By Atsushi Ito
いよいよ、このときがやってきた。
「スターを目指せるようなイベント」としてスタートしたこの「神シリーズ」の、クライマックスを飾る大一番。
「神決定戦」。
3つのフォーマットの「神」に、「挑戦者」が挑む。
まず最初はスタンダード。
神として降臨したるは、八十岡 翔太を破って神となった木原 惇希(新潟)。
それに挑むのは、こちらもモダン神を退けて挑戦者の権利を獲得した瀬尾 健太(埼玉)。
両者が「神」の座を賭け、プロツアー決勝さながらの3本先取で激突する。
だが、この「神決定戦」の醍醐味はそれだけではない。
お互い対戦相手が誰かは十分理解しているのに、デッキリストは対戦終了まで一切非公開。つまり、相手がどんなデッキを持ってくるかを予想し、それに沿ったデッキを組み上げることが肝心になるのだ。
はたして木原は、瀬尾は、互いをどのような相手と想定し(参考:【神と挑戦者の読み合い: スタンダード編】)、どのようなデッキを持ってきたのだろうか(参考:【第2期スタンダード神決定戦デッキリスト】)。
向かい合う2人はポーカーフェイスを保ってはいるが、自らが置かれた状況に緊張を隠せない様子だった。
それもそうだろう。ただ「神」の座を争うというだけならいざ知らず、ホテルのそれも和室という、これまで全くMTGに似つかわしくなかったシチュエーションで行われているのだ。
だが、意外にもと言うべきだろうか。
「神」と「挑戦者」という、この新機軸の概念が登場したときに我々がまさしく想像したような「絵」が、そこにはあった。
彼らの対戦を妨げるものは一切ない静謐な空間で、シャッフルの音だけが響く。
そして。
マジックの新しい歴史が、幕を開けた。
Game 1
ダイスロールの結果、先手は瀬尾。セットしたのは……《神秘の僧院》。
それを見た木原は、「ジェスカイか……」と意外そうに漏らす。
それもそのはず、瀬尾が挑戦者の権利を獲得したとき、使用していたのは「ジャンドプレインズウォーカー」だった。《森の女人像》によるマナ加速の後、ミドルレンジのクリーチャーや強力なプレインズウォーカーといったパワーカードを連打するデッキだ。
木原を含め、それを見た者は誰しもがこう考えたはずだ。「ああ、瀬尾は緑のデッキが好き(得意)なんだ」と。
そう思った木原は、緑のデッキ全般に強いデッキを選択した。すなわち。
木原がセットしたのは、《欺瞞の神殿》。瀬尾にとっても、これだけで木原が青黒コントロールを選択したのがわかっただろう。
もし瀬尾が自分の嗜好通りの緑のデッキを持ってきていたら。それを瀬尾が想像したかどうかは知らないが、2人の視線が一瞬交錯する。
とはいえ、相手のデッキがわかったところで今更やることは変わらない。瀬尾の3ターン目の《ゴブリンの熟練扇動者》を《無効化》した木原は、3ターン目にタップインを処理する。
木原 惇希 |
しかし《解消》が構えられなかったこの隙に、2体目の《ゴブリンの熟練扇動者》が通ってしまう。
ひとまず《信者の沈黙》を構えてターンを返す木原だが、第1メインに《鍛冶の神、パーフォロス》をプレイされるとこれは《軽蔑的な一撃》するしかなく、《ゴブリンの熟練扇動者》の1点→6点をもろに食らう羽目に。
さらに続くターンも《ゴブリンの熟練扇動者》をキャストされ、たまらず《解消》。1点→6点→8点を受けてライフは既に5点。
今度こそ《信者の沈黙》を撃とうとマナを構える木原だが、エンド前《急報》、さらにメインに《鍛冶の神、パーフォロス》と通ってしまい。
そのまま木原はトークンの群れに押しつぶされてしまった。
瀬尾 1-0 木原
《ゴブリンの熟練扇動者》《急報》《鍛冶の神、パーフォロス》とプレイしたことで、瀬尾のデッキは通常のジェスカイミッドレンジとは異なる構成ということが木原にも察せられたことだろう。
しかし逆に言えば、瀬尾が見せたカードはその3種のみ。木原にとってまだたったの3スロットしか、瀬尾のデッキは判明していないのだ。
相手のデッキの構成パーツを逐一的確に対処できてこそのコントロールだが、いまだ瀬尾のデッキの全貌がわからない今、判明している3スロット以外の部分は想像で補うしかない。
その事実は、木原のサイドボーディングに如実に影響を表していた。
Game 2
タップインを立て続けに3枚処理する木原に対し、2ターン目のエンド前《急報》から《ゴブリンの熟練扇動者》で攻め立てる瀬尾。だが木原はこれらをサイドインした《胆汁病》2枚で処理することに成功し、ひとまず想定したプラン通りの動きができている。
さらに瀬尾のエンド前《ジェスカイの魔除け》《かき立てる炎》には片方に《否認》を合わせ、墓地が肥えたところで《時を越えた探索》。《鍛冶の神、パーフォロス》に《無効化》を当て、手札に《解消》とひとまず盤石な体制を築くことに成功する。
しかし、いくら瀬尾の脅威を捌いてもフィニッシャーがなければ意味がない。《無効化》《無効化》《否認》《解消》と抱えながらも、木原は瀬尾の闘志を挫くことができないでいた。
先に仕掛けたのは瀬尾。エンド前に《ヘリオッドの指図》をプレイする。今後すべてのクリーチャーがマストカウンターになるカードだが、木原は一考の後にスルー。クリーチャーなら《無効化》で弾けるし、まだデッキには《危険な櫃》や《霊気渦竜巻》も入っていることを考えると、そこまで危険なカードではないと判断したのだろう。
だがエンド前のさらなる《ジェスカイの魔除け》本体には、引き込んでいた2枚目の《解消》を半ば強引な「占術」目的でプレイする。するとこれには瀬尾の《否認》が飛び、解決されて残りライフ8点まで落ち込むが《光輝の泉》を引いて10点に戻して一安心。とはいえ、依然ドローゴーで木原にとってもどかしい時間が続く。
さらに瀬尾の《急報》は3/3トークンが2体となるため《否認》せざるをえない。ようやくたどり着いた《ジョルベイの闇潜み》も《かき立てる炎》され、《無効化》《無効化》《解消》と握っていまだ身動きができない木原。
そして。
瀬尾はついにこれまで明らかでなかった、デッキの「キーカード」をプレイする。
《ジェスカイの隆盛》。
オーラではないため、《無効化》できない。それでもまだ《解消》がある木原だが、手札の虎の子を切るのに躊躇したか、通してしまう。
瀬尾 健太 |
それが、ゲームの分かれ目となった。
《急報》で《ジェスカイの隆盛》を誘発させ、手札を循環させた瀬尾がプレイしたのは《宝船の巡航》!
さらに3枚引いた瀬尾はまたも《宝船の巡航》をプレイし、完全にゴージャスなクルージングを満喫している。
5/5まで育った兵士トークンのうち1体を《英雄の破滅》するが、《かき立てる炎》が本体に飛ぶとこれは《解消》せざるをえない。
結局《無効化》という無駄牌を最後まで抱えた木原は、手札7枚で悠々とターンを返した瀬尾を前に、潔く投了した。
瀬尾 2-0 木原
Game 3
ようやく瀬尾のデッキの全貌を理解し、今度こそ《無効化》をサイドアウトした木原だが、ここにきてノーランドでマリガンを強いられた上、何とか3ターン目の《ゴブリンの熟練扇動者》に《英雄の破滅》を合わせるものの、土地が3枚で詰まってしまう。
一方の瀬尾は順調に土地を伸ばし、木原とのマナ差を生かしてインスタントタイミングでの火力でプレッシャーをかけていく。《ジェスカイの魔除け》を2ターンかけて連打すると、たまらず《解消》を合わせた木原だったが、《急報》が脇をすり抜ける。
そしてフルタップの木原に対して、またも《宝船の巡航》が瀬尾の手札を潤していく。
さらに《ゴブリンの熟練扇動者》が通ると、土地が伸びていない上に除去がない木原は対応に窮する。
やむなく《危険な櫃》を置くものの、5マナ目が引ける保証はない。
予定調和で《ゴブリンの熟練扇動者》の強烈な一撃を受けた木原の、最後のドローは。
1ゲーム目で喉から手が出るほど引きたかった、《予知するスフィンクス》だった。
瀬尾 3-0 木原
木原 「ジェスカイか~……使わなそうだな、と思ったんですけどね」
瀬尾 「僕も大嫌いな色です(笑)」
思い切って2マナ火力を抜いたジェスカイトークンを使用した瀬尾。聞けばアブザンミッドレンジとのプレイテストではボロボロで、アブザンを自分で使おうか迷ったほどだったため、木原のデッキがわかるまでは内心ドキドキだったという。
だが、その戦略は見事に的中した。
コントロール志向の木原は、瀬尾のキャラを「緑スキー」と考え、緑殺しの青黒を持ち込んだのだ。
自らの嗜好をあえて抑え込み、「神」のキャラを読み切った「挑戦者」が、知恵を駆使した人間が、最後には神を打ち倒したのだ。
第2期「スタンダード神」は瀬尾 健太(埼玉)!おめでとう!!