トーナメントにおけるデッキ選択について -強者か、弱者か-

Dmitriy Butakov

Translated by Yoshihiko Ikawa

原文はこちら
(掲載日 2018/03/13)

皆さんこんにちは。私の名前はドミトリー・ブタコフ/Dmitriy Butakov。これが晴れる屋に寄稿する、初めての記事になる。

つい先日、白緑オーラを手に2017 Magic Online Championship(MOCS)を優勝したが、今回の記事ではデッキについては解説しない。それほど難しいデッキではないし、覚えるべき最高のトリックは「《ドライアドの東屋》を素引きしてしまっても、ポーカーフェイスでフェッチランドを構えること」といった程度のものでしかない。もし白緑オーラについての記事に興味がある方がいれば、解説記事を書こうと思うが、今回は一般的な構築のトーナメントに対して、どのように準備を行うかという方法論について話していきたいと思う。

トーナメントに対して準備するにあたり「食物連鎖のピラミッドの中でどれぐらいの位置に自分がいるか」を理解することが、一番最初に行うべきことであり、そして一番難しい部分でもある。なぜなら、自分自身に対して絶対的に正直になる必要があるからだ。なので、そのトーナメントのフォーマットと競技レベル(草の根大会、グランプリ、プロツアー、もしくはさらに上)が分かれば、潜在的な対戦相手たちの好みを知ることすらできるのだ(この予想に頼りすぎないよう、必ず気をつけるように)。この情報をすべてのプレイヤーが使用できるので、これを念頭に置いた上でデッキ選択に進むことになる。全てのデッキは、以下の2つのグループに分けることができる。

1. 強者デッキ

捕食者の一撃

これは、君が「全体の中で相対的に見て優れているプレイヤー」である際に使う類のデッキである。言い換えれば、常に対戦相手より少し優れていると信じていて、可能な限り対戦相手と長くマジックをプレイして、決定的な状況で決着したい、と考えているプレイヤー向きのデッキだ。ジャンドはまさにこの種のデッキの完璧な例といえる。信じられないほど長期的なプランを考える必要がある上に、プラン通りに進まなかったときには(普段の対戦相手のように)本当に少しのアドバンテージのためにですら必死に戦わなくてはならない。このデッキはそれに耐えうるだけのキャパシティがあるが、君自身はどうだろう?

思考囲いタルモゴイフ血編み髪のエルフ

もう一点、デッキを「強者デッキ」たらしめるのは、そのデッキの経験があるかどうかだ。特にそのデッキが他のプレイヤーの意識の中に入っているときは。例として、私が2013年の世界選手権で使用したギフト・ロックを見てみよう。このデッキはMagic Onlineでも3人ほどしか使用していなかったので、トッププロといえども、ほとんどのプレイヤーがこのデッキに対して準備をしていないだろうと考えるのは実に合理的だった。また仮にデッキリストを知っていたとしても、様々なシステムがデッキに搭載されているので、素早くこのデッキに対応するのは非常に難しかったのだ。だが一方の私は対戦相手のデッキを熟知しており、最終的にモダン部門で2-1という成績を収めることができた。15人のトッププレイヤーたちに囲まれてのこの成績は、成功といえるだろう。

すべてのコントロールデッキが強者デッキである、という説は論理的に見えるかもしれないが、実際のところこの区分はほとんどミッドレンジのためのものだ。コントロールデッキは非常に難しい決断に迫られることがあることに疑いはないが、とはいえ基本的には守りに徹してさえいれば、ターンを追う毎に状況は良くなっていくのだ。かたやミッドレンジは毎ターンそういった決断を迫られる。戦場の些細な変化に対応できるよう準備しておく必要があり、ゲーム中に戦略が変わったりまた戻ったりする。今年のMagic Online Championshipの準決勝、スティーヴ・ルービン vs. ニクラス・ダールキストの試合は最高のお手本と言えるだろう。

瞬唱の魔道士死の影ウルヴェンワルド横断

もう一つの優秀な強者デッキとして、ほとんどの《死の影》デッキが挙げられる。このデッキにはすべての戦略が内包されている--クリーチャーと除去で対戦相手に猛攻をしかけることができ、《ティムールの激闘》でコンボデッキのように勝利することもでき、《未練ある魂》《瞬唱の魔道士》でコントロールのように振る舞うことさえもできる--すなわち、君が適切なプレイをできるならば、すべての状況に対応できるのだ。

要約すると、「強者」に該当するデッキは少しずつ有利を得ていき、段階的に勝利に近づいていくので、一瞬での勝利は可能ではあるものの、それは期待していることではない。その参加規模とメタの予測不可能な範囲を考えるに、強者デッキはグランプリで使用するのに非常に良いデッキだと思う。

そしてもう一点、より価値の高いトーナメント、例えば私、ティアゴ・サポリート/Thiago Saporito、スティーヴ・ルービン/Steve Rubinの3人と21人のランダムプレイヤーで構成されたMagic Online Championshipを想像してみよう。技術面で言えば私の勝率は素晴らしいだろうが、しかしこのケースでは私は絶対に1位になりたいのである--賞金と来年の招待権は素晴らしいが、何より優勝で得られるプラチナレベルのステータスは私が全てを賭けるべきものだからだ。なので、最終的に私より優秀なプレイヤーとマッチアップすることになるし、その特定の試合に全てが懸かっているともいえる。正直なところ、この仮説的な状況ではどう行動するか分からないが、少なくとも他のすべての要件に当てはまるという事実にも関わらず、「強者デッキをプレイしない」という選択肢を検討していただろう。強者デッキで「狩り」に行くべきかどうかの簡単な内訳はこちら。

2. 弱者デッキ

弱者の師

どのように、そしてなぜこの選択が通常行われるのか、説明していこう。私はこれまでに、『弱者デッキを選ぶことは現実のポジションの表れである』というような心理的かつナンセンスな言説を聞いたことがある。私の仲間たちでさえ、「なぜプラチナレベル・プレイヤーたちより劣っているなんて言うんだ?すでに敗北を受け入れているのか?頑張れよ!」なんてことを私に言ったのだ。だが、答えはシンプルである – 私自身の自尊心はここでは無関係なのである(友人たちは私にそれが欠けている、とも言っていた)。

君はメタゲーム、プレイヤーたち、賞金を分析し、今や「自分はこの特殊なトーナメントにおいてトップレベルではないだろう」という非常に堅実な情報を手にしている。そのうえで、最適なデッキを探さなければならない。蛮勇のためだけにすべてのデータを捨てるべきなのか、それともこのデータを元に動くべきなのか?自身のイメージを維持することが君にとって不可欠ならば、他人に嘘をつくことはできる。だが自分自身に嘘をつくことは最悪であり、最終的にはそれが結果として如実に表れることとなる。

これらの「強者/弱者」そして「強い/弱い」といった概念は最大限理解しやすくなるように選んだ単語であり、現実の生活においては一切関係がないので、そのトーナメントが終わり次第この仮面は捨ててしまおう。正直に言うと、私から見て十分論理的である人々がこの点に関して討論するとは思っていなかったので、これだけは明確にしておこう。

さて、実用的な話に入ろう。弱者デッキを使うなら、常にゲームが始まる前に勝利したい。言い換えれば、2-3ターン以内にだ。私はその条件を満たすカードを探したところ、3枚のカードが見つかった。《血染めの月》《虚空の杯》、そして《神聖の力線》だ。

血染めの月
虚空の杯
神聖の力線

弱者としてのポジションを受け入れるために言えることを挙げていこう。その1つめは、もし対戦相手が君のデッキに対して準備していれば、既にまな板の上の鯉だ。サイドボードを十分に用意されている場合勝ち目はなく、何の駆け引きもなく、待っているのは敗北のみである。

2つめは、君がしていることはどこまで行っても「予想と可能性」であるため、メタゲームを読み間違えることもあり、その場合はすべてが予想とは異なる事態になるということだ。だがこれは弱者デッキを選択する上で必ず発生するリスクである。

リスクを負うことが苦にならないなら、小規模で価値の高いトーナメントやプロツアーなど、圧倒的なペイアウト率があり、かつ同じぐらい敗北する確率もあるトーナメントで使用するのに理想的なのがこの弱者デッキだと思う。もし君がオール・オア・ナッシングの類のトーナメントに備えるならば、《死せる生》やエルフ、アドグレイスといった様々なデッキがある。

まとめ

今回述べたことはMOCSへの準備期間で私が通ってきた道であり、今回はそれが報われたが、次回はまったく正反対の話をするのが論理的になっているのかもしれない。すべては常に変化しうるのだ。今回の記事を厳格な指示としてではなく、一つの考え方として受け取り、そして最終的には自分のプレイスタイルにあったデッキを選んでくれることを期待している。

今回の記事を楽しんで、そして有意義だと思ってもらえることを願う。

最後になるが、晴れる屋にスポンサードしてもらえたことを嬉しく思っている。良いコンテンツを提供し、そして良い成績を残せるよう、ベストを尽くすつもりだ。

追伸:この場をお借りして、いくつか感謝を述べさせてもらおう。Wizards of the Coastのスタッフの皆様、最高でした。トーナメント組織も素晴らしかった。参加者の皆様、素晴らしい仲間達でした。特に、ドラフトに関する非常に興味深い見識を示してくれたホセ・カべサス/Jose Cabezasと、シベリアから共に長旅をしてくれたアレクシー・ペトリィキン/Alexy Petrykin、そしてもちろん、いつも私に最高の応援をくれるバブシュカ・ブタコフ/Babushka Butakovに最大級の感謝を。

それでは、またMagic Onlineで会おう。グッドラック。

ドミトリー・ブタコフ

この記事内で掲載されたカード

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