By Kazuki Watanabe
2日間に渡る戦いの最終戦。グランプリやプレミアイベントに慣れているプレイヤーにとってみれば”2日制の戦い”は珍しくないのかもしれないが、今回の戦いは少々意味合いが異なってくる。
2014年6月にスタートした”神決定戦”。当初はスタンダード、モダン、レガシーのみだったが、その後、ヴィンテージとフロンティアが追加された。そこに新たな神、“リミテッド神”が加わることになったのだ。
そして、ここでお届けするのはその決勝戦……つまり、文字通りの“神決定戦”である。
記念すべき、新たな神を決める戦い。この称号にふさわしい実力者が、今回の決勝戦に駒を進めた。
加藤 健介を紹介するためには、様々な成績や称号、そして組織を列挙する必要がある。グランプリ・東京2016のTop 8、グランプリ・京都2018のTop 4は華々しい成績の一端であるし、『イクサラン』環境名人戦を制して環境名人に就位した経験もある。BIGsの、チーム豚小屋の、そして、”ドラキチ”の一員だ。
対する中道 大輔もBIGsの一員として、BIG MAGICのスポンサーを受けるプレイヤーである。彼を端的に紹介するのも非常に難しいのだが、この”神決定戦”というシリーズに関して言えば、Top 8の常連である。初回のモダン神決定戦を皮切りに入賞を重ね、今回で単独首位となる8回目の決勝ラウンド進出を果たした。
お互いがピックしたカードのリストを眺め、静かに戦略を練る。先に言葉を発したのは、加藤であった。
加藤「すごい前のめりなデッキ。《ゴブリンの扇動者》が3枚も入ってる」
デッキをシャッフルしながら、会話が続く。
シャッフルを終え、静かにアナウンスを待つ。ジャッジが場内アナウンスで神決定戦の始まりを告げた。
「それでは、決勝戦に進出したお二人、ご準備はよろしいでしょうか?」
その言葉を聞くと、両者は小さく頷いた。
Game 1
両者マリガンを選択した1ゲーム目。《平地》、《沼》と加藤が土地を置いていく間に、中道は《ゴブリンの激励者》、《ゴブリンの扇動者》と続けて戦力を展開する。
加藤がようやく《ペガサスの駿馬》を出したところで、決勝最初の戦闘が繰り広げられた。まずは《騎兵隊の教練官》を唱えて自身を強化させ、《ゴブリンの激励者》で速攻を付与する。戦場に出たばかりの《ペガサスの駿馬》がタフネス3を活かして《ゴブリンの扇動者》をブロックするが、そこに《ショック》が合わさり、墓地に沈んだ。
《ドワーフの僧侶》でライフを1点回復されるが、それも意に介さず次のターンも中道が攻撃を加えた。《ラッパの一吹き》を合わせ、《ドワーフの僧侶》と《騎兵隊の教練官》を相打ちさせる。
加藤は5枚目の土地を置く。《平地》が4枚に、《沼》が1枚。2枚目の《沼》を引くことができない。《オレスコスの速爪》を唱えてもう1ターンを凌ごうとするが……。
《反逆の行動》によって、その《オレスコスの速爪》が加藤に爪を立てた。
加藤 0-1 中道
加藤は悔しそうに、
加藤「あー、行けると思ったんだけどなぁ」
と言いながらカードをまとめた。中道も笑顔を見せてそれに応じて初戦を振り返るが、ジャッジがリストを手渡すと、次第に会話は途切れ、両者は自身のカードとリストを見つめて思考を巡らせ始めた。
中道「ありがとうございます」
一足先に中道がシャッフルを始め、加藤も一足遅れてリストを返却した。
Game 2
このゲームもマリガンを選んだ加藤だったが、《戦墓のグール》、《オレスコスの速爪》と 順調な動き出し。中道は《ゴブリンの扇動者》にトークンを引き連れさせる。
《戦墓のグール》のタフネス2を活かして攻撃を加えると、さらに《ペガサスの駿馬》を追加。中道も《オナッケのオーガ》で戦線を固めるが、不利な状況が続く。
《ペガサスの駿馬》、《オレスコスの速爪》、《戦墓のグール》で攻撃を加え、中道はゴブリン・トークンと《ゴブリンの扇動者》で《戦墓のグール》をブロックすることを選んだ。加藤は《流血の空渡り》を唱えて、攻勢を続ける。
中道も《騎士の誓約》を《オナッケのオーガ》に付けて攻撃を加え、《ゴブリンの扇動者》を唱えて追従する。
加藤が再び全軍で攻撃し、残りライフを5まで詰める。さらに絆魂を持った《夜の子》をブロッカーとして立たせた。
中道が《オナッケのオーガ》で攻撃を加えると、《夜の子》がブロックに立ちはだかる。そして《浄化の輝き》でクリーチャーを一掃し、戦場を更地に戻した。これでひとまず落ち着くかと思われたが、幕切れは次のターンに訪れた。
加藤のドローは《平地》。勢いよく土地を倒し、マナを生み出す。
《吸血鬼の君主》が戦場に降り立ち、中道の戦意を砕いた。
加藤 1-1 中道
Game 3
先手の中道が《ゴブリンの激励者》、《ゴブリンの扇動者》と順調に動き出す。全軍で攻撃を加えながら、《ラッパの一吹き》も唱えて一気呵成に攻め立てると、ライフを瞬く間に10まで削った。
早くも10点の差を付けられた加藤。しかし、慌てずに《ヴァレロンの有印剣》を唱えてターンを返す。
この剣が振るわれるようになれば、加藤の攻勢が始まる。しかし、それにはもうしばらく時間が掛かりそうだ。中道は《ヴィーアシーノの紅蓮術師》を唱えてさらに2点を与え、《ゴブリンの激励者》で速攻を付与し、攻撃を加える。
加藤のライフは4。月並みな表現だが、“風前の灯火”である。
その加藤を守るべく、《ドワーフの僧侶》が中道の前に立ちふさがる。
中道の手札には4マナ以上のカードが詰まっているのだが、土地を引くことができない。ひとまずライフを詰めるために全軍で攻撃を加えると、《ヴィーアシーノの紅蓮術師》が《ドワーフの僧侶》にブロックされ、墓地に落ちた。
対する加藤は5枚目の土地を置き、《リッチの愛撫》で《ゴブリンの激励者》を除去。ライフも回復し、猶予が生まれた。
《平地》を引いた中道は《凛々しい騎兵隊》を戦場に送り出す。対する加藤は《吸血鬼の君主》でライフを奪った。ライフは8対17。しかし中道が《防御牝馬》を唱えて、ライフが20に戻る。
序盤の猛攻を凌ぎ切った加藤は、ここで一度手を止める。ライフもクリーチャーの数も差はあるが、戦線は整いつつある。
フィーチャーエリアを囲む者も増えてきた。「熱戦」という言葉が、誰の脳裏にも浮かんでいることだろう。そして、それは本人たちも同じである。身を乗り出して戦場を見つめる加藤が、こう呟いたのだ。
加藤「面白くなってきた」
両者の表情が柔らかくなる。
加藤「どうにか耐えた。耐えたが……」
そう呟くと、《ヴァレロンの有印剣》で生成される騎士・トークンを手に取り、何度もカードを入れ替えている。耐えたとはいえ、相手の戦力も十分。無闇に攻撃を加えれば、手痛い反撃を食らうことになる。度重なる攻撃を受けられるほどのライフは残っていない。しかし防るだけでは、いずれ押し込まれる。最低限の防衛戦力を残しながら、最大限の攻撃を加えなければならない。
ここでは《ドワーフの僧侶》に《ヴァレロンの有印剣》を装備させ、攻撃を加えた。騎士・トークンは《防御牝馬》に討ち取られるが、4点のダメージが通った。《オレスコスの速爪》も加えて、加藤が戦場の主導権を握りつつある。
中道はここでも土地を伸ばすことができず、5マナを用意できずに、手札に4枚の呪文を抱えたままターンを返した。
この間隙を縫い、加藤は《吸血鬼の君主》に《ヴァレロンの有印剣》を装備させ直して攻撃。中道は《錆色翼の隼》を追加して、機を伺う。
一時は残り2まで削られていた加藤のライフが8まで回復している。風前の灯火は、消えることなく煌々と輝いている。ここで《吸血鬼の君主》が攻撃した結果、中道のライフを6まで減らした。2体目の《オレスコスの速爪》を送り出し、押し込むタイミングを待つ。
ようやく5枚目の土地を引いた中道は、《騎士の勇気》を《凛々しい騎兵隊》に唱えた。しかし、これが《殺害》される。
中道「持ってるかぁ……」
と言葉を漏らして、ターンを終えた。
《ヴァレロンの有印剣》を携えた《吸血鬼の君主》が、戦場を翔ける。残りライフは1。中道は《信仰の伝令》を唱えて、これを討ち果たそうとする。加藤はターンを受けると、再び《吸血鬼の君主》で攻撃を仕掛けて剣を振るわせた。
《信仰の伝令》によって墓地に落ちる《吸血鬼の君主》。しかし、討ち果たしたところで、死を遠ざけることはできない。
“神”の手を取り、君主は踊る。
加藤 2-1 中道
リミテッド神に就任したのは、BIGsの加藤 健介! おめでとう!