By Genki Moriyasu
The Last Sun 2017、Round 12。2日目である今日初のレガシー・フォーマットの出番だ。ここから3連戦のレガシー・ラウンドを終えると、いよいよ決勝トーナメント進出の8人が決まる。
普段レガシーに親しみの薄いスタンダード・プレイヤーにとっては心臓破りの上り坂。普段スタンダードに慣れないレガシー・プレイヤーたちにとってはようやくのカミング・ホーム。得意分野、苦手意識のモチベーションに差はあれど、マッチアップされた目の前の対戦相手と2ゲーム先取の試合をするのに違いはない。どのような組み合わせになるのかデッキタイプもプレイヤーも気になるところだ。
テキストフィーチャー・テーブルについたのは、競技プレイヤーとして名を馳せる2人。
一人は言わずとしれたTeam Cygames所属、山本 賢太郎。スタンダードが中心となっている競技畑にありながら、レガシーで開催されたグランプリ・千葉2016を優勝している。今日のデッキも、当時と変わらぬ相棒「スニーク・ショウ」だ。
もう一人も、競技シーンに属するプレイヤーであれば知らない者はいないだろう。先日、「ジョニーのお店」からのスポンサードが公表となった高尾 翔太。当時スタンダードを席巻した「エスパー人間」を代表に、「赤黒エルドラージ」などの製作者だ。スタンダードやモダンのデッキビルダーとしても広く知られている高尾が、その矜持を持ってレガシーにオリジナル・チューンのデッキを持ち込んでいる。
王者・山本のコンボ・ムーヴが勝つか、高尾の隠し刃がその喉元を刺すか。前ラウンドとの間に30分の昼休憩を挟み、体力気力充分の二人が相対する。
Game 1
貴重な先手を獲得した高尾、《Underground Sea》から《霊気の薬瓶》でスタートする。《霊気の薬瓶》を採用するレガシー・デッキの多くが「ゴブリン」か「デス&タックス」である現状、既にあまり一般的でない組み合わせだ。この薬瓶からいったいなにが飛び出してくるのか―…
山本もセットアップから入る。《水蓮の花びら》、《Volcanic Island》。
高尾は続く2ターン目、2枚の《思案》で、山本のコンボへの回答を掘り下げ探しにゆく。《意志の力》は見つからないが、《目くらまし》は獲得できている。山本が次のターン、《目くらまし》をケアしたうえで《実物提示教育》を決めるには4マナを用意しなければならない。その方法は2マナを生み出すランドをセットするか、もう1枚《水蓮の花びら》か、《意志の力》とそれに支払うブルー・カードを用意するかだ。択は多いようで、総枚数的には”引いて当たり前”というほどでもない。
それでも山本は当然のように2枚目の《水蓮の花びら》と《Volcanic Island》をセットした上、《実物提示教育》から《全知》を戦場に。そのまま《グリセルブランド》を着地させてカードを7枚引いたあとに、そのなかに混ざっていた《引き裂かれし永劫、エムラクール》を唱えて追加ターンを得る宣言までが淀みなく行われた。
高尾 0-1 山本
2ターンキル。
カウンターやドロースペルを大量に擁しているデッキながら、余りに早いキルターンを達成させた。この爆発力をもってグランプリを優勝した山本にとってみれば意外なことでも稀なことでもないのだろう。
高尾のデッキの本領発揮は次ゲームに持ち越された。
Game 2
《Underground Sea》から《霊気の薬瓶》というGame 1と同じ形でスタートを決めた高尾。このデッキにとっての悪くない立ち上がり、通常運転開始のようだ。
《水蓮の花びら》を置いてから《裏切り者の都》セット、《防御の光網》プレイで自身のゲームメイクを始める山本。《意志の力》がほとんど機能不全になってしまうこの《防御の光網》に対して、《思案》を切って《意志の力》を合わさざるをえない高尾。
高尾が得た2ターン目のアクションは《思案》プレイ、《霧深い雨林》セットのみ。
《防御の光網》を失った山本だったが、ドローで2枚目の《防御の光網》を獲得していた。今度は妨害されずに着地させて、後続カウンターへのガードをはっきりあげてゆく。
ここで高尾は《霊気の薬瓶》のカウンターを2つにするばかりで3ターン目の動きはない。《霧深い雨林》セット起動で《Volcanic Island》を持ってきた山本は、《裏切り者の都》が自身の誘発型能力で生け贄にささげられる前に2マナを生み出させており、合わせて3マナから《実物提示教育》をプレイする。
これが阻害されずに解決する。対戦相手への教育の為に提示される実物は―…山本から《グリセルブランド》。高尾から《タルモゴイフ》。あまりに圧倒的なサイズ差、性能差。
再びショウテルのコンボに高尾が打倒されるのか―…誰もが高尾の敗北が濃厚になったことを察したなか、高尾だけは自らのハンドにあるカードに信頼を寄せていた。ひとまずエンド・ステップに《霊気の薬瓶》から《闇の腹心》を登場させてゆく。
4ターン目、高尾がメインでプレイしたのは《悪魔の布告》!《引き裂かれし永劫、エムラクール》、《グリセルブランド》両方に有用な除去としては最軽量に近いカードだ。山本は対応して7ライフペイ・7ドローでハンドを十数枚に育てるが、カウンターに届かない。さらにたとえ届いたとしても、自らが設置した《防御の光網》が唱えることを許さない。
《グリセルブランド》と7点のライフを一気に失った山本に対し、着実に育てた《タルモゴイフ》と《闇の腹心》で戦闘を仕掛ける高尾。ライフが一気に5にまで落ち込んだ山本は、十数枚のハンドとこのターンのドローから再び打開策を生み出さなければならないのだが―…《裏切り者の都》が既に生け贄にささげられて現状で、ハンドに無数にあるスペルを唱えるマナソースが決定的に不足していた。
高尾 1-1 山本
プレイヤーを対象にとる《悪魔の布告》と、未だ見ぬハンデス呪文に対抗するため《神聖の力線》をサイドインする山本。先手の利を活かすための《血染めの月》も併せて、より防御にシフトして3戦目に挑むようだ。
Game 3
全体的にスロー・ダウンするサイドボーディングを行ったはずの山本の初手は《実物提示教育》と《約束された終末、エムラクール》、そしてマナソース5枚。《水蓮の花びら》《裏切り者の都》を含めた”1ターンキル・ハンド”だが、《意志の力》にだけは決定的に無力だ。
その《意志の力》セットを、高尾は7枚のうちに引き込んでいた。《霊気の薬瓶》と《目くらまし》、そして《死儀礼のシャーマン》も持ち合わせ、ベストにも近しいスペルの組み合わせが揃う。―…しかし、揃いすぎていた。高尾にとって7枚のどれもいずれも必要なスペルばかりなのだが、それらを唱えるための土地に1枚も恵まれなかった。
”ぶっぱ”するかどうかでキープをしばらく悩んだ山本の挙動も考慮にいれつつ、高尾はマリガンを選択する。そのまま次に見た6枚でキープ。マリガン占術ではカードを上に残して、ゲームが始まった。
もちろん山本は《水蓮の花びら》《裏切り者の都》から《実物提示教育》をプレイする。高尾が再び《意志の力》セットを引き込めているかどうか。勝負の行方は先手1ターン目にして、決まることとなった。
《実物提示教育》プレイから少し遅れて、盤面に登場したカードは高尾の《意志の力》―…ではなく、山本の《引き裂かれし永劫、エムラクール》。
高尾 1-2 山本
高尾「あれだけキープを悩んでたから、揃ってないと思ったんだよね」
先手1ターンキルに唯一対抗しうる《意志の力》セット。一度は辿りつきつつも、それを手放した高尾が悔しむ。マリガンした7枚の内訳を山本とも共有しつつ、それでもマリガンしたことは正着という結びに変わりはないようだ。
山本「(この7枚で) やるんだけどね。やるんだけど、怖いよね」
1ターン目《実物提示教育》を《意志の力》されたら《水蓮の花びら》《実物提示教育》、そして実質的に《裏切り者の都》を含めた3枚を手放すことになる山本も、キープに時間をかけた理由を口にした。
結果として後手2キル・先手1キルを決めた山本の圧勝というようにも見えるが、わずかばかりの選択の違いで見えた未来は大きく違ったかもしれない。これで残り2戦。ハイ・スピードかつテクニカルな「スニーク・ショウ」を駆る山本が、無敗を目指す。デッキ・ポテンシャルの片鱗を確かにみせていた高尾も再びその地力を見せつけてゆくことだろう。