準々決勝: 木原 惇希(新潟) vs. 小林 龍海(東京)

晴れる屋

By Yohei Araki


神の座に挑まんとする者達がいた。

神シリーズ第1期の準々決勝とは、さながらその儀の最終段階。
テーロス世界では、一度は神になったゼナゴスはエルズペスに打ち倒されてしまった。

だが現実世界で彼らの前に立ちはだかるのは、エルズペスなどではなく、今日同じように予選ラウンドを勝ち抜いてきたプレイヤーである。
どちらが勝ったとしても、晴れる屋トーナメントセンターはテーロス世界のように大変なことになってしまうのではないだろうか。

筆者がそんな余計なことを心配しているうちに、2人のゼナゴス…ではなくプレイヤーがフィーチャーテーブルにあらわれた。

エスパーコントロールを駆る木原 惇希と、ジャンドコントロールを持ち込んだ小林 龍海である。

新潟からの遠征組である木原は、高橋 優太(東京)、棚橋 雅康(新潟)に続く新潟県内若手のエースである。
聞けば高橋 優太の弟子的な存在であり、高橋は木原が小学生の頃から彼を知っているという。

木原のエスパーはほぼ純正の青白コントロールと言ってもよく、黒いカードはメインに《究極の価格》が1枚と、サイドに《ヴィズコーパの血男爵》が4枚投入されているのみである。実質《ヴィズコーパの血男爵》のためだけに黒を入れている、といっても過言ではないだろう。

のみ、と言っても、これ4枚だけの為に黒がタッチされているということは、それだけ現スタンダード環境においてこのカードの支配度が群を抜いているという木原の分析が読み取れる。

筆者の知る限り木原は常に青白X系のコントロールを使い続けており、彼の分析が経験に裏打ちされた選択であることは疑いようもない。
さて、結果はどう転ぶであろうか。


対する小林は、東京で活動するレガシープレイヤーであり、ついこの間のBMOレガシーでもトップ8こそ逃したものの、13位入賞を果たした実力者だ。
なんとマジック歴はミラージュからということで、それは通算17年にも上る。まさしく古豪といえる。

今回使用したジャンドコントロールについては、「他のデッキのパーツも全部持ってるんですけど、ずっとジャンドを使っているからデッキを試してみたくて持ち込んでみたんですよね」とのコメントを残している。

さらに小林は続ける。「特に青白系にはどうしても勝ちたくて、かなり意識してデッキを構築しました。メインに《突然の衰微》2枚、《戦慄掘り》3枚、《見えざる者、ヴラスカ》1枚、それにサイドから追加の《突然の衰微》《ゴルガリの魔除け》も入ります。」と。
なるほど確かにそのラインナップを聞く限り、コントロール側からしてみれば一筋縄ではいかない構成といえるだろう。

自慢のデッキは彼の思惑通りに戦果を挙げ、その結果として彼は準々決勝のこの椅子に座っている。
そして彼の向かいを陣取るは、まさに青白系のコントロールを手にした木原である。

この一戦はまさしく白熱したものになるに違いない。

余談ではあるが木原のデッキには《太陽の勇者、エルズペス》《神討ち》が入っており、小林のデッキには《歓楽者ゼナゴス》が入っている。

まさに神シリーズにはふさわしい一戦だと、筆者は今から期待を抑えきれずにいる。


ちなみに小林がレガシープレイヤーである、というのは普段レガシーの平日大会で彼を見かける筆者の認識であり、話を聞いてみればスタンダードのFNMにも出場して腕を磨いているという熱の入れようだ。

「ではモダンは?」と聞くと、「今練習しています。神シリーズモダンのために。もちろんレガシーにも出るつもりです。」と、はにかみながら答えてくれた。

つまり小林は、ただの実力者ではなく、構築巧者であり、構築大好きプレイヤーということである。

そして新潟からこのためにわざわざ遠征してきた木原も、小林に負けず劣らず構築大好きプレイヤーであるに違いない。


そんな2人がぶつかれば何が起こるだろうか?

最終段階に突入した儀が、今口火を切ろうとしている─。


Game 1

隣で準々決勝の別の試合がもう始まる頃合いになっても、2人は黙々とシャッフルをしていた。
それは実に穏やかなものであり、荒れそうだ、と思ったのは考えすぎであっただろうか。

刹那、「キープします。」という木原の声が筆者を現実へと引き戻した。

《啓蒙の神殿》《変わり谷》《静寂の神殿》《思考を築く者、ジェイス》《スフィンクスの啓示》というオープンハンドをキープした木原は、先攻の小林が《踏み鳴らされる地》アンタップインから繰り出す《エルフの神秘家》《啓蒙の神殿》タップインで応える。

《ドムリ・ラーデ》からのロケットスタートも考えられたが、小林は静かに《変わり谷》を置き、《エルフの神秘家》で殴るだけでターンを返す。
どうやら残る手札は少々重めのようだ。

ならば、と。木原も《今わの際》《エルフの神秘家》に打ち込み、小林のリードを許さない。
スローゲームになればなるほど木原は有利になっていく。
中盤以降がコントロールの真骨頂であり、そこまで如何にゲームを長引かせるかというのがコントロール側の課題のひとつでもある。

ここで小林が引き込んだ《クルフィックスの狩猟者》を送り出す。
トップから待ってましたとばかりに土地を置くと、その上には《嵐の息吹のドラゴン》が顔を見せる。

さて、木原の4ターン目、初手から2枚抱えている《思考を築く者、ジェイス》をうまく活かしていきたいところである。
このドラゴンの存在を憂慮してか、《思考を築く者、ジェイス》をプレイしてプラス能力を使ってターンを返す。ここはじっと我慢である。

小林とてこの《思考を築く者、ジェイス》を放っておけないことは百も承知。
《クルフィックスの狩猟者》《嵐の息吹のドラゴン》を真っ直ぐジェイスに突っ込ませるが、両者のパワーが下がっているためにジェイスはまだ落ちない。忠誠度1でギリギリ踏みとどまっている。

ドラゴンを誘き出した木原はここに横殴りの《至高の評決》を。
そしてジェイスをプラスしてまたもエンド。木原の思惑通りジェイスが活きる形となってしまった。

だが再び戦場を駆け抜ける《嵐の息吹のドラゴン》が、ジェイスを撃ち落しにかかる。
これを潔しとした木原だが、ジェイスを犠牲にしたうえで更にこのドラゴンには再び《至高の評決》合わせる。

ゲームの様子を傍から見ていて感じたのだが、どうも2人は敵同士ながら仲が良い。
聞けば2人は同じ新潟出身であるという。奇遇である。

6ターン目には《クルフィックスの狩猟者》に加えて《ドムリ・ラーデ》まで追加し、小林は攻めの手を緩めない。
木原が初手から抱える《スフィンクスの啓示》は、ここまでにもう1枚増えて、計2枚に増えているのだが、木原はここで打つかどうか悩んでいるように見えた。

小林の猛攻に対し、打ちどころを失ってしまったのではないだろうかとも思えたが、そこは巧者木原、単にまだその時ではない、と判断したのだろう。
同じく初手からある2枚目の《思考を築く者、ジェイス》を出して様子を見る。

小林は更に盤面に《歓楽の神、ゼナゴス》《世界を喰らう者、ポルクラノス》と追加し、傍目には木原にとって絶望的な場に見えた。《ドムリ・ラーデ》《クルフィックスの狩猟者》もまだ健在である。

だが一転、木原の放ったX=4の《スフィンクスの啓示》は戦局を傾けた。

慎重に選択肢を探り、丁寧に、丁寧に、木原は負けの可能性をひとつずつ潰していく。




木原 惇希


まずは《至高の評決》を打ち、露払い。
そして《払拭の光》《歓楽者ゼナゴス》へ。
木原はこの隙にベンチで控えていた《変わり谷》《ドムリ・ラーデ》へと走らせる。
しかしまだドムリの忠誠度は2残っている。

《歓楽者ゼナゴス》のサテュロストークンでじわじわ削られていた木原のライフはいつの間にか10にまで落ち込んでいたが、この時点で小林は殆どの攻め手を失っていた。
力なく土地を置くだけでターンを返す小林だが、その眼前をかすめるは渾身の《スフィンクスの啓示》X=9!!

《変わり谷》のアタックからも《ドムリ・ラーデ》を守れず、小林の戦場にはただただ土地が残るばかりである。
ひらひらと手を振って、小林は半ば諦め気味にターンを返す。

3枚目の《スフィンクスの啓示》を打った時点で小林から漏れる苦笑が全てを物語っている。


スフィンクスの啓示



そして叩きつけた4枚目の《スフィンクスの啓示》《霊異種》を導き、「次いきましょうか。」と小林はカードを片づけた。
ここまで実に25分、制限時間50分の半分を使う大熱戦であった。


木原 1-0 小林



Game 2

木原が少し重めの手札をキープしたのに対し、小林は少し悩んだものの「いきます」、と一言。

2ターン目に木原が繰り出した《ニクス毛の雄羊》が、1ゲーム目同様の長期戦を予感させる。

だが、その時は唐突に訪れた。

3ターン目、《踏み鳴らされる地》《草むした墓》を立てたまま小林は小さく、「おしまい」と漏らした。
なんと、肝心要のこの局面で、ここ一番というところで、不幸にも小林は土地が止まってしまったのだ!




小林 龍海


自身の展開が遅れれば当然、相手につけいる隙を与えてしまう。
木原は《神聖なる泉》をアンタップインし、ダメ押しに《解消》の構えをちらつかせる。

苦し紛れに小林が繰り出すのは《霧裂きのハイドラ》X=1であるが、これは当然《ニクス毛の雄羊》で止まるために木原は涼しい顔。
さらに次のターン小林はディスカードまで始めてしまったが、木原は悠々と《ニクス毛の雄羊》を追加して盤石の構え。

木原は小林の《エルフの神秘家》《解消》を打ち込み、徹底してマナを伸ばすことを許さない。
小林がようやくまともに土地を並べる頃には《ヴィズコーパの血男爵》がさながら使い手と同じように悠々と、しかし確実に小林のライフを減らしていた。

ライブラリートップをどん、と軽く叩いて小林はドローをし、そこでなんとか《ヴィズコーパの血男爵》を止めようと《世界を喰らう者、ポルクラノス》を出してみるが、ブロックをするジェスチャーをしようとする小林に対して木原が一言。

「あの、飛んでます。」と。

いつの間にか《ヴィズコーパの血男爵》が10/10になって飛行を得てしまうほどに、展開は一方的に進んでいたのであった。


ヴィズコーパの血男爵



こうして、「10/10かー!!」の小林の叫びと共に、彼のスタンダード神にかける野望はここで”it is done”されたのであった。


木原 2-0 小林