By Kazuki Watanabe
今回の『ドミナリア』発売後も、中村修平のリミテッドスクール『ドミナリア』編が発売された。
スクール、という名に違わず、その内容は“研究”と言って良いほど奥深い。環境の概観から各色の特徴、強いアーキタイプ、そして様々な戦略が語られている。発売直後に執筆されたのにも関わらず、だ。
リミテッドでは、経験が重要と言われる。しかし、経験に基づくセオリーだけでは最新の環境に適応できない。新セット発売によってもたらされた環境に対する研究、そして解明が不可欠である。
すると、当然興味が湧いてくる。世界最高峰の実力を持つドラフトの名手・中村 修平は、どうやって、ドラフトを研究しているのだろう? この疑問に答えてもらう中で、リミテッドスクールがどのようにして生まれたのかも分かるはずだ。
それでは、始めよう。中村 修平のリミテッド研究論!
改めて俯瞰する、『ドミナリア』ドラフト
――「早速ですが、リミテッドスクールから1ヶ月が経ちました。この期間で、何か大きな変化はありましたか?」
中村「環境全体が遅いという大前提は、初期から変わっていませんね。個人的に気になっていたのは、『遅いデッキに対抗する手段を見つけ出した人は居ないのかな?』という点です」
――「中村さんも”対抗する手段”は考えたのですか?」
中村「形にはならなかったんです。考えるだけでしたね。例えば、《馬上槍》や《叙爵》などを大量に貼り付ける、なんていうもの。あとは、まつがん(伊藤 敦)の青黒ジャッカルのような戦略。軽いカードが安いのを活かして超絶スーパーアグロ戦略。この辺りが出てきたらまずいな、とは思っていたのですが、実際には杞憂で終わりましたね、『プロツアーも遅い環境だな』と。正直、遅いデッキに対抗する方法は、ほとんど研究してなかったので」
――「改めて『ドミナリア』のドラフトについて教えていただきたいのですが、なぜ”遅いデッキ、そして環境”なのでしょうか?」
中村「簡単に言ってしまえば、カードパワーが全体的に低く、素早く勝ち切る手段が脆いんです。特に、2マナのクリーチャーに注目すると分かりやすいですね。大雑把に現代のリミテッドについて説明すると、2マナで回避能力を持つ”3マナ相当”のクリーチャーがベースで、そこからお互いに展開し、それを随時交換して行く。そして、最終的に1体残った方が勝つよね、というものなんです」
――「ところが『ドミナリア』はそうではないわけですね」
中村「ええ。”単なる2マナ相当”……2/2のバニラのようなクリーチャーばかりで、これを出して無理攻めするくらいだったら3マナから動き出した方が良いし、いっそのこと土地も18枚で良いんじゃない? と」
――「2ターン目からクリーチャーを展開し、できる限りアグレッシブに! と言っていた前環境とは大きく違うのですね」
中村「まったく違いますね。ここまで極端に遅い環境は珍しいです。それくらい『ドミナリア』のカードパワーは低めなんですよ。歴史に名を残すくらい。ただ、これも良し悪しなんですよね。競技プレイヤーの場合は『遅い環境だな、カード弱いな』という感想で終わるかもしれませんが、『こういうカードを組み合わせて、こんな動きをしてみたい!』という欲求を満たせる環境でもあるんです」
――「速い環境だと、『こういうカードを組み合わせて』なんてやっている内に負けてしまいまからね……」
中村「そうですね。ですが、『ドミナリア』ならば、ある程度ゆっくりした動きになっても戦えます。いずれにせよ、このプロツアーでは『環境全体が遅い』と結論付けられますね。今後に関しては、プレイヤーの研究次第、でしょうか」
なかしゅー式・ドラフト研究
――「先ほど『遅いデッキに対抗する方法は、ほとんど研究していなかった』と仰っていましたが、中村さんはどうやってドラフトの研究をしているんですか?」
中村「私の場合、対戦相手の強い要素を貰う、という方法が多いですね。もう少し具体的に言うと、相手が使っていて『強そうだな』と思った部分を掘り下げて行きます。実際の例で言えば、“青赤ウィザード”。注目を集めているアーキタイプですよね?」
――「そうですね。公式カバレージのプロツアー『ドミナリア』でのドラフト全勝戦略でも取り上げられていました」
中村「青赤ウィザードと対戦すると『ウィザードでまとまってるし、何か強そうだな』と思うわけですよ。では、一体何が強いのかを知るために、各カードを見て、強さの秘密を分析していきます。すると、『”青赤”とは言いながらも、最も強い部分は《ギトゥの年代記編者》と赤の各種火力呪文、つまり赤の部分なんだ』という結論が出たんですよね」
――「つまり、青の要素は核ではない、ということですか?」
中村「そうですね。弱いわけではないのですが、強さの秘密ではありません。そして、”核ではない”という結論から一歩踏み込んで、じゃあ青以外と組み合わせても良いんじゃないか? 白ではどうだろう? 黒の除去とは合わないのか? と進めていくんです。これが、私流のドラフト研究ですね」
――「おお、なるほど。相手に使われて『この動きは強いな、これを使われるのは嫌だな』と思ったところからスタートするんですね」
中村「もともと、私のマジックは相手の芽を徹底的に摘むというスタイルです。そうなると、当然ですが相手の芽が何かを知らなければいけません。なので、ドラフトに参加して、相手が使ってくるものに注目するんですよ」
――「そして、その強そうな芽を摘み、さらには自分の力にしていく、と」
中村「1回のドラフトでは、当然1つのデッキしか使用できません。ですが、対戦相手が使用したデッキの動きも知ることができます。そして、『この動きはきついな、強そうだな』と思ったら、『それならば、こっちと組み合わせたらもっと強そうじゃないか?』と、周りよりも一歩先に進んでいく。これは昔から変わっていません」
――「それが、中村さんの強さの秘密なのですね」
中村「そんなに立派なものではないですけどね。あと、これはプロとして活動する私の仕事でもあるのですが、そうやって得た知識は、言語化しないといけないんです。『なんとなく強そう』のままで終わらせてはダメなんですよ」
――「リミテッドスクールが生まれたのは、そういった中村さんのドラフト研究が言語化されたもの、と」
中村「そうですね。もともと、KusemonoのLINEグループに、思い浮かんだことを投下しているんです。『青赤が強そう』『黒と組んだ場合は……』『こっちの方が良い』なんていう風に。リミテッドスクールは、それを整理して、体系化したようなものですね」
おまけ -毎度おなじみ、”曲者らしい”エピソード-
――「そうだったんですね。中村さんが投稿して、それに対してメンバーがコメントして、議論が始まるんですか?」
中村「いえ、まったく返信はないですね」
――「ええ!? そ、そうなんですか?」
中村「ないですねぇ……。静かなタイプが多いので。だから『もう少しコメントしてくれても良いんだよ?』とは思ってますけど」
――「な、なるほど。あまりLINE上で会話をすることはないんですか?」
中村「んー、一応ありますよ。大抵の場合、藤村 和晃がおかしなことを言い出して、それにみんなでツッコミを入れてます」
――「……ある程度覚悟した上で聞くのですが、例えばどんな……?」
中村「念じれば、デッキトップが変わる、とか突然言い出すんですよ。『いやいや、変わったら大変だよ?』なんていう風にツッコミを入れてます。まあ、良い息抜き……にはなってないかもなぁ」
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