人はどうして誤った選択をしてしまうのか。
何故に、明々白々なるクソデッキで大会に臨むなどということが起こりうるのか。
真剣に勝ちたいのに。真摯に勝利を希求しているのに。
それなのにも拘わらず、後から冷静になって考えれば「いや、ホント何であんなデッキで出たんだろう」と思えるほどに、一見して弱いデッキを平気で手に取ってしまう。
そういった経験は誰しもあるはずだ。
自己紹介が遅れたが、私はまつがん。
かつて幾度かプロツアーに挑み、そしてトップ8に入賞するという華々しい成果……を、全く残すことができなかった程度の者だ。
続いて記事の趣旨としては、まずこのシリーズは全5回の連載を予定している。
そして各記事ごとに、過去に行われたイベントでの『デッキ選択ミス』(私自身のものとは限らない)を事例として取り上げるつもりだ。
何故なら、人は失敗した経験や歴史からこそ多くを学びとれるからだ。
つまりはそれらのケーススタディを反面教師として、読者の方々にはくれぐれも同じ過ちを犯さないようにしてもらいたい。
そう……これから語るのは、一人で部屋にいるときに思い返せばたまらず奇声を発してしまうような、目を覆いたくなるほどの失敗の記録。
いわば黒歴史だ。
だが、それでも。その当時は、本気で検討した結果としてそのクソデッキを手に取ったはずである。
これこそが回答だと。故に勝利すべきは己であると。
衒いも臆面もなく、人間の究極の営為たる思考と意思決定を、その輝きを、最大限発揮したはずなのだ。
たとえその結果としてクソデッキを選び取ったとしても。
だから、そう。
これは、紛れもなく。
選択と決断の物語だ。
1.青の時代
時は、2009年に遡る。
プロツアー・京都09。
丁度現在のように構築とリミテッドとの混成フォーマットとなった、その初めてのプロツアーである。フォーマットはコンフラックス発売後のスタンダードと、アラーラブロックドラフトであった。
当時私は、前年のプロツアー・ベルリン08でトップ50に入賞したことにより、このプロツアー・京都09の参加権を持っていた。
そこで、プロツアーで使用するスタンダードのデッキを、選択することを迫られたのである。
環境は主に、2つのデッキから成っていた。
4 《島》 3 《沼》 4 《人里離れた谷間》 4 《沈んだ廃墟》 3 《地底の大河》 2 《フェアリーの集会場》 1 《反射池》 4 《変わり谷》 -土地(25)- 4 《呪文づまりのスプライト》 4 《霧縛りの徒党》 2 《エレンドラ谷の大魔導師》 3 《叫び大口》 -クリーチャー(13)- |
3 《砕けた野望》 2 《霊魂放逐》 4 《謎めいた命令》 3 《思考囲い》 4 《苦花》 3 《苦悶のねじれ》 3 《ジェイス・ベレレン》 -呪文(22)- |
4 《コショウ煙》 3 《瞬間凍結》 3 《残忍なレッドキャップ》 2 《その場しのぎの人形》 2 《リリアナ・ヴェス》 1 《叫び大口》 -サイドボード(15)- |
フェアリー。
モーニングタイド発売から1年、さすがにそれ以後のエキスパンションではほとんど強化されることはなかったものの、高橋 優太(東京)の国内グランプリ2連覇(静岡と神戸)がまだ記憶に新しかったこの頃は、圧倒的に警戒を受けてはいたが、それでもなお使用に足るデッキとして、依然メタゲームのトップに君臨していた。
その本質は、『4ターン目の《霧縛りの徒党》《謎めいた命令》の2択』を主軸にした、インスタントスピードでしか対処できないという堅牢な構造そのものにある。
ソーサリータイミングでのクリーチャー召喚や除去呪文などでは、フェアリーが豊富に採用する打消し呪文の網に成す術なく絡め取られ、瞬く間に敗北させられてしまうのだ。
3 《平地》 3 《山》 4 《戦場の鍛冶場》 4 《岩だらけの大草原》 4 《反射池》 4 《風立ての高地》 -土地(22)- 4 《運命の大立者》 3 《モグの狂信者》 1 《炎族の先触れ》 4 《白蘭の騎士》 3 《イーオスのレインジャー》 3 《目覚ましヒバリ》 3 《包囲攻撃の司令官》 -クリーチャー(21)- |
3 《流刑への道》 4 《幽体の行列》 2 《神の怒り》 4 《復讐のアジャニ》 4 《精神石》 -呪文(17)- |
4 《静月の騎兵》 2 《苦悩火》 2 《神の怒り》 2 《遍歴の騎士、エルズペス》 2 《ブレンタンの炉の世話人》 2 《フェアリーの忌み者》 1 《流刑への道》 -サイドボード(15)- |
そして赤白ヒバリ。
個々のカードの持つ指向性は極めて攻撃的ながらも、その実パーマネント同士の交換によってはアドバンテージを一切失わないカード群で構成された、クリーチャーによるボードコントロール。赤白という色の組み合わせ上カードを引くことだけはできないものの、そのソリッドな思想は非常に玄人受けするものであったため、こちらもプロツアー本戦で一定の勢力を築くものと思われた。
《幽体の行列》《包囲攻撃の司令官》で生成したトークンによる面展開を主軸とし、中盤以降の圧倒的な展開量に重きを置いたこのデッキは、フェアリー側からしてもマストカウンターが多すぎて対処しきれないという難敵であり、その実力は折り紙つきであった。
3 《島》 4 《反射池》 4 《鮮烈な小川》 3 《鮮烈な湿地》 2 《鮮烈な草地》 2 《鮮烈な岩山》 4 《沈んだ廃墟》 2 《滝の断崖》 1 《秘教の門》 2 《風変わりな果樹園》 -土地(27)- 3 《羽毛覆い》 3 《崇敬の壁》 4 《熟考漂い》 3 《若き群れのドラゴン》 -クリーチャー(13)- |
4 《砕けた野望》 4 《謎めいた命令》 1 《天界の粛清》 1 《恐怖》 4 《火山の流弾》 4 《エスパーの魔除け》 2 《残酷な根本原理》 1 《真髄の針》 -呪文(21)- |
4 《遁走の王笏》 2 《否認》 2 《蔓延》 2 《神の怒り》 2 《噛み付く突風、ウィドウェン》 1 《天界の粛清》 1 《霊魂放逐》 1 《薄れ馬》 -サイドボード(15)- |
2 《平地》 1 《沼》 4 《コイロスの洞窟》 4 《悪臭の荒野》 4 《秘儀の聖域》 4 《反射池》 4 《風立ての高地》 2 《変わり谷》 -土地(25)- 4 《メドウグレインの騎士》 4 《潮の虚ろの漕ぎ手》 4 《台所の嫌がらせ屋》 4 《雲山羊のレインジャー》 -クリーチャー(16)- |
4 《恐怖》 4 《苦花》 4 《幽体の行列》 4 《栄光の頌歌》 3 《黄金のたてがみのアジャニ》 -呪文(19)- |
3 《流刑への道》 3 《ブレンタンの炉の世話人》 2 《神の怒り》 2 《頭脳いじり》 2 《遍歴の騎士、エルズペス》 1 《天界の粛清》 1 《薄れ馬》 1 《黄金のたてがみのアジャニ》 -サイドボード(15)- |
だがしかし、あにはからんや、プロツアー・京都09の決勝に残ったのはそのどちらのデッキでもなく、ナシフのクイッケントーストとLSVの駆る白黒トークンだった。
ナシフのクイッケントーストは《羽毛覆い》《火山の流弾》《謎めいた命令》と搭載し、インスタントスピードというアンチフェアリーの最低条件をクリアしつつ、赤白ヒバリに対しても面展開に対して〈火山の流弾〉がナチュラルに突き刺さる上、アドバンテージの究極系とも言える《残酷な根本原理》はいかに赤白ヒバリのリカバリー力といえど再起不能に追い込むのに十分なフィニッシャーであり、両者の海を泳ぎきるに足るポテンシャルを持っていた。
またLSVの白黒トークンも、《メドウグレインの騎士》《台所の嫌がらせ屋》によるライフ補充を頼みに《苦花》を自動トークン生成装置として運用しつつ、《幽体の行列》《雲山羊のレインジャー》と合わせて赤白ヒバリと同等の展開力を保持し、さらに展開されたトークン同士の戦闘は《栄光の頌歌》《黄金のたてがみのアジャニ》の2種の全体強化により一方的に有利になるという、赤白ヒバリキラーの構成をとっていた。
フェアリーに対しても、《苦花》《台所の嫌がらせ屋》《幽体の行列》とフェアリー側が苦手とするカードをたんまり詰め込み、かつ《恐怖》で《霧縛りの徒党》をしっかりインスタントスピードで対処という、こちらも環境のソリューションと言っていいほどに百点満点の回答であった。
決勝はフルセットまでもつれ込む熱戦となったが、決まり手はトークン展開という性質上LSVのデッキに対してもキラーカードとなった《火山の流弾》だった。プロツアー・京都09の優勝トロフィーは、ほんのわずかな差でナシフが掴み取った。
また、他にもこの大会での印象的なエピソードとして、ナシフの準々決勝でのあの伝説的な《残酷な根本原理》トップデッキは、今でも語り草である。棚橋 雅康(新潟)と山本 明聖(和歌山)という日本人2人のトップ8入りもあり、興業的にもなかなかの盛り上がりを見せた国内プロツアーだった。
……が、それは勝者の物語。光の当たる側からの視点に過ぎない。
プロツアー・京都09には闇があった。
決してマジックの歴史に残してはいけないそれは汚点。
すなわち、同じ75枚をシェアして意気揚々とプロツアーに臨んだものの、フィーチャーテーブルのスポットライトを浴びることなく、開幕の構築ラウンド4回戦で一瞬でスタンディングの彼方へと消え去っていった日本人が3名。
その中に、私も含まれていた。
そう……つまりは、選択を誤ったのだ。
では、実際に私が選択したデッキは何だったのか。
2.白き衝撃
WMCQ東京大会の決勝のカバレージでも触れられているが。
このとき稀代のデッキビルダー「らっしゅ」こと高橋 純也(神奈川)が作成し、前年の日本選手権08で準優勝の高桑 祥広(東京)と、そして凡夫たるこの私という3人ものプレイヤーが選択した、いやしてしまった、マジックの恥部。
それこそが、あの悪名高い青白GAPPOであった。
7 《島》 1 《平地》 4 《アダーカー荒原》 4 《秘教の門》 4 《変わり谷》 -土地(20)- 4 《エーテリウムの彫刻家》 4 《ヴィダルケンの異国者》 4 《エスパーゾア》 4 《エーテリウムの達人》 -クリーチャー(16)- |
4 《謎めいた命令》 4 《他所のフラスコ》 3 《バネ葉の太鼓》 3 《精神石》 3 《彫り込み鋼》 2 《ロクソドンの戦槌》 3 《災いの砂時計》 2 《求道者テゼレット》 -呪文(24)- |
3 《流刑への道》 3 《否認》 3 《剃刀毛のマスティコア》 2 《卓越の印章》 2 《真髄の針》 1 《大祖始の遺産》 1 《災いの砂時計》 -サイドボード(15)- |
かつて親和というデッキがあった。
アーティファクトを高速で展開し、相手が態勢を整える前に打ち倒すというその驚異的なコンセプト。
そのコンセプトをそのまま継承したのがこの青白GAPPOというデッキだ。
《バネ葉の太鼓》《エーテリウムの彫刻家》《精神石》からの《エーテリウムの達人》《エスパーゾア》でクロックを高速展開。相手方のパーマネントは《災いの砂時計》で一掃。さらに切り札として《謎めいた命令》も用意した。
その滑らかな動きはまさしく親和の後継者を名乗るにふさわしい。
プロツアー前にこのデッキのプロトタイプをらっしゅから受け取った私は、思いもよらぬ隠し玉に興奮し、それから昼夜を問わず一人回しに没頭した。
そうさせるだけの魅力があった。
それだけでなく、このデッキの設計思想は無論、フェアリーと赤白ヒバリを倒すことを主眼に置いている。
すなわち、まずフェアリーについては『4ターン目の2択』が問題となるのだから、逆説的に3ターン目までにクリティカルな盤面を構築することができれば問題になることはない。それを可能にするのが《エーテリウムの彫刻家》の圧倒的な展開力と、《エーテリウムの達人》の非常に高いクロックだ。
さらに赤白ヒバリについても、《運命の大立者》を除けば、基本的には3ターン目~5ターン目という中盤以降の動きに強みがあるデッキだ。だから《ヴィダルケンの異国者》を露払いとし、《エスパーゾア》《他所のフラスコ》のコンボで一足先に制空権を握り、あとは《災いの砂時計》で蓋をしてしまえば、赤白ヒバリの土俵に引きずり込まれる前に決着させることが可能となる。
最後におまけとして、このデッキはオリジナルデッキである。であれば、不可避のわからん殺しという副作用も期待できる。
けだし完璧。
そう思ったのも無理からぬところだ。
脳裏に浮かんだのは完全勝利のヴィジョン。
3人でトップ8の椅子を3つも占領。決勝は青白GAPPO対青白GAPPO。そして当然青白GAPPOの優勝。ついでに賞金もGAPPO。
そんな夢物語すら現実味を帯びて見えた。
……しかし、結果は。
上記のカバレージでもご案内の通り、初日の構築ラウンド4回戦を1-3(高橋)、1-3(高桑)、1-3(私)。
3人合わせて3-9……あまりにも象徴的なその数字はマジックの神への感謝(サンキュー)として奉納されたのだった。というか、そういう風に自分を騙さないとやりきれないほどに、あからさまな失態であった。
何回戦目かで当たった外国人に「それはビートダウンなのかコントロールなのか?」みたいなことを(英語で)聞かれ、
“I can’t define.”(ごめん、どっちかよくわからないや)と苦笑しつつ答えたことを今でも鮮明に覚えている。
わからないってどういうことやねん。お前のデッキやぞ。
開き直って“This is a fuckin’ shit deck, you see.”(見てわかるだろ?クソデッキだよ)とでも答えておけばよかったかもしれない。
ともあれ、かくしてこの青白GAPPO、そして反省会における高橋の「勝ちたいなら勝ちたいって言ってよ」の捨て台詞は伝説となったのだった。
……だが、ここまではただの歴史的事実。前置きに過ぎない。
ようやく本題に入る。
何故……そう、何故(Why)だ。
どうして我々はこのクソデッキを選択してしまったのか?
(忘れているかもしれないが)それを分析し、読者のデッキ選択の参考にしてもらうことがこの記事の主眼である。
はっきり言ってもう思い出したくない過去だが、失敗と向き合わなければ成長はない。
知らねばならない。見つめ直さなければならない。
あの時、何をトチ狂って青白GAPPOでプロツアーに出ようなどと決断してしまったのか。
3.Grand Architect
そもそも青白GAPPOは何故勝てなかったのだろうか。
『4ターン目の2択』に先んじてフェアリーを追い詰める展開力と、赤白ヒバリをメタったカードチョイス。
そう聞くと一見ソリューションに思われるかもしれない。
だが、このロジックには明らかに欠陥があった。
だから、フェアリーを美、赤白ヒバリを剛とするならば。
青白GAPPOはクソと呼んで差し支えなかった。
では、どのような欠陥があったのか。
1つは、インスタントスピードというフェアリー対策の根幹条件を実は満たしていないことにある。
そもそもフェアリーが存在する環境で、「アップキープに《霧縛りの徒党》出されました→(妨害できないので)はいタップされました」が許されるはずもない。4マナ4/4飛行+タイムワープを許してしまったら、それはもはやマジックではない。
にも関わらず、このデッキにはインスタントは4枚の《謎めいた命令》のみで、それ以外は何のブラフもなく《呪文づまりのスプライト》にすら余裕で引っかかるソーサリータイミングのカードばかりなのだ。
これでは結局4ターン目を迎えたら2択にモロに引っかかることになるので、4キルできない限り何の解決にもなっていない。そしてこのデッキが4キルすることは実質ほぼ不可能なのだった。
もう1つは、展開力という点で赤白ヒバリに対しても実際は有利に立っていないことだ。
《エスパーゾア》《他所のフラスコ》によるアドバンテージ補充は、赤白ヒバリの持つ強靭にして無限のリカバリー力に比べれば毛ほどの価値もない。というか、そもそも《エーテリウムの彫刻家》を引かなければこのデッキの展開力はリミテッドのデッキと何ら変わりがなく、その上、毎ターン手札に帰ってくる《他所のフラスコ》とかいうゴミを再キャストすることすら容易ではないのだった。
要はこのデッキの展開力は全て4枚しか入っていない《エーテリウムの彫刻家》に依存していたのだ。
「ぶん回れば勝てる」はすなわち、「ぶん回らないと勝てない」に他ならない。
LSVとナシフのデッキが、いやそれどころかこのプロツアー京都に参加した他のほとんどすべてのデッキが満たしていたフェアリーと赤白ヒバリ対策の最低条件を、このデッキは満たしていなかった。
だから勝てなかったのだ。
環境のソリューションと言っていたじゃないかって?あれは詭弁だ。自分で自分の脳を騙すためのロジックだ。
だから、我々が追求しなければならないのは、なぜ、自分の脳を騙してまでこのデッキを選択してしまったのか、自分の脳を騙そうとまで思わせるなにがこのデッキにあったのか、だ。
ここで問わねばならないのは、選択の瑕疵が生じた縁由。
これほど明白で重大な、構造的な欠陥があることに、どうして我々は気づけなかったのか。
それこそが本題だ。
数多の欠陥から無意識的に目を背け、青白GAPPOを手に取った本当の理由。
今ならわかる。
それは最も本質的には
少なくとも当時、《彫り込み鋼》や《ヴィダルケンの異国者》などを使用したデッキはメタゲーム上に皆無であった。
となれば、当然期待するであろう。わからん殺しという名のイージーウィンを。
あるいは、分不相応にも夢を見てしまったのかもしれない。「日本人が作ったオリジナルの親和がプロツアーで大暴れ!」と英語版カバレージに書かれることを。
だがいずれにせよ、デッキビルダーならば事前にわかってしかるべきだった。
たとえ、わからん殺しの可能性が多少あったとしても。
作ったオリジナルデッキ全てが「当たり」だなんて、そんな甘い話はないのだ。
だから、最終的な決断を下す前に、オリジナルであるが故のバイアスがかかっていないか、実際にはクソデッキではないか等々、十分に検証すべきであったと言える。
しかしここで、もう1つ重要な問題が生じる。
それは、検証作業を続けているといつの間にか「このクソデッキにどうにかまだ進化の余地はないか」と拘泥するようになってしまう、ということだ。
自ら時間と労力をかけ、手塩にかけたそのオリジナルデッキを、手放すことは容易ではない。
それは言うなればクリエイティブの罠。
我々はこの罠に見事に嵌まってしまい、気がつけば残り時間は少なく、青白GAPPO以外の選択肢はなくなってしまっていた。
その末に「もうこれしかないし」と、自己の選択を正当化したのだ。
マジック:ザ・ギャザリングは思考のゲームである。
たとえライブラリートップが常に運否天賦だとしても、己の取りうる選択肢を最大限検討し、プレイミスを極限まで減らす道筋を考えることが、勝利への第一歩だ。
だが、このときの我々は。
最後まで考え抜くことの苦しさ、その辛さから目を背け、いわば甘えたのだ。
あまりにも難解な局面に匙を投げ、ままよとばかりに指運に委ねるがごとく。
「せっかく作ったんだし、この最強デッキで出ようぜ」
思考を停止したのだ。
4.PPO
高橋:「要は、オリジナルデッキとは何かということに帰着するんだけど」
当時のことを振り返りつつ『らっしゅ』高橋は語った。
高橋:「あのとき僕らは、ただ『誰も使っていないカード』を使えばそれで存在証明になると考えていた。でも、青白GAPPOの持っている『良い部分』『強み』……あるいは『コンセプト』って言ってもいい。そういった要素は、実は当時の他のデッキにも見出すことができるんだよね」
展開力ならキスキンが、ボードコントロールなら赤白ヒバリが、青命令を使ったデッキならフェアリーやトーストが既にあった。青白GAPPOは確かに、当時誰も使っていないカードをいくつも組み合わせた『オリジナルデッキ』ではあったが、それは実際には他のデッキの劣化コピーでしかなかったのだ。
高橋:「『4ターン目の2択』より早い《エーテリウムの達人》のクロック、《幽体の行列》を引かれない限り《エスパーゾア》が無双……そんな理屈は、結局どこにでもつけることができる。大事なのは、『それは本当にこのデッキじゃないと出来ないのか?』と問い続けることだったんだ」
今年、唯一無二のコンセプトを持つ呪禁オーラで見事日本代表の座を勝ち取った高橋。当時の反省は、高橋の中でもしっかりと生かされている。
高橋:「本当の意味での『オリジナルデッキ』とは、『オリジナルなコンセプト』を持ったデッキのことなんだ。その認識を履き違えて作った青白GAPPOは、言うなれば『オリジナルなクソデッキ』だったね」
デッキ選択の場面で、候補としてコピーデッキAとオリジナルデッキBがあるとき。
『オリジナルであること』は確かに有力な選定基準となるだろう。
だが、コピーデッキにはコピーされるべき理由がある。
一人回し、勝率、メタゲーム……どうしてもデッキBの客観的な要素に信頼が置けないと思ったならば。
いまいちど立ち止まって、よく考え直してみて欲しい。
そのデッキにしかできない動き。
そのデッキだけの『強み』が、『コンセプト』が本当にあるのか?……と。
だから、今回の教訓はこれだ。
思考を止めるな。オリジナルなクソデッキはコピーデッキ以下である。
無論、草の根大会やフライデーナイトマジックにクソデッキを持ち込む分には何ら問題はない。
しかし、グランプリやプロツアーなどの一期一会の大舞台で、少しでもデッキ選択に後悔の生じる余地があるのなら。
この言葉と、青白GAPPOの悲劇をもう一度思い出してみて欲しい。
それでは、(打ち切りにならない限り)第2回でまた会おう。
良いクソデッキライフを!