あの日見たクソデッキの名前を僕達はまだ知らない。 vol.2 PTパリ11 -青黒テゼレット-

伊藤 敦



1.まつがんヴァーサスッッ!! (※1)

 とある菊名某所(※2)にて

まつがん(以下「ま」) 「今回はマジック世界最強の男、渡辺 雄也さんにお越しいただいております」

ナベ 「ていうかこの形式、浅原さん(※3)に怒られないかな?」

「前回の記事に長文クソツッコミを入れなかった心の広いビクトリー仮面(※4)さんのことだから、多分大丈夫でしょう」

ナベ 「ですかね」

「じゃあまず恒例の今期のアニメの話でもする?」

ナベ 「それじゃまず『ロウきゅ……」

「(食い気味に)あ、やっぱいいです。さて、時間も押してるんでそろそろ本題に入るけど。ナベには何かプロツアーとかでデッキ選択をミスっちゃった的な話はないかな?」

ナベ 「あれ、クソデッキじゃなくていいの?タイトルは『あのクソ』なのに」

「いや、プロツアーに青白GAPPOレベルのクソデッキで出るやつは後にも先にも我々だけだろうから、他のクソデッキは大体青白GAPPOの下位互換になると思うんだよね」

ナベ 「上位互換の間違いじゃない?」

「まあまあ。で、何かないの?」

ナベ日本選手権11で一緒に使った赤単ゴブリンとかはどう?かなり後悔したよ」

「あれはどう考えても青白GAPPOと同じノリだったでしょ!それに俺あれでPTQ抜けたし!はい次!」

ナベ 「と、言われてもなぁ……」

「あ、あれはどう?プロツアー・パリ11青黒テゼレットとか」

ナベ 「え、あれはデッキ選択ミスじゃないよ。ほとんど後悔してないし」

「いや、でも見事に負けたわけじゃん。『例のデッキ』にさ。そしたらミスじゃない?クソデッキだったんじゃない?」

ナベ 「あれがミスだったとは今でも思ってないよ」

「ほう……あくまでミスじゃなかったと言い張るなら、説明してもらおうか。その理由を」

ナベ 「よかろう」




※1 『浅原ヴァーサスッッ!!』:かつてhappymtgで連載されていた名記事であり、この段落の元ネタ。
※2 KAKAO邸:エキスパンション発売ごとにトッププロが集まってドラフト合宿が開かれているらしい。
※3 浅原 晃:究極かつ至高のデッキビルダー。
※4 ビクトリー仮面:プロツアー名古屋11にて颯爽と現れた謎の怪人。



2.プロツアー・パリ11

 冒頭から何やらよくわからない電波が混信してきているが、リンク先が間違っているわけではなく、この記事は『あのクソ』第2回である。

 前回の記事には予想以上に多くの反響があり、おかげで失踪できなくなった楽しみにしていただいている読者の皆様のためにも、短い間ではあるが、より面白い記事を提供するべく頑張っていこうと思う。



 さて、今回の舞台は2011年のプロツアー・パリだ。

 『日本勢は、なぜ勝てなかったのか。』プロツアー・アムステルダム10から半年足らず。あるいはワフォタパとマティノンのフランス勢対決が印象的だった世界選手権10を経た後の、2011年シーズン一発目のプロツアー。

 そして、この物語の主人公は。
 冒頭の茶番でおわかりであろう、渡辺 雄也(神奈川)その人である。

 このとき、構築ラウンドのフォーマットはミラディン包囲戦の発売直後のスタンダードであり、事前の予想では、基本的に前年の世界選手権10でのメタゲームを引き継ぐ形になると思われた。

 すなわち必然的に。
 渡辺にとって警戒すべきデッキは、2つのみに絞られることとなった。



Guillaume Matignon 「青黒コントロール」 世界選手権10(優勝)

5 《島》
3 《沼》
1 《霧深い雨林》
1 《新緑の地下墓地》
4 《闇滑りの岸》
4 《水没した地下墓地》
4 《忍び寄るタール坑》
4 《地盤の際》

-土地(26)-

2 《海門の神官》
3 《墓所のタイタン》

-クリーチャー(5)-
4 《定業》
4 《広がりゆく海》
4 《マナ漏出》
1 《取り消し》
3 《コジレックの審問》
1 《強迫》
2 《見栄え損ない》
2 《破滅の刃》
2 《弱者の消耗》
2 《ジェイス・ベレレン》
4 《精神を刻む者、ジェイス》

-呪文(29)-
3 《漸増爆弾》
3 《記憶殺し》
2 《強迫》
2 《見栄え損ない》
2 《瞬間凍結》
1 《剥奪》
1 《破滅の刃》
1 《ソリン・マルコフ》

-サイドボード(15)-
hareruya



墓所のタイタンマナ漏出精神を刻む者、ジェイス


 ミラディン包囲戦以前の王者は、青黒コントロールだった。

 軽量ハンデスと除去で対戦相手の最序盤の行動をいなしつつ、6枚のプレインズウォーカーでアドバンテージを確保。そうした数々の露払いから着地する《墓所のタイタン》の圧倒的なクロックは相手の心を折るのに十分だった。

 また、後述する最大の仮想敵だったヴァラクートに対しても、《広がりゆく海》でしっかりと対策。

 これにミラディン包囲戦から《黒の太陽の頂点/Black Sun’;s Zenith》《喉首狙い》が加わればまさに敵なし、プロツアー本戦でも依然として盤石のTier1デッキであり続けるものと思われた。



Matt Sperling 「ヴァラクート」 世界選手権10

11 《山》
5 《森》
3 《広漠なる変幻地》
3 《進化する未開地》
1 《新緑の地下墓地》
1 《カルニの庭》
4 《溶鉄の尖峰、ヴァラクート》

-土地(28)-

4 《草茂る胸壁》
4 《原始のタイタン》
1 《業火のタイタン》
3 《ゼンディカーの報復者》

-クリーチャー(12)-
4 《カルニの心臓の探検》
4 《探検》
4 《砕土》
3 《耕作》
3 《召喚の罠》
2 《紅蓮地獄》

-呪文(20)-
3 《転倒の磁石》
3 《酸のスライム》
2 《紅蓮地獄》
2 《裏切りの本能》
2 《強情なベイロス》
2 《ガイアの復讐者》
1 《召喚の罠》

-サイドボード(15)-
hareruya



原始のタイタンカルニの心臓の探検溶鉄の尖峰、ヴァラクート


 そしてヴァラクート。

 世界選手権では青黒コントロールに食われ、トップメタの座を追われたものの、ミラディン包囲戦からは《緑の太陽の頂点》という『5~8枚目の《原始のタイタン》』を得たことで、再びトップメタの座へと返り咲くことが確実視されていた。また、地味に《最後のトロール、スラーン》という優良サイドカードも獲得しており、本命の青黒コンを跳ね返すのに十分な材料があった。

 そう……つまりこのときのメタゲームとは要するに、青黒コン対ヴァラクート。
 前年の世界選手権の結果と、そしてミラディン包囲戦のカードリストから、プロツアー・パリ本戦でも再びこの2つのデッキの争いになるであろうことが容易に想像がついた。

 そこで。
 この2つの大きな越えるべき壁を前に、渡辺 雄也と森 勝洋(東京)が共同で開発したのが。

 青黒テゼレットであった。



渡辺 雄也 「青黒テゼレット」 プロツアー・パリ11

4 《島》
3 《沼》
1 《霧深い雨林》
1 《新緑の地下墓地》
4 《闇滑りの岸》
4 《水没した地下墓地》
4 《忍び寄るタール坑》
4 《墨蛾の生息地》

-土地(25)-

3 《先駆のゴーレム》

-クリーチャー(3)-
4 《定業》
4 《マナ漏出》
3 《コジレックの審問》
1 《強迫》
2 《破滅の刃》
1 《喉首狙い》
3 《精神を刻む者、ジェイス》
4 《ボーラスの工作員、テゼレット》
4 《永遠溢れの杯》
3 《漸増爆弾》
2 《饗宴と飢餓の剣》
1 《転倒の磁石》

-呪文(32)-
3 《見栄え損ない》
3 《ファイレクシアの槽母》
2 《呪文貫き》
2 《黒の太陽の頂点》
2 《ジェイス・ベレレン》
1 《強迫》
1 《破滅の刃》
1 《転倒の磁石》

-サイドボード(15)-
hareruya



先駆のゴーレムボーラスの工作員、テゼレットファイレクシアの槽母


 ミラディン包囲戦の目玉プレインズウォーカー、《ボーラスの工作員、テゼレット》をフィーチャーしたこのデッキは、青黒コンに対してはハンデスの打ち合いから相手が決して相殺できないプレインズウォーカーを着地させ、そのままマウントを取れる構造となっており、また《先駆のゴーレム》は、《破滅の刃》のスロットが《墓所のタイタン》の対処のため《喉首狙い》に差し替わりがちという点を巧みについた起用であり、同型戦で無類の強さを誇った。

 ヴァラクートに対しても、青黒コンほどのメタり具合ではないものの、軽量ハンデス+軽量カウンターというヴァラクート対策のより本質的な部分だけを抽出して残すことで、相性差を維持することに成功している。さらにサイド後は、ヴァラクート側が対処できない《ファイレクシアの槽母》の投入により、圧倒的にすら有利になるのだ。

 つまり一言で言って、ソリューションと呼ぶにふさわしいポテンシャルを持っていたのである。

 デッキが完成したのは出発の直前というギリギリのタイミングだったが。
 渡辺と森が、口を揃えて「これは勝った」と力強く言ったそうだ。



 そしてプロツアー当日。

 メタゲームも、初日は青黒コンとヴァラクートが2割ずつで、読みどおりの支配率だった。

 渡辺は初日8回戦を7-1で折り返し、2日目の開幕ドラフト3回戦を2-1でまとめ、11回戦終了時点で9-2、スタンディング5位。
 残りスタンダード5回戦、3-1できればIDでトップ8に残れる。そんな絶好のポジションだった。

 だが。
 そこに『例のデッキ』が立ちふさがった。

 12回戦目でEric Froehlich、14回戦目でOwen Turtenwald。
 海外の並み居る強豪たちがこぞって使っていた『例のデッキ』に、渡辺は成す術なく黒星を重ね。
 結果、終わってみれば2日目のスタンダードは1-4と惨敗、最終順位は53位と、11回戦時点でのパフォーマンスからすれば大いに不満が残る結果となった。

 けれども、それも仕方のない話だったかもしれない。
 のちに、スタンダードでは極めて珍しい禁止カードを2種類も輩出することとなる『例のデッキ』……その最強のデッキは。

 Caw-Goと、そう呼ばれていた。



3.Caw-Go

 今にして思えば、あれは紛れもなくマジックの歴史の転換点の1つだっただろう。


Ben Stark 「Caw-Go」 プロツアー・パリ11 (優勝)

5 《島》
4 《平地》
1 《霧深い雨林》
4 《金属海の沿岸》
4 《氷河の城砦》
4 《天界の列柱》
4 《地盤の際》

-土地(26)-

4 《戦隊の鷹》
4 《石鍛冶の神秘家》

-クリーチャー(8)-
4 《定業》
4 《呪文貫き》
3 《マナ漏出》
1 《剥奪》
1 《冷静な反論》
4 《審判の日》
4 《精神を刻む者、ジェイス》
3 《ギデオン・ジュラ》
1 《シルヴォクの生命杖》
1 《饗宴と飢餓の剣》

-呪文(26)-
4 《失脚》
3 《漸増爆弾》
2 《神への捧げ物》
2 《瞬間凍結》
2 《悪斬の天使》
1 《否認》
1 《肉体と精神の剣》

-サイドボード(15)-
hareruya



石鍛冶の神秘家饗宴と飢餓の剣精神を刻む者、ジェイス


 美しい。

 リストを見るだけでその盤石さが伝わってくるような、洗練された75枚。まさしくプロツアー優勝デッキにふさわしい品格だ。

 このときのトップ8には実に22枚の《石鍛冶の神秘家》が採用されていたというのだから、そのことだけでも《饗宴と飢餓の剣》が環境に与えたインパクトがどれだけ強かったかがうかがい知れる。

 トップ8に見事入賞した石村 信太朗(埼玉)も中田 直樹(愛知)も、そして最終戦で中田に敗れて苦杯を嘗めた行弘 賢(和歌山)も。2日目のスタンダードラウンドで多くの勝ち星をあげたのは、ほとんどが《石鍛冶の神秘家》《饗宴と飢餓の剣》ユニットの使い手だった。青黒コンもヴァラクートも、この悪辣な装備品の前では等しくクソデッキだった。

 地味に歴代の1マナドローの中でも強力な部類である《定業》の助けもあり、かなりの確率で発生するこの《苦花》ライクな『2マナマウント』は、これ以後相対するプレイヤーたちの心を幾たびとなく挫き、へし折り、そしてまた、数多のローグデッキ使いをプライドなきCaw使いへと改宗させた。だがそれでも、その変節を責める者がいるはずもなかった。それだけ圧倒的な強さだったのだ。

 実際、Cawの支配はこのプロツアーの後も《石鍛冶の神秘家》《精神を刻む者、ジェイス》の禁止まで続いている。

 その最強のデッキに。
 だがしかし、肉薄はしていたのだ。

渡辺 「メインの《饗宴と飢餓の剣》《転倒の磁石》の枚数が逆だったなら」

 と、渡辺は悔しそうに語った。

渡辺《転倒の磁石》を引いたゲームは勝てたから、それさえ逆だったらもっと上を目指せたと思う」

 Cawのデビューが鮮烈すぎたせいであまり知られてはいないが、青黒テゼレットは、当初の狙い通り多数派の青黒コンやヴァラクートを狩ることはできたため、善戦はしていたのだ。

 それでも、青黒テゼレットの他の使用者だった、森 勝洋、中村 修平(東京)、井川 良彦(東京)といった面々。その全員が、スタンディング上位に居座るCaw使いたちに阻まれ、好成績を残せなかった。

 敗因は、2枚目の《転倒の磁石》の採用を見送ったこと。当日の朝まで悩んで結局《饗宴と飢餓の剣》を優先したが、裏目に出てしまったのだという。

 75分の1枚。そのほんのわずかな判断の差が明暗を分けた。
 そう……つまり、紙一重だったのだ。

 なら、これだけは聞いておかねばなるまい。

 もし。
 もし仮に、プロツアーの始まる前に戻れるとしたら。

渡辺《転倒の磁石》を1枚増やした青黒テゼレットで出るね」

 やはりそうか。
 ならば青黒テゼレットは、Cawに鮮やかに出し抜かれた格好にはなったけれども、その実クソデッキではなかったのだ。

 『あのクソ』、第2回にして早くも企画倒れか。やはり失踪するしかないか。

 でも念のため、一応最後に確認しておこう。

 『プロツアー前にCawを知ってたとしても、青黒テゼレットを使う』……そういうことでいいんだね?

渡辺 「え?いや、Caw知ってたらさすがにCaw使うよ(笑)」



 あれ?

 おかしいな、聞き間違いかな。

渡辺 「青黒テゼレットのコンセプトなんて全部所詮Cawの下位互換だしね。もしプロツアー前にCawが手元にあったら、青黒テゼレットなんかオリジナルクソデッキ(笑)って言い切ってたと思うよ」

 やっぱりクソデッキなんじゃねーか!!!

 いや待て、もう一度整理しよう。
 どっちも知ってたら迷わずCaw使うってことは、やっぱりCawは最強だったわけで。青黒テゼレットなんて歯牙にもかけないレベルなわけで。

 それほどまでに強いデッキを。
 それほどまでに極悪な《石鍛冶の神秘家》《精神を刻む者、ジェイス》《戦隊の鷹》のトライアングルユニットを、プロツアー前に見出すことができなかったこと。
 それをこそデッキ選択ミスと呼ばずして、何をそう呼ぶというのだろうか?

 問われた渡辺はしかし、なおも首を横に振った。

渡辺 「確かにあの青黒テゼレットはクソデッキだったかもしれない。それは歴史を見れば明らかで、Cawは環境に居残り続け、ついには禁止にまでなった。対してテゼレットはヤソ一部の熱狂的なファンが使い続けたけれど、どちらがより多くの成功を収めたかは言うまでもない」

 ならば、選択ミスではないか。青白GAPPOではないか。

渡辺 「それは違う。青黒テゼレットはオリジナルクソデッキだったかもしれない。コンセプトはCawの下位互換だったかもしれない。けれども、青黒テゼレットを選んだことは間違いではなかったんだ」

 クソデッキだったけど、選択ミスじゃない……?
 そんな妄言を正当化できる境界条件があるというのか。

 ならば、それは何だ?


渡辺 「調整の精度だよ」



4.調整とは何か

渡辺 「プロツアーは新セット発売直後に行われる。だからそのくらいの時期になると、僕の場合はまず新セットの中から有望そうなカード10枚ほどを見繕って、既存のデッキに組み込んでプレイテストする。それが調整の始まりだ」

 へぇ、トッププレイヤーはそんな風に調整をしているのか。と感心する間もなく渡辺は続けた。

渡辺 「例えばM14の場合、再録でカードパワーははっきりしている《変わり谷》《漁る軟泥》は当然として、《ザスリッドの屍術師》とか、《紅蓮の達人チャンドラ》とか、仮に見た目で『弱そう』と思ったとしても実際に試すまでは何ともいえないから、やっぱり色々試したね。でも冷静に考えてみると、リストが出てからプロツアーまでは1か月くらいしかないのに、そういったカード全部の組み合わせを試すなんて、土台不可能な話なんだよ」

 プロプレイヤーとて四六時中マジックをしているわけではない。そこには当然時間の制約がある。

渡辺 「それに、スタンダードとはいっても4つか5つのエキスパンションは含んでいるだろう。それらのカードの無数にある組み合わせを、ビートダウン、コンボ、コントロールといったアーキタイプ全てに当てはめて総当たりで試すなんて芸当が、人間に出来るわけがないよね。そこには当然試せない組み合わせもあるだろう。事実あの時の僕らは、《石鍛冶の神秘家》《戦隊の鷹》入りのボロスなど、アグロデッキで運用する限りにおいては、《石鍛冶の神秘家》シナジーの有望さには気がつけていたんだ」

 それは興味深い事実だ。ならば《精神を刻む者、ジェイス》まであと一歩だったではないか、気づいてしかるべきだ……と言いたくもなるが、やはりそうではないのだと渡辺は言う。

渡辺 「つまりね……もともと調整っていうのは不確実なものなんだよ」

 なるほど、不確実……どれだけ調整をしたとしても、完璧なデッキが常に見つかるわけではない、ということか。

渡辺 「それがわかっているから、調整するときはあらかじめ最低ラインを設定する。今回はそれが『青黒コントロールとヴァラクート双方の打破』だった……プロツアー・京都09で青白GAPPOを使った君たちが『フェアリーと赤白ヒバリの打破』を目標に掲げたように」

 そうだ、青白GAPPOだって最低ラインは設定した!どこが違う、何が!!

渡辺 「いや、君らはオリジナルにこだわった結果、その『最低ラインクリア』の判断を誤魔化したわけでしょ?でも青黒テゼレットはきちんと、逃げずに冷静に客観的に判断して、青黒コントロールとヴァラクートに有利がつくデッキだったよ」

 なん……だと……

渡辺 「『青黒コンとヴァラクートに勝てる』っていう最低ラインはクリア、それで実際にプロツアー本番も読み通りその2つで40%をも占めていたわけだ。つまり『適切な最低ラインの設定』そして『ラインクリアの認定』を全て誤りなくやってのけたってことだ。それがすなわち調整の精度ということの意味であり、青白GAPPOと違うところだね」

 そうか……そうだったのか。だから青白GAPPOは神への感謝(サンキュー)で、渡辺は53位だったのか。

渡辺 「勝つために必要なのは、プロセスを恣意的にではなく、忠実に客観的に守ること……メタゲーム、新カードの採用、自分のデッキの勝率、そういった事前に見えている情報を的確に整理し、分析し、課題を設定して乗り越える。その手順をちゃんと踏むことなんだ。その過程を経ていれば、精度が高い調整をしたと言える。その結果出来たデッキが、たまたま見えていないところでできたCawの下位互換だったとしても……それは結果論でしかない」



 青白GAPPOも青黒テゼレットも、事後的にコンセプト下位互換のクソデッキと評価されるものであることに違いはない。

 しかし、事前の調整の精度という点においては、青黒テゼレットはきちんと勝つための作法を踏襲し、設定した課題をクリアしており、そこには青白GAPPOに見られた詭弁も誤魔化しもない。だから誇れるのだ。

渡辺 「それにしても、2日目の上位があそこまで偏ったデッキ分布になることは予想できなかった。今思えば、青黒テゼレットじゃなくてもクロックパーミッションというのは玄人好みというか、強いプロたちが選びそうなポジションではあったから、それがわかってればメインの《転倒の磁石》をもう1枚増やすべきだったし、少なくとも当時日本の草の根にもCaw-Goの萌芽はあったから、そのあたりの話を拾って、より良い調整はできたかもね」

 ただそれでも、と渡辺は続けた。

渡辺 「事前だけでなく事後的にもソリューションと呼ばれるような、Cawみたいな完璧なデッキを環境初期に作り上げるには、やっぱり閃きが必要になると思う。調整はどこまでいっても運ゲーなんだよ。だから、調整の精度は高かったのに、ただCawにだけ気づけなかった、閃きが降りてこなかった……そのことをあげつらって選択ミスというのは、『調整は不確実なもの』という原則を無視していると思うよ」

 はい……すみませんでした……青黒テゼレットは良く頑張った方だと思います……青白GAPPOは唯一無二のクソデッキでした……。

渡辺「最強のプロ集団として知られるChannel Fireballも、閃きが浮かばなくて度々苦労しているという話は公式の記事でも触れられているところだね(例:プロツアー・フィラデルフィア11世界選手権11)。チャネルでさえそうなんだから、調整というのは本質的に運が絡むものと言わざるをえない」

 あれだけ才能あるプレイヤーが集まってるんだから、いつも秘蔵のソリューションを2~3個用意できてるものと思っていたけれど、そういうわけでもないのか。

渡辺 「逆に、閃きだけあっても調整の精度が不十分だとそれはそれで勝ちきれないものだ。パリのトップ8では《石鍛冶の神秘家》の採用枚数にばらつきがあるけれど、このあたりは調整の精度が足りていなかったのを窺わせるね。まあ《石鍛冶の神秘家》に辿り着いたっていう閃きだけでも、このときは十分だったようだけれど」

 閃きだけでは勝てないこともある。だが、調整の精度は裏切らない。

渡辺 「たまたま調整も閃きもすべてうまくいったケースもある。それがプロツアー「ラヴニカへの回帰」での《死儀礼のシャーマン》入りジャンドだったね」

 決勝で《第二の日の出》デッキに敗れはしたものの、確かにモダンの《死儀礼のシャーマン》ジャンドはその後も当時のCaw-Goに勝るとも劣らない支配率を見せた。

渡辺 「まあでもやっぱり《死儀礼のシャーマン》に気づけたのもCawに気づけなかったのも等しく運不運の問題であって、大事なのは精度の高い調整が出来るかなんだと思う」

 Caw-Goという稀代のデッキを見過ごした話を語る間にも、渡辺には微塵も後悔を感じさせる素ぶりがなかった。

 それはすなわち、プロツアー・パリ11で調整の末に掴み取った青黒テゼレットという選択は、渡辺にとって誇るべき経験の一部になっているということだ。


 自分は確かに精度の高い調整をしたのだと。その手法も評価も、せいぜい《転倒の磁石》1枚分のごくわずかな誤りがあっただけで、他には一切悔やむ余地はないのだと。
 同じデッキを使った森も、中村も、井川も。選択ミスだったかと問われれば、おそらく同じことを言うのだろう。

 だから、今回の教訓はこれだ。


 調整の精度を高めろ。そうすればクソデッキでも後悔しない。



 それでは、第3回で再び会えることを願っている。

 良いクソデッキライフを!
































5.おまけ

 とあるうどん屋チェーンにて

「……ということで記事のネタに困ってるんですけど、何かないですか?」

なかしゅー 「いやー最近プロツアーでお金もらわないで帰る方が珍しいんで、特にそういうデッキ選択ミスとかないっすわー」


_人人人人人人人人人人人人人人_
> デッキ選択ミスとかないっすわー <
 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y ̄



あのクソなかしゅー編・完