ここまで、vol.1では大規模トーナメントを勝ち抜くデッキ選択について考え、vol.2ではプライズの分配率を鍵に目指すべき勝利と戦略とはなにかを解釈した。
それぞれがGPとPTQというトーナメントを題材にしていたため、戦略記事にもかかわらずカード名がなかなか出てこないという変わった内容が続き、そんな抽象的な内容を物足りないと感じた方も多かったかもしれない。
そこで「そんな方に朗報」とまでは言わないものの、今回のvol.3で取り扱う題材は、待望の最新エキスパンションである。
今週末に発売される『神々の軍勢』にスポットライトを当て、それがスタンダード環境にどのような影響をあたえるか、そして、一新される環境を勝ち抜く方法について考えていく。
さて、これらを紐解くテーマはずばり、「第2エキスパンション」だ。
『神々の軍勢』とは、2014年2月に発売された最新エキスパンションであるということの他に、『テーロス』に続くテーロスブロックの「第2エキスパンション」としての顔も持っている。
これは単にブロックにおける2つ目のエキスパンションという意味だけでなく、収録されているカードの性質、活躍しやすいカードの時期といった要素も含んだ傾向的な表現だ。
これから過去の例を振り返りつつ、「第2エキスパンション」を構成する要素と、スタンダード環境における『神々の軍勢』の評価を探っていこう。
1.「第2エキスパンション」とはなにか
まずは「第2エキスパンション」ならではの性質を整理しようと思う。
以上の3つは、「第2エキスパンション」を語るうえで欠かせない構成要素だ。
◆継続したコンセプト
過去の例でいうと《苦花》や《墨蛾の生息地》などが、「継続したコンセプト」に当てはまる強力なカードだった。
それぞれは『ローウィン』における種族シナジー、『ミラディンの傷跡』の「感染」といった、基盤にあるコンセプトを魅力的に盛り上げ、「第1エキスパンション」ではやや力不足だったアイデアを、一気に最前線に引き上げた実績がある。
◆独立した新キーワード能力
「新キーワード能力」は新エキスパンションならではの魅力ではあるものの、構築環境にはさほど大きな影響を与えないことが多い。
《絡み根の霊》を筆頭とした「不死」が環境を席巻したことはあったが、近年につれて新たなキーワード能力に活躍を期待することは薄れてきている。
もちろんリミテッドでは大活躍するので、どちらかと言うとリミテッド環境へのアクセントとしてデザインされているものが多いからなのかもしれない。
◆グッドスタッフ
これは挙げていくと本当にキリがないほど出てくる。
過去の例では《精神を刻む者、ジェイス》や《ボロスの反攻者》、《流刑への道》など、ぱっと目につく強力なカードとは満遍なくあらゆるセットに含まれているものだ。
そのため「第1」や「第3」エキスパンションの目玉カードと同等あるいはそれ以上のカードは、常に期待できるだろう。
仮に「第1エキスパンション」が『起』で「第3エキスパンション」が『転』だとするなら、「第2エキスパンション」が担う役割は『承』である。
コンセプトを強化する。グッドスタッフの頭数が揃う。
前者は「第1」からの継続で、後者は強烈な「第3」へ繋ぐための段階的な準備と捉えることができるからだ。
この継続と準備がどう影響していくのかをこれから順を追って説明していく。
2.環境初期に注目すべきはコンセプト
「第2エキスパンション」が発売されてまもなくのスタンダードイベントの結果を振り返ると、発売前の環境で猛威を振るっていたアーキタイプか、「第2」で強化されたコンセプトを引っさげた新規のアーキタイプが活躍することが多い。
たとえば『モーニングタイド』の発売直後は、前環境で強力だった「黒緑エルフ」が《カメレオンの巨像》と《変わり谷》を得て活躍を続ける一方で、新しく誕生した「青黒フェアリー」と「青白ヒバリ」が待ったをかけるという環境であった。
また別の例では『ワールドウェイク』の発売直後が面白い。この時期に活躍したデッキのほとんどは前環境に引き続いて「続唱ジャンド」で、悪名高き《精神を刻む者、ジェイス》が活躍するまでに2ヶ月ほどの時間を擁している。
《精神を刻む者、ジェイス》はのちに禁止対象になるほど強力なカードとは言え、それを積んだデッキが生半可なままでは「続唱ジャンド」が持つソリッドな戦略には対抗できなかったのだ。
シナジー(コンセプトなど)>グッドスタッフ。
これは構築戦においては基本ともいえる関係だ。
単に強そうなカードやマナレシオが高いカードを詰め込めばデッキになってしまうことも昨今では少なくないが、それでもまだ強固なコンセプトに対して、単品のグッドスタッフだけで勝ることはない。
グッドスタッフ+阻害する戦略>シナジー。
1枚1枚の力比べに持ち込むことができる阻害手段や戦略が完成した後からが、グッドスタッフの活躍に期待できる場面なのだ。
時には《ボロスの反攻者》のように優秀かつ特定の戦略を破壊するグッドスタッフも登場し、環境初期から大活躍することもあるが、基本的にはコンセプトやシナジーを優先するデッキありきが環境初期の鉄則である。
整理すると、以下の様な変遷が想定されるわけだ。
コンセプト強化が後に活躍することは少なく、コンセプトへの対策が徹底された後に、1枚1枚の勝負で優秀なグッドスタッフが活躍するのだ。
つまり環境初期に注目すべきは『コンセプトを強化するカード』だということが分かる。
それでは、これを踏まえて『神々の軍勢』で注目すべきカードへと目を移してみよう。
3.『神々の軍勢』から各要素の注目カードをピックアップ!!
まずは先ほど挙げた「第2エキスパンション」を構成する3つの要素を再度紹介しよう。
◆継続したコンセプト
◆独立した新キーワード能力
◆グッドスタッフ
それぞれの要素を『神々の軍勢』に当てはめて考えると、
それぞれに候補が見つかった。どこか物足りない感覚もあるが、現状だと見逃してしまっているカードも数多くあるのだろう。
これまでコンセプトとグッドスタッフについては言及したが、新キーワードについて触れることはなかった。これは過去の例を元に評価できないからなのだが、今回の「神啓」と「貢納」という複雑な能力はその評価をいっそう難しくしているように感じる。
「神啓」はタップ状態からアンタップする際に誘発する能力なのだが、その誘発条件がいささか難しいことと、効果が発揮されるのが遅いという問題を抱えている。
タップする手段として《バネ葉の太鼓》の名前が上がることがあるようだが、親和でもないデッキで《バネ葉の太鼓》を採用することには強い抵抗を感じてしまう。0マナクリーチャーでも採用されていれば前向きになれる気はするのだが、即座にクリーチャーを寝かすために採用する《バネ葉の太鼓》には魅力を感じない。
「貢納」とは戦場に出た時の能力が発揮されるかを対戦相手が選択し、拒否するなら通常よりも巨大なサイズでクリーチャーが登場する能力である。肝にあるのは対戦相手が選択するという点で、ゲームの展開や手札の内容など対戦相手の都合によって効果を左右されてしまうことがデメリットだ。
選択結果を押し付けることができれば強力ではあるものの、それができるほど強烈な効果を持った「貢納」クリーチャーは少ない。《ゼナゴスの狂信者》は期待株だが、それに続く目ぼしい「貢納」を見つけることはできなかった。《ラクドスの血魔女、イクサヴァ》で+1/+1カウンターを与えることを制限させる工夫はあるかもしれないが強そうだとは思えない。
まとめると、どちらのキーワード能力もそれを鍵にして新たなアーキタイプを生み出すほどの影響はなく、それらの中から数枚が使われる機会がありそうだといった印象に終わった。
つまり、『神々の軍勢』のカードで着目すべきは「コンセプト」と「グッドスタッフ」だということになるのだろう。
そして、今回の『神々の軍勢』導入後の環境を占うという意味では、「コンセプト」について集中的に考えることがいいだろう。
「グッドスタッフ」たちは環境が落ち着いた頃に自然と役目は回ってくる上に、先に述べたように「コンセプト」の強化から環境が始まることが予想できるからだ。
4.最高のコンセプトである「信心」についての考察
前の環境で猛威を振るっていたのは「黒単信心」「青単信心」「赤系信心」だった。
ここに「青白コントロール」や「エスパー人間」などが絡み合って、「青単信心」の増減とともに環境が変化していたことを覚えている方も多いだろう。
このように環境の鍵を握っているコンセプトとは「信心」にあり、これからの環境においても同様だろう。
そこで『神々の軍勢』によってどのように「信心」が変化するのかを予想する。
◆黒単信心
現状では除去枠の選択が少し変わるかなといった印象しかない。
対応型のアーキタイプであるため、他のデッキが組み上がってみないと真価がわからないものの、クリーチャー除去が有用であるかぎりは活躍する場面は回ってくるだろう。
ただ、これからは多くのデッキが多様化していくので、「いつまで単色で戦うのか」はひとつの課題になるかもしれない。
前環境においても一時期《ヴィズコーパの血男爵》をタッチした形が流行したが、周囲との兼ね合いで黒単色へと収束した。
しかし、それは黒単色でも十分な対応力をもっていたというだけでしかないのだ。
これからは他のデッキも速度と角度に磨きをかけて挑んでくることを考えると、どの色と手を組むと何に強くなるのかといった算段を立てておくべきなのかもしれない。
緑をタッチしたヴァージョンは《見えざる者、ヴラスカ》などで柔軟性を簡単に手に入れられるため、個人的にはおすすめの選択肢だ。《突然の衰微》や《化膿》といったオプションも悪くない。
◆青単信心
単体除去の群れに加えて全体除去の煽りを受けても最後まで生き残り続けた「青単信心」だったが、環境終盤での立ち位置はやや奇襲性を狙ったものだった。
「信心」に強いデッキ同士が同型戦を意識し始めて「信心」への対策が薄まったあたりで使用者が増えるといったような使われ方だ。
最高のポテンシャルを持っているデッキだと今でも確信しているが、周囲の的確な対応に苦しめられた印象が強い。
そこで『神々の軍勢』が加わった後の「青単信心」だが、いよいよタッチカラーに踏み出す魅力的な選択肢を手に入れた。
それが《都市国家の神、エファラ》である。
前環境においてもタッチカラーをした形は登場したものの、その使われ方が後ろ向きだったことが多く(《拘留の宝球》や《悪夢の織り手、アショク》、《思考囲い》など)あまりいい選択肢ではないと考えられていた。多色のリスクに見合う選択肢がなかったというわけだ。
しかし、《都市国家の神、エファラ》はその頑なな単色思想を塗り替えるだけの力を持っている。
10 《島》 4 《神聖なる泉》 2 《神無き祭殿》 4 《啓蒙の神殿》 4 《変わり谷》 -土地(24)- 4 《審判官の使い魔》 4 《潮縛りの魔道士》 4 《凍結燃焼の奇魔》 4 《夜帷の死霊》 4 《リーヴの空騎士》 4 《海の神、タッサ》 4 《波使い》 4 《都市国家の神、エファラ》 -クリーチャー(32)- |
4 《拘留の宝球》 -呪文(4)- | -サイドボード(0)- |
3マナ域の取捨選択や《タッサの二叉槍》、インスタントの対応呪文などには検討の余地があるものの、おおまかにはこんなところから始めてもいいと思う。
数枚だけ《返済代理人》を採用してエンド前に行動してドローを進める形にも挑戦したが、果たしてそれが効果的なのかはついにわからなかった。《波使い》が対応されやすく重いカードになっている可能性があるので、枚数を減らすなどの調整はしてもいいかもしれない。
8 《平地》 2 《島》 4 《神聖なる泉》 4 《啓蒙の神殿》 2 《アゾリウスのギルド門》 4 《変わり谷》 -土地(24)- 4 《審判官の使い魔》 4 《万神殿の兵士》 4 《管区の隊長》 2 《叫び回る亡霊》 2 《威圧する君主》 4 《リーヴの空騎士》 3 《オレスコスの王、ブリマーズ》 3 《波使い》 3 《都市国家の神、エファラ》 -クリーチャー(29)- |
4 《拘留の宝球》 3 《ヘリオッドの槍》 -呪文(7)- | -サイドボード(0)- |
《都市国家の神、エファラ》には他にこのような選択肢も考えられるかもしれない。
《ヘリオッドの槍》のバックアップを受けた《変わり谷》や《波使い》は強力で、「信心」に固執せずとも戦えるだけの基盤は備えている。
◆「赤系信心」
常にセカンドベストに留まり続けた「赤系信心」は最後の最後まで人によってその評価が分かれるデッキだった。絶対に使わないと拒否する人から、なんとなく勝率は悪くないため使い続けた人もいただろう。
評価が分かれた原因は、ゲーム展開とデッキ構造にムラっ気を抱えていたからに違いない。
最高速と勝利パターンは誰よりも早く強固なのに、負ける時は本当に何がしたいのかわからない動きをちょろちょろとして投了するだけなのだ。
「青単信心」とは異なり、自身の動きを強化しない除去呪文を多く採用していることがその原因にあるのだが、除去の一枚である《ミジウムの迫撃砲》が持ち味の一つでもあるため、減らすに減らせないジレンマな構造になっている。
このような内部問題から、「赤系信心」の使用者たちは、「そもそも《ニクスの祭殿、ニクソス》を諦めよう派閥」と「爆発力最高派閥」に分かれていった。
前者は土地の枚数を22枚前後まで絞った古き良き赤単に変化し、後者はこれまでどおりの不安定さと向きあっていた(別の意味で諦めていた)。途中で似たようなコンセプトをもった「緑赤アグロ」なるデッキが登場したことで光明を見出したようにも思えたが、そちらは安定性が高い代わりに爆発力が抑え目だったため、差別化されてしまい、結果的に「赤系信心」の不安定さは解決されないまま今日まで至ってしまっている。
はたして期待の『神々の軍勢』からは「赤系信心」に採用されるカードはなかったのだが、同門の「緑赤アグロ」などでは《ゼナゴスの狂信者》が注目を浴びている。
8 《森》 5 《山》 4 《踏み鳴らされる地》 4 《奔放の神殿》 2 《変わり谷》 -土地(23)- 4 《エルフの神秘家》 3 《漁る軟泥》 3 《森の女人像》 4 《ゼナゴスの狂信者》 4 《世界を喰らう者、ポルクラノス》 4 《ゴーア族の暴行者》 4 《嵐の息吹のドラゴン》 2 《歓楽の神、ゼナゴス》 -クリーチャー(28)- |
3 《ミジウムの迫撃砲》 4 《ドムリ・ラーデ》 2 《歓楽者ゼナゴス》 -呪文(9)- | -サイドボード(0)- |
《ニクスの祭殿、ニクソス》と《炎樹族の使者》のパッケージも魅力ではあるが、サンプルデッキはおとなしめに整えてみた。《歓楽の神、ゼナゴス》は5マナとその重さが気がかりではあるものの、戦場に登場したターンにも即座に仕事はするので、安心して投入できる。
上で紹介したものは均等2色のリストだが、「赤系信心」をベースにした赤単+緑のリストも悪くない。紹介したものはマナクリーチャーを運用することで安定して4~5マナに到達できるようにデザインしたが、《ゼナゴスの狂信者》も加わって序盤から中盤のゲームプランが立ちやすくなり、かつてよりも安定したと考えられるからだ。
10 《山》 4 《踏み鳴らされる地》 4 《奔放の神殿》 2 《グルールのギルド門》 4 《ニクスの祭殿、ニクソス》 -土地(24)- 4 《炎樹族の使者》 4 《ザル=ターのドルイド》 4 《灰の盲信者》 4 《ゼナゴスの狂信者》 4 《ボロスの反攻者》 4 《ゴーア族の暴行者》 2 《嵐の息吹のドラゴン》 2 《歓楽の神、ゼナゴス》 -クリーチャー(28)- |
2 《ミジウムの迫撃砲》 4 《ドムリ・ラーデ》 2 《紅蓮の達人チャンドラ》 -呪文(8)- | -サイドボード(0)- |
デッキの方向性を重視して《紅蓮の達人チャンドラ》を採用してみたが、環境的にはあまり適していないカードなので、素直に《嵐の息吹のドラゴン》や《ミジウムの迫撃砲》に統一したほうがシンプルかもしれない。
《モーギスの狂信者》が採用されていないのは《ゴーア族の暴行者》を優先したためだが、《ゴーア族の暴行者》を、あるいは《嵐の息吹のドラゴン》を《モーギスの狂信者》に変えてみるのも面白い。
5.信心深さのその奥に
このように『神々の軍勢』が導入されたばかりではあるが優先して考えるべき要素を整理し、その優先度が高い候補である「信心」を中心にサンプルデッキを紹介した。
「第2エキスパンション」導入から「第3エキスパンション」発表までは、スタンダード環境が最も激しく変化する時期である。今年はスタンダードのプロツアーがこの時期に開催されなかったため、例年よりもゆるやかにメタゲームが進行するかもしれないが、いずれにせよコンセプトデッキがいつ打倒されるかが変化の兆しとなるだろう。
逆にいうとそれまではグッドスタッフや新しいアイデアが活躍する機会は少ないことが考えられるため、《荒ぶる波濤、キオーラ》や《責め苦の伝令》、《クルフィックスの狩猟者》といったカードについては、すぐに評価を下さず、気長に活躍の機会を待つことをおすすめする。
やや例年に比べるとおとなしい顔ぶれだと評価されている『神々の軍勢』だそうだが、その評価が妥当なものかどうか、眠った獅子がいないかどうかは環境が一度落ち着かないことにはわからない。
「信心深い」環境のその奥に開けるフィールドとはどのようなものなのか。
僕はグッドスタッフが蔓延るものだと信じているが、開けた後も「信心」畑なのかもしれない。
予想はできても、それが叶うわけではない。
そんなところがもどかしくも楽しくもある。
次なる環境の姿を思い描きながら、《都市国家の神、エファラ》と《歓楽の神、ゼナゴス》を顕現する作業に戻ることにする。
それではまた次回に会おう!!