By Yuya Hosokawa
衝撃の《師範の占い独楽》禁止から、今日でちょうど8カ月。レガシーでは、独楽を手繰る音は確かに聞こえなくなっていた。
その一方で、「奇跡」は起きていた。このThe Last Sun 2017でも、幾度となく、「奇跡」は起きた。
独楽死すとも奇跡は死せず。
その言葉を胸に、奇跡を使い続ける者がいたからだ。だからこそ「白青奇跡」は、デッキの心臓を失っても、奇跡的にレガシー環境に残り続けた。
そんな「奇跡の男」が、The Last Sun 2017予選ラウンドを堂々の1位で突破した。
高橋 優太である。
HareruyaPros所属のプロプレイヤーにして、レガシーの達人としても知られる高橋。海外のレガシーグランプリにも積極的に足を運んでおり、最近ではANTをよく使用していた。
《師範の占い独楽》が禁止される前のグランプリ・京都2015では「白青奇跡」を使用して見事に優勝の栄冠を獲得した高橋に、生まれ変わった「白青奇跡」についてたっぷりと語ってもらった。
白青奇跡を使う理由
--「早速お聞きしたいのですが、どうして白青奇跡を選択されたのですか?」
高橋「ずばり、クリーチャーデッキに強いからですね。The Last Sun 2017では、レガシーに精通しているプレイヤー以外にも、スタンダードプレイヤーとも当たります。そういったプレイヤーはレガシーで、比較的組みやすいエルドラージか、tier1のグリクシスデルバーを使用することが予想できます。白青奇跡はその2種に強いんです」
--「なるほど。メタを的確に読み切った選択なのですね」
高橋「そうですね。もう一つ僕が慣れているのはANTなのですが、こちらは《虚空の杯》がとにかく厳しい。《虚空の杯》に弱いデッキを使う気はなかったんですよね。白青奇跡は《虚空の杯》にさほど弱くありませんし、対処手段をメインから投入することもできますからね」
--「なるほど。デッキ選択理由はよくわかりました」
独楽を失って
--「それにしても、《師範の占い独楽》がなくなって白青奇跡は本当に大丈夫なのでしょうか?」
高橋「大丈夫ではないです(笑)デッキで一番強いカードでしたからね。フェッチと組み合わせて疑似的にハンドを3枚増やせるし、《相殺》とのハーフロックで色んなデッキを機能不全にできるし、《師範の占い独楽》がなくなったのは痛いというレベルの話ではないです」
--「でも、それでも白青奇跡を使うのですね」
高橋「とにかく《終末》がクリーチャーデッキに強いですからね。《相殺》も弱い相手には弱かったですから。《師範の占い独楽》がないなら《相殺》の強さは半減です。なので僕は、《相殺》を抜くことにしました。そしてそうすることで、白青奇跡が従来のプランではダメだと気が付いたんです」
--「詳しく聞かせてください」
鍵はメンター
高橋「これまでの白青奇跡は、独楽相殺でハーフロックをしながらだらだら時間を稼いで、《天使への願い》や《瞬唱の魔道士》で勝利していました」
--「そうですね」
高橋「ですが《相殺》を抜くことで、だらだらして勝てるとも限らなくなったんですよ。例えば今までなら、《タルモゴイフ》を出されても、独楽相殺さえ決まってれば、トップに2マナのカードを積むだけで良かったじゃないですか。でも《相殺》がなくなった今、《剣を鍬に》を打たなければならないですよね」
--「なるほど」
高橋「だから、時間をかけてその内勝とう、というのはやめたんです。そこで思いついたのが《僧院の導師》でした」
--「従来の白青奇跡でもよくサイドボードに入っていましたね」
高橋「彼は強すぎるのでメイン昇格です。出した後に速やかに勝てるのが素晴らしいです。1マナのキャントリップしか入っていませんからね。一度コントロールしかけてしまえば、後は《僧院の導師》で勝てます」
--「《僧院の導師》、そんなに強いのですか」
高橋「白青奇跡改め白青メンターと呼んでもいいぐらいです。このデッキはメンターデッキです」
絶妙な枚数のドロースペル
--「細かいカードチョイスについて聞かせてください。まず、ドロースペルについてです」
高橋「《思案》と《渦まく知識》は最強のドローなので4枚ですね。これは今更語ることはないでしょう。次に《先触れ》です。《師範の占い独楽》がいなくなって初めて脚光を浴びた新人君ですね。彼は結構やりますよ」
--「相手のターンに《終末》打てるってことで注目されていましたよね」
高橋「それももちろんありますが、後半は対戦相手に使用して結構嫌がらせできるんですよ。なかなかやり手です。序盤は《師範の占い独楽》よろしく自分のライブラリーいじれますし」
--「そこまでお気に入りなら4枚は入らないんですか?」
高橋「使ってた感じ、ちょっと多かったですね。引きすぎても序盤動けなくて困りますし。《思案》と《先触れ》合わせて7枚がちょうど良かったです。マナクリ7枚にする人よくいるじゃないですか。1マナキャントリップをマナクリだと思ってください。なんだかしっくり来ませんか?」
--「あ、わかります。《予報》はいかがでしょうか?」
高橋「このカード、結構強いけど、必ず何かとセットで引かなくちゃいけないんですよね。《先触れ》や《予期せぬ不在》など。なので2枚引くと非常に弱く、だんだんと枚数が減って、2枚で落ち着きました」
採用しなかったカード
--「白青奇跡、高橋さん以外にも使用されている方いますよね。そういった方のリストとの違いについて聞かせてください」
高橋「まずは《相殺》ですよね。最初にも言いましたが、僕はこのデッキを、クリーチャーデッキに強いデッキとして使っています。クリーチャーデッキには《相殺》は弱いので、入れていません」
--「では、コンボ耐性を上げようとするならば《相殺》もありと」
高橋「そうですね。白青奇跡ミラーでも相手だけ《相殺》張られたら負けますし、クリーチャーデッキ以外には相変わらず強いカードだと思います」
--「《アズカンタの探索》はいかがですか?」
高橋「僕はナシだと思います。というのも、白青奇跡の強みの一つが、《不毛の大地》に強いところなんですよ。《アズカンタの探索》を頑張って変身させて、それで《不毛の大地》で割られるの、すごくばからしいんですよ。それに2マナのソーサリーアクションですから。2ターン目にタップアウトはしたくありません」
--「非常に納得のいく説明です」
サイドボード
--「サイドボードについても軽く教えていただけますか?」
高橋「《狼狽の嵐》は苦手なコンボデッキ対策ですね。とにかくこのデッキはメインではクリーチャーデッキをメタってますから、コンボが厳しいんです。前までは独楽相殺のイージーウィンがありましたが、今はそれすらないですしね。キレメンターしかありません」
--「《僧院の導師》を最速で唱える、ですか」
高橋「まあ大体返しでやられますけど(笑)そんなわけで、サイドボードのカードはコンボ対策が大半です。《ヴェンディリオン三人衆》もそうです」
--「《神聖の力線》は珍しいカードですよね」
高橋「このデッキはとにかく早いコンボ専用カードです。主にリアニメイトとANTですね。どちらもめちゃくちゃ早いデッキで、打ち消しだけでは勝てないことが多いので、飛び道具として用意しています。何回も言ってますが、とにかくコンボがきついので、サイドボード後はコンボを強く意識しています」
--「《解呪》が3枚入っているのはどういった意図でしょうか?」
高橋「《虚空の杯》デッキに入れることを想定しています。主にエルドラージとLandsですね。デス&タックス相手にも打ちどころに困らないので入れます。ただ3枚は少し多かったと思いますね。これは2枚で良かったです。今日のデッキ、72枚は満足していて、この《解呪》3枚だけが心残りでした」
去ってしまった白青奇跡愛好家に
--「《師範の占い独楽》の禁止で白青奇跡から離れていってしまったプレイヤーたちに、一言お願いいたします」
高橋「そうですね。正直このデッキは、従来の白青奇跡ほど万能なデッキとは言えません。コンボデッキには厳しい戦いを強いられます。それでも、クリーチャーデッキに対しては以前よりも強くなったほどです。十分に選択の余地があると思います」
--「特に今回のThe Last Sun 2017のようなメタゲームならば、ですか?」
高橋「そうです。クリーチャーデッキが多いメタゲームなら白青奇跡は素晴らしい選択です。ドロースペルも多いので選択肢も多く、《精神を刻む者、ジェイス》は相変わらず強い。白青奇跡というコントロールデッキが好きだった人ならば、この白青奇跡もきっと気に入るはずです」
デッキの中でベストな1枚は
--「まだ聞いていなかったのですけど、デッキの中でベストな1枚はなんですか?《僧院の導師》ですか?《渦まく知識》ですか?《終末》ですか?」
--「急にめっちゃ笑顔になりましたね(笑)」
高橋「このデッキ、基本土地をたくさん並べられるのが楽しいんですよ。土地を並べるだけでニコニコできます。なのでデッキでベストなカードはグルランドです!」
禁止改訂によって《師範の占い独楽》というデッキの根幹を失った白青奇跡。
だが、白青奇跡は死んでいなかった。ゲームプランを変え、新たなカードを加え、しっかりとレガシーのメタゲームに食い込めるデッキとして生き残った。
奇跡は、何度でも起こるだろう。
奇跡を起こせると、デッキビルダーが信じている限り。