By Yuya Hosokawa
一年を締めくくる二日制の大型イベント、The Last Sun 2017。
今大会の最大の特徴はなんと言っても、スタンダードとレガシーによる「混合フォーマット」であるという点だ。
そしてその特殊なフォーマットゆえに、The Last Sun 2017では日頃あまり戦うことのないプレイヤー同士が刃を交えることになる。そう、『スタンダードプレイヤー』と『レガシープレイヤー』だ。
スタンダードを遊ぶプレイヤーにとって、レガシーは異質なフォーマットと言える。プロツアー予備予選ではモダンやシールドがあるものの、レガシーで行われることはない。競技マジックとしてのレガシーはグランプリしかなく、競技マジックプレイヤーには、レガシーをプレイする機会はほとんどないのだ。
一方で、レガシーを主戦場とする、いわゆる『レガシープレイヤー』も、スタンダードフォーマットと触れ合うことはほとんどない。レガシープレイヤーは日々レガシーをプレイし続け、至高の75枚とプレイの練度を磨くことに心血を注いでいるのだ。
そんな両者が邂逅する『The Last Sun 2017』。このトーナメントを勝ち抜く鍵は、『いかに主戦場ではないフォーマットで勝ち星を上げるか』であろう。
The Last Sun 2015準優勝の実績を持つ『レガシープレイヤー』の大本命、斉藤 伸夫。
彼は今大会のために、スタンダードをみっちりと練習してきたのだという。
3度目のThe Last Sun
――「初日のスタンダードラウンドが終わりましたが、成績はいかがでしたか?」
斉藤「3勝1敗ですね!」
――「おお、好スタートですね」
斉藤「ありがとうございます。とは言っても不戦勝を2つ持っているので、実質1勝1敗なんです」
――「なるほど」
斉藤「The Last Sunは、ぶっちゃけ少しレガシープレイヤーに有利なんです。苦手なスタンダードを不戦勝で過ごすことができますからね。その割には勝つのはやっぱりプロだったり競技プレイヤーだったりするので……競技プレイヤーってすごいんですよね(笑)」
――「(笑)」
斉藤「ちなみに僕は初日スタンダードを3-1で超えてレガシーは全部勝つ、という想定でした! なので、この成績には満足です」
――「後は勝つだけだ、と」
斉藤「だといいんですけどね!」
スタンダードの練習
――「斉藤さんはスタンダードの練習にはどのくらい時間をかけたのでしょうか?」
斉藤「1カ月ぐらいでしょうか。メタデッキをいくつか持ち込んで、そこから決めるんです。今回で言うと赤単とティムールエネルギーですね」
――「この環境の二大巨頭ですね」
斉藤「やっぱり一からデッキを作るのはスタンダードでは難しいですから。必然的に、強いデッキを聞いて、そこから選定します。赤単とティムールについては、好みでティムールに軍配が上がりました。オールインでライフを削るのに全力を注ぐのは苦手なので、物量で押しつぶせるティムールを選びました」
――「斉藤さんはビートダウンよりコントロールのイメージがありますね」
斉藤「それは当たってます(笑) レガシープレイヤーって、結構ティムール好きだと思うんですよ。カードが引けますし、1枚あたりのカードパワーが高いのもありますね。シゲキ(高野 成樹)とかもティムールを使っていますし、レガシープレイヤーはティムールエネルギー、結構好きだと思います」
――「なるほど。そんな中で斉藤さんは、今回は4色エネルギーを選択されたわけですが」
斉藤「ここは練習の上で結論を出しました。純正3色のティムールエネルギーは赤単に強く、4色はティムールに強い代わりに赤単に少し弱い、と言われているじゃないですか。でも赤単に対しては、どっちもあまり変わらなかったんですよね。ゲームが早く終わってしまうことが多く、3色の強みを発揮できない内に負けてしまうんです。でも、エネルギー対決は明確に色の差が出ました。ゲームが長引くと、確実に《スカラベの神》と《秘宝探究者、ヴラスカ》が活きてきますから。なので、4色エネルギーを使用することにしました」
――「練習をした結果の選択、なのですね」
斉藤「はい。津村さん(津村 健志)や原根(原根 健太)さんにもご意見をいただいて、4色ティムールの強さには疑問の余地がなかったので、使うことにしました」
――「練習相手はレガシープレイヤーの方々が中心ですか?」
斉藤「そうですね。晴れる屋ではシゲキたちで、Magic Onlineでの調整もあります。練習方法は対戦だけではなく、動画を見て勉強することも多いですね。最近では手元をカメラできちんと映してくれますから、一挙手一投足がきちんとわかって、参考にしやすいんですよ。この間のThe Finals 2017はかなり参考になりました」スタンダードの面白さ
――「1ヶ月間スタンダードをプレイしていたということですが、どうでしたか? 面白かったですか?」
斉藤「正直に言って、面白かったです! レガシーとは違った魅力があって、とても難しいなって思いました」
――「一般的にはレガシーの方が難しい、と言われていますが、スタンダードはどの辺りが難しいのですか?」
斉藤「そうですね。レガシーはカードが軽いから、1ターンの間に様々な選択があります。その上ドロースペルも多くて、《渦まく知識》ならばどれを戻すか、とにかく考えることがたくさんありますよね。確かにスタンダードにはそういった難しさはないと思います。でも一方で、レガシーの簡単な面もあるんです」
――「といいますと?」
斉藤「まず、レガシーには嵌めパターンがたくさんあります。《秘密を掘り下げる者》を《目くらまし》と《意志の力》で守って《不毛の大地》でバックアップしたり、《実物提示教育》を《意志の力》で守ったり。そういったイージーウィンはスタンダードにはほとんどありません」
――「それこそ最速《熱烈の神ハゾレト》アタックぐらいですね」
斉藤「そうです。3ターン目《反逆の先導者、チャンドラ》だって、それ=勝ちというわけではないじゃないですか。レガシーはやっぱり選択肢が多いと言いつつも、簡単に勝てるパターンがたくさんあるんですよ。スタンダード、それこそティムールミラーはイージーウィンとはほど遠いです」
――「お互い《ならず者の精製屋》と《つむじ風の巨匠》を並べ合う展開も多いですからね」
斉藤「そのとおりです。で、そうなるとお互いのリソースを削り合う展開になるじゃないですか。ここが難しいんです。というか、僕を含めてレガシープレイヤーはリソース管理が雑だと思います。今だとエネルギーもリソースですよね。どこで使うか、何に使うか。ライフも、レガシー以上にスタンダードではリソースになります」
――「なるほど」
斉藤「レガシーでもライフが重要になるマッチはありますが、スタンダードでのライフの重要性はその非じゃないな、と感じました。このように、スタンダードでは毎ターン考えることが多いんです。1ターンの間に考えることは少ない代わりに、長いゲームにおいて毎ターン最適解を選んでいかなければならない。シーソーゲームもスタンダードは多いなって思います。ちょっと有利だったのに、突然デカくて重いカードに負けたりしますからね(笑)」
――「重いカードを軽く対処する手段がほとんどありませんからね」
斉藤「ええ。ちょっと前まで有利だったのに突然《スカラベの神》で負けたりするのは、スタンダードの醍醐味だと思いました。5マナのカード、出しがいがあるなぁって。《剣を鍬に》されたら悲しくなっちゃいますからね(笑)」
――「重いカードがちゃんと活躍するのも、スタンダードの魅力と」
スタンダードの勉強の仕方
――「じゃあずばり、レガシープレイヤーに向けて、スタンダードの練習の仕方を指南してください!」
斉藤「無茶ぶりですね(笑) そうですね、まず一つは動画を見て勉強、ですね。オススメはグランプリの中継とかです。自分ならどうするかを考えてプレイの予想をしていくと、楽しいし学べるしで一石二鳥です」
――「なるほど。遊んで学べるなんて素敵ですね」
斉藤「あとは、とにかく大会に出ることだったり、フリーデュエルだったり、対戦ですね! 対戦をしないでマッチアップごとのサイドボーディングとプランだけを覚えても、実戦じゃ勝てません。レガシープレイヤーはやっぱり普段レガシーばかりしているので、この実戦が圧倒的に不足してると思います。例えば、《損魂魔道士》をコントロールしている状態で、相手の《巻きつき蛇》に《ショック》を打てば、-1/-1カウンターが3つになるので倒せるじゃないですか。そういうことって、プレイをしないと気が付かないですよね」
――「とにかくプレイしよう、と」
斉藤「そうですね。スタンダード、こんな楽しいんだから、プレイしてほしいと思っています。確かに重いカードは多いし、ドローソースはあんまりないし、ちょっととっつきにくい部分もありますけど、レガシーとは違った楽しさがあります。毎ターンちょっとずつ盤面が有利になるように交換をしていってやがて勝つの、スタンダードならではだなって。勝った時の充実感も格別です!」
――「なるほど。本日はどうもありがとうございました!ここからは得意なレガシーですから、全勝期待しています!」
斉藤「ありがとうございます!レガシーは全部勝ちたいです!頑張ります!」
これまでスタンダードに触れる機会の少なかった斉藤だからこそわかる、スタンダードの魅力、そして難しさ。
強豪レガシープレイヤー、斉藤の語るスタンダード、いかがだっただろうか?
スタンダードを遊んでこなかったプレイヤーも、これを機にスタンダードを遊んでみてほしい。
古の呪文が飛び交うレガシーとはまた違った面白さ、きっと味わえるはずだ。