By Hiroshi Okubo
第10期ヴィンテージ神挑戦者決定戦、その決勝の舞台で相見えるは北野 孝俊(千葉)と高桑 雄介(東京)。彼らは2年ほど前から神・森田を交えてヴィンテージのデッキを調整する仲間だ。気心の知れた仲とあって対戦開始前は和やかなムードが漂い、そして対戦前には、筆者にこんな話を聞かせてくれた。
2人がテーブルを挟んで向かい合ったのは本日2回目。その1回目は4-0で迎えたRound5だったという。
高桑「決勝で会おうって約束したね」
そのとき、2人でトップ8へ進出するためにIDを選択したという。
北野「まさか実現するとはね」
今日の参加者は68名、予選ラウンドは全7回戦。そのうち4回戦まで全勝だったとはいえ、その時点での全勝者は最大で5名。続くR5終了時点では2名の全勝者が残る(その2名は確定でトップ8進出)可能性があり、後に2回戦が控えていることを考えるとまだどちらも安心して握手できる状況ではなかった。本来このラインの戦いの意味は「勝った方はトップ8がほぼ確定」「負ければ1-1以上が必要(1-1で他卓のIDや引き分け、あるいはOMW次第)」という戦いだったのだ。
さて、「どちらか一方が確定でトップ8に進出し、もう一方は1-1以上が必要」の選択と「2人とも1-1以上が必要(1-1ならトップ8進出はほぼ確定)」になる選択があるならば、より不確定要素が少ない前者を選択する方が効率が良いのは間違いない。負けた方にもトップ8進出の芽は残るし、万が一残れなかったらアンラッキーだったと割り切るしかないのだ。貧乏くじを引くのはどっちになるか? 本来ならば、第5回戦はそれを決めるラインの戦いだった。
――だが今、2人はここにいる。2人のうちどちらも、貧乏くじを引くことはなかった。
北野「約束を果たせてよかった」
そう。互いの信頼があったからこそ、2人はIDを選択したのだ。“北野は、高桑は、きっと勝ってトップ8に残る。”そしてその信頼関係こそがこの2人を、ひりつくような緊張感の中へ、多くのギャラリーに見守られる熱の只中へ……
どちらかが勝つまで終わることのない、決勝の舞台へと引き合わせたのだろう。
Game 1
瞬く間にケリがついた。
先攻の北野が痛恨のダブルマリガンし、不承不承キープした5枚の手札から第1ターンに《Mox Jet》、《Tundra》、《太陽の指輪》と動き出す。
一見するとロケットスタートにも見える動き出しだったが、その手の中には続くアクションがなかった。いくら1ターン目に(黒)or(青/白)+(◇)(◇)が生み出せたとしても、手札にそのマナを有効に利用できる呪文がなければ意味がない。やむなしとターンを終え、運を天に任せる。
返す高桑は《Mox Ruby》、《古えの墳墓》と並べ立てて《無のロッド》。これによって北野の《太陽の指輪》と《Mox Jet》を無力化し、2枚目以降の土地を置くことができず、身動きが取れなくなった北野の前に《抵抗の宝球》と《煙突》を突き付けていく。
北野「それは間に合わないなw」
北野が大きく息をつき、第1ゲームの勝敗が決した。わずか45秒の決着だった。
北野 0-1 高桑
Game 2
北野がセットランドしながら《Mox Pearl》をプレイするのみでターンを終えると、返す高桑は《古えの墳墓》、《Mox Ruby》とつづけて《ファイレクシアの破棄者》。
北野「これ?」
高桑「それw」
《ファイレクシアの破棄者》の指定は必然の《Mox Pearl》。日ごろから共に腕を磨く仲だという北野と高桑は阿吽の呼吸でゲームを進行する。
返す北野は《Library of Alexandria》をプレイするのみ。その間にも高桑は《アメジストのとげ》で北野の動きを縛り、続くターンには《姥の仮面》を叩きつける!
これを《意志の力》で打ち消すことができなかった北野は一気に劣勢に立たされる。2マナで《思案》をプレイし、トップの3枚に救いを見出すことができずにライブラリーをシャッフル。めくれた《僧院の導師》をプレイするマナは残されておらず、《姥の仮面》によって追放されてしまう。
この間にも高桑は2枚の《ミシュラの工廠》と《ファイレクシアの破棄者》で攻撃を続ける。容赦のない6点クロックを捌き切る術は北野にはなく、己の不運を呪いながらもこの戦いの勝者である高桑へと賛辞を送った。
北野 0-2 高桑
どちらかが勝つまで終わらない。その戦いは、「あっけない」とさえ言えるようなわずかな時間に終わった。
だが、この戦いはまた一つの新たな始まりでもある。それはすなわち高桑が待たせているもう1人の友人――ヴィンテージ神・森田との決着をつけるための、次なる舞台への第一歩だ。
第10期ヴィンテージ神挑戦者決定戦、優勝は高桑 雄介(東京)!
おめでとう!!