スペシャルデッキテク: マット・ナスの「KCIの回し方」

晴れる屋

By Kazuki Watanabe

 環境の概観を伺ったインタビューのモダンの項目を見ると、Hareruya Hopesの浦瀬 亮佑と宇都宮 巧の両名が、「現在のトップメタは?」という質問に対して、揃って「KCI(アイアンワークス)」の名前を挙げている。

クラーク族の鉄工所

 会場で国内外のプレイヤーに話を伺ってみても、ほとんど同じ答えが返ってきた。「注目のデッキは『KCI』だ」と。

 そして、この話題は”挫折”に変わる。「では、なぜ使わなかったのですか?」と問うと、皆一様にして苦笑いを浮かべながら、

「使ってみたかったけど、難しくて諦めました……」

 という答えが返ってくるのだ。

 そう、「KCI」は難しい

 コンボのルートは多岐に渡る。「こんなところから勝てるの?」という状況から、コンボが動き出していく。また、以前は《クラーク族の鉄工所》を利用したマナ加速で《引き裂かれし永劫、エムラクール》を唱える、という分かりやすいものもあったが、ここ最近のリストではメインボードの勝ち筋は《黄鉄の呪文爆弾》のみ。初めてリストを見たときに、「一体どうやって勝つんだ?」と思ってしまうレベルである。

クラーク族の鉄工所屑鉄さらい

 《クラーク族の鉄工所》《屑鉄さらい》がギミックの核で、ドローを繋げながら《マイアの回収者》《オパールのモックス》《彩色の星》を駆使して、何度も何度も墓地を経由しながら相手を討ち果たす様子は、複雑怪奇である。

 しかも、「モダンのサイドボードは墓地対策とアーティファクト対策」と言われる中、この「KCI」はデッキの大半がアーティファクトで、墓地からカードを回収しながらコンボを繋げていく……つまり、どちらも見事に刺さるのだ

 それでも、今大会のメタゲームブレイクダウンを見ると、使用率トップ3に入っている。Channel Fireballのマット・ナス/Matt Nassは、「KCI」を手にグランプリ・ハートフォード2018グランプリ・ラスベガス2018を連覇しているのだ。

 なぜ、「KCI」は勝てるのか? その強さの秘密はどこにあり、使いこなすコツはどのようなところにあるのだろうか?

 「誰かに聞いてみよう」と思いながら会場を歩いていた私は、ある種の天啓を得た

 ……本人に聞けば良いんじゃないか?(《天才のひらめき》)

マット・ナス

 マット・ナスに

 「KCI」を使用してグランプリ・フェニックス2018でベスト4に入賞すると、1ヶ月後のグランプリ・ハートフォード2018で見事優勝。さらにグランプリ・ラスベガス2018でも優勝し、グランプリ3連続ベスト4、そして2連続優勝という記録を打ち立てた、世界最高の「KCI」の名手に。

 ということで、スペシャル・インタビューをお届けしよう。マット・ナス直伝、「KCI」のデッキガイドだ。

「KCI」の名手は、コンボデッキが好き

――「よろしくお願いします。今回も『KCI』を使用しているんですね」

マット「こちらこそよろしく! もちろんだよ。Channel Fireballのメンバーとも相談して、デッキをシェアしたんだ。Top 4に入賞したベン・スターク/Ben Starkも同じデッキを使っているよ。ずっと使っているデッキだから、ぜひこの記念すべきプロツアーでも使いたかったんだ」

――「なるほど。こういったコンボデッキが好きなのですか?」

マット「大好きだね。フォーマットを問わず、コンボを考えるのが好きなんだ。初めて優勝したグランプリはエクステンデッドで開催されたグランプリ・オークランド2010なんだけど、そのときは『親和エルフ』を使用していた。『《出産の殻》』は大好きだったし、『《欠片の双子》』も良かったね。プロツアー『カラデシュ』でトップ8に入ったときは『ティムール霊気池』を使っていたよ」

出産の殻欠片の双子霊気池の驚異

――「そうだったのですね。コンボデッキの魅力は、どのようなところにあるのですか?」

マット使用していて楽しい、というのが何よりの理由かもしれないね。一瞬の間隙を突くために力を蓄えて機会を伺い、一気に勝負を決める、というのは他のデッキでは味わえない楽しさだ。勝てるときには確実に勝てる、というのも大きな魅力だろうね」

――「では具体的に『KCI』の話を伺いたいのですが、このデッキはかなり以前から使用されていますよね?」

マット「そうだね。ずっと調整をしているよ。初期は膨大なマナから《引き裂かれし永劫、エムラクール》《搭載歩行機械》を唱えるタイプだった。《ウギンの聖域》を採用してね。その後、《引き裂かれし永劫、エムラクール》が抜けて、ついには《搭載歩行機械》も抜けたんだ」

――「メインボードの勝ち筋は《黄鉄の呪文爆弾》だけですよね」

黄鉄の呪文爆弾

マット勝ち手段はシンプルな方が好きなんだ。メインボードに関しては、デッキ全体をコンボに特化した形だ。《黄鉄の呪文爆弾》だけでどうやって勝つの? と聞かれることも多いけど、最終的には『無限ドロ―と無限マナ』でデッキをすべて引くことも可能だから、勝ち手段が何枚かは問題じゃない。重要なのは、コンボパーツがどれだけ入っているか、だよ」

――「なるほど。『KCI』は難しい、と言われますが、やはり使いこなすまでには時間がかかりましたか?」

マット「難しかったね。ひたすら一人回しをしたよ。とにかく、複雑でわかりにくい。これがすべてだろうね。例えば、デッキの回し方のすべてを説明しようとすると、とにかく時間がかかるんだ」

屑鉄さらいクラーク族の鉄工所マイアの回収者

マット「簡単に説明すると、キーカードは《クラーク族の鉄工所》《屑鉄さらい》だ。そこに《マイアの回収者》がある状態ならば、1マナ以下のアーティファクトを使い回せる。《オパールのモックス》無限有色マナになるし、《彩色の星》《テラリオン》があれば無限ドロ―になる。あとは膨大なマナを《彩色の星》で赤マナに変換し、《黄鉄の呪文爆弾》を何度も利用してダメージを与えるんだ」

――「……な、なるほど」

マット「複雑だよね……ただ、無限マナを《黄鉄の呪文爆弾》に使う、という勝ち方ははっきりしているし、一度基本的な動かし方を覚えてしまえば、あとは慣れるだけだよ」

サイドボードについて

――「このデッキは、アーティファクトを多用し、墓地を利用するデッキですよね。対策カードが山ほど存在すると思うのですが、問題はないのですか?」

石のような静寂安らかなる眠り虚空の力線

マット「問題がない、とは言えないね。《石のような静寂》《安らかなる眠り》《虚空の力線》の3つは天敵だ。だけど、モダンの場合はドローが弱いからサイドインしたカードを引けるとは限らないからね。《虚空の力線》を探すために何度もマリガンしてくれるなら好都合さ」

――「たしかにそうですね。サイドボード、と言えば、今回のデッキは青いカードが採用されていますよね?」

マット「そうだね。《練達飛行機械職人、サイ》《否認》を採用してみたんだ。《練達飛行機械職人、サイ》は新たな脅威だね。スタンダードで使用できるカードとはとても思えないよ」

練達飛行機械職人、サイ

マット《石のような静寂》がある状態でも、アーティファクトを生成し続けられる、というのは重要なんだ。飛行機械・トークンは時間稼ぎにも使えるし、いざとなれば《クラーク族の鉄工所》に放り込むこともできるんだ。メインボードとは違った角度から戦えるから、もう少し調整を加えてみたいね」

マット・ナス直伝、KCI-TIPS

――「『KCI』を使って見事な結果を残し続けていますし、今回のプロツアーでも人気が高いですよね。このデッキを使ってみたい! と思っているプレイヤーに向けて、使いこなすコツがあれば教えていただけませんか?」

マット「そうだな……では、3つのポイントを教えておくよ」

1. 勝ちに直結するパターンを覚えよう

マット「まずは、“無限ドロ―&無限マナ”という勝ちに直結するパターンを覚えて、そこから『何が足りないのか、何が足りているのか』を考えてみよう。足りないものをドローするように動くのはもちろん必要だけど、余分なカードを惜しみなく使って行くことも重要なんだ。このデッキの場合、《クラーク族の鉄工所》《屑鉄さらい》は必須だから、そこに何を加えるか、だね」

2. 積極的に動き出してみよう

マット「コンボデッキの場合、パーツが揃うまでは動かずに、機を伺うことが多いよね? だけど、このデッキの場合はコンボパーツのほとんどに”ドローというおまけ”が付いているんだ。なので、序盤から展開して、ドローを進めていくことも可能だ。その過程でパーツが揃えば勝てるし、仮にコンボが繋がらなかったとしても、次のターンに仕切り直せば良いだけなんだ」

胆液の水源テラリオン彩色の星

――「なるほど。コンボが完走できなかったとしても、問題ないのですね」

マット「そのとおりだね。これが、このデッキの強さでもあるんだ。止まってしまったとしても、すぐに敗北するわけじゃない。時には1ターン待って仕切り直す勇気が必要な場合もある。それを見極めるためにも、勝ちに繋がるパターンを把握して、手札、盤面、墓地、そしてライブラリーのカードをしっかりと把握できるようにしたいね。”コンボを始めるタイミングを見極める”と同時に、“1ターン目からコンボに向けて動いている”という意識を持つことが大切だよ」

3. 土地を置くタイミングに注意しよう

マット《クラーク族の鉄工所》を起動して動き出す前は、土地を置かない方が良いことがほとんどだ。このデッキには、《発明博覧会》が採用されている。あらゆるコンボパーツを探せる、最高の土地だ

発明博覧会

マット「ドローを進めている際に、特定のパーツがどうしても引けない場合、もし《発明博覧会》をドローしていたら、プレイして、そのまま起動すれば良い。マナは《クラーク族の鉄工所》が用意してくれるから、心配は要らないよ。《埋没した廃墟》も同様だね。土地を置く前に、一歩立ち止まって考えて欲しい。『この土地は、今本当に置くべきか?』とね」

――「勢いで《森》を置いて後悔する前に、ですね」

マット「そうだね。あとはコンボデッキ全般に言えることだけど、サイドボードの入れ換えすぎには注意が必要だ。デッキ全体がコンボパーツのようなものだから、過剰なサイドボードはデッキの安定性を損なってしまう。もちろん、《自然の要求》《練達飛行機械職人、サイ》のように思い切って入れ替える価値のあるカードもあるけれど、『最小限に留めよう!』という意識は必要だね」


――「分かりました。ありがとうございます! では最後になりますが、読者の皆さんにメッセージをお願いします」

マット・ナス

マット「このデッキは、とにかく使っていて楽しいデッキなんだ。たしかに回し方は分かりにくいし、使いこなすのは難しい。だけど、使いこなしたときの強さと楽しさは保証するよ。難しいデッキを使いこなす楽しみ、というのもマジックの魅力の1つだ

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