By Kazuki Watanabe
フロンティアには様々な特色がある。それはスタンダードやモダン、レガシーはもちろん、ヴィンテージとも異なった魅力を持ち、我々マジックプレイヤーを楽しませてくれる。
「まだフロンティアに触れたことがない」「どんなデッキが活躍しているのか分からない」「スタンダードやモダンとどう違うの?」
そんな疑問に答えるための鍵が、第11期フロンティア神挑戦者決定戦の準々決勝に詰まっていた。
ここでは3卓の対戦をダイジェストで振り返りながら、その魅力をお伝えしていこう。
加茂 里樹(青黒コントロール) vs. 細川 侑也(青黒コントロール)
フロンティアの特色の一つとして、多色化が顕著であることが挙げられるであろう。
『タルキール覇王譚』のフェッチランドと『戦乱のゼンディカー』のバトルランドの存在によってマナベースの自由度が高く、3色以上のデッキが当然のように跋扈している。本大会の上位にもジェスカイ、ティムール、エスパーといった3色のデッキが複数入賞し、ダークジェスカイのような4色以上のデッキの姿も見られる。
そんな中、細川 侑也はデッキを青と黒の2色でまとめ、重厚なコントロールデッキを持ち込み、スイスラウンドを勝ち抜いている。
このデッキがどれほど優秀か。それは、リストをシェアされたBIGsの加茂 里樹が細川と共にトップ8に入賞し、この準々決勝に駒を進めていることからも明らかだろう。
そして、その二人が相対する。
まず最初にお届けするのは、青黒2色の戦いだ。
両者のデッキリストに見られる差異はごくわずかだ。繰り広げられるのは、コントロールデッキのミラーマッチ。どのような戦場になるのかは明らかである。「両者が土地を伸ばし、打ち消し呪文を構え続ける」という展開だ。
早々と《アズカンタの探索》を盤面に据えて細川が一歩先んじる中、互いにひたすら土地を並べながら手札を整えていく。
当然のごとく、両者の手札は7枚を超える。《闇の掌握》や《検閲》、さらに《奔流の機械巨人》さえも捨てられていく中、細川は互いの土地を数えてからメモに数字を記した。ライフは微動だにしていない。細川が記したのは、残りのライブラリーの枚数だ。
両者が並べた土地の合計が40に達しようとする頃、細川の手札は《不許可》4枚、《本質の散乱》3枚。この7枚で、加茂の動きを迎え撃つ。
加茂が《スカラベの神》を唱えると、細川は迷わず《本質の散乱》。ここから《不許可》、《否認》、さらに《不許可》、《不許可》と呪文の応酬が繰り広げられた。ターンを受けて細川も《スカラベの神》を唱えるが、ここには《ヴラスカの侮辱》が飛んでくる。
両者のフィニッシャーが盤面に居座ることはなく、あとはライブラリーが尽きるのを待つのみ。
その差は本当にわずか。デッキの中身を知り尽くしている細川が、そのわずかな差を維持して勝利を決めた。
さて、1ゲーム目は想定通りのロングゲームであったが、2ゲーム目は驚くほどあっさりと終わってしまう。
両者が《才気ある霊基体》を戦場に送り出す。細川は手札にあった《ヴラスカの侮辱》を唱えて除去に成功するが、対する加茂はこれを止めることができず、2体目を《本質の散乱》で打ち消すのみに留まる。
あとは、《才気ある霊基体》が淡々と仕事をこなし、これを細川が豊富な呪文で守るのみ。
加茂 0-2 細川
簗瀬 要(青黒コントロール) vs. 星 和人(ジェスカイアグロ)
さて、同じように「青黒コントロール」に注目したプレイヤーが居る。BIGsの簗瀬 要だ。
1ゲーム目は、対戦相手の星 和人が唱えた《カマキリの乗り手》を《本質の散乱》で退け、《密輸人の回転翼機》、《時を越えた探索》、さらにそれを《奔流の機械巨人》で再利用して、《最後の望み、リリアナ》を送り出す、という強烈な動きを見せて勝利するが、2ゲーム目から苦戦を強いられる。
星の唱えた《密輸人の回転翼機》を通し、続くターンの《カマキリの乗り手》は《本質の散乱》で打ち消しておく。ターンを受けて《アズカンタの探索》を唱えるが、これが《呪文捕らえ》によって阻まれてしまった。
簗瀬は盤面を見つめて一呼吸を置き、《闇の掌握》で除去することを選んだ。
《アズカンタの探索》は無事に盤面に据えられたが、簗瀬の土地はフルタップ。この瞬間を逃さず、星が戦場を掌握するためにマナを注いだ。
戦場にプレインズウォークする、《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》。
簗瀬にできるのは、これを了承することのみ。星はそのままトークンを生み出させると、《密輸人の回転翼機》に「搭乗」させて攻勢に転じる。
続くターンは《密輸人の回転翼機》と《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》によって攻撃を加える。簗瀬は《致命的な一押し》で《密輸人の回転翼機》の除去には成功するが、戦闘後に唱えられた呪文を見て、大きく息を吐いた。
2人目のプレインズウォーカー、《反逆の先導者、チャンドラ》。
戦場に並ぶ、2人のプレインズウォーカー。簗瀬はそれを見つめながら《時を越えた探索》を唱え、さらに《奔流の機械巨人》で再利用して突破する術を探すが、見つけることができない。
度重なる攻撃によって失われた簗瀬のライフを、星が《稲妻の一撃》で削り取り、ゲームカウントを1-1とする。
モダン、レガシーでは禁止カードであり、ヴィンテージでも制限カードになった、マジック史に名を残す強烈なカードだ。このカードを制限なく使えることもフロンティアの特色と言って良い。「《時を越えた探索》を唱えたい」という理由で青を選択するプレイヤーも多いだろう。
フェッチランドを利用した多色化には既に触れたが、起動後に墓地に落ちたフェッチランドは「探査」のコストに充てることができる。わずか2マナで唱えて、それを《奔流の機械巨人》によって再利用する動きは、最早犯罪級だ。
とは言え、《時を越えた探索》の強さは「探査」を利用したマナコストの軽減にある。順当に8マナを注ぎ込んで唱えてももちろん強力な能力ではあるのだが、些か凶悪さが鈍る。
そして、星は《時を越えた探索》を鈍らせるカードを、3ゲーム目の冒頭に唱えた。
《没収の曲杖》である。
これを見て、簗瀬も思わず言葉を漏らした。
簗瀬「《時を越えた探索》を唱えるのが、相当大変になった」
その言葉通り、起動したフェッチランドが次々と追放され、「探査」が遠のいていく。
《時を越えた探索》を唱えられる前に勝負を決める。そのために、星は《試練に臨むギデオン》、《ゴブリンの熟練扇動者》、《反射魔道士》といったカードを次々と唱えていく。簗瀬も《否認》、フェッチランドを起動してからの《致命的な一押し》といった呪文で適宜捌いていくが、手札の消耗が激しくなりすぎた。相手の戦力を跳ね除ける術が残っていない。
捌き切られたように見えた星が、《栄光をもたらすもの》を戦場に送り出したことで勝負が決まった。抵抗する術を失った簗瀬は土地を畳み、勝者を讃えた。
簗瀬 1-2 星
石渡 康一(ティムール霊気池) vs. ヒラサワ ミツアキ(ジェスカアグロ)
フロンティアには、現在のところ禁止カードが存在しない。他のフォーマットで禁止されているカードや、禁止されたままスタンダードを去って行ったカードを思う存分使うことができる。先ほど述べた《時を越えた探索》は前者の代表で、後者としては《反射魔道士》や《約束された終末、エムラクール》の名前を挙げられるだろう。
そしてもちろん、現在スタンダードで禁止されているカードも使用できる。例えば、《密輸人の回転翼機》。そして、エネルギーに関するカードだ。
最後にお届けするヒラサワ ミツアキと石渡 康一による一戦は、2ゲーム目の石渡が見せた動き出しからお届けしよう。
《霊気との調和》を唱えて土地をサーチし、ヒラサワのクリーチャーを《蓄霊稲妻》で焼き払い、戦場に《ならず者の精製屋》を送り出す。スタンダードを席巻していた“あの動き”が、そこにはあった。
すでにエネルギーは十分。それを利用するために、石渡は《霊気池の驚異》を唱えるが《呪文貫き》の餌食となってしまう。しかし、石渡は慌てずに次の作戦に移行する。
その戦略は、《発生の器》を起動し、《墓後家蜘蛛、イシュカナ》と《約束された終末、エムラクール》によって、明らかとなった。
「昂揚」。これが石渡のデッキのもう一つの軸だ。
エネルギー戦略の必須カードである《霊気との調和》は「ソーサリー」、たった今起動した《発生の器》は「エンチャント」。そしてフェッチランドで墓地に「土地」を落とすことができる。さらに、手札とエネルギーを補充した《ならず者の精製屋》は、墓地に落ちれば「クリーチャー」としてカウントされる役目も担う。
ヒラサワは《ピア・ナラーとキラン・ナラー》、そして《搭載歩行機械》の遺した飛行機械トークンを並べて物量で突破することを目論むが、これを石渡は《コジレックの帰還》で一掃する。
ゲームが長くなってきた。それならば、《霊気池の驚異》に任せるのではなく、ありったけのマナを注いでフィニッシャーを唱えてしまえば良い。
《精霊龍、ウギン》が、3ゲーム目の到来を告げた。
石渡が《霊気との調和》と共に動き出す。続けて《織木師の組細工》を唱えて、ライフとエネルギーも確保した。
対するヒラサワは《ゴブリンの熟練扇動者》を唱えてゴブリントークンで攻撃を仕掛けていくが、石渡は落ち着いて《織木師の組細工》が起動し、さらに《削剥》を見舞って戦力を削っていく。
《霊気との調和》は《呪文捕らえ》によって阻まれ、《魔術遠眼鏡》で《霊気池の驚異》を指定されるが、石渡は落ち着いて「昂揚」と「エネルギー」を軸に戦線を構築。《墓後家蜘蛛、イシュカナ》、そして《つむじ風の巨匠》を送り出す。
ヒラサワも《スレイベンの検査官》、《密輸人の回転翼機》と続けて戦力を補充すると、2枚目の《魔術遠眼鏡》を唱えた。
これを見て、石渡は手を止める。《つむじ風の巨匠》が指定されてしまえば、ただのバニラに成り下がる。じっくりと思考を巡らせると、エネルギーを注ぎ込んで4体の飛行機械トークンを生成させた。ヒラサワが指定したのは、2度目の《霊気池の驚異》だ。
ヒラサワは3/3の《搭載歩行機械》で攻撃を仕掛ける。石渡は迷わず《墓後家蜘蛛、イシュカナ》でブロックを選択する。ここに《稲妻の一撃》が加わり墓地に沈むが、これは予想通り。慌てることなく墓地へ沈めて、ターンを受ける。
石渡が唱えたのは、《ムラーサの胎動》。ライフを回復し、《墓後家蜘蛛、イシュカナ》を回収すると、そのまま再び戦場へ送り出した。
マナは潤沢。ヒラサワが《カマキリの乗り手》、《搭載歩行機械》を唱えてどれほど戦線を固めようとも、《墓後家蜘蛛、イシュカナ》の能力を起動すれば、容易にライフを削り切れる。
ヒラサワ 1-2 石渡
フロンティアの環境は、スタンダードやモダンといった他のフォーマットとは著しく異なっている。
かつてスタンダードで活躍したカードが再び活躍したり、共存していなかったカードと共に思わぬ活躍を見せたりすることが多々ある。モダンでは姿を見ないカードが、フロンティアだからこそ大暴れをすることもある。
ここでお届けしたのは、準々決勝の3卓のみ。朝から繰り広げられたスイスラウンドでは、様々な”過去のカード”と”現在のカード”が活躍していた。
スタンダードから立ち去ってしまったカードやデッキが家で眠っているのなら、埃を被る前に引っ張り出して一度見直してみて欲しい。彼らが活躍する新天地(フロンティア)は、用意されているのだから。