの血筋を利用して門を開き、その地の王に謁見し、ウルザとミシュラのようにプレインズウォーカーの力を授けてもらう……それができるとメアシルは信じていたのでした。勿論これは伝聞やメアシルの解釈が合わさった、事実とは異なるものです。ミシュラはプレインズウォーカーではありませんし、ウルザもそうして覚醒したのではありません。ちなみにメアシルがバールに作らせた《Stone Calendar》は、Dark Landsと彼らの世界が最も近づく時を示すとされています。

Stone Calendar

《Stone Calendar》フレイバーテキスト(日本語訳はWisdom Guildカードデータベースより引用)

 ”偽善者”メアシルは、ダークランドへの道が開く時を示す様に設計された、巨大な暦を建てさせた。

 ある夜、何かに呼ばれるように目を覚ましたジョダーは、またも姿を現した”人さらい”を追って城の隠し階段を下り、地下深くに捕われたイス卿を遂に目にしました。メアシルの秘密と自分がここに導かれた真相を知り、ですが狂乱したイス卿に怯えたジョダーはそのまま来た道を戻りました。

 数日後、議事会の魔道士らが観戦する中、決闘が開始されました。互いの正体がわからぬよう仮面で顔を隠し、激しく呪文を撃ち合います。熾烈な戦いの末に両者とも消耗し、ジョダーの相手は悔しさに地団駄を踏みました。彼はそれを見て愕然と悟ります。旅の途中、覚えの悪い弟子に対して師が何度も見せた行動。自分が戦っている相手はシーマだと。

 ジョダーは炎のダガーを命中させて彼女を倒すと仮面を剥ぎ取り、さらに素早く治癒呪文を唱えました。闘技場は騒然となり、ですがそこで城が大きく揺れました。タル教会が総攻撃を仕掛けてきたのです。城内が混乱に陥る中、ジョダーはシーマを連れて牢獄へ向かい、隠し扉の先で”人さらい”に合流すると、彼らはイス卿を解放しました。ですが彼は完全に正気を失っており、怒れる火球の姿となって現れました。そして自分を救出してくれた相手も認識できず、魔法の稲妻を放ちました。離れて見守っていた”人さらい”がそのとき飛び出し、その身で2人をかばって倒れました。イス卿は地上へ向かい、シーマは”人さらい”の最期の言葉を聞きました。「イス卿を救って」と……。

 ジョダーとシーマが戻る頃には、メアシルが教会軍の指揮官を倒していました。生ける炎と化したイス卿が遅れて現れ、ですがメアシルは狂えるイス卿を言葉巧みに操り、その怒りをジョダーへ向けさせます。イス卿は炎をジョダーへ放ち、彼は咄嗟にあの鏡を構えて攻撃を防ごうとしました……あの鏡、《Reflecting Mirror》を。

《Reflecting Mirror》オラクル(日本語訳はWisdom Guildカードデータベースより引用)

(X),(T):単一の対象をとる呪文1つを対象とする。その対象があなたである場合、その対象を変更する。新たな対象はプレイヤーでなければならない。Xはその呪文の点数で見たマナ・コストの2倍の点数である。

 炎は跳ね返り、弧を描いて飛ぶとメアシルに命中し、衣服も身体も何もかもが燃え上がりました。彼は炎に包まれたまま逃げ出し、そしてイス卿と2人が残されました。もう一つやるべき事がありました。ジョダーは未だ狂気に取り憑かれたイス卿へと、狙いをつけるようにその鏡を突き出しました。静止、やがて自身の認識。しばしの時間が過ぎ、深い溜息とともにイス卿は人の姿を取り戻しました。”人さらい”が最期に願ったこと、「イス卿を救う」。それは檻からではなく、狂気から……ジョダーはそれを叶えたのでした。

 そして崩壊した城から脱出すると、イス卿は改めて礼を告げました。ジョダーは疑問に思っていました、”人さらい”が自分を発見したのは、ウルザの血筋だったからなのでしょうか?

 小説「The Gathering Dark」P.103-104より抜粋・訳

 「あなたの”人さらい”が連れて来て下さったんです」ジョダーは率直に言った。

 イスは頷いた。「私がそう教えた。正気を取り戻した隙に、私を救い出してくれる誰かを見つけて来いと。そして君を見つけた。何が疑問なのだね?」

 「それは僕がジャーシルの血筋だからですか? ジャーシルの祖父が関係あるんですか? それともあの鏡を持っていたからですか?」ジョダーはかぶりを振った。「わからないんです」

 イスは疲れた笑みを浮かべた。「私もわからない。だが私は肉体的枷を解いてくれる者を探していた。そして”人さらい”はそれだけでなく狂気からも解いてくれる者を探してくれたということだ」

 教会の攻撃とイス卿の狂乱によって、議事会は壊滅してしまいました。イス卿はそれを再建するのではなく旅に出ることを選び、ジョダーもまたシーマと共に影の都へ向かうことを決めました。まだ教わることは沢山ある、それはどこか晴れやかな旅立ちのようにも感じられました。

City of Shadows

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4. その後

 というように『ザ・ダーク』は、その陰鬱なイメージに反して割と読後感の良いエンディングでした。《若返りの泉》で溺れたことにより長命となったジョダーは、かなりの年代を経た続編『アイスエイジ』でも主人公を務めます。あのヤヤ・バラードもここから登場するので乞うご期待。さらにジョダーは時代がずっと下った『次元の混乱』にてはるばる再登場を果たしています。主に同期のフレイアリーズと関わっていたのですが、ジョイラを巡ってヴェンセールを含めた三角関係を繰り広げ、テフェリーに対してはウルザ絡みで複雑な感情をぶつけました。カードの方も、彼の名を冠するものが一枚だけ登場しました。

ジョダーの報復者

 《ウルザの報復者》を思わせる能力が、血の繋がりを感じさせます。

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5. 宣伝です(いつもの)

 ただでさえなかなか進まないこの「リマスター」シリーズ、アイスエイジブロックも語ることになってしまってさらに完結(一応『アポカリプス』のつもり)が遠ざかってしまいました。何処へ行くのだこの連載、私もわからない。でも『ドミナリア』に備えて早めに続きを書きたいですね。

 そしてMagic Story本編休止中にまたも日本公式ウェブサイトにて記事を書かせて頂きました。『アイコニックマスターズ』から背景ストーリー的にアイコニックな奴らをピックアップ!

 どちらもドミナリア次元と深く関わる存在ですので、春の『ドミナリア』への予習になるかもしれないしならないかもしれない。でも大修復から60年ですから、テフェリーは一応まだ生きているかもしれませんよね(私もわかりませんが)。『時のらせん』ブロックでのテフェリーは「26歳当時の姿」だったそうで、そこから普通の人間としての寿命が始まるのであれば相当なおじいちゃんになっているだろうけど生きているかもしれない。どうだろー?

 そしてありがたいことにかなり話題になりました、こちらも関わっております。

 『イクサラン』ストーリーがとてもわかりやすい漫画になりました! なんていうかいい時代になったものだ……。やっぱりジェイスがヴラスカと友好的に接しているだけで笑えるのずるい! そしてジェイスの瞳がスゲー綺麗なのがずるい! ラストシーン、ジェイスの記憶が戻っていると認識しながらそれでも彼のもとへ向かうヴラスカ……本当にこの2人はどうなるんでしょうね。

 次回はイクサラン次元に戻る予定です。それではまた!

(終)

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