プロツアーには様々なドラマがある。
例えばプロツアー・京都09で我々が青白GAPPOで稀代の失敗を犯したように。
あるいはプロツアー・パリ11で渡辺 雄也(神奈川)が青黒テゼレットを誇りを持って選択したように。
そして、プロツアー・サンファン10のときもそうだった。
このとき、現地サンファンまでの行動を共にした3人のプロツアー参加者(※注1)がいた。
行きの経由地のアトランタ空港にて、搭乗時間を勘違いした3人は、飛行機の出発直前に慌てて搭乗口に向かうが。
出発を間近に控えて慌ただしい様子の空港のスタッフに遅れてやってきた搭乗客である旨を伝えると、
“Only two seats!”と叫ばれ、3人のうちの2人がその言葉に反応して咄嗟に“I go””I go!”と手を挙げた。
かくしてその2人はギリギリで飛行機に乗せられ、無事プロツアーに出場することができた。
そして手を挙げることが出来なかった最後の1人は……アトランタ空港に置き去りにされ、後の飛行機でサンファンには辿り着くもののプロツアー開始には間に合わず、その無念は今もアトランタを彷徨っているという。
ちなみにそれ以来、一部のコミュニティでは『移動中のトラブルによって大会参加が不可能になること』を、敬意を持って『アトランタする』と呼ぶようになった。
ことほど左様に。
甲子園ほどではないにせよ、プロツアーには魔物が棲んでいる。
だからそのプロツアー・サンファン10で、また別のある人物がその魔物に喰われてしまったことも、必然と言わなければならない。
プロツアーの魔物によって、デッキ選択を誤ってしまった男。
その名は、八十岡 翔太(東京)。
我々はこの男を待っていた。
世界有数のデッキビルダーとして海外でも高い評価を受けるだけでなく、昨年のマジック・プレイヤー選手権12での圧倒的なパフォーマンスも記憶に新しい、殿堂入りに最も近い男の一人。
だが我々は、彼のことをいまだ知らなさすぎる。
使うデッキも、プレイスタイルも、リミテッドのセンスも。
そのどれもが、あまりにも異質。あまりにも奇抜。
それでいて、何故か勝っている。
常人には理解が及ばぬメカニズムが見えているとしか思えない。それすなわち天才の証か。
孤高のアイデンティティ。
そう、それが八十岡 翔太。
みんな大好き『ヤソ』が、『あのクソ』に来てくれた。
マジック・プレイヤー選手権12での《霊気の薬瓶》青緑赤はもちろん、偏執的な《ボーラスの工作員、テゼレット》愛が生み出した青黒コンなど、『ヤソコン』のブランドでトーナメントシーンに次々と新風を吹き込み続けるクリエイティビティ。そしてひとたびフィーチャーテーブルに座れば、“blazing speed”と称されるほどに観客を魅了してやまない、迷いなきプレイスピードと正確さ。
そんな彼にも、クソデッキ選択の経験があるというのだろうか。
これから始まるのは、そんな、出会いと触れ合いのお話。
魔法少女リリカルあのクソ、始まります。
※注1 PT参加者3人:井川 良彦(東京)、中村 肇(神奈川)、細川 侑也(東京)。誰が乗れなかったのかはご想像にお任せします。
1. 70(ナゾ)
まずは八十岡についての最大の謎、最大の疑問がある。
毎回あれほど度肝を抜く見た目、かつ完成度の高いデッキを、一体どのようにして作っているのだろうか?
だがこれについて問われた八十岡は、驚くべき答えを返した。
ヤソ 「そもそもデッキを選択する基準からしてみんなと違うからね。トーナメント用のデッキを作るときは、『環境に存在する全部のデッキに5割5分以上のデッキを作ること』、をいつも心がけてるから。『~は勝てないから切る』とか、デッキビルダー失格だよ。全部に勝たないと」
全部のデッキに5割5分。
すなわち環境に存在する全てのデッキに有利ということだ。
なるほど、グランプリやプロツアーの度にその目標が達成できているならば、八十岡の高い勝率も納得である。
だが、環境に存在する全部のデッキに対して有利……そんなことが果たして可能なのだろうか?
ヤソ 「そこがビルダーの腕の見せ所だよ。無理でも作る。作ろうとしなきゃ始まらない」
そういうものだろうか。
だがその作業には、何よりもまず『環境に存在する』かどうか……すなわちメタゲームを定義する必要もあるはずだ。
しかもそれが『(大会当日に当たりうる)全部』となると、かなり正確にデッキ分布を把握しなければならない。
八十岡の高い環境分析力あってこその目標設定、という感じもする。
ヤソ 「あとはとにかく絶望的なマッチアップを作らない。55%勝てれば7割勝てるようなもんだから」
またなんだかよくわからないことを言い出す八十岡。
おそらく客観的な5割5分の相性差はヤソのプレイングなら7割まで広がるということを言いたいんだろうが、それは常人には通用しない理屈である。
ヤソ 「だから逆に勝率がどこまで行っても5割にしかならないような、同型対決がクソゲーなデッキはあまり使いたくないね。Caw-Bladeとか」
そういえばCaw-Bladeが流行っていたときは、八十岡はずっと《ボーラスの工作員、テゼレット》を使っていた気がする。
ヤソ 「別にCawには結構勝てたから問題なかったんだよ。結局《ボーラスの工作員、テゼレット》っていうカードが強かったからね。あれはちょっと弱い《精神を刻む者、ジェイス》みたいなもんだよ。5/5を量産するって書いてあるわけだし。プラス能力を使ってるようじゃ『テゼレット使い』としてはまだまだ素人だね。8割くらい5/5作ってる気がするよ。ほとんど《バルデュヴィアの大軍》だね」
話を戻すと、それなら一時期フェアリーやジャンドを好んで使っていたのは、デッキビルダーの敗北ということか。
ヤソ 「フェアリーに関しては、そうかな。フェアリーを倒そうと色々試したんだけど、結局乗り越えられなかった。それで仕方なくフェアリー使ったけど、まああのデッキは『全部のデッキに5割5分』勝つよね。ジャンドについては、むしろブロック構築の頃からジャンド使ってて、『全部のデッキに5割5分』強いとわかってるから乗り換えるタイミングも理由もなかった。世界で一番ジャンド回してたと思うから、同型に当たってすら負ける気しなかったし」
同型であっても、フェアリー同型やジャンド同型のようにプレイヤーの練習具合が如実に反映されるマッチアップならばクソゲーではないようだ。やはり『55%勝てるなら7割勝てるようなもん』というのは八十岡の高いプレイングスキルを反映した結果ということだろう。
それにしても、『全部のデッキに勝率が5割5分以上あるデッキ』を目指すことが発想の出発点であることは理解できた。
しかし、デッキの製作or発見にあたってそこまで無茶な最低条件を設定しているなら、“works alone”……一人でデッキを作らなくても、例えば渡辺などと一緒に調整しても良さそうなものだが。
ヤソ 「人と練習する…互いが作ったデッキを持ち寄って実際にゲームしてみる……のって、デッキが決まってたら75枚の練度を高めるっていう意味はあるけど、そうじゃない場合にはほとんど意味ないからね。前回の話に絡めるなら、それこそ『閃き』にとっては有害だったりする。どっちかっていうとその『閃き』を生む側に時間使いたいから」
八十岡は前回の記事で渡辺が語った『閃き』の問題点を克服するべく、既に自分なりの手法を確立していたようだ。
では、その手法とは?
ヤソ 「天啓だね(笑)まあ真面目に言うと、よくカードリストと睨めっこしたりするよ」
かつて八十岡が自らのデッキにおいてキーカードとして見出した《ボーラスの工作員、テゼレット》や《霊気の薬瓶》などは、そうした地道な作業の成果ということか。
的確に環境を分析した上で、『全てのデッキに5割5分』を実現するデッキの核となるカードを探す作業。すなわち八十岡の『最強のデッキを作りたい』という『意志』を貫く作業。
その一例が、カードリストとの原始的な睨めっこなのだ。
それなら、蛇足ではあるが、グランプリ北九州を間近に控えた今、『最強デッキの核』の可能性を感じているカードは何かあるのだろうか。
ヤソ 「《変わり谷》かな。あのカードは本当に強いから」
確かに、過去の活躍を考えれば《変わり谷》のカードパワーは疑うべくもない。
しかし、新エキスパンション発売直後であるプロツアーならばともかく。
そもそもこの環境のスタンダードはカードもテクニックもほぼ出揃い、あとはローテーション落ちを待つだけのいわば環境の最終盤。
それなのに可能性を感じたに過ぎない《変わり谷》を使って、わざわざ新しいデッキを作る必要があるのか。強いことがわかりきったコピーデッキでもいいのではないか。
ヤソ 「逆に、何でみんな作らないの?って思うよ。既存のデッキを使っても相対的に有利つかないし」
むしろどんな環境であってもあくまでデッキは自分で作るのが普通……これがコペルニクス的転回か。
ヤソ 「カードゲームはデッキ作るのが楽しみのメインでしょ。勝つことは二の次。グランプリやプロツアーはそうだな、自分の作ったデッキが強いことを証明しにいく感じかな」
意外にも……といったら失礼かもしれないが、八十岡はプレイヤーとして世界トップクラスに立ってさえ、楽しみをプレイや勝利ではなくあくまでデッキビルディングに見出しているようだ。
今週末に開催が迫った、グランプリ北九州でも活躍に期待したいところである。
2. 80(ヤソ)
『環境に存在する全部のデッキに5割5分』。
八十岡の恐るべき構築思想が明らかになったが、そう考えると今まで八十岡の作ったデッキにも説明がつく部分が多い。
例えばプロツアー・アムステルダム10。
このエクステンデッドのプロツアーにおいて、八十岡はネクストレベルドランという《包囲の搭、ドラン》と《謎めいた命令》が同居した奇怪なデッキを製作し、構築ラウンドを9-1という大成功を収めている。
2 《島》 1 《沼》 1 《森》 2 《つぶやき林》 4 《霧深い雨林》 4 《新緑の地下墓地》 4 《涙の川》 3 《沈んだ廃墟》 3 《樹上の村》 -土地(24)- 4 《貴族の教主》 2 《ツリーフォークの先触れ》 4 《タルモゴイフ》 3 《包囲の搭、ドラン》 3 《ヴェンディリオン三人衆》 1 《カメレオンの巨像》 -クリーチャー(17)- |
4 《思考囲い》 2 《コジレックの審問》 3 《燻し》 1 《名も無き転置》 3 《謎めいた命令》 3 《大渦の脈動》 3 《精神を刻む者、ジェイス》 -呪文(19)- |
3 《大祖始の遺産》 3 《誘惑蒔き》 2 《強迫》 2 《呪文貫き》 2 《否認》 2 《叫び大口》 1 《殺戮の契約》 -サイドボード(15)- |
白緑黒と1青青青が同居するなど、一見正気の沙汰とは思えない構築である。
しかしそれも、《罰する火》環境ということを(脳内で)環境分析した上で、それに捌かれないタフなクロックと、《風景の変容》デッキをはじめとするコンボデッキに後れをとらないようハンデス+カウンターを搭載することで、骨太なクロックパーミッションという『全部のデッキに5割5分以上』のコンセプトを見出しえたからに過ぎなかったのだ。
また、プロツアー・名古屋11。
このときの構築フォーマットはミラディンの傷跡ブロック構築だったが、八十岡はやはり4色の《ボーラスの工作員、テゼレット》を主軸にしたデッキを構築し、自身は18位に入賞しつつ、シェアした「ローリー」こと藤田 剛史(大阪)をトップ8に送り込むことに成功している。
4 《島》 3 《沼》 2 《森》 1 《山》 4 《闇滑りの岸》 4 《黒割れの崖》 4 《銅線の地溝》 -土地(22)- 1 《呪詛の寄生虫》 3 《粗石の魔道士》 4 《オキシダの屑鉄溶かし》 3 《聖別されたスフィンクス》 -クリーチャー(11)- |
3 《感電破》 2 《喉首狙い》 3 《黒の太陽の頂点/Black Sun’;s Zenith》 2 《内にいる獣》 4 《ボーラスの工作員、テゼレット》 2 《グレムリン地雷》 1 《地平線の呪文爆弾》 4 《マイコシンスの水源》 3 《太陽の宝球》 3 《漸増爆弾》 -呪文(27)- |
3 《納墓の総督》 2 《粉砕》 2 《冷静な反論》 2 《最後のトロール、スラーン》 1 《分散》 1 《喉首狙い》 1 《内にいる獣》 1 《グレムリン地雷》 1 《呪詛の寄生虫》 1 《解放された者、カーン》 -サイドボード(15)- |
これも《鍛えられた鋼》が親和の再来として君臨するのを読み切った八十岡が、しかしそれすら跳ね返せるように赤黒除去コンとしてのベースを間借りしつつ、赤系コントロールに対しても《ボーラスの工作員、テゼレット》で優位に立てるという『全部のデッキに5割5分以上』の絶妙な立ち位置を確保しようとした結果であった。
さらに、プロツアー・アヴァシンの帰還12。
イニストラードブロック構築では、《栄光の目覚めの天使/Angel of Glory’s Rise》《悪鬼の狩人》《ファルケンラスの貴種》の無限エンジンを搭載したやはり4色の人間リアニメイトで9-0-1という、構築ラウンドだけなら全参加者中トップの成績を収めた。
5 《森》 2 《平地》 1 《沼》 4 《魂の洞窟》 4 《断崖の避難所》 4 《進化する未開地》 3 《孤立した礼拝堂》 -土地(23)- 4 《アヴァシンの巡礼者》 2 《軽蔑された村人》 4 《国境地帯のレインジャー》 4 《悪鬼の狩人》 4 《ファルケンラスの貴種》 4 《高原の狩りの達人》 2 《修復の天使》 3 《栄光の目覚めの天使》 -クリーチャー(27)- |
4 《信仰無き物あさり》 4 《火柱》 1 《忌むべき者のかがり火》 -呪文(10)- |
3 《スレイベンの異端者》 2 《墓場の浄化》 2 《解放の樹》 2 《ウルフィーの銀心》 2 《士気溢れる徴集兵》 2 《情け知らずのガラク》 1 《修復の天使》 1 《鷺群れのシガルダ》 -サイドボード(15)- |
これも、ボロスビートとナヤ系というメタを完璧に読み切り、その上で両者に対し有利に立ちつつ、リアニメイト同型戦もしっかり見据えたサイドボードを構築するなど、『全部のデッキに5割5分』を忠実に守った構築であることがわかる。
そして最後に、マジック・プレイヤー選手権12。
4 《島》 1 《山》 1 《森》 1 《繁殖池》 1 《蒸気孔》 1 《踏み鳴らされる地》 4 《沸騰する小湖》 3 《霧深い雨林》 3 《溢れかえる果樹園》 2 《銅線の地溝》 -土地(21)- 4 《瞬唱の魔道士》 3 《タルモゴイフ》 3 《永遠の証人》 3 《ヴェンディリオン三人衆》 -クリーチャー(13)- |
4 《稲妻》 2 《蒸気の絡みつき》 3 《呪文嵌め》 3 《マナ漏出》 2 《差し戻し》 4 《謎めいた命令》 2 《知識の渇望》 2 《血清の幻視》 4 《霊気の薬瓶》 -呪文(26)- |
3 《古えの遺恨》 3 《高原の狩りの達人》 2 《呪文貫き》 2 《焼却》 2 《不忠の糸》 2 《エレンドラ谷の大魔導師》 1 《墓掘りの檻》 -サイドボード(15)- |
ジャンド、青白、Zooや双子など、多くのアーキタイプが存在するモダンにおいても、《霊気の薬瓶》《永遠の証人》《謎めいた命令》という、『どんなデッキに対しても強い動き』を自分の側に用意することで、『全部のデッキに5割5分』を実現してみせた八十岡。
優勝こそ逃したものの、その活躍は今更語るまでもない。
これらの実戦例からわかるように。
八十岡の類稀なる観察眼と洞察力で環境のメタゲームを正確に分析。
そして《ボーラスの工作員、テゼレット》や《霊気の薬瓶》のような、環境の解答となるカードやコンセプトを『最強のデッキを作りたい』という『意志』によって探し出し、『全部のデッキに5割5分』を実現する。
これが八十岡の勝利の方程式なのだ。
3. 90(クソ)
ヤソ 「プロツアー・サンファン10のときも、『全部のデッキに5割5分』な調整は順調だったよ」
このとき、構築ラウンドのフォーマットはエルドラージ覚醒発売後のゼンディカーブロック構築。
そのメタゲームは、ブロック構築には珍しく複雑な様相を呈していた。
4 《島》 3 《平地》 2 《乾燥台地》 2 《沸騰する小湖》 1 《霧深い雨林》 2 《進化する未開地》 4 《天界の列柱》 4 《セジーリの隠れ家》 4 《地盤の際》 -土地(26)- 4 《前兆の壁》 3 《エメリアの天使》 2 《失われた真実のスフィンクス》 -クリーチャー(9)- |
3 《剥奪》 3 《取り消し》 2 《乱動への突入》 4 《未達への旅》 3 《審判の日》 4 《精神を刻む者、ジェイス》 3 《ギデオン・ジュラ》 3 《永遠溢れの杯》 -呪文(25)- |
4 《珊瑚兜の司令官》 3 《呪文貫き》 3 《落とし穴の罠》 2 《コーの火歩き》 2 《コーの奉納者》 1 《睡眠発作》 -サイドボード(15)- |
《天界の列柱》……『2色土地かつフィニッシャー』という規格外のカードの存在により、古典的な青白コントロールはいつもの環境よりもフラッドに悩まされることが少なかった。さらに《精神を刻む者、ジェイス》《ギデオン・ジュラ》という強力なだけでなく互いが互いを補完しあうプレインズウォーカーたちに、《前兆の壁》という『帰ってきた《花の壁》』が加わり、その盤石ぶりに拍車がかかっていた。
11 《山》 4 《沸騰する小湖》 4 《乾燥台地》 4 《ぐらつく峰》 1 《くすぶる尖塔》 -土地(24)- 4 《ゴブリンの先達》 4 《ゴブリンの奇襲隊》 4 《カルガの竜王》 4 《板金鎧の土百足》 -クリーチャー(16)- |
4 《噴出の稲妻》 4 《焼尽の猛火》 4 《よろめきショック》 4 《壊滅的な召喚》 4 《ゼクター祭殿の探検》 -呪文(20)- |
4 《罰する火》 4 《ゴブリンの廃墟飛ばし》 4 《探検家タクタク》 2 《帆凧》 1 《反逆の印》 -サイドボード(15)- |
一方、ビートダウン側も負けてはいなかった。《ゴブリンの先達》は赤の1マナ域としては過去最強の生物だった上、《ゴブリンの奇襲隊》と《壊滅的な召喚》のコンボはわずか3マナにも関わらず揃えばどこからでも対戦相手を即死させることができた。《焼尽の猛火》という、これまた過去最高クラスの火力の存在も大きかった。
13 《森》 4 《霧深い雨林》 2 《新緑の地下墓地》 4 《カルニの庭》 1 《戦慄の彫像》 -土地(24)- 4 《東屋のエルフ》 4 《ジョラーガの樹語り》 4 《巣の侵略者》 4 《水蓮のコブラ》 1 《リバー・ボア》 4 《復讐蔦》 4 《コジレックの捕食者》 4 《狼茨の精霊》 -クリーチャー(29)- |
3 《獣使いの昇天》 4 《エルドラージの碑》 -呪文(7)- |
4 《皮背のベイロス》 3 《タジュールの保護者》 2 《帰化》 2 《巨身化》 2 《リバー・ボア》 1 《獣使いの昇天》 1 《森》 -サイドボード(15)- |
第三勢力となったのは緑のビートダウンだった。
エルドラージ・落とし子トークンを引き連れて出てくるカードや、《カルニの庭》のおかげで、クリーチャーを横に並べることが極めて容易だった当時の緑は、《エルドラージの碑》のデメリットをものともせず、むしろ『置けば勝ち』のフィニッシャーとして捉えることに成功していた。さらに、《復讐蔦》の持つ速攻&復活能力は、まさしくこのデッキのためにあると言って差し支えなかった。
この他にも、吸血鬼や緑単エルドラージ・ランプなど、環境には多彩なデッキが存在しており、そのどれもが支配的というほどではなかった。
そんな中で。
プロツアー・サンファン10のための調整をしていた八十岡の興味は、ある2つのデッキに向いていた。
ヤソ 「少なくとも《精神を刻む者、ジェイス》を使うことだけは確定してたね」
マジックの歴史上でも随一のカードパワーを持つ青い悪魔、《精神を刻む者、ジェイス》。当然、ブロック構築で猛威を振るわないわけがなかった。
そこで、『全部のデッキに5割5分』を実現するべく、『どのように《精神を刻む者、ジェイス》を使うか』に八十岡のデッキ選択の焦点が絞られることとなった。
6 《森》 6 《島》 4 《霧深い雨林》 4 《新緑の地下墓地》 2 《沸騰する小湖》 2 《カルニの庭》 -土地(24)- 4 《ジョラーガの樹語り》 4 《水蓮のコブラ》 4 《巣の侵略者》 4 《海門の神官》 4 《復讐蔦》 2 《狼茨の精霊》 2 《ムル・ダヤの巫女》 1 《失われた真実のスフィンクス》 -クリーチャー(25)- |
4 《統一された意思》 2 《剥奪》 4 《精神を刻む者、ジェイス》 1 《エルドラージの碑》 -呪文(11)- |
-サイドボード(0)- |
ヤソ 「MOで練習した結果、環境は《精神を刻む者、ジェイス》に支配されていたからね。3ターン目に相手に先んじてこれを設置できるマナクリとのコンビは最高だった。それに当時発売したばかりだったエルドラージ覚醒の《復讐蔦》は、カードパワーはもちろん、速攻とサイズが《精神を刻む者、ジェイス》に対して強く、これらを合わせて使える青緑が最有力だった。カウンターも環境的に強く、条件さえ満たせば《対抗呪文》以上のスペックを発揮する《統一された意思》が使えるのも大きかった」
このときも、いつもどおり八十岡の環境分析は冴えわたっていた。
その結果、この青緑が最も長く調整時間を割き、『全部のデッキに5割5分』を実現しそうな、いわば『本命』だったという。
ヤソ 「青白を使う気はなかったね。青緑を使ってて青白に負ける気がしなかったから、自分のデッキに負けるデッキをあえて選択する理由もないし」
だが。
実際に八十岡がプロツアーで選択したのは、何故かその最有力候補の青緑ではなかった。
13 《島》 1 《山》 4 《沸騰する小湖》 4 《進化する未開地》 3 《地盤の際》 -土地(25)- 4 《方解石のカミツキガメ》 2 《ジュワー島のスフィンクス》 -クリーチャー(6)- |
4 《噴出の稲妻》 1 《よろめきショック》 3 《呪文貫き》 3 《剥奪》 3 《取り消し》 2 《乱動への突入》 4 《広がりゆく海》 2 《睡眠発作》 1 《家畜化》 4 《精神を刻む者、ジェイス》 2 《予言のプリズム》 -呪文(29)- |
4 《珊瑚兜の司令官》 4 《灯台の年代学者》 3 《探検家タクタク》 2 《払拭》 1 《よろめきショック》 1 《蒸気の捕獲》 -サイドボード(15)- |
青赤コントロール。
それも《方解石のカミツキガメ》に全面的に信頼を置いたタイプだ。
ヤソ 「ちょっとレシピが手元に残ってなくて定かではないけど、JB(※注2)と違って《予言のプリズム》と《広がりゆく海》は使ってなかったと思うのは別にしても、コンセプト的には大体こんな感じだったね。単体除去と《方解石のカミツキガメ》の組み合わせが赤系ビートに対して強く、もう1つの有力な選択肢だった。それに青赤という色の組み合わせも好きだしね」
《噴出の稲妻》は序盤は《ショック》として《方解石のカミツキガメ》の露払いを行い、そして後半は《血の手の炎》のようなバーンスペルへと変貌する。しかも4点というのは、《方解石のカミツキガメ》の『上陸』後のクロックと等しく、一切の無駄がない。
ヤソ 「赤単をはじめとして、環境には少なくない数のビートダウンが存在したからね。軽量火力でそれらをいなしてから安全に《精神を刻む者、ジェイス》を着地させるというアプローチも一応考えられた」
しかし、このデッキではマナクリーチャーから《精神を刻む者、ジェイス》を1ターン早く着地させる青緑はもちろん、盤石なマナベースに《ギデオン・ジュラ》まで入った青白コントロールに対してすら、5割5分あるとは思えないが……。
それでは、実際に『全部のデッキに5割5分』勝てそうな青緑を振り切って青赤コントロールを選択した理由はなんだったのか。
ヤソ 「……それはほら、ビートダウンとコントロールのどっちが多いかわからなかったからだよ」
……??……珍しく歯切れが悪い八十岡だが、理由には一応納得できる。メタゲームの読み間違いということか。
ヤソ 「ビートダウンが多ければ、青赤も正解になりえたけどね。まあでもブロック構築でビートダウンが主流になるなんてあまりないし、基本的にクソデッキだったよ」
対ビートダウンを意識しすぎた結果、青赤コントロールを手に臨んだプロツアー本戦。
八十岡は構築ラウンドを何とか2勝3敗で折り返し、初日突破に望みをつなぐが、ドラフトラウンドであえなく4敗目を喫してしまった(当時は5勝3敗が初日通過ライン)。
ヤソ 「普通に青緑使っておけば全勝もありえたんだけどね」
結果的に似たような青緑を持ち込んだプレイヤーがブロック構築を10戦全勝していることを考えると、逃がした魚は大きい。
しかし、そもそも青赤コントロールのどこがクソデッキだったのだろうか。
ヤソ 「そもそもデッキがあまり強くないよね。重いし、やせてるし」
確かに、環境の多くのデッキが採用していたマナクリや《水蓮のコブラ》のグルーヴ感が、このデッキにはない。
ヤソ 「《方解石のカミツキガメ》はカードとしては強かったんだけどね。構造上、地力が低くなってしまった」
実際には土地が2枚で詰まって《方解石のカミツキガメ》すら出ないゲームが続いた不運もあったらしいが、ポテンシャルとしてもクソデッキだったということなのだろう。
ヤソ 「全部のデッキに5割5分勝てるデッキを選ぶべきなんだから、不利なデッキがいくつもあるようじゃまだまだクソデッキだったね」
ちなみに、この青赤コントロールは青白GAPPOと比べるとどのくらいクソでしょうか。結構同じレベルだったり……。
ヤソ 「青白GAPPOは勝てない相手があるっていうか、むしろ勝てるデッキが存在しないレベルだから、言うまでもなく断トツのクソデッキだね。スーパークソデッキといってもいい」
すみませんでした。
やはりこれが神への感謝たる3-9(サンキュー)と39(ミク)好きの八十岡の差か(?)。
というわけで、今回の教訓はこれだ。
全部のデッキに5割5分勝てるのがヤソデッキ。勝てない相手がいるのがクソデッキ。
教訓……なのかこれは?
まあいいか。
それでは、良いクソデッキライフを!
※注2 板東潤一郎:元グレイビー、現twitter芸人。
4. 800(ウソ)
ヤソ 「……こんなもんでよかったかな?」
ああ、十分だと思うよ。お疲れ様でした。
ヤソ 「(帰り際に)まあサンファンで青赤を使った本当の理由は別にあるんだけどね」
・
・
・
は?
いやいやちょっと待って……えっと、どういうこと?
ヤソ 「まさか本当のことを話すわけにはいかないからね。『当時《復讐蔦》を2枚しか持ってなくて、現地でバイヤーブースで探したけど2枚で1万円くらいするもんだから、1万円かけて青緑で出るのと、ケチって青赤で出るのと天秤にかけて、結局後者を選びました』なんて言えるわけないよ」
カードを……持ってなかった?
え?本当にそれだけ?
しかも1万円って……プロツアー勝てたら余裕でペイでしょ?それなのにケチった?
じゃあさっきの、ビートダウンが多いかもしれなかったみたいな話は……嘘?
ヤソ 「いやいや、それは始まる前には実際どっちかわからないからね。もしビートダウン多かったら青赤でも勝てたかもしれないわけだから。
おいいいいい!1万円ケチってクソデッキ掴んでんじゃねーよ!!
ヤソ 「(開き直って)いやそれも含めてリスクリターンの判断でしょ。それを言ったらそもそもプレイヤー選手権で割と勝った《霊気の薬瓶》デッキだって、《タルモゴイフ》が3枚なのも『持ってなかったから』だからね。あれも1万円くらいしたし。あの時は買わなくて正解だったわけだよ」
え、プレイヤー選手権のタルモ3枚も『持ってないけど1万円したからケチりました』なの!?初耳なんだけど!!
ヤソ 「まああっちは仮に4枚持ってても4枚にするかは微妙なラインだったけどね。同じ1万円でも、払う価値があるかは慎重に判断しないとね」
てことは、おいおいどうすんだよこの記事……『カード持ってなかったからクソデッキ使いました』とか、今回の教訓が
カードは買おう。さもないとクソデッキで大会に出ることになる。(ドヤァ
とかになっちゃうじゃねーか……失踪?今度こそ失踪なの?
ヤソ 「カード屋の記事なんだしそっちの教訓の方が都合が良いんじゃない?」
ダイレクトマーケティングってレベルじゃねーぞ!
ああもう、それでは今度こそ、良いクソデッキライフを!